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「ジャーナルの質は、1つのツールだけで算出された1つの数字だけでは分かりません」

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「ジャーナルの質は、1つのツールだけで算出された1つの数字だけでは分かりません」
レイシー・アール氏はCabell’s International社のビジネス開発部門バイス・プレジデントで、企業対応とビジネス提携部門を統括しています。学術出版界での職歴は12年以上に及び、学術出版のさまざまな側面に精通しています。Cabell’sでは、同社独自のジャーナル評価システムの開発と展開の実現に貢献してきました。また、ジャーナルのデータ収集と加工だけでなく、ジャーナルのランク付けと評価までを行うことを目指す、事業の拡大を支えてきました。

Cabell’s International社は、デイビッド・キャベル (David W.E. Cabell) 博士によって1978年に設立されました。博士は、「テニュア委員会、教授、研究者、博士課程の学生が、学術ジャーナルを評価したり選んだりするための詳細な情報を簡単に入手」できるようにしたいと考えていました。長い歳月を経て、Cabell’sは信頼できるジャーナル情報源へと成長し、さまざまな分野の研究者が自分の論文に合ったジャーナルを選ぶ際の助けとなってきました。Cabell’sのディレクトリが提供している情報には、ジャーナルの出版プロセス、受理率、査読プロセス、受理のタイムライン、連絡先の詳細などがあります。Cabell’sはさらに、研究のインパクトの評価に役立つ独自のツール、CCI、 DA、 IPAも提供しています。CCI (Cabell’s Classification Index)©は、出版された分野とテーマ別にジャーナルのランキングを出すことで、引用指標の理解に欠かせない「文脈」を提供しています。DA (Difficulty of Acceptance)©は、論文を掲載しているジャーナルがどの機関から発行されているのかを識別することで、どの研究機関が活発な研究活動を行なっているのかが分かるようにしています。IPA (Institutional Publishing Activity)© のスコアは、ユーザーが自分の所属機関の研究プログラムのパフォーマンスを、他機関のものと比較する際に役立ちます。


こうした詳細で有益な情報をCabell’sがどのように提供しているのかを知るために、Cabell’s Internationalのビジネス開発部門バイス・プレジデント、レイシー・アール (Lacey E. Earle) 氏にお話を伺いました。アール氏は、Cabell’sで企業対応とビジネス提携部門を統括しています。学術出版界での職歴は12年以上に及び、学術出版のさまざまな側面に精通しています。Cabell’sでは、同社独自のジャーナル評価システムの開発と展開の実現に貢献してきました。また、ジャーナルのデータ収集と加工だけでなく、ジャーナルのランク付けと評価までを行うことを目指す、事業の拡大を支えてきました。


今回のインタビューでは、学術出版界に存在する情報の大きな「ギャップ(溝)」を埋めるためのCabell’s独自の方法や、同社のディレクトリやツールが、新米研究者だけでなくベテラン研究者にも利用価値がある理由についてお聞きしました。アール氏は、学術研究コミュニティが研究のインパクトを評価する際に1つの指標だけを利用する習慣をやめた方がいいと主張しています。出版論文を多用な側面から評価できるように、様々な指標を利用し、科学の本当のインパクトを理解する必要があると考えています。


Cabell’sのツールはどのような仕組みですか?「研究者、図書館司書、学術関係者を、求めているジャーナルに」どのように結びつけているのでしょうか?

Cabell’sは、ジャーナルに関する情報を提供している学術リソースの中で、もっとも詳しい情報を提供しています。1万1000誌以上の詳細な情報を提供することで、研究者と、研究者が求めるジャーナルとを結びつけています。我々の提供するツールを利用すれば、論文を投稿しようとしているジャーナルが妥当かどうか、あるいは検討中のジャーナルが研究者のニーズに合っているかどうかを判断することができます。さらに、出版目標に適した、まったく知らなかったジャーナルを見つけることもできます。


興味深いことに、学術ジャーナルに関する信頼できる情報を求めているのは研究者だけではありません。図書館司書は、ジャーナルを図書館のコレクションに含めるかどうか、あるいは研究者にどのジャーナルを推薦したらよいかを決めるために、Cabell’sのシステムを利用しています。テニュアの取得プロセスに関与する学術関係者は、優良ジャーナルのリストとして、また質の高い指標の情報源として、Cabell’sに信頼を寄せています。例えば、教員がテニュア委員会にCV(履歴書)を提出すると、委員会は我々のデータベースを参考にして、その教員が論文を出版したジャーナルについて情報を得たり、信頼性を確認したりしているのです。


Cabell’sの評価ツールと膨大な情報量は、こういった利用者グループにとって、なくてはならないものになっています。各ジャーナルの指標のほかにも、以下のような情報を提供しています。
 

  • 編集者の氏名と連絡先
  • 投稿プロセスの関連情報(論文原稿を、どこにどのように投稿するか)
  • ジャーナルのウェブサイト
  • 各年の受理率
  • 各年の招待論文の割合
  • 査読プロセスの種類(単盲検法、二重盲検法など)
  • 各論文に対する外部査読者数
  • 各論文に対する内部査読者数
  • 各論文にかかる平均査読期間
  • 論文原稿を投稿してから実際に出版されるまでにかかる平均の時間
  • 著者が査読コメントのコピーを受け取れるかどうか
  • ジャーナルが剽窃探知ツールを使用しているかどうか
  • 規定の論文原稿の平均の長さ(ワード数あるいはページ数)
  • 読者層(研究者、実務者など)
  • ジャーナルのスポンサー
  • 出版頻度
  • ジャーナルの発行開始年
  • ISSN (国際標準逐次刊行物番号) とEISSN (電子国際標準逐次刊行物番号)
  • ジャーナルが受け付ける論文原稿のテーマ
  • OA(オープンアクセス)モデル(グリーン、ゴールド、ハイブリッドなど)
  • ジャーナルの目的と対象領域
  • 編集者は、ジャーナルの実社会での影響力について書いた「インパクトについての説明」 ("Statement of Impact") を送付することができる。

一般に、自分の論文に合ったジャーナルを選ぶ際に助けが必要なのは、キャリアの浅い研究者だと思います。テニュア委員会やベテランの研究者など、出版経験やジャーナル選びの経験が豊富な人たちは、どのようにCabell’sを利用するのでしょうか?

活発な研究活動を行なっている大学の多くは、研究方法に関する講座でCabell’sのデータベースの利用方法を紹介し、博士課程在籍の大学院生が、研究の着想から出版までのプロセスを体験できるようにしています。駆け出しの研究者は、自分の研究を発表する場を選ぶ際に、Cabell’sの提供する膨大な情報や強力な検索ツールを役立てることができます。テニュアを持つ教授は、概して(自分の)業績評価のために我々のデータベースを利用しています。Cabell’sの指標は、教員が将来の雇用先、学術界における証明書、昇進などのために業績の評価ができるように作られているのです。

ディレクトリに採録するジャーナルリストはどのように作成するのですか?対象は英文ジャーナルだけですか?

Cabell’sには毎月、50~60誌のジャーナルから、データベースへの採録を検討してほしいという連絡が入ります。購読者や研究者、出版社からも推薦を受けます。弊社のジャーナル選別スタッフは、これらすべてのジャーナルに目を通し、第一段階の選別を行います。スタッフは、ジャーナル関係のデータ収集と分析、そして質の見極めに熟練したスペシャリストで構成されています。最初の選別段階を通過したジャーナルには、採録のための正式な申込書を送付します。ジャーナルは、自分たちの方針、実務、財務、収益に関する資料をCabell’sに提出することになっています。すべてのデータが集まったら、スタッフがそれらをチェックして、選択方針に合っているかどうかを確認します。基準を満たしていると判断したら、データベースへの採録に招待する文書を発行します。このプロセスは短期間で終わるものではなく、推薦から採録に至るまでおよそ6~8ヶ月かかります。


ヨーロッパやアジアにも進出していますので、英文ジャーナルだけを対象とするわけにはいかなくなっています。現在、データベースの大半は英文ジャーナルが占めていますが、その他の言語も含まれています。言語に関わらず、すべのジャーナルに同じレビュープロセスを適用しており、選択基準に合ってさえいれば、採録されます。

Cabell’sに掲載されているジャーナルが良質であると著者に保証するような仕組みがあるのでしょうか?ジャーナルの価値はどのように評価されますか?

Cabell’s自身が「優良リスト」となっています。つまり、我々のデータベースに採録されているジャーナルはすべて、学術出版物として信頼できるものだということです。Cabell’sがあれば、論文原稿を投稿する際の「安全性」を、当てずっぽうで評価しなくても済むのです。各ジャーナルの質やインパクトの保証に関してですが、各誌の購読者は、弊社が提供する、質の高いすべての指標にアクセスすることができます。トムソン・ロイター (Thomson Reuters) やエルゼビア (Elsevier) とも提携していますので、両社の引用データの利用も可能です。Cabell’sのウェブサイトには、トムソン・ロイターのインパクトファクターが表示されています。また、弊社の質の評価であるCabell’s Classification Index©は、スコーパス(Scopus)の引用データを利用して作成されています。

Cabell’s Classification Index©とは何ですか?どのような仕組みのものですか?また、著者やユーザーにとってどのような価値がありますか?

Cabell’s Classification Index© (CCI)は、スコーパスの許可を得て生の引用データを利用している、弊社が開発した非常に強力な指標です。基本的にはジャーナルの引用数を分析するという形式ですが、CCIがユニークなのは、「文脈」を引用している点です。つまり、分野別、テーマ別に標準化されているのです。ジャーナルは、CCIの1つのランキングだけで評価されることはなく、分野別・テーマ別に評価されます。例えば、会計学分野に特化したジャーナルのCCIは、他の会計学分野の専門誌の引用率のみと比較して計算されます。比較の計算は、分野別・テーマ別に行われます。この「文脈」に着目した独自の特徴が、CCIでジャーナルを評価する際の、ユーザーにとっての大きな利点でしょう。分野によって、「良い」とみなされる引用率には大きな幅があります。それをいちいち考慮せずに、ジャーナルの質を即座に評価できるというわけです。

多分野を対象とするジャーナルもCCIの対象に含まれますか?

CCIはもともと、特定の分野内だけでなく、さまざまな分野をまたいで利用することもできる評価ツールとしてデザインされています。多分野ジャーナルの場合は、分野毎にCCIが出されます。評価は標準化されるので、各分野におけるジャーナルの影響力も簡単に比較できます。さらに、あるジャーナルのパフォーマンスを、単一分野のジャーナルや他の多分野ジャーナルと比べることも容易にできます。

Cabell’sが提供しているその他の評価ツール、Difficulty of Acceptance© と Institutional Publishing Activity©について、少し教えて頂けますか?

Difficulty of Acceptance© (DA)もInstitutional Publishing Activity© (IPA)も、引用数を基本とした指標で、許可を得た上で、スコーパスの生の引用データをもとに作成されています。これらは、ユーザーが包括的な視点を得られるように、異なった視点から出版環境を測定するものです。


IPAは、論文が掲載されたジャーナルではなく、著者の所属する研究機関と引用数との関係を測定するものです。研究機関の総計引用数を統計アルゴリズムにかけて、各研究機関を比較します。CCIと同様に、比較は分野別・テーマ別という文脈で行います。IPAは、ユーザーが興味を持っている研究分野について、各研究機関の出版物を測定したいときに便利です。分野やテーマを問わず、その文脈の中で比較と評価を行うことができます。また、研究者の研究目標のレベルやテーマに合った研究機関を見つけるのにも役立ちます。大学の研究文化について理解するという、便利な使い方もできます。自分の分野に強い研究機関に移りたいと考えているなら、レベルの高い研究活動を行なっているパターンを示す大学を探したいはずです。IPAは、そのようなパターンを認識して特定の研究機関との関連を示すので、研究者の意思決定に役立てることができます。


別の研究機関に移る予定のない研究者も、IPAを利用して、所属先の研究水準と自分の研究水準を比べることができます。また、研究機関の管理者も、IPAの数値を参考にして、雇用やテニュアの付与に際して研究の評価に利用することができます。雇用の際には、求職者の研究を、現在の所属機関のIPAと比較することで、優秀な求職者を見分けることも可能なので、研究に意欲的で成果を出している研究者を選別するのに役立つはずです。


DAは、各ジャーナルの出版傾向を見る際に、独特の視点を提供します。DAの計算に使われているアルゴリズムに関する詳細は省きますが、基本的にDAとは、ジャーナルにおいて、質の高い研究を行う研究機関に所属する著者の論文を出版するパターンが、どの程度決まっているかを測定するものです。DAは、あるジャーナルに論文を掲載した著者の能力をもとに、ある論文原稿がそのジャーナルに受理される可能性を数値化しています。

自分の論文に合ったジャーナルを見つけるためのツールはいくつかあります。Cabell’sがその他のツールと違うのはどのような点ですか?

それは3つあります。第1に、専門的な訓練を受けたスタッフが、ジャーナルについての情報を自ら選別し、検証しているこの種のデータベースを提供しているのは、Cabell’sだけです。他社のシステムのほとんどは、自社のデータベース用ウェブサイトを訪れたジャーナルが好きなように情報を入力する、という受動的なデータ収集法を利用しています。Cabell’sには専属のジャーナル研究者がいますので、ほかのデータベースにはない情報を収集し、まとめることができます。


第2に、Cabell’sには、独自の質の高い指標がありますが、ユーザーにできるだけ多くの評価ツールを提供するよう心がけています。先に述べましたが、トムソン・ロイターやエルゼビアと提携することで、購読者には、ジャーナルの質を偏りなく客観的に見る複数の物差しを提供しています。出版環境の変化に応じ、さらに質の高い評価を開発、導入していきたいと考えています。


第3に、Cabell’sは、ユーザーのきわめて幅広いニーズに対応することに特化してデザインされた唯一のリソースです。弊社は学術出版のあらゆる面に熱意をもって貢献しているという点も、他のツールとは異なるところです。

インパクトファクターが乱用あるいは濫用されていると感じ、別のものが必要だと考える学術出版関係者は増える一方です。しかしアールさんは、インパクトファクターを他の指標と組み合わせて使えば、ジャーナルの質を測定する複数の公正な数値を参照できる、と言います。複数のツールを使用することでどのように研究コミュニティを支援できるのか、もう少し詳しく教えて頂けますか?

端的に言うと、1つのツールだけで算出された1つの数字だけでは、ジャーナルの質を的確に測定したり、伝えたりすることはできません。1つの数字でジャーナルを評価しようとするのは、複雑極まりないさまざまな性質を持つ生き物を1つの要素だけで評価しようとするようなものです。そのような1つの評価で、「このジャーナルの質はどれぐらい高いでしょうか?」という質問に答えられますか? ジャーナルの質の本来の複雑さを考えるなら、「このジャーナルは、どのように、誰にとって重要でしょうか?」と尋ねるのが妥当でしょう。


自分の研究が利用され、その後さらに研究が積み重ねられ、集合的な知識に統合されていくことを望むなら、研究者は、自分の論文を適切な読者に届けることを考えなければなりません。研究者は、インパクトファクター、CCIなど利用可能なさまざまなツールを使って、データに基づいてジャーナルを選ぶことができます。ただしこの方法が、キャリアアップを目指す研究者を評価する立場にある人々に認知され、歓迎される必要があります。研究機関の管理者は、研究者に対して「スコアの高い」「最高の」ジャーナルに論文を掲載するよう促すのではなく、教員たちの研究が「適切な」ジャーナルに掲載されているかどうかを確認する必要があるでしょう。大学教員の論文が、その研究をもっとも生かし、利用できる人々に伝えられるジャーナルに掲載されているかどうかを確認する必要があるのです。1つの数値あるいは1つの指標だけに注目すると、研究プロセス全体の目的から逸れてしまいす。

アールさんのブログ“The Source” は、「学術コミュニケーションの奨励」というCabell’sの目標の中で、どのように位置づけられていますか?

The Sourceはニュースレターと言った方が適切かもしれません。これは、Cabell’sの論文、イベント、学術出版環境の動きなどをシェアする手段の1つです。読者の皆さんの興味を掻き立て、議論を巻き起こし、ときにはちょっと面白い話題を提供するために、さまざまな情報源からトピックを選んでいます。Cabell’sは、研究者のコミュニティと積極的に交わり、学術出版の傾向や進歩について気づいたことをシェアしたいと思っています。The Sourceの読者は、約1万5千人です。興味がありましたら、こちらをクリックしてください。


アールさん、ありがとうございました!


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