本インタビューでは、若手研究者の視点をお届けします。テナント氏は博士課程の大学院生としての研究活動、論文出版、学会出席に加え、世界中を旅して研究者を対象としたオープンな研究・科学政策についての啓蒙活動を行なっています。また、活発なブログ投稿や査読のほか、その他の活動―例えばこのインタビューへの対応―も行なっています。テナント氏は、専攻の変更を厭わず、子供の頃から大好きだった古生物学の研究に飛び込みました。その過程で、科学コミュニケーションと政策に関するあらゆることへの関心、とくにオープンサイエンスへの情熱を自覚しました。テナント氏は、ネットワーキングの真の潜在力を現実化し、それを利用して学術研究の重要事項に関する対話に積極的に参加しようとする研究者で、厳しい研究スケジュールを管理しながら、さまざまな活動に取り組んでいます。今回は、研究やその他の分野で興味を持っていることについてお話を伺いました。とくに、本格的な研究活動とその他の活動の両立についてお聞きしました。科学や学術出版の重要な進展について、より多くの人が知るべきだという強い思いが、テナント氏の仕事への原動力になっているようです。
本インタビュー・シリーズ最終回の今回は、以下の3点について伺いました。
- 現在の学術出版界のどこに変化が必要か。
- 学術出版の将来像は。
- 研究者/コミュニケーターとしての経験に基づく、研究者へのアドバイス。
テナント氏は、「公共の最善の利益」を考慮した科学政策を強化していくことの必要性と、研究のあらゆる側面における透明性という考え方を学術界全体で積極的に受け入れていくことの必要性を語っています。彼によると、見通しは決して暗くないとのこと。科学コミュニケーションの将来には楽観的な見方をしているそうです。最後に、若手研究者への貴重なアドバイスももらいました。
研究の伝達と科学政策について3つのことを変えられるとしたら、何を変えますか?また、その理由は何ですか?
「オープン」それ自体に価値があるかのように語られることがよくありますが、これは真実の半分にすぎません。オープンであることによって与えられるものが本当の価値であり、それは文脈によって決まります。科学政策では、よりオープンであることで、意思決定過程の透明性が増すことが期待されます。どのエビデンスが利用されたのか?どこでどのような形で結果が得られたのか?非公式のどのような会話やミーティングが持たれたのか、そしてそこで何が討議されたのか?これは民主的な説明責任(アカウンタビリティ)の透明性を支えるものであり、社会政策を形作る上で重要な部分だと思います。科学政策とは多くの人にとって、方法、材料、考察のセクションがまったくない論文の結論のセクションを読んでいるようなものなのです!
私は、政策立案者や資金助成機関が、公共の最善の利益のためにもっと行動することを望んでいます。例えば、利益が出ていない学術出版社の存続と、他のところでの資金の有効活用のどちらかを選ばなければならないとしたら、後者を選ぶということです。少なくとも一部は公的助成を受けていて、利益率が40%という出版社が、文献への公共のアクセスを禁止していたら、そのシステムは何かが大きく間違っていると分かります。このようなシステムを変えて行くには、安定した学術コミュニケーションのためのインフラ整備が必要です。(これは、ビヨルン・ブレンブス(Björn Brembs)やジェフリー・ビルダー(Geoffrey Bilder) のような人々が提唱していることです。)これはつまり、コミュニケーションを含むすべての研究プロセスを対象とした、効果的な標準ワークフローを構築するということです。これに政府の援助が得られれば、利益をむさぼっている出版社と、そこで提供される相対的価値の低い高コストのサービスで資金を浪費することなく、何十億ドルという大金を節約してその資金を研究に投入することができます。
でも何よりも必要なのは、現在の評価システムの徹底的かつ大規模な改善です。どんな理由があるにせよ、このデジタル化の進んだ時代に、不適切な評価基準をまだのうのうと利用していることは、絶対に許されないことです。これは実は、2番目に挙げた点にも関連しています。というのも、研究コミュニケーションがジャーナルの権威と従来の出版プロセスの両方から切り離されたインフラを構築できれば、お粗末な評価基準(例えばジャーナル全体に基づいたもの)から離れる動きが出てくるはずだからです。若手研究者と議論をすると、ほとんどいつもこの問題に立ち戻ります。まず出版システムによってひどい目に遭い、さらに研究評価システムによって不利益を受けることを恐れ、科学にオープンに取り組むどころか、正しく取り組む気もなくしてしまっている人もいます。我々がまだ実際的で体系的な解決方法を考え出せていないということに、憤りと困惑を感じます。
今から20年後、学術出版界はどうなっていると思いますか?
現在の「出版」の姿は、ほぼ完全に分断あるいは解体しているのではないでしょうか。英文校正や組版など、まっとうな価値のあるサービスは自動化されるか、あるいは非常に低価格での外注化が進むほど出版プロセスが効率化されるのではないかと思います。(インターネットや技術の力を使うなどして)すでにそのような兆候を見せているジャーナルがあります。査読は、StackExchangeを利用する人々に見られるように、オープンで建設的かつ透明なコミュニティによって行われるプロセスとなるでしょう。伝統的な出版社は存続するものの、表面上もしくはデータ関連のサービスを提供するようになるでしょう。これは、出版から完全に独立した研究コミュニケーションシステムが構築されることで可能になります。出版社やジャーナルがどの論文を出版するかを選ぶのではなく、研究を出版できる特権に対して、彼らが料金を支払うべきなのです。著作権の改革も行われ、論文の著作権を研究者自身が持つようになって、出版社が収入を得るためのツールとして利用されることはなくなるでしょう。評価は、コミュニティによって、コミュニティのために行われます。例えば、StackExchangeのような簡単なシステムを通じてコミュニティ全体でコンテンツが評価され、そのコンテンツが再利用され、理解されるという形です。研究者が粗削りな論文を書くことを強いられることはなくなり、「論文」そのものが分離するでしょう。データ収集者がデータを発表し、コミュニケーターが文脈を決定し、統計家がデータを分析し、機械がグローバルな知識データベースの大規模なメタ分析を実行する、というように。現代の技術の可能性を駆使して、最終的に1つあるいは一連のプラットフォームを作るのです。
もちろん、これらはどれもきっと実現しないでしょう。学術界の文化は惰性的ですから。でも、私たちは楽観的になれますし、そうあるべきで、貪欲な少数の企業の懐のためではなく、公共の利益のための研究を日々追求すべきなのです。
若手研究者へのさらなるアドバイスをお願いします。
若手研究者として自分が学んできたことを、ここでいくつか紹介します。
- 研究以外の分野でスキルを身につけること。自分の守備範囲を広げ、学術界の外の人と話をし、他人の経験と視点をできるだけ取り入れましょう。聴くことには、話すことよりもずっと価値があります。
- 自分にとって重要なことを見つけ、そのことに時間を使いましょう。それが自分の好きなことであれば、最善を尽くしてやりましょう!
- 学術界では何をするにしても、結局は誰かに嫌われることになるのが常です。これはたいてい、現状に挑んでいるということなのです。ですから、困難や抵抗を恐れず、できるだけ人あたり良く振る舞いましょう。
- 自分に興味のある分野で同じようなことをやっている人のネットワークを探しましょう。ソーシャルメディアのおかげで、科学コミュニティの力は非常に見えやすくなっています。学べて、協力できて、必要に応じて手を差しのべてくれる人が必ずみつかるでしょう。
- 質問することを決して恐れないこと。我々は質問することで学び、全体として進歩していきます。「当たり前」のことを質問するのは愚かだと言う人がいたら、それは科学には不要な傲慢さです。我々は常に学び続ける存在であるということを覚えておきましょう。
- そして最後に。学生としてすべきことがたくさんあり、いっぱいいっぱいになってしまうこともあるでしょう。そんな場合の最高のアドバイスは、「No(ノー)」と言えるようになること、そして自分ができる以上のことを引き受けないようにすることです!物事は、結局はほかの誰かがやってもよいのです。とくに、大学院生はいつも負担を抱えてプレッシャーを受けていますから、時間を有効に管理する必要があります。
テナントさん、役立つ洞察をありがとうございました!素晴らしいインタビューとなりました。研究と執筆の成功をお祈りしています。テナントさんの予測のいくつかが実現しますように!
テナント氏へのインタビュー記事
- Part 1: 「研究では、自分が心からやりたいことを追求すべきです」
- Part 2: 「学術界では査読の変化に対する抵抗が強いようです」