論文を引用してもらうには、まずは論文を読んでもらう必要があります。タイトルとアブストラクトで読者の興味を引くことに成功したら、その興味を持続させて、方法や結果などのセクションへと読み進めてもらいます。そのためには、イントロダクションの出来映えがカギとなります。
論文を引用してもらうには、まずは論文を読んでもらう必要があります。タイトルとアブストラクトで読者の興味を引くことに成功したら、その興味を持続させてほかのセクション(方法、結果、考察、結論)へと読み進めてもらいますが、それにはイントロダクションの出来映えがカギとなります。
この記事では、イントロダクションに含めるべきもの、除外すべきもの、そしてジャーナル編集者や査読者がこのセクションに求めているものを、例文を交えながら紹介します。
イントロダクションの役割とは?
イントロダクションとは、簡単に言えば、なぜその研究テーマを選んだのか、なぜその方法/アプローチを採用したのかといった、「なぜ?」に答えるセクションです。また、現状の知見に不足している部分を指摘し、広範な研究領域の中で自分がどこに注目したのかを宣言するセクションでもあります。
イントロダクションのもう1つの役割は、背景情報の説明と、文脈の設定です。これは、検討した研究課題や設定したリサーチクエスチョンを説明し、先行研究で提示されていない解決策やアプローチを簡潔に述べることで行うことができます(論文の本文で、この課題への解決策や回答を提示します)。
博士(学位)論文では「文献レビュー」という個別の章があるのが一般的ですが、投稿論文にはそのようなセクションがないため、レビューについてはイントロダクションで簡潔に示す必要があります。
背景を説明して文脈を定めたら、最後に実験や分析の目的を説明します。イントロダクションの結論部には、方法セクション以降で回答する具体的な問いが含まれていなければなりません。
イントロダクションを書くための4ステップ
このセクションは、論文全体のワード数の約10%を占めるのが一般的です。4000ワードの論文であれば、約400ワードを3段落程度に分けて構成します1。これを踏まえて、イントロダクションの書き方を順序立てて説明していきます:
1. 背景情報を示し、文脈を定める
イントロダクションの冒頭は、論文の中で後述する詳細情報の前置きとして機能させましょう。冒頭の1、2文目は、大まかな話題から始めるのが一般的です。
以下に例文を紹介します:
- 土壌中の有機物に関する論文:Sustainable crop production is a function of the physical, chemical, and biological properties of soil, which, in turn, are markedly affected by the organic matter in soil.(持続可能な作物生産は、土壌の物理学的・化学的・生物学的な特性に掛かっており、土壌中の有機物から大きな影響を受ける。)
- がん治療における細菌の有益性に関する論文:The role of bacteria as anticancer agent was recognized almost hundred years back.(細菌の抗がん剤としての機能は、100年ほど前から認められている。)
- リチウム電池に関する論文:The rapid growth of lithium ion batteries and their new uses, such as powering electric cars and storing electricity for grid supply, demands more reliable methods to understand and predict battery performance and life.(リチウムイオン電池の急成長と、それに伴う電気自動車への電力供給や送電網用の蓄電をはじめとする新たな用途の誕生によって、電池の性能や寿命を把握して予測するための信頼性の高い手法への需要が高まっている。)
前置きの部分では、話を広げすぎないようにしましょう。上の例文では、農業やがんや電池一般の話題から始めるのではなく、土壌の有機物、細菌の役割、リチウムイオン電池の話題から入っていることに留意しましょう。
最初の文で大まかな話題を設定したら、次の文ではさらに具体的な内容にシフトします。上の例文では、(1) 植物の栄養源および微生物のエネルギー源としての土壌中の有機物、(2) 化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)への偶発的感染による特定種のがんの寛解、(3) 電池の材料や構成要素のナノスケールでの3次元構造を可視化するための画像化技術、に言及してサブフィールドにつなげています。
2. 研究の具体的なテーマと意義を述べる
上の例文を見ると、話題がより具体的なテーマへと移行しているのが分かります。ここからは、テーマの重要性や課題の深刻性を伝えるために統計情報を利用しましょう。
イントロダクションで示す統計情報の例:
- 予防対策によるマラリアの抑制に関する研究:マラリア感染者の人数、1時間当たりの死亡率、治療のためのコストなど。
- 作物を少量の水で育てるための研究:干ばつの頻度、干ばつによる作物生産量への影響など。
- 公共輸送の効率化に関する研究:自動車や二輪車の排ガスによる大気汚染の程度、道路の距離当たりの自動車台数など
その他、課題を解決しリサーチクエスチョンの答えを見つけることでどのようなメリット(コストの削減、生産量の増大、製品の長寿命化など)があるかを述べることで、研究テーマの重要性を示すことができ、研究の長所を強調することができます。
たとえば、「マラリアによって毎年〇〇ドルの損失がある」と言う代わりに、「マラリアを予防することで、毎年〇〇ドルのコストが削減できる」、「灌漑によって〇〇リットルの水を節約できる」、「大気汚染の改善によって、病気の予防という形で人々の時間を〇〇時間節約できる」などと言い換えましょう。
3. 研究課題を解決し、リサーチクエスチョンに回答するために、先行研究に言及する
先述したように、原著論文には文献レビュー用のセクションがありません。そこで、イントロダクションで先行研究について述べ、自分の研究がそれらと異なっている点を明確にしておきましょう。先行研究と異なる点は、例えば次のようなシンプルなもので構いません:実験方法は同じだが対象の有機体が異なる、より大きなサンプル数または多様なサンプルで実験を行う、より複雑または高度な分析機器を用いる、異なる地域で同様の調査を行う、など。
以下に2つの例文を示します:
- Although these studies were valuable, they were undertaken when the draft genome sequence had not been available and therefore provide little information on the evolutionary and regulatory mechanisms.(これらの研究に意義はあるものの、これらはゲノムの概要配列が登場する以前の研究であるため、進化機構や調節機構に関する情報が不足している。)
- Plant response is altered by insect colonization and behaviour but these aspects have been studied mostly in sole crops, whereas the present paper examines the relationship between crops and their pests in an intercropping system.(植物応答は昆虫のコロニー化と行動によって変化するが、こういった側面に関する研究はほぼ単一の作物で行われているのに対し、本稿では間作システムにおける作物と害虫との関係を述べている。)
4. 具体的な研究目的で締めくくる
ここまで書いたパラグラフは、具体的な研究目的に論理的につながらなければなりません。研究目的は、詳細に示す必要があります。たとえば、ここまでマラリアの抑制の意義について述べてきたのなら、どのような抑制方法を採用するのか、どのように評価するのかなどを具体的に示してセクションを締めくくらなければなりません。ただし、詳細は方法セクションで述べるため、説明しすぎないようにしましょう。
たとえば、合金における2種類の金属の適切な配合に関する研究で、10種類の配合を検討したとします。この場合、10種類すべてについて言及する必要はなく、「配合の比率は50:50から10:90の間で変化させ検討した」と言えば十分です。
以下に2つの例文を示します:
- We aimed to assess the effectiveness of four disinfection strategies on hospital-wide incidence of multidrug-resistant organisms and Clostridium difficile.(病院全体における多剤耐性菌とClostridium difficileの発生に対する4つの消毒法の有効性を評価することを目的とした。)
- We aimed (1) to assess the epidemiological changes before and after the upsurge of scarlet fever in China in 2011; (2) to explore the reasons for the upsurge and the epidemiological factors that contributed to it; and (3) to assess how these factors could be managed to prevent future epidemics.(本稿では以下のことを目指した:(1) 2011年の中国における猩紅熱急増の前後の疫学的変化を評価すること、(2) 猩紅熱急増の原因とそれに寄与した疫学的要因を探ること、(3) 将来的な流行を防ぐためにこれらの要因をどのように管理できるかを評価すること。)
研究目的の構築にはさまざまな方法があります。一般的には、質問形式にする2、仮説を立てる、不定詞を使うなどの方法があります(上記の2つの例文では不定詞を使っています)。以下に、もっとも一般的な3つの方法を用いた例文を紹介します:
<質問形式>
- Do some genes in wheat form gene networks? If they do, to what extent as compared to rice?(小麦の遺伝子には遺伝子ネットワークを形成するものがあるのだろうか?ある場合、米と比較してどの程度それが行われるのか?)
- Do the regulatory elements in the promoters of those genes display any conserved motifs?(それらの遺伝子のプロモーターにおける調節エレメントは、保存モチーフを発現するのか?)
- Finally, and more specifically, do those genes in wheat display any tissue- or organ-specific expression pattern?(最後に、より具体的な問いを投げかけたい。小麦におけるそれらの遺伝子は、器官または組織に特異な発現パターンを示すのか?)
<仮説を立てる>
We decided to test the following four hypotheses related to employees of information-technology companies:
H1: Career stages influence work values.
H2: Career stages influence the level of job satisfaction.
H3: Career stages do not influence organizational commitment.
(我々は、IT企業の従業員に関する以下の4つの仮説を検証した:
仮説1:キャリア段階は仕事への価値観に影響する。
仮説2:キャリア段階は仕事への満足度に影響する。
仮説3:キャリア段階は組織へのコミットメントに影響しない。)
<不定詞を使う>
To examine the response of Oryza sativa to four different doses of nitrogen in terms of 1. biomass production, 2. plant height, and 3. crop duration.(4種類の窒素量に対する稲の反応を、1. バイオマス生産、2. 植物の背丈、3. 作物の生育期間について調べる。)
イントロダクションと考察は、一般的な原著論文におけるほかのセクション(方法、結果)に比べて、書くのが難しいセクションです。イントロダクションを書くときは、この記事で紹介した4段階のアプローチをぜひ参考にしてください。
おまけ:イントロダクションは論文の最初のセクションですが、ここから書き始めなければならないわけではありません。ほかのセクションを書き終えてから書いても構いませんし、最初に書いたものを後で直しても構わないのです。こうすれば、イントロダクションが書きやすくなり、より説得力のある文章が書けるようになるかもしれません。
参考文献:
1. Araújo C G. 2014. Detailing the writing of scientific manuscripts: 25-30 paragraphs. Arquivos Brasileiros de Cardiologia 102 (2): e21–e23
2. Boxman R and Boxman E. 2017. Communicating Science: a practical guide for engineers and physical scientists, pp. 7–9. Singapore: World Scientific. 276 pp.
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