20年以上のキャリアを持つ海洋生態学者のゲイル・スコフィールド(Gail Schofield)氏は、沿岸部の管理や絶滅危惧種の保全に関する研究に取り組んでいます。これまで、スウォンジー大学カレッジ・オブ・サイエンス(英)、テッサロニキ・アリストテレス大学生物学科(ギリシャ)、ディーキン大学(豪)でポスドク研究員として精力的に研究を行なってきました。現在は、ディーキン大学総合生態学センター(ウォーナンブール・キャンパス)に勤務しています。また、環境系企業や国立公園の科学コンサルタントとしての経験や、学術出版の経験も豊富です。過去には書籍を出版したほか、40誌以上の学術誌で査読者を務めたこともあります。また、レビューエディターとして複数の受賞歴があり、Frontiers in Marine Science誌とJournal of Biological Research – Thessaloniki誌の2誌では編集委員を務めました。
スコフィールド氏は、気候変動による野生生物の現在と未来の需要の変化を考慮しながら、研究結果を保全管理につなげる方法を模索し続けています。本インタビューでは、絶滅危惧種であるウミガメや、ウミガメが持つ影響力に関する最新の研究について伺いました。また、ご自身の研究経験をもとに、新たなフォーマットを駆使した研究発信の重要性や、学術出版界のオープンアクセス化が今まで以上に欠かせなくなっている理由についてお話し頂きました。
このインタビューから、研究の発信、世界中の研究者との共同研究、研究に然るべき注目を集める方法についてのヒントを得て頂ければ幸いです。
ウミガメの保護に関する取り組みについて、詳しく教えてください。
この分野に初めて足を踏み入れたのは学生時代です。フィールドワークの経験を得るために、とあるNGO主催のボランティアに参加したことがきっかけでした。現在生存しているウミガメは7種で、生息地や食性、移住性、繁殖性などの生態は類似しているものの、それぞれの習性は異なっています。研究は、雌のウミガメと、産卵地となる海辺に焦点を絞って進めています。そのため、7種の生息海域、繁殖活動、雄のウミガメ、個体数に関して不足している知見を埋める作業が多いように思います。ウミガメは、気候変動による将来的な悪影響を評価する上で、最適な調査対象です。なぜなら、外温動物であるウミガメの子どもの性別は、砂の温度に依存している(温度依存性決定である)ので、気候変動によって性別分布が偏る可能性があるためです。子どもの性別の偏りが大人のウミガメにどういう形で表れるのかに関する知見を経験的に定量化するのは、難しいことです。
この研究分野を専門にしようと思った動機は何ですか?
私は長年に渡り、さまざまなNGOのもとで、環境コンサルタント・国立公園にエビデンスベースの情報を提供する科学者・学術研究者としてウミガメに関わってきました。これらの経験が、科学的なインパクトだけを目指すわけではない、長い歴史を持つ唯一無二の動物たちを保護・保全するための説得力を備えたリサーチクエスチョンの構築や、結果の解釈方法に影響していると感じています。「変化を起こしたい」という想いが、一番の動機です。
種の保全に関する研究は、将来的にどのような変化を起こすことが期待できますか?
私は常に、種の保全に直接的に役立つ研究を模索しています。その手段になっているのは、動物をモニタリングするための新技術の開発および改良や、特定の場所での保護指標の導入・強化を目指すデータ分析です。とくに、実行可能な保全活動の提案や、現在および将来の保全地域の把握を目的とした(個体群動態、採餌エリアとその分布、繁殖時期などを含めた)、将来の動向を高精度で予測できる長期的データセットを構築することを目指しています。ウミガメは、繁殖と採餌のために約1000kmの距離を移動する高度回遊性の種であるため、その保全のためには、グローバルスケールでの活動が必須です。つまり、繁殖エリアと採餌エリアが別々の国にあることが多いため、政府レベルでの国際協力が不可欠なのです。地域・国単位で活動する組織が多い中、この分野では、ボトムアップとトップダウン両方の関与が必要になります。
ウミガメは海辺で産卵するため、海辺の開発、光害、巣や産卵の破壊や妨害につながるビーチ利用の制限など、社会の一定の協力が必要です。したがって、ウミガメが特定の場所(繁殖地、採餌地)を使う理由や、それに伴う行動について一般社会に知ってもらい、ウミガメに対する意識を高めながらウミガメを尊重してもらうことが重要なのです。ですから、私は、この分野でインパクトの高い科学論文を発表することや、一般社会の興味を引くことに力を入れています。私の論文の中には、科学的には平凡なものもあるかもしれませんが、これらは科学者でない人々を啓発する目的で書かれたものです。たとえば、最近発表した、水中観察と空中ドローン撮影によって収集したウミガメのクリーニング・ステーションの利用に関するデータをまとめた論文は、12000ビュー以上の関心を集めました。
最近、ウミガメの繁殖活動に関する国際共同研究の結果をまとめた論文を共著で出版されました。国際共同研究のマネジメント方法について教えて頂けますか?
異なる組織に属する研究者同士で共同研究を行う場合は、Eメールやテレビ会議などで日常的にコミュニケーションを取り、研究の目的を共有することが重要です。共同研究者は、前所属先の同僚でもいいですし、学会で意気投合した研究者でも構いません。あるいは、直接面識はなくても、研究目的の達成に役立つスキルや知識を有する研究者でもいいでしょう。通常は、一人の研究者/著者が研究チームを組織します。私が論文と研究プロジェクトの概要をまとめるときは、各セクションで各著者がどのような役割を果たすべきかをまとめる作業を行います。この作業により、すべての共著者が研究目的に焦点を合わせながら、さまざまな意見を出し合って、論文をブラッシュアップしていくことができます。
さまざまなスキルを持つ研究者との共同研究は、幅広い科学分野から注目を集める論文を出版するために、とても重要です。プロジェクトを開始する時点で、それぞれの共同研究者の要求、共同研究期間、研究目的を明確に共有しておくことが大切です。私は、論文の投稿から査読、査読者への返答、最終校正を含むすべての出版プロセスの状況を、共著者たちが認識しているか確認するようにしています。このようなアプローチによって、共同研究者たちと直接会う機会がなくても、彼らの仕事の進め方を知ることができ、将来的な論文出版に向けた共同作業におけるノウハウを積み上げることができます。
研究プロジェクト(実験から論文出版まで)を共同で進める上で、研究者がクリアにしておくべき重要事項を教えて頂けますか?
- 通常、1~2人が論文の初期コンセプトを描きます。これをベースに、どのような役割を任せたいかを明確にした上で、適切な共同研究者を選びます。この作業によって、各研究者の強みを活かしやすくなります。研究のコンセプト、範囲、各自の役割、スケジュール、著者名の順番などを明確にしておきましょう。著者名の順番は、プロジェクト開始時点で明確にしておく必要があります。この順番に関するトラブルは、各著者の貢献について、独立したセクションを設けるか、もしくは謝辞で触れることで解決できることもあります。
- 論文執筆プロセスの全段階(草稿から投稿まで)における情報を共著者と共有し、それらについて話し合う機会を設けましょう。この情報には、内容の変更、ターゲットジャーナルの変更の判断、査読者からのコメント、校正なども含みます。共著者は、論文の進捗を常に把握していなければなりません。共著者の名前も論文に掲載されるので、論文のあらゆる変更に、共著者の承認が必要です。
- 共著者からの意見は慎重に検討し、適切な返答を心掛けましょう。私は、査読コメントへの返答と同じように、時間をかけて明快な回答を用意するよう努めています(共著者=査読者だと思っています)。
- 共著者が多ければ、それだけ多くのアイデアが出てきます。良質な論文で示される重要な発見は、通常2~3個程度です。したがって、核となる目的がブレないようにして、途中で出てくるアイデアが、その論点や将来的な研究課題として、この目的に合致したものかどうかを判断しなければなりません。
ご自身の活動についてもう少し教えてください。研究発信のために行なった取り組みなどはありますか?
今日では、あらゆる方法で研究について発信することが重要です。一般的に、研究の発信を行うかどうかは著者の判断に委ねられていますが、多くのジャーナルは、テキスト、画像、動画を含むマルチメディア・プラットフォーム(Twitter、Facebook、YouTube、その他のブログプラットフォーなど)での宣伝に関する規定を設けています。多くの研究機関は自前のメディア対応チームを持っており、(国内的/国際的に重要と考えられる研究に関する)プレスリリースを一般向けに発信しています。そして、マスメディアがこれらのプレスリリースを取り上げます。ジャーナルの中には、ニュースレターやブログで情報を発信し、幅広い注目を集めそうな論文のプロモーションを行なっているところもあります。一部の大手ジャーナルは、自誌のメディア対応チームを持っていますが、社会に大きなインパクトを与える可能性のある論文に公開制限を設け、テレビやラジオ、記事(主に著者のインタビュー記事)などの主要国際メディアを利用して大々的な宣伝活動を行なっています。それと並行して、私は自分の研究について国内学会や国際学会での宣伝を行なっています。したがって、自分の論文の主要メッセージ、他分野の研究者との関連性、この2点が論文のタイトルとアブストラクトに明記されていることを、事前に確認しておくことが重要です。
宣伝を行うかどうかは、論文そのものと、論文が科学や社会に与えるインパクトの大きさに左右されます。たとえば、私が最近発表した、ウミガメによるクリーニング・ステーションの利用に関する論文(Marine Ecology Progress Series誌で出版)は、科学的側面の強いものでしたが、YouTubeで12000回視聴されたことから、大きなインパクトがあったと考えています。この研究は、ウミガメの生態と保全に関する国際学会でも発表しています(37th International Symposium on Sea Turtle Biology and Conservation、ラスベガス、2017年4月)。
2017年に私が発表したその他の論文(Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences誌、Functional Ecology誌で出版)も世界中の科学者の関心を集めましたが、これらについては、ジャーナルのニュースレターやブログ、Twitter、Facebookなどのプラットフォーム、論文との関連が深い著名研究者とのネットワークを通して宣伝を行いました。Science Advances誌で発表した論文は、出版されるまでの間、ほかのメディアでの公開が制限されたため、ジャーナルと大学によるプレスリリースは国際的に大きな注目を集め、世界中のテレビやラジオでのインタビューを含めて、70誌以上に記事が掲載されるほどの反響を呼びました。Altmetricによるスコア(475点、2017年10月26日現在)は、このシステムで計測された全研究の上位5%に入っており、この論文がいかにメディアで幅広く扱われたかを物語っています(とは言え、このスコアは、私たち自身が発信したメディア報道の一部しか網羅していません!)。この論文に関する報道記事の一部をこちらからご覧頂けます。
[写真:26th Annual Symposium on Sea Turtle Biology and Conservation(国際ウミガメ学会、クレタ島、2006年)でポスター発表を行うスコフィールド氏]
論文の一般語訳(Plain-language summary)も作成されています。この作業はどのように行うのでしょうか。専門家の力を借りましたか?
論文に一般語訳を付けることは、多くの著名ジャーナルが奨励しています。私は、一般語訳を付けることを出版要件にしているScience Advances誌とFunctional Ecology誌の2誌に発表した論文で、一般語訳を作成しました。この作業のために専門家の力は借りていませんが、書き上げたものを、科学的背景を持たない友人に読んでもらって、フィードバックをもらうようにしました。
一般語訳を使ったコミュニケーションは、なぜ重要なのですか?また、一般語訳を書く際のアドバイスを頂けますか?
一般語訳は、一般の人々に研究を理解してもらい、興味を持ってもらうために欠かせないものです。このような文章を書くときは、自分の研究に興味がありながらも専門知識を持たない人を想定し、さまざまな背景を持つ読者に対して、自分の研究結果がいかに興味深いかを伝えるよう意識する必要があります。私は学部時代に、どんな人でも理解できるような文章を書く訓練を受けました。具体的には、専門用語を省くこと、重要な用語を丁寧に定義することなどです。このようなスキルは、とくに助成金申請を書くときに役立ちます。なぜなら、申請書の審査員が自分の専門分野に詳しいとは限らないからです。私は、自分の論文草稿や申請書や一般語訳を、可能な限り友人や同僚に読んでもらって、メッセージがしっかり伝わるかどうかを確認するようにしています。
研究を宣伝することの直接的/長期的メリットは何だとお考えですか?また、学術誌以外のプラットフォームで自分の研究を宣伝することで、どのようなメリットがありましたか?
研究者個人に限らず、所属先の研究機関にも、研究を宣伝することの長期的なメリットは多くあります。研究者個人で言えば、就職、昇進、研究予算獲得のためのアピールになりますし、専門分野内外のほかの研究者とのネットワークの構築にも繋がり、良質な論文を生産し続けるための環境作りに役立ちます。一方、研究機関にとっては、宣伝をすることで、論文出版の先にある社会や科学へのインパクトを定量化することができ、最終的には予算や学生の獲得につながります。国内の大学の研究アウトプットを評価するためのシステムは、各国ごとにあるのが一般的です。これらの評価システムは、英国のResearch Excellence FrameworkやオーストラリアのExcellence in Research for Australia(どちらのも、私が関わったことのある機関です)などのように、国内における研究貢献度の質を定量化することを目的としています。このようなシステムでは、論文が世界最先端のものか、国際的水準にあるか、国内外で認知されているか、という点が、明白な実績や社会的利益などの基準と同列に評価されます。したがって、研究を宣伝することで、学術誌という枠を超えた注目が国内外から集まり、より広範なコミュニティにその研究の重要性が伝えられるのです。
また、個人の研究を宣伝することは、所属機関の取り組みを宣伝することと同義であり、学生だけでなく、政府レベルの出資者へのアピールになります。加えて、研究の核となる要素を宣伝することで、たとえば一般の人々が特定の生物種やその種が直面している苦境を知り、認識を強化および構築する機会になります。ひいては、それが種の保全につながっていくのだと思います。
研究の宣伝を行う研究者にアドバイスをお願いします。
論文をまとめるときに検討すべきなのは、データが示しているもの、ターゲットジャーナルの目的と範囲(読者が何を求めているか)、そして将来的な研究の方向性(すなわち、これから出版する論文や、将来的な共同研究を見据えてどの層の興味を引き付けたいかという明確なアイデア)です。論文の質が高ければ、研究を宣伝し、共同研究者や研究予算や新たな仕事の機会をたぐり寄せるツールとして利用できます。したがって、論文で引用する参考文献についても、その文献の著者にどう反応をしてほしいかというところまで考えて、1つ1つを選択する必要があるでしょう。
研究の枠組みを作る過程では、結果の視覚的要素について検討しましょう。どのような画質、画像、動画であれば、ジャーナル、メディア、科学者、一般市民の注目を集められるかを考えましょう。一部のジャーナルは、あらゆるメディア・プラットフォームに自分の研究を張り付けられるビデオ・アブストラクトを強く奨励しています。
研究や研究データの無料公開に関するご意見を伺いたいと思います。研究のインパクトを最大化するためには、オープンアクセスをどのように利用すればよいでしょうか。研究の宣伝活動の中に組み込むことは可能ですか?
オープンアクセスについては、その重要性についての論文を出版したばかりなので、私の専門分野の観点から幅広くお話ししたいと思います。私たちが現在置かれている状況では、オープンアクセスは研究に不可欠な要素です。今は論文出版数があまりにも多いため、きわめて幅広いスケールでの汎用性が示されていない限り、単一の生物種や単一の地域に焦点を当てた論文は受け付けないジャーナルがほとんどです。したがって、共同研究体制を組み、複数の種や地域にまたがったリサーチクエスチョンについて調査し、さまざまな情報源から利用可能なデータを集めることが重要です。すべての研究分野が前進するためには、研究者たちが自分の研究データを公開することが必要です。オープンアクセスではそれが可能になります。オープンアクセス化によって、既存の知見に等しくアクセスできるようになり、さまざまな分野の専門家がそれぞれのスキルを活かし、各種の課題に多様なアプローチで取り組めるようになります。
スコフィールドさん、共同研究、研究の伝達、研究の宣伝についてのヒントになる素晴らしいお話をありがとうございました。このインタビューは、ジャヤシュリー・ラジャゴパラン(Jayashree Rajagopalan、エディテージ・インサイト、シニアライター/エディター)とネハ・ミルチャンダニ(Neha Mirchandani、カクタス・コミュニケーションズ/エディテージ、リサーチ・コミュニケーション・サービス、マネージング・エディター)が共同で行なったものです。
情報開示:スコフィールド氏は、エディテージのフリーランス・アカデミックエディターです。本インタビューにおいて開示すべき利益相反はありません。
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