ScienceOpenは、2013年にティボー・チェケ (Tibor Tscheke) 氏とアレキサンダー・グロスマン (Alexander Grossmann) 氏が設立した独立系スタートアップ企業で、ベルリン、ボストン、ブタペストに運営拠点があります。ScienceOpenのプラットフォームを支える技術を提供しているのは、Ovitas(CMS-WorkFlow-XMLのソフトウェアを構築する企業)です。ScienceOpenは、科学コミュニケーションのプラットフォームとして機能しており、非公式のネットワークや査読への参加、オープンアクセス出版など、さまざまな形で利用することができます。また、オープンアクセス出版の強力な推進者として、従来の出版システムに変化をもたらす原動力として、短い間に信頼を築いてきました。研究者が他の研究者のために査読を行う「出版後査読」が取り入れられている点が、このプラットフォームの特徴です。
今回は、ScienceOpenのCEOであるステファニー・ドーソン(Stephanie Dawson)氏に、同社に関する情報やオープンアクセス出版に関するさまざまな話題についてお聞きしました。インタビュー初回の本記事では、SicenceOpenの展望と使命、そして研究者が利用できるSicenceOpenのさまざまな機能ついて詳しく教えて頂きました。研究者が論文をよりうまく見つけて活用できるようにするため、SicenceOpenでは「文脈」を利用しているとのことです。ScienceOpenは、著者同士の人脈構築、研究者のキャリアアップ、研究の普及にも貢献しています。
ScienceOpenとは何ですか?なぜ「研究と出版のネットワーク」と称しているのですか?
ScienceOpenは、公開査読に特化した発見とコミュニケーションのためのプラットフォームです。その中心に据えているのは、研究者と研究論文です。ScienceOpenでは、あらゆる分野から総計1300万件の関連情報を検索し、閲覧することができます。ユーザーは、検索された論文に対する査読、勧告、コメントを行うことができます。また、プラットフォームの編集者に応募すること、独自テーマのコレクションを作成すること、あるいは自分のオリジナルの研究結果を投稿することもできます。各論文の「文脈」を画期的な方法で利用することにより、論文を容易に発見することができるのです。ScienceOpenで学術論文を検索する場合は、参考文献リスト、引用数、オルトメトリックのスコア(Altmetric™ score)、日時、利用数、その他の評価をフィルターとして利用し、より的確な検索結果を得ることができます。
ScienceOpenでは、「出版」を、科学の言説に自分の主張を加えて公にするという広い意味で捉えています。ですから、ScienceOpenのすべての査読は、CrossRefのDOI(デジタルオブジェクト識別子)が付与され、研究者が参照したり引用したりできる「出版物」として扱われます。原著論文、意見論文、ポスター、事例研究、ネガティブな結果、データ出版、その他の形式の研究結果をScienceOpenのデータベースに採録することを支援しています。ScienceOpenでは、研究者は、査読を受ける前に論文を出版し、他のユーザーからの出版後フィードバックに基づいて発展させ、自らも査読者となり、科学の発展に積極的に関わるコミュニティに参加することができるのです。
ScienceOpenは、どのように「学術コミュニケーションに関わるすべての利害関係者間における建設的な関わり」を奨励しているのでしょうか?
ScienceOpenでは、研究者、出版社、編集者のニーズの均衡を図ろうとしています。私たちはオープンアクセスのコンテンツが好ましいと思っています。その理由は、私たちが今日直面している大きな課題を科学が解決していくためには、インターネットを使って情報が滞りなく流れていくことが一番有効だと確信しているからです。ただ、私自身が出版業界でジャーナル/書籍編集者、最終的には編集長として過ごした経験から、出版社の努力と価値に対しては大いに敬意を抱いています。編集者として働いていたとき、論文1本1本、著者1人1人のことを大切に考えていました。朝5時起きで印刷前の最終稿に目を通したこと、勤務時間後に著者に電話して気になる訂正個所について確認したことなどを思い出します。私の努力が、少しは科学的記録の発展に寄与したことと思います。そのときに扱っていたのは購読モデルのジャーナルに掲載する論文ですが、より発見されやすくするためには、論文の周辺情報が公開される必要があると考えていました。この考えに基づき、ScienceOpenでは、可能な限り、出版されたバージョンの論文にリンクさせています。また、私たちのプラットフォームは、ユーザーが自分でPDFをアップロードするクラウドソーシング形式ではありませんが、これには理由があります。ScienceOpenのデータベースに、出版社が直接コンテンツをインデックス登録するようにしてもらいたいと思っているのです。そうすれば、最高の質の情報を共有できるからです。ジャーナルのXMLメタデータにオープンライセンス情報を追加することや、参考引用文献をインデックス採録することも、オープン化につながります。学術出版界のすべての利害関係者が建設的に関わり合うようにする、とはそういうことです。
どのようにして、ユーザーが「科学コミュニケーションを体系化する」ようにしているのですか?
ユーザーが論文に文脈を付け加えることで、科学コミュニケーションのプロセスを、ユーザー自身が管理できるようになります。そのツールとして、査読とCollectionという2つを提供しています。従来の(出版前)査読モデルは、長期的にみて維持が難しい可能性があります。その理由は2つあります。1つ目は、論文とジャーナルの数が爆発的に増加しているということです。さらに、発展途上国でも優れた研究が急増しています。津波のように研究情報が押し寄せてくる現在、実験の不備で信頼できない研究結果と、そうでない有効な研究結果の区別が非常に難しくなっています。もはや、著名ジャーナルにこの判断を任せておくことはできない状況だと思われます。論文1本1本には、それぞれ違った利点があるのです。2つ目は、従来の査読モデルは、論文に「認定証」を与えているようなものだということです。でも、査読にはそれ以上の役割があるのです。それは、研究者に、「とくに素晴らしいと思った論文やプロトコルがあったら、それを科学コミュニティに教えてください!」と伝えて、研究の発展に参加してもらうということです。ScienceOpenでは、誰もが出版後査読に参加でき、それが迅速に(かつ無料で)行われます。これにより、ある科学者が次の実験で情報に基づいた判断を下せるようになる、という結果につながるのです。
Collectionというツールを用いることで、査読評価の水準を一段階引き上げることができたと思います。心底興奮するような内容の論文は、最先端を行き過ぎているために有名ジャーナルには掲載されていない、という話をよく耳にしました。新米の研究者は、どうすればその秘宝のような論文を見つけることができるのでしょうか? ScienceOpenには、“Collection”があります。これは、編集者が管理する情報公開スペースで、論文の発見を助ける機能です。ScienceOpenのユーザーは、応募すれば誰でもCollectionの編集者になることができます。Collection編集者は、全ジャーナル・出版社の1300万本の論文の中から、自分の分野で最高の研究をCollectionに収集し、管理することができます。自分の選択に関する論説を書いて発表し、各論文に編集者としてコメントし、査読をすることができます。あるいは、査読者を募り、Collectionの研究についてシェアし、議論することもできます。長期的には、論文出版後に編集者からScienceOpen Collectionに選ばれることが、ジャーナルに論文が受理されるのと同じぐらい意義あることとみなされるようになればと思っています。例えば、2005年にノーベル医学賞を受賞したバリー・マーシャル(Barry Marshall)氏は、「ヘリコバクターの進化」(Helicobacter evolution)というCollectionを作成し、通常はインパクトファクターが高いとはみなされないPLoS Oneに掲載された論文を入れました。優れた研究は、至るところで出版されています。そのような研究について知り、共有することは専門家にとって重要なことだと思います。
ScienceOpenは原著論文も掲載しています。あらゆる分野の論文を受け付けているのですか?著者がScienceOpenで論文を発表することには、どのような利点がありますか?
ScienceOpenの出版部門である“ScienceOpen Research” では、すべての研究分野からあらゆる種類の論文の投稿を受け付けています。原著論文、レビュー論文、事例報告、ネガティブな結果、意見論文、データ出版、観察、ポスターなどが含まれます。論文出版を回避して、インデックス採録されるデータベースでそのまま出版してもらおう、という考えです。ScienceOpen Researchから出版することの主な利点は、迅速であること、透明性が高いこと、そして発見されやすいことです。編集上のチェックを素早く行なった後、クリエイティブ・コモンズのCC BY 4.0オープンアクセス・ライセンスで論文が出版されます。論文は高品質のフルテキストXMLで出版され、出版後査読ができる状態で公開されます。著者は、自分で査読の依頼(Peer Review by Endorsement, PRE) を行うこともできます。これは、査読者の名前が論文と共に公開される形式です。オープン型と依頼型の両方の査読を受け、フィードバックに基づいて修正版を投稿することも可能です。
論文はSienceOpenで即時にインデックス採録され、引用数、オルトメトリックのスコアの追跡が開始されます。これらの指標は、参考文献として引用される文脈の中で示され、シェアされ、査読され、さらに、関連するCollectionに含まれることもあります。
著者は出版費用を払う必要がありますか?
最初の1年間で2回まで修正が可能という条件では、論文1本あたりの出版費用として、800ドルを支払う必要があります。著者が2名の査読者に依頼する場合の費用は400ドルです。ポスターの公開は無料です。支払いが困難な著者に対しては、免除制度があります。
ScienceOpenが採用している出版後査読モデルの仕組みについて教えて頂けますか?
査読は科学出版の中枢であり、ScienceOpenでも非常に重要なものと考えています。長年研究に携わってきた研究者と話をすると、ほとんど全員が、長い査読プロセスのせいで他の研究者に先を越されてしまったとか、不公平な査読によって論文がリジェクトされたという経験を持っていることが分かります。査読とは本質的に、科学者が他の科学者の研究を評価することです。「インパクトファクターの高さ」というプレッシャーがなければ、あるテーマを深く掘り下げる研究者にとって、興味深く有益なフィードバックを相互に行うことができると思います。実際、同じような出版後査読を行なっているF1000Researchのスタッフは、プラットフォーム上でこれらの査読が最初に読まれることが多いと述べています。
学術環境においては、専門家であるかどうかが重要ですから、すべての査読に完全な透明性を確保できるよう、研究者の名前と研究者識別子(ORCID ID)を公開するよう求めています。また、査読者になる条件として、研究者としての信用を示すために、最低5本の出版論文があることが必要と定めています。このレベルまでオープンで透明性があれば、議論にも礼節が保たれると考えており、ScienceOpenでの査読では、正にそのような状況が実現されています。
ScienceOpenでは、査読は別の文書として扱われます。引用とオルトメトリックのスコアを追跡するためにCrossRefデジタルオブジェクト識別子がつけられており、ScienceOpen内で検索が可能です。査読者は、ORCID、Impact Story CV、Publonsのプロフィールに自分の査読を加えることができます。
ScienceOpenのもっとも興味深い特徴は、ユーザーが他人の研究にコメントできるという点です。ユーザーは、他人の研究にコメントすることで何らかの功績を得たり、お礼のようなものを受け取ることができるのでしょうか?
先ほど述べた通り、私たちは、科学文献の周辺に議論を起こしたいと考えています。インターネットが非常に優れている点は、インタラクティブ(双方向型)だという点です。私たちは、世界中の人々の経験を参考にして、日常生活のほぼすべての側面に関する決定を下しています。レストラン、ホテル、タクシー運転手、本、冷蔵庫に至るまで、レビューを書いています!そして、成功したプラットフォーム(Amazon、TripAdvisor、Uber、Airbnbなど)はどれも、このインターネットの潜在能力をうまく利用しています。研究コミュニティも、このインターネットというツールを利用して、査読をより迅速に、グローバルに、オープンに、ネットワーク化されたものにすることができれば素晴らしいと思いませんか?これが私たちの展望です。
もちろん、それを達成するためには、文化や考え方を変える必要があり、それは一朝一夕で成し遂げられることではないでしょう。若手研究者なら、自分のキャリアにどのような影響があるかを心配しますから、公開された場でコメントや査読を行うことを躊躇するかもしれません。若手研究者には、自分の考えを述べることを勧めてくれるメンターに出会ってほしいと思います。
私たちの査読には、論文の評価、レポートの執筆、コメント付与などの違いを設けています。査読者は、出版歴によって分類されます。透明性を確保するため、コメントするにはORCID識別子が必要ですが、出版歴がなくても大丈夫です。公開されている場でコメントすることは、若手研究者にとって、質問するのであれ、自分の経験をシェアするのであれ、よい経験だと思います。コメントは比較的気軽にできます。ただ、査読レポートと異なり、コメントにDOIはつけられません。
ScienceOpenは、ユーザーのORCIDプロフィールから情報を得ています。これはつまり、ORCIDプロフィールのないユーザーはScienceOpenを利用できないということですか?
私がORCIDにたびたび触れていることからお分かりかもしれませんが、ORCIDはScienceOpenの主要パートナーです。ScienceOpenの検索・発見ツールは、登録手続きを行わなくてもすべて無料で利用できます。ユーザー登録する場合は、FacebookやLinkedInのアカウントから1クリックで簡単にできます。ただ、査読者、Collection編集者、著者としてScienceOpenに貢献するためには、ORCIDプロフィールへのリンクが必要です。これにより、貢献者全員の透明性が保たれています。
OA論文はどのように集めているのですか?
ScienceOpenの中心部分は、PubMed Central Open Access Data Subset、SciELO、arXivのオープンアクセス論文で構成されています。出版社と直接協力して、OAモデルと購読者モデルの両方の論文を加えることもあります。
中心となっているこの論文データベースから、引用数によって検索結果を仕分ける引用ネットワークの作成を開始しました。各論文の参考・引用文献は1本につき35~50件ありますが、これらを分析して引用文献の記録を作ります。これにメタデータを加えて、著者、ジャーナル、出版社、キーワード、DOI、その他の特徴をリンクします。その結果、今ではScienceOpenのプラットフォームには5000万件の引用文献と、1300万件の論文、各種データ、文献などが含まれています。全文テキストの閲覧が可能な論文は、約220万本です。それ以外のものも、DOIを利用して出版されたバージョンにリンクされています。
ユーザーの基盤についてもう少し教えて頂けますか?
ScienceOpenの最大のユーザー基盤は米国とヨーロッパですが、南米からの利用も増加しています。これは、南米最大のOA出版社であるSciELOとの統合が確実に影響しています。近々、アフリカのOAジャーナルとの統合を目指しています。アジアでの連携も強化しています。昨年、上海の出版社会議に出席した際、自分が普段情報収集に利用しているツイッターやFacebookなどのツールが中国では使えないことに気づきました。そのため最近、WeiboとWeChatで中国語のアカウントを取得しました。
私たちは、グローバルな問題を解決するためには科学が世界に開かれていなければならないという信念のもとに、このような努力を続けています。発展途上の各国では、新しい考えや、今までの常識に捕らわれない視点がみられます。私たちが直面している大きな課題を解決するには、正にそういったものが必要なのです。私たちも、聞く耳を持たなければなりません。ScienceOpenは、ユーザー基盤を強化し、もっともっとグローバルになることに力を尽くして行きます。
学術出版コミュニティは、ScienceOpenに近い将来どのようなことを期待できそうですか?
今後も拡大を続けて行きますので、新しい情報源からのコンテンツにご期待ください! 私たちは、より緊密に連携したグローバルな科学コミュニティを実現するために、科学文献のオープン化を進めることに全力を注いでいます。グローバルな提携をさらに進めたいと思います。新しいフォーマットやコンテンツも実験してみるつもりです。研究者は、あらゆるジャーナル、出版社、コンテンツ形式を検索できるグローバルなプラットフォームで情報検索をしたいと望んでいます。この方向性に沿った、新しい情報を取り入れて行きたいと思います。
次回は、出版後査読とインパクトファクターについてお聞きします。どうぞお楽しみに!