ウォルターズ・クルワー(Wolters Kluwer)が発行するジャーナルMedicineの編集責任者であるダンカン・マクレイ(Duncan MacRae)氏は、このジャーナルを購読モデルからOA(オープンアクセス)モデルに移行する際に重要な役割を果たしました。マクレイ氏が重視するのは、編集作業を活性化させ、ワークフローに新技術を導入することによって、ジャーナルの編集工程の効率化を進めることです。本インタビューでは、Medicineのワークフローの説明とともに、OAへの移行方法、OA型と購読型の出版モデルの類似点と相違点が語られています。また、メガジャーナルは規制が少なく、論文を発表した後のプロモーションという面で著者を支援できるという興味深い視点を紹介。さらに、著者、出版社、編集者が、現在のOAをどのように捉えているのかについてもお話し下さいました。
まず、ジャーナルMedicineについてお聞かせください。Medicineを購読型からOA型に移行するという決断をしたのはなぜですか? 移行にはどれくらいの期間がかかったのでしょうか。またこのことは、ジャーナルの読者や購読者にどのような影響を与えましたか?
Medicineは1922年から良質の素晴らしいコンテンツを掲載してきました。しかし学会からの支援はなく、著者と読者を取り込んだ安定的基盤がなかったため、他の医学系ジャーナルと競合するには限界がありました。ちょうど弊社は間口の広いOA出版の導入を考えていたので、全く新しいジャーナルを立ち上げるよりも、既存ジャーナルをOAに移行する方が良いという考えもありました。
購読型から完全なOA型に移行するまでには約1年かかりました。6ヶ月間は、購読型の論文のストックがあったので、両方の体制で出版していました。この間に購読型を段階的に廃止し、購読者には十分に早い段階から、Medicineがいずれは購読料金を徴収する形式ではなく、誰もが無料で購読できる形式になることを通知していました。
ジャーナルを購読型からOA型に移行することは、どれぐらい大変なのでしょうか。このような移行の計画に際して、出版社がもっとも考慮すべき点は何ですか?
おそらくもっとも重要な点は、そのジャーナルがOAに適しているかどうかということでしょう。財政的に成功している購読型ジャーナルで、適度な投稿数があるのなら、完全にOA化するよりは複合型のOAジャーナルへの移行が望ましいと思います。しかし、購読料や広告収入が減少していたり、OAジャーナルに移る著者が多かったりするのなら、OAを選択肢の1つとして考慮する時期にあるといえるかもしれません。
最も厄介な問題は、機関購読者にどう対応するかということでした。来たるべき変化を適切に知らせ、なおかつ引き続き新方式でコンテンツを受け取れるよう取り計らうことの2点が問題でした。例えば、Medicineを購読パッケージの一部として受け取っていた機関に対しては、「Medicineは引き続き購読可能だが、専用のOAパッケージの一部として含まれることになったので、購読費用を支払う必要はなくなる」ということを理解してもらう必要がありました。
貴誌の出版プロセスを教えてください。独自の特色はありますか? 査読にかかる期間はどれぐらいでしょうか。また、品質管理はどのように行なっていますか?
Medicineの論文受理から出版までの過程は他誌と全く同じで、原稿を編集し、活字を組み、校正します。査読期間も他誌と同程度です。投稿から初回判定までの平均期間はおよそ27日です。査読プロセスも他の購読型ジャーナルとほぼ同じです。たいがいの投稿論文は、受理されるまでに複数回の修正を経ています。
とはいえ、査読プロセスと品質管理のやり方には独自の特色もいくつかあります。Medicineに掲載される8種類の論文形式にはそれぞれの規定があり、全ての投稿にチェックリストとフローチャートの提出が求められます。例えば、システマテイックレビューやメタアナリシスを投稿するなら、PRISMAガイドラインに沿って原稿を準備し、裏付けとなる必要文献を含めなければなりません。こうすることで、査読者と編集者は、全ての投稿を統一されたフォーマットと構成で受け取ることができますし、最低限の品質と緻密さを維持することができます。
また、かなり細分化された専門分野別の割り当て方式を用いて、各編集者に適した原稿を割り当てるシステムを導入しています。著者は、自分に投稿原稿にふさわしいカテゴリーを5つまで選び、編集者も同じカテゴリーのリストから自分の専門分野を選ぶ仕組みになっています。編集者が、自分の関心範囲と合う投稿論文を担当できるようにすることを目指しているのです。これは、著者にとっても読者にとっても、査読プロセス全般においても有益なことだと考えています。
ご自身の役割も、購読者のみを対象としたジャーナルの管理から、完全なOA出版を率いる立場へと変化しました。印刷版のみのジャーナルの管理と、OAジャーナルの管理にはどのような違いがありますか? OAジャーナルならではの課題とは何でしょうか。
認可方法に違いはあるものの、どちらのタイプの学術誌も管理の仕方に大きな違いはなく、課題は、効率的なワークフローとプロセスを作り出すことです。Medicineで変化があったのは、編集委員会の構成と管理に関する部分です。編集委員会は、1つの機関に所属する少人数の専門家グループで編成されていましたが、それが750名以上の国際委員会に発展しました。これは、OAという新体制によって生み出されたものというよりは、Medicineが現在受け取る投稿の取り扱い数による変化ともいえます。
学際的なOAジャーナルへの投稿は、購読型ジャーナルへの投稿に比べて有利な点がありますか? あるとしたら、それは何でしょうか。
学際的なOAジャーナルは、購読型にあるような財政面での制約を受けずに出版できるという点で自由度が高いといえます。例えば、Medicineに投稿される論文は基本的に自己負担なので、Medicine側でページ数の制限を考慮する必要はありません。そうすると、出版までの期間は、我々の制作チームが扱える分量によってのみ決まってきます。また、論文が受ける規制は、著者が選んだライセンスの種類に応じて決まってきます。
現在、「メガジャーナル」という概念が流行っているようです。エディテージの読者にその概念について簡単に説明をお願いします。今日の出版環境においてメガジャーナルが果たす役割とは何でしょうか。また、OA出版の未来についてどのようにお考えですか?
Medicineの「メガジャーナル」への移行は興味深いものでした。多くの著者がジャーナルの伝統とみなしている考え方とは、相容れないところがあったからです。Medicineは独立した1つの専門誌ではなく、傘下に43の専門誌を抱えるジャーナルと言えます。我々の編集目的は、科学的・倫理的に揺るぎないすべての研究論文を出版することです。目新しさやインパクトの大きさは重視しません。つまり、ジャーナルの編集上の構成を気にすることなく、ネガティブな研究結果や事例報告も自由に出版できるということです。
このような幅広い内容を読者に分かりやすく提供する方法を考えることが、最近の検討事項です。我々はテーマごとに一週間あたり20~40本の論文を掲載します。仮に自分が心臓病専門医だったとして、毎月出版される何百もの論文の中から自分の関心に合ったものをどうやって探したらいいのか、という問題があると我々は考えました。そこでとった解決方法は、「ジャーナル内ジャーナル」の役目を果たす、カテゴリー別のページを設けることでした。これは、OAとメガジャーナルの将来をよく表していると思います。Medicineは、インデックスへの採録や配信面でのメリットを考えてメガジャーナルとして提供されていますが、編集上は43分野の専門誌として管理されています。メガジャーナルの次の段階として、これらの専門分野が被引用数の実績に基づいて分離していくことになっても驚かないと思います。
OAの概念とその受け止められ方について、少しお聞かせください。出版社と著者という異なる利用者層を相手に仕事をしてみて、両者のOA化の見方には明確な違いがあるとお感じですか? どちらかが明らかにOA化に賛成しているということはありますか?
私の経験からいうと、著者は、OA出版の可能性を歓迎しているか、あるいは賛否の入り混じった気持ちでいるかのどちらかです。OA出版に対して強い否定的感情をもつ著者にはほとんど出会ったことがありません。出版社は最近、OAには収入源として大いに潜在的価値があるとみなすようになってきました。ただ、すでに名のある出版社は、潜在的可能性を最大限まで広げるためには、OA出版の評判を「ハゲタカ出版社」から奪回する必要性を感じていると思います。動機はそれぞれ異なるかもしれませんが、著者も出版社もOA出版の成功を望む気持ちはあるはずです。
第三の利用者層として、編集委員を加えたいと思います。編集委員の視点は、出版社や著者とは異なります。特に「メガジャーナル」モデルでは、編集委員会の役割は従来とは違ってきます。新奇性やインパクトを重視しないモデルでは、編集委員がジャーナルの編集目的を構築していくという概念が無意味となるため、編集委員は脅威を感じているかもしれません。しかし我々はOAジャーナルを、従来型のインパクトの大きなジャーナルを補完するものと捉えています。例えば、とても受理率の低いジャーナルがOAジャーナルを作れば、出版に値する原稿を執筆したものの主力誌で優先的に掲載される水準には達していないという著者に、別のオプションとして提供できるかもしれません。この手段を取るとしたら、投稿論文を競合誌にとられてしまう可能性や、従来からの編集委員の役割と影響力を維持する方策など、様々な課題を検討する必要があるでしょう。
マクレイさん、ありがとうございました。
本インタビューはClarinda Cerejoと Jayashree Rajagopalanが実施しました。
情報開示事項:エディテージは、ウォルターズ・クルワー社と提携して新しいウェブサイトを公開しました。同社傘下のリッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins、LWW)が取り扱うジャーナルにヘルスケア分野の論文を投稿する著者は、このサイトを通じて、編集・校正サービスやオンライン学習リソースを利用することができます。しかしながら、本インタビューはエディテージ・インサイトが独自に行なったものであり、何ら金銭的な利益相反はありません。