論文出版の最大の目的は、最新の研究結果を報告することであり、科学的記録の修正についてはさほど重視されていません。出版済み論文を修正する1つの方法として「訂正」があり、無効性が疑われる研究について読者に注意を促すもう1つの方法として、「撤回」があります。
近年、世界で出版される論文数は大幅に増えており、出版ブームとも言える様相を呈しています。論文を出版することの最大の目的は、最新の研究結果を報告することであり、科学的記録の修正についてはさほど重視されていないのが実情です。出版済み論文を修正する1つの方法として、「訂正」があります。そして、疑問の余地があって無効と思われる研究について読者に注意を喚起するもう1つの方法として、撤回があります。
撤回は、論文の結果の信頼性が失われるほど深刻な欠陥が見つかったときに、ジャーナル編集者が実施するケースが多く見られます。撤回のほとんどは著者側の不正行為が原因なので、撤回には良くない印象がつきまといます。年間600件近くの撤回が行われており、そのうち、故意ではないミスが原因のものは20%以下です。ただ、ここ数年、著者自身が論文の重大な問題に気づき、自ら手を挙げて編集者に撤回を申請するケースが何回かありました。その行為は、科学コミュニティから称賛され、歓迎されました。とはいえ、撤回は不名誉だという強い印象は依然としてつきまとうため、出版済み論文の誤りを、率先して公に認める著者はほとんどいません。したがって、著者だけが論文の問題に気づいている場合、自ら撤回を申し出なければ、その科学記録は修正されないままとなってしまいます。科学における自己修正は非常に価値あるものと考えられていますが、撤回への否定的な見方があるため、躊躇してしまいがちです。
少し前にが、ダニエル・ファネリ(Daniele Fanelli)氏が自己撤回システムを提案しました。これは、故意でない単なるミスで論文を撤回する場合、それがはっきりと分かるようにするシステムです。自己引用が引用の1カテゴリーとみなされているように、自己撤回も1つのカテゴリーとして区別してはどうかという提案です。ある論文の共著者全員が、一斉に「文書上の不備」による撤回を申し出た場合に、ジャーナルが「自己撤回」としてそれを認めるという仕組みです。逆に、撤回が不正によるものである場合は、著者の申し出による撤回、つまり「誠意の撤回」ではないことを明確にする必要があるでしょう。この提案は、多くの研究者だけでなく、編集者も歓迎しています。
ここで問題になるのは、「研究者が不正を隠す目的で自己撤回する場合はどうするのか?」という点です。ファネリ氏は「最悪のシナリオとして、1、2本の論文を偽って不正な自己撤回で得をする著者がいることは考えられます。しかし、それは果たして問題といえるでしょうか」。確かにそうかもしれません。また、ジャーナルが撤回に関する方針を作成する際は、考慮すべき点がたくさんあるということでもあります。例えば、自己撤回が故意でないことを確認する方法を考えたり、共著者の1人が撤回への同意を拒んだらどうするのか、という点について定めたりする必要があるでしょう。しかし、自己撤回が可能となれば、それは前向きで好ましい変化であり、長期的には科学界にとって確かな利益となるでしょう。
撤回は、学術出版における重要事項ですが、ジャーナル中心主義の、偏見がつきまとう行為ともいえます。撤回とは、処罰であり、研究者の将来のキャリアに大きな影響を及ぼすことと捉えられてきました。また、撤回という言葉があらゆるケースで区別なく使われてきたことで、科学的記録の修正が妨げられてきました。撤回を、編集者が不正を公表するためのツールとして使うのでなく、もっと著者が主体となるべきだという議論も、長年行われています。そう考えると、自己撤回システムは、正しい方向へ進む一歩と言えるのかもしれません。
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