博士号取得者が年々増加していることは周知のとおりですが、彼らがその後どのようなキャリアを歩むのかはあまり知られていません。学術界にとどまる人の割合、産業界に進む人の割合、所得水準なども含めて、明確なことは分かっていない状況です。こうした情報を得るため、博士課程を修了した様々な分野の学生を対象とした調査が行われました。
博士号(PhD)取得者が年々増加していることは周知のとおりですが、彼らがその後どのようなキャリアを歩むのかはあまり知られていません。学術界にとどまる人の割合、産業界に進む人の割合、そして所得水準なども含めて、明確なことは分かっていない状況です。こうした情報を得るため、米国国勢調査局(U.S. Census Bureau)のニコラス・ゾラス (Nikolas Zolas)氏らは、博士課程を修了した様々な分野の学生を対象に、就職後の所得の分析調査を行いました。この調査はUMETRICSプロジェクトの一部として行われたもので、「雇用と所得に関する匿名の国勢調査データを、米国中西部および近郊の大学コンソーシアムから得られた学生の情報と結び付ける」作業が行われました。
同調査では、2009~2011年の間に米国の8つの大学から博士号を授与された約3000人を対象としました。調査の結果、学術界に残った人は、産業界で職を得た人よりも所得が少ないということがわかりました。その他の主な調査結果は次の通りです。
- 博士号取得者の40%が産業界で職を得たが、そのうち数学、コンピューター・サイエンス、エンジニアリング分野での博士号取得者の所得が最も多く、平均年収は6万5000ドルであった。
- 生物学専攻の博士号取得者で産業界に就職した者はわずか26%だった。しかし、生物学分野のポスドクの所得は最低で、年収は約3万6000ドルであった。
- 産業界に進んだ博士号取得者には大企業に就職した人も多く、その場合の平均年収は9万ドル以上であった。
- 政府関係の職についた博士号取得者は4.1%であった。
ニューヨーク大学のジュリア・レーン(Julia Lane)氏とオハイオ州立大学コロンバス校のブルース・ワインバーグ(Bruce Weinberg)氏という2人の経済学者が率いた今回の調査結果の分析により、博士号取得者のキャリアについて、興味深い事実が明らかとなりました。ワシントンDCの大学院協議会(Council of Graduate School)会長であるスザンヌ・オルテガ(Suzanne Ortega)氏はこの調査結果を受けて、次のように述べています。「博士号取得者は生産性が高いとされる機関で働いていることが示されており、博士課程の教育は経済成長と雇用の創出に貢献していることがわかる」。博士号取得者の所得には、専門分野ごとに明確な差が見られます。所得が極端に多い分野について、ニュージャージー州のラトガース大学(Rutgers University)で科学分野の労働力について研究するハル・サルズマン(Hal Salzman)教授は、「大学でさえ、テニュアトラックに乗った博士号取得者の初任給は年収6万5000ドル以上です。ということは、企業の研究職につく人はさらに多くもらっているということでしょう」と述べています。
レーン氏とワインバーグ氏は今回の調査について、サンプルサイズが少ないため、一般論を引き出せるものではないとしながらも、様々な分野の将来性や、どのような分野が産業界で求められているのかを明らかにすることはできたと述べています。
参考記事
「Biologists lose out in post-PhD earnings analysis(博士号取得後の所得分析:敗者は生物学者)」 (Accessed December 13, 2015)
「New Ph.D. incomes ‘surprisingly’ low(『驚くほど』低い新米PhD取得者の所得)」 (Accessed December 13, 2015)