編集者は、自誌のインパクトファクターを高めるために、自誌の論文を引用するよう著者に求めることがあります。「強制引用」と呼ばれる、参考文献の典型的な不正操作について、ケーススタディで学びましょう。
事例: 査読を終えた論文が、査読者/編集長のコメントとともに著者のもとに返ってきました。編集長は、コメントに記載された参考文献リストを引用するよう求めていましたが、査読者からは引用に関する指摘はほとんどなく、編集長が推薦する論文についての言及もありませんでした。著者がリストを検討した結果、推薦されたすべての論文が自誌掲載論文であり、そのほとんどが、著者の論文とは関連性の低いものであることが分かりました。編集長がこのような要求をする理由が理解できず困惑した著者は、不適切な参考文献を自分の論文に加えることに抵抗を感じながらも、編集長の気分を害することでアクセプトのチャンスを逃したくないという思いから、対応についてエディテージにアドバイスを求めました。
対応: 推薦された参考文献を検討したところ、確かに、数点を除いてほとんどの文献に、著者の論文との関連性は認められませんでした。編集長が、自誌のインパクトファクターを高めることを目的に、自誌論文を引用するよう著者に要求していると察せられました。とは言え、この状況は著者にとって難しいものです。論文との関連性が低い推薦文献の追加を拒否した場合、論文がリジェクトされる可能性があるからです。
したがって、このケースには著者の上司/指導教官の介入が必要であると判断しました。著者がまだキャリアの浅い研究者であったため、編集者は、関連性の低い論文でも要求に従うだろうと考えたのかもしれません。分野で著名な研究者である上司が介入すれば、編集者もこのような非倫理的な要求は取り下げ、要求の拒否を理由にリジェクトするようなことはしないだろうと思われました。著者には、この件を上司と共有し、上司から編集者にメールを送ってもらうようアドバイスしました。メールには、専門分野における上司の立場を明らかにする略歴を含め、著者の指導責任者として連絡していることを示す必要があります。さらに、「推薦された参考文献のリストに目を通し、自分の専門知識に基づいて、関連性の高い論文だけを論文に加えてそれ以外は加えないよう著者に指示した」と説明する必要があるでしょう。
上司は介入に同意し、推薦された文献の中から2点だけを加えた修正版とともに、メールを送りました。その後、編集者が疑わしい参考文献に言及することはなく、修正論文は再査読を受けることになりました。
まとめ: 本事例は、「強制引用」と呼ばれる、参考文献の典型的な不正操作です。科学編集者評議会による出版倫理白書には引用操作に関する節があり、不正行為として注意喚起をしています。編集者は、自誌のインパクトファクターを高めるために、自誌の論文を引用するよう著者に求めることがあります。出版倫理委員会(COPE)のフォーラムディスカッションでは、強制引用について次のように説明しています。「ある論文の関連論文が同じジャーナルで出版されている場合、それらの論文を引用することで、ジャーナル読者は論文の文脈をつかみやすくなる。このような意図からの編集者の指摘は、罪のない「要求」であり、著者が指摘に従わなかったとしても不利益を被ることはない。一方、論文のアクセプトと引き換えに、参考文献の追加を求める行為は容認されない」。つまり、推薦された文献を引用することが出版の必要条件となり、著者がリジェクトを恐れて要求に従わざるを得ないと感じたときは、不正行為と見なされます。この場合、推薦された文献が自分の論文と関連しているかどうかを判断する自由がないためです。
ただし、参考文献の追加要求がすべて強制引用に当たるわけではありません。論文の質向上を目指した査読プロセスの一環として引用文献の追加を求めるのは、自然なことです。それでは、強制引用であるか否かは、どのように見分けられるのでしょうか。基本的に、強制引用の要求の場合、論文の文献調査が不十分、論文の帰属が不明確、といった指摘がなく、特定の論文/著者が引用されるべきであるということを説明する妥当な理由が示されていません。非倫理的な追加文献の要求では、論文の欠点を説明することなく、推薦する自誌論文の追加だけを求めるケースが一般的です。
編集者は、このような強制手段を、若手研究者に対して試みる傾向があります。リジェクトへの恐れから、若手研究者は、要求を受け入れがちだからです。こうした不正について相談できる取締機関が存在していないことも、問題を助長させています。したがって、経験豊富な研究者が本事例のような問題に介入し、若い著者たちに手を差し伸べる必要があるでしょう。最悪の場合、編集長の所属機関に報告するといった対応も必要になってきます。COPEなどの学術団体や倫理委員会は、このような不正をさらに糾弾していかなければなりません。
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