これは、慎重な対応が求められるケースだと思われます。頂いた情報をもとに、論文執筆者と大学の双方に対して倫理的にベストな対応ができる方法を提案したいと思います。
1. 手法の類似性と参考文献への未記載について、あらゆる可能性を検討する
それらの2論文は、著名な査読誌に掲載済みなのでしょうか。もしそうなら、手法の類似性や参考文献への未記載があってもジャーナルの精査を通過したということになります。ジャーナル編集者もしくは査読者に見落としがあった可能性も考えられるでしょうか。
また、今回の論文はあなたの研究分野と近く、類似研究の文献検索を行なったとのことです。そこで検討すべきなのは、それらの手法が分野で一般的なものであり、そのために参考文献に記載されなかったという可能性を確実に排除できたか、ということです。
さらに、指導教授の論文は、執筆者の論文よりも前に出版されたのでしょうか。指導教授の論文を引用するためには、それが先に出版されている必要があります。
これらすべての点を考慮した上で、指導教授の論文が適切に引用されていないと思われる場合は、次のステップに進みましょう。
2. 昇進のための論文審査に関する大学のガイドラインを確認する
昇進のための論文審査でどのような点に注目すべきかを示したチェックリストやガイドラインを、大学が作成していないか確認しましょう。もしあれば、懸念についてどのように伝えるべきかを判断する手がかりになるでしょう。
そのようなガイドラインがなければ、審査報告書を書く際に懸念をどのように表明すればよいかを助言してくれそうな人を、学内で探してみましょう。候補になるのは、研究者の評価に関わる部署の人や、そのような評価の経験がある人で、信頼のおける話しやすい人物でしょう。倫理的な懸念についての対処法を尋ねるのは気が進まないという場合は、個別のケースとしてではなく、論文審査に関わる一般論として相談してみましょう。
大学や研究機関は、通常は業績評価に対して独自の手順および方法を定めているはずなので、学内でのやり方を把握し、それに沿って懸念への対応を決めるのがベストです。
3. 適切な説明とともに、懸念について専門的見地から率直に報告する
執筆者が倫理的な出版慣行に従っていないという確信があり、それを伝える手段があるなら、専門家としての配慮を持って率直に伝えましょう。(査読と同じです。)懸念だけに焦点を当てて、文献検索の経緯とその結果に触れ、あなたの主張とその根拠を明確に説明しましょう。報告書を書き上げたら、少し時間を置いて新鮮な視点で見直し、客観的で明快かどうか確認しましょう。
4. 評価にまつわる不安が生じても、冷静に対処する
あなたは冷静かつ実務的にこの状況を明確化できると思われますが、この評価は他者(同僚)の昇進に直接関わることなので、不安を感じることもあるかもしれません。しかし、あなたが審査者として選ばれたのは、専門が近かったからだけではなく、緻密さや客観性を評価されてのことでしょう。ジレンマを感じてこの状況への対処法を相談するなど、あなたはここまで適切に行動されていると思います。この後も、変わらず慎重に対応して行きましょう。
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