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学術界か産業界か:博士号取得者のための分野別キャリアオプション

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学術界か産業界か:博士号取得者のための分野別キャリアオプション

「学術界にとどまるべきか、民間企業に就職すべきか?」-これは、研究が終盤に近づくにつれて博士課程の学生やポスドク研究者の誰もが向き合う、重い問いかけです。本記事では、生命科学、物理、化学、数学、工学の5つの科学分野における典型的なキャリアパスについて見ていきます。

「学術界にとどまるべきか、民間企業に就職すべきか?」-これは、研究が終盤に近づくにつれて博士課程の学生やポスドク研究者の誰もが向き合う、重い問いかけです。ポスドク研究者の多くは学術研究の道を選びたいと思っているかもしれませんが、学位取得後間もない人にとっては、選択の幅が広い民間企業もまた魅力的です。世界中の博士号取得者とポスドク研究者にとっての最大の問題は、大学の教授職のポストが非常に限られた数しかないということです。このため、テニュア・トラック(終身雇用を前提とした大学での教員職)を目指す人々の競争は大変激しくなっています。さらに、雇用や先々の研究の選択肢は分野によって異なるという事情もあり、自分に合ったキャリアを選べるかどうかにプレッシャーを感じている研究者も大勢います。本記事では、生命科学、物理、化学、数学、工学の5つの科学分野における典型的なキャリアパスについて詳しく見ていきます。各分野における各種キャリアパスと現在の雇用状況について、役立つ情報をお届けします。


生命科学(ライフサイエンス)

生命科学分野の研究には、バイオテクノロジー、薬理学、生理学、微生物学、ゲノム学など、幅広い領域が含まれます。この分野で学術界のキャリアを選んだ場合、実験室にこもって研究をすることが多くなり、進路はほぼ定まってきます。上級研究者や教授になること、または研究機関に就職することが目標となるでしょう。民間企業なら、研究部門や運営・管理部門で昇進していく道が考えられます。

給与面では、学術界よりも民間企業の方が高いことで知られています。The Scientist誌が実施した2014年度給与調査 (Salary Survey in 2014) (米国・カナダ・ヨーロッパにおける生命科学専門家の収入を調査したもの)では、学術界における生命科学分野の給与は、民間に比べて30%低いと報告されています。また、国別でも大きな違いがあることが分かっています。例えば、2014年の平均年収は、米国・カナダの民間企業では平均12万9507ドルであったのに対し、欧州諸国では平均9万2326ドルでした。また、過去何年かをさかのぼって見てみると、遺伝学、ゲノム学、免疫学分野の研究に対する報酬に大幅な上昇がみられました。残念なのは、生命科学分野における報酬に性別の差がある事実が認められたことです。女性研究者の収入は、男性研究者よりも低く抑えられていました。しかしながら、この差は地域によって異なり、アジアや南米では差が小さく、米国やカナダでは大きくなっていました。

概して、学術界でも民間でも、生命科学分野にはすでに確立されたルートがあります。科学コミュニケーターやコンサルタント、企業家になる研究者もいます。こうした領域における成功例は、他の研究者にとって、追随しようとする刺激となるかもしれません。


物理学

物理学での博士号取得者には、様々な分野への道が開けています。天体物理学、材料科学、粒子・空間物理学、さらには金融l・財政までもが含まれます。物理学で博士号を取得した多くの研究者にとって、研究に重点を置いた教員職は確かに魅力的です。しかし、学術界の求人数は限られています。全米科学財団(National Science Foundation, NSF)が2012年に発表した報告書、「博士号取得者に関する調査」(Survey of Earned Doctorates)によると、テニュア・トラックの職に就いている物理学者はたった21%で、民間企業で雇用されている割合は34%だとしています。

物理学の博士号取得者には、クオンツ・アナリスト(金融分野の定量分析の専門家)、医学コミュニケーションの専門家、オペレーションズリサーチ・アナリスト(数学的・統計的手法によって問題解決の方法を探る専門家)など、学術界の外での興味深いキャリアが開かれています。これは喜ばしいことと言えるでしょう。米国物理学会(American Institute of Physics)によると、民間企業に就職する物理学分野の博士号取得者のうち、10%(物理学の全博士号取得者の5%)は金融・財政部門に就職するとしています。同データによると、物理学で博士号を取得した一年後にポスドク研究者となっていたのは約60%で、全物理学者の半数近くは民間企業で働いており、学術界で働くのは35%程度でした。報酬面では、物理学での博士号取得者の民間における初任給は年収でおよそ8万ドルから10万ドルと、学術界での初任給を上回っています。さらに、民間でも、STEM分野以外で就職した人の給与(20万ドル)の方が、物理学分野で就職した人の給与(15万ドル)よりも高くなっています

科学誌ネイチャー(Nature)のキャリア部門編集者であるカレン・カプラン(Karen Kaplan)氏は、「物理学関連分野の(民間)専門職の応用研究という性質上、学術界での経験はあまり役に立たないことが多い」と述べています。このような事情により、学術界に残って研究を続けるよりも民間企業での就職を考える物理学博士号取得者が多くなっていると考えられます。イタリアのピサ大学(University of Pisa)の物理学者で国際科学局(International Scientific Affairs)のAPS委員会メンバーであるマリア・アレグリニ(Maria Allegrini)氏は次のように述べています。「民間企業での就職を考える物理学者にとって、ポスドクは不利になる可能性がある。ヨーロッパの民間企業の多くは、博士号取得者でかつ『白紙』の応募者を好むる」。他のSTEM分野と同様、教員職に就く女性の数は物理学でも少ないものの、徐々に増えており、2010年には14%に達しています


化学

化学分野の博士号取得者には、学術界以外にも様々な職業が考えられます。化学分野の博士号取得者を雇用する民間企業は、医薬品関連分野だけではありません。食品、ナノ材料、ガラス、医療機器関係の企業などが、化学に造詣の深い人々のスキルを必要としています。化学分野での先進的な領域は、有機・分析・物理化学などです。

2014年にアメリカ化学会(American Chemical Society) が行なった最新の調査では、化学分野の労働者(化学分野で大学院以上の学位、あるいは研究によって与えられた学位(research degree)を有する労働者)の失業率が低下したことが示されています。年収は、政府機関で12万6000ドル、民間で11万6100ドルとなっています。一方、学術界ではそれよりもかなり低く、7万6900ドルが上限となっています。また、男女の間には収入で2万ドルという大きな格差があることも同調査で分かりました。全体では、化学分野の博士号取得者の平均初任給は8万5000ドルで、2010年から13%の伸びを示しました。


数学

数学の博士号取得者にとって最も一般的な学術界の就職先は、大学の教員職です。米国科学委員会(National Science Board、NSB)の2012年発行のレポート、「科学と工学における指標」(Science and Engineering Indicators )によると、数学は大学で教員として就職する卒業生の割合が最も高い分野となっています。民間では、ネットワーク分析、生命保険、金融・財政、コンピューター・サイエンスなど、数学の応用分野での職が多くなっています。これらの中でも、金融・財政および保険分野は数学者を多数雇用しています。

アメリカ数学会(American Mathematical Society)のレポートでは、米国の数理科学部における大学教員(テニュアを取得した教員とテニュア・トラックの教員両方を含む)の2014/15年度における給与分布が報告されています。同レポートによると、新規雇用の准教授(assistant professor)の平均年収は8万5322ドルで、教授(full professor)の平均年収は13万3858ドルとなっています。


工学

工学分野の学術界では、高等教育機関でのテニュア・トラックやその他の職も含め、雇用における競争が大変激しくなっています。民間では、資格を持ったエンジニアに対する需要は世界的に高いといえます。工学分野は収益性が高いため、民間では高給が得られます。コンピューター工学、化学工学、地質工学・鉱山工学などで最も高い報酬が提示されています。米国研究学会(American Institute for Research)が発表したレポートによると、STEM分野の博士号取得者の半数以上が学術界の外で働いています。その中でも民間企業で働く割合が最も多く、政府の職に就く人の数もかなりの割合となっています。

米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers)と米国土木学会(American Society of Civil Engineers)が実施した収入に関する調査によると、工学分野における博士号取得者の平均年収は2012年現在で12万2127ドルでした。収入の下位10%に該当する人の平均年収は7万2000ドル以下でしたが、収入の上位10%に該当する人は18万ドル以上の年収でした。

 

学術界にとどまるか民間で就職するかは、研究者のキャリアの出発点における重要な判断となります。しかし、途中でキャリアを変更して成功したという、励まされる事例も多くあります。学術界から民間へ移るのはよくあるパターンですが、民間で成功した後に象牙の塔に移る人もいます。このような人々は独自の視点やスキルを持っており、職場に新しいネットワークをもたらすため、非常に高い評価を受けます。職業の選択は、様々な要因――報酬に関する希望や優先事項、理想とする仕事と私生活のバランス、自分のもっているスキルなど――に左右されます。学術界にとどまるか、民間に行くか、はたまた自分でキャリアを新規開拓するか、いずれにしても、成功の階段を昇る支えとなるのは、学び続ける情熱です。職業選びでの、皆さんの健闘を祈ります!

あなた自身はいかがですか?

これらの分野におけるその他のキャリアをご存知ですか? あなたの経験を教えてもらえますか? 下の空欄からコメントをどうぞ。


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