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編集の公正性に目を向けよう

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編集の公正性に目を向けよう

信頼性が高く根拠の確実な科学コンテンツの出版は、危機に瀕しています。学術出版界では、これまで機能してきたプロセスが損なわれつつあり、疑わしい出版社の存在が脅威となっています。学術出版界は今、編集の公正性を確保できる方針や慣行に目を向ける局面に差し掛かっていると言えるでしょう。

 [本記事はウォルターズ・クルワー(Walters-Kluwer)社の著者向けニュースレター、Author Resource Reviewに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。]


本記事は、コネチカット大学看護学部名誉教授、看護師、米看護師協会会員のペギー・L・チン(Peggy L. ChinnPhD)氏が執筆したものです。1978年から最先端の看護学の論文出版を続けるAdvances in Nursing Science誌の創刊者にして編集者であるチン氏は、看護理論、フェミニズムと看護、看護術、執筆と出版、LGBTQの保健をテーマとした書籍・論文を出版しています。2014年の著書「Philosophies and Practices of Emancipatory Nursing: Social Justice as Praxis(開放的看護の理念と実践:慣習としての社会正義)」は、AJN 20152つのカテゴリーで大賞を受賞しました。最近は、「the 2nd edition of LGBTQ Cultures: What Every Healthcare Professional Needs to KnowLGBTQの文化:すべての医療従事者が知っておくべきこと、第2版)」、「Writing in the Digital Age: Savvy Publishing for Healthcare Professionals(デジタル時代の執筆:医療従事者のための執筆の手引き)」という電子書籍を共著出版しています。


信頼性が高く根拠の確実な科学コンテンツの出版は、危機に瀕しています。学術出版物の編集者、出版社、著者、読者は、一般社会の不信感の影響を受けており、科学と学術の構造を含め、これまで伝統的に機能してきたプロセスが損なわれつつあります。出版業界は、従来の編集基準を満たしていないとされる、オンライン出版を利用する疑わしい出版社の存在に脅かされています。その多くは、科学の基礎となる公正性を満たしておらず、社会貢献を果たしていません。この脅威は「ハゲタカ」や「悪徳出版社」とも呼ばれていますが、名称はどうあれ、学術出版界は今、編集の公正性を確保できる方針や慣行に目を向ける局面に差し掛かっていると言えるでしょう。


問題の範囲

20172月、Scholarly Kitchenのアリス・メドウズ(Alice Meadows)氏は、一般社会からの不信が科学や科学者に及ぼし得るリスクと、主要メディアがその不信を煽っていることに関する記事を投稿しました1。その中で提示された複数の重要なリソースは、すべてのジャーナル出版社や編集者に公開されており、一般の人々への教育、出版物の信頼性の確認、透明性の改善のために使用することができます。これらの行動規範や方針の多くは、オーサーシップや編集管理、最良の出版慣行のために長らく基準とされてきたものですが、昔と違う点は、現在は、これらの行動規範や方針を明確化、透明化した上で、確認可能な状態にすることが求められているということです。編集者や出版社が、これらの慣行の多くを当然のものとして受け入れていたのは過去の話です。すべての学術関連組織が直面している脅威に対し、自分たちの行為がどのように行われているのかに目を向けることの重要性と、その方針や慣行を研究者や一般社会に公開する必要性に気付いたのは、ごく最近のことなのです。


ある看護師の研究者チームが最近発表した研究では、ハゲタカジャーナルと見なされているジャーナルで過去4年間に出版された4000本以上の論文を対象とした調査が行われました2。その中からランダムに抽出された358本の論文のうち、96.1%は質が低いまたは平均的と評価されました。これは、看護学の分野に質の低い論文が多く存在していることを示しているだけでなく、質の低い論文が出版され、読者や施術者の手元に届いてしまっているということです2。看護は、非倫理的行為が許されない専門職です。実際、ギャラップの最新の世論調査でも、看護は15年連続で信頼できる職業のトップに選ばれています3。したがって、その他多くの分野と同様、看護師が悪意を持った行動をとることは稀であると考えられますが、それでも他分野の研究者と同様に、看護師も質の低い研究や論文につながる数々の要因に流されてしまうことがあるのです。研究者たちが質の高い科学的行為・報告の基準を意識しない限り、または質の低い研究や質の低い報告・出版について認識しない限り、悪質なジャーナルで質の低い論文を出版する罠に引きずり込まれてしまいます。これは、研究者個人にとって悲劇であり、科学的公正性には深刻な脅威がもたらされます。さらに、悪意を持った人々に悪用されて、分野全体の信頼性を貶めることにも繋がる可能性があります。


悪徳出版社は、自分たちが信頼できる企業であると見せかけるために、あらゆる手段を尽くします。たとえば、偽の「インパクトファクター」や指標を使う、編集委員会に著名な研究者の名前を無断で加える、査読プロセスについて虚偽の説明をする、などの行為です。一方で、彼らにできないのは、編集基準に関するディテールの作成や決定、そして編集の公正性を保証するエビデンスの提示です。著者は、ジャーナル編集部の設ける基準に関して、いつでも問い合わせができるということを念頭に置いておきましょう。


改善策の検討

学術出版を脅かす2つの脅威(一般社会からの不信、質の低い出版物や悪質な出版物の存在)は、自然消滅が見込めるものではなく、事実や証拠の提示による反論という通常の改善策で解決できる問題でもありません。したがって、これらの脅威に対抗するためには、科学的価値や信頼性を保証するコミュニケーションや行動に注目する必要があります。編集者や出版社は、各自の方針や慣行が最良であるどうかを検討し、それらを順守するために必要な手順を踏み、これらの行為が一般社会からの要求に合致しているかどうかを確認する手段を設ける必要があります。これは一時的な取り組みではありません。出版慣行への継続的な評価が必要です。また、出版プロセスのみならず、そのプロセスを一般社会に伝える方法を改善するために必要な手段への継続的な評価も必要です。


下の表は、編集者が実際にどのように行動しているか、そしてその行動をオンラインや印刷媒体でどのように示しているかという観点から、監視が必要な編集上の方針と慣行をまとめたものです。信頼性の高いジャーナルの編集者や出版社にとっては、これらの慣行はごく一般的なものかもしれませんが、今、その行いの透明性を開示することが、かつてないほど求められています。表の要素は、看護学におけるハゲタカ出版に関する研究や、ジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏による悪徳出版社についての調査、Scholarly Kitchenによる関連問題についての記事に基づいて決定しました1,2,4-7。信頼性の高い看護学のジャーナルは、この表で示した情報やエビデンスのほとんどを提供していましたが、情報を著者や一般に向けて公開するという点においては、改善の余地が見られました。


表の左欄の、「編集のリーダーシップ」、「編集コンテンツのオリジナリティ」、「著者の識別、資格およびオーサーシップの確認」、「論文執筆基準」、「論文の査読プロセス」、「論文出版基準」、「出版後のアーカイブ、リポジトリ、ソーシャルメディアでの扱い」は、信頼できる学術コンテンツとそうでないものを識別するための判断項目です。ただしこの識別は、信頼性の高いジャーナルが自誌の方針の詳細を説明し、慣行がその方針に一致していることを示す証拠が提示されている場合に限り、有効です。


【表】着目すべき編集部の特徴、証拠となる情報源、ウェブサイトや資料の特徴

方針/慣行

証拠となる情報源

ウェブサイトでの著者向け情報

ウェブサイトでのジャーナルの説明・情報

編集のリーダーシップ

・編集長、編集者、すべての編集顧問委員の経歴、ジャーナルの理念との適格性を示した情報

・出版倫理基準の順守を保証するCOPE会員であることを示す情報

・ジャーナルの理念や将来の方向性、専門分野への貢献を示したシニアエディターによる論説

・シニアエディター、編集者の確実にアクセス可能な連絡先情報

・編集委員や査読者の任命に関する方針

・ジャーナルが適用しているCOPEガイドラインの説明

・編集スタッフ全員の名前と資格証明

・査読者全員の名前と資格証明

・編集の責任を負うすべての人物の資格に関する概要

COPE会員であることを示す記述、COPEウェブサイトへのリンク

編集コンテンツのオリジナリティ

・著者全員の署名を要求しているか

CrossCheckなどのツールでオリジナリティを確認しているか

・先行論文の使用許可書を要求しているか

・オリジナリティの要件に関する説明

・先行論文の使用許可に関する詳細情報

・不正行為に関する方針

・オリジナリティおよび論文タイプに関する記述

著者の識別、資格およびオーサーシップの確認

ORCIDの使用

・全著者が論文に寄与していることを認める署名入り証書(ICMJEが推奨する医学誌における学術活動の実施、報告、編集、出版に基づくもの)

・利益相反に関する署名入り証書

ICMJEのオーサーシップ要件

・著者以外の貢献者の申告を推奨しているか

・著者の資格要件の有無

論文の査読プロセス

・査読プロセスの詳細説明

・編集者によるレビューおよび判定に関する流れが書かれた年次報告書

・査読に要する期間を含めた査読プロセス(またはその代替プロセス)の詳細

・査読者の選定基準

・論文の評価基準、リジェクト/アクセプトの基準

・査読結果を踏まえた編集者の判定基準

・査読プロセス(またはその代替プロセス)の概要

論文出版基準

・各巻の出版時期が記載されている年次報告書

・適時出版されている巻

・論文アクセプト後に発生するプロセスと、その所要期間に関する説明

1年に出版される巻数と、その出版頻度

出版後のアーカイブ、リポジトリ、ソーシャルメディアでの扱い

・専門領域でもっとも著名なインデックスに掲載

・すべての編集コンテンツのDOI

・リポジトリやソーシャルメディアでの扱いに関する明確な方針

・ジャーナルのコンテンツが収録されているインデックス情報

・ジャーナルのソーシャルメディアアカウントへのリンク

 


シニアエディターが重要な役割を担っていることは言うまでもありません。豊かな伝統を守りながら、進化や変化を求められる立場です。この熟練した編集者たちによる強力なリーダーシップは、昔も今も、学術出版の信頼性の根幹をなすものです。編集者や編集顧問委員会(またはその類似組織)も、出版物の質や信頼性を担保する上で重要な役割を果たしますが、ジャーナルのビジョンや方向性、基準を定めるのはシニアエディターの役割です。Scholarly Kitchenの最近のいくつかの投稿でも、シニアエディターの重要性が述べられています。ジャーナルのコンテンツの信頼性を確保する上で「査読」は重要な要素ですが、編集チームもまた、ジャーナルの方針や基準を順守しつつ、査読プロセスを管理し、査読の整合性を保ちながら11つの論文に最終判定を下すという重大な責任を負っているのです8-10。出版社や関連団体も編集を支援するキープレイヤーと言えますが、健全な編集のリーダーシップは、出版社の利益から独立したものでなければなりません。


編集のリーダーシップ

学術誌で管理職に就いているすべての編集者は、学術や出版を支援する専門組織と、全体的および分野別の繋がりを持つ必要があります。COPE(出版倫理委員会:https://publicationethics.org)の会員になると、倫理上のジレンマに陥ったときに、倫理審査などの出版倫理に関する豊富な情報にアクセスすることができます。以下は、特定の分野で出版基準を支援している組織の一例です:
 

・世界医学雑誌編集者協会(www.wame.org

・看護学編集者国際団体(https://nursingeditors.com

African American Intellectual History Societywww.aaihs.org


編集コンテンツのオリジナリティ

表に示したように、論文のオリジナリティを証明する情報源は、著者の自己申告と査読に大きく依存しています。オンライン上で剽窃チェックを行うことも重要ですが、何より重要なのは、ジャーナルが求めるオリジナリティを明確に示すことでしょう。


著者の識別、資格およびオーサーシップの確認

固有のオンラインIDORCiDなど)により、著者の特定や追跡が容易になりました。また、健全なオーサーシップを構築する上で、利益相反に関する情報は重要です。そして、もっとも重要なのは、何をオーサーシップと見なすかに関する方針です。これは、倫理的課題の共有を示す問題です。医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors, ICMJEwww.icmje.org/recommendations)は、すべての著者は以下の4つの基準を満たさなければならないと定めています:
 

  • 研究の構想やデザイン、または研究データの収集、分析、解釈に多大な貢献をしていること
  • 論文の重要な知的コンテンツを執筆している、またはその重要な修正を行なっていること
  • 出版の最終承認を行なっていること
  • 論文のあらゆる部分の正確性や公正性に関する疑問を適切に調査し解決することを保証し、論文のすべてに責任を負うことに同意していること


論文執筆の基準

論文執筆に関する指示は、査読や出版においてのみ重要な意味を持っているわけではありません。この指示は、ジャーナルが投稿論文に求める品質基準を反映するものでもあります。以下の項目を満たす投稿規定(Information for Authors)は、一定の質を保持していると考えられます:
 

  • ジャーナルの目的についての明確な説明
  • 出版プロセスに関する詳細な説明(科学的な質を確保するために要する期間について著者が納得できるように)
  • 査読者の選定に関する方針
  • 編集者による最終判定の基準
  • 論文執筆についての明確な規定(引用や参考文献の書式など)
  • 引用や図表の使用および借用の同意に関する方針
  • ソーシャルメディアの利用に関する方針


論文の査読プロセス

査読プロセスや査読者の選定方針に関する透明性については、明確な説明がなければなりません。出版論文の選定基準についても、査読の有無に関わらず、透明性について明確な説明が必要です。一般社会への科学の普及促進に取り組むSense about Scienceプロジェクトでは、従来の査読や代替的な査読についてのより良いコミュニケーションを促す、ジャーナル向けの査読ワークショップや若手研究者向けのワークショップを開催しています(http://senseaboutscience.org/activities/peer-review)。


論文の制作基準

論文の質を確実に保証するものの1つは、出版プロセス全体が、編集コンテンツの科学的信頼性に忠実であることです。過去10年間、これらのプロセスの詳細や、校正やフォーマット作業の基準が説明されることはほとんどなかったため、今、これらのプロセスを監視し、方針/慣行を明確にする重要性が高まっています。科学論文の校正はこれまで、論文の科学的価値を損なわないための文章の明瞭さの改善と、スタイルやフォーマットの修正に限られてきました。しかし現在は、編集および校正の基準や関与度合は、論文の質に関する重要な指標と位置付けられています。


出版後のアーカイブ、リポジトリ、ソーシャルメディアでの扱い

DOI(デジタルオブジェクト識別子)によって実現している科学論文の永続性の保証は、すべての学問分野にとって不可欠であり、一般社会も、オンラインでそれを簡単に確認することができます。リポジトリやソーシャルメディアの問題は依然として流動的ですが、すべてのジャーナル(オープンアクセスも購読型も)に、出版後のコンテンツの使用について説明する関連方針を設けることが推奨されています。


結論

学術の公正性に関する問題は、近年になって急増しています。これらの問題に対処するにあたって、オープンアクセスか購読型か、従来型か新型かによらず、ジャーナルの編集者は、コンテンツの信頼性を左右する著者に向けて、自分たちの慣行を明文化して説明する義務があります。この記事で、信頼できる編集者やジャーナルを見分ける方法をご理解頂けたと思います。今後は、編集プロセスの透明性について、ジャーナルのウェブサイトを閲覧すれば、そのジャーナルの質を評価することができるでしょう。


参考資料

  1. Meadows A. 15 things we can do to stand up for science! 2017. https://scholarlykitchen.sspnet.org/2017/02/27/15-things-we-can-do-to-stand-up-for-science. 
  2. Oermann M, Nicoll LH, Chinn PL, et al. Quality of articles published in predatory nursing journals. Nurse Outlook. 2017; in press.
  3. Norman J. Americans rate healthcare providers high on honesty, ethics. 2016. www.gallup.com/poll/200057/americans-rate-healthcare-providers-high-honesty-ethics.aspx.
  4. Anderson K. Publishing in a time of information warfare—a wakeup call. The Scholary Kitchen. 2017. https://scholarlykitchen.sspnet.org/2017/04/03/publishing-in-a-time-of-information-warfare-a-wakeup-call.
  5. Beall J. Scholarly Open Access (archived). 2017. https://web.archive.org/web/20170103170903/https:/scholarlyoa.com.
  6. Oermann MH, Conklin JL, Nicoll LH, et al. Study of predatory open access nursing journals. J Nurs Scholarship. 2016;48(6):624-632.
  7. International Academy of Nursing Editors. Best practices for journal websites. 2016. https://nursingeditors.com/inane-initiatives/best-practices-for-journal-websites-2.
  8. Anderson K. The editor—a vital role we barely talk about anymore. The Scholarly Kitchen. 2014. https://scholarlykitchen.sspnet.org/2014/09/23/the-editor-a-vital-role-we-barely-talk-about-anymore.
  9. Anderson K. Revisiting: The editor—a vital role we barely talk about anymore. The Scholarly Kitchen. 2015. https://scholarlykitchen.sspnet.org/2015/09/17/revisiting-the-editor-a-vital-role-we-barely-talk-about-anymore.
  10. Michael A. Ask the chefs: what is editorial independence and how does it impact publishing? 2015. https://scholarlykitchen.sspnet.org/2015/04/30/ask-the-chefs-what-is-editorial-independence-and-how-does-it-impact-publishing

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