葛体达(Tida Ge)博士は、中国科学研究界の新しい世代を代表する研究者です。その才能は、名誉ある賞が数多く授与されていることで認められています。過去にはバンガー大学(英国)、愛媛大学(日本)の客員研究員として勤務していたこともあります。葛体达博士は、中国の上海交通大学で植物学の博士号を取得しており、主に地下の土壌・植物・微生物システムにおける栄養素の性質に焦点を当てた研究を行なってきました。現在は、中国科学院亜熱帯農業生態研究所の副所長を務めています。(より詳しい経歴については、インタビュー第1回をご覧ください。)
インタビュー第1回では、英語を母語としない人々が国際学術出版における課題を克服する方法についてお話し頂きました。第2回の今回は、駆け出しの研究者が成功する機会を増やすための役立つアドバイスや、中国が取り組んできた科学研究システム改革の方策についてお聞きします。
土壌研究は現場での研究が多い分野です。博士はプロジェクトをいくつも管理されていますが、専門分野の最新文献をチェックし、土壌学の画期的な発見について知る時間を、どのように確保しておられるのですか?
自分の専門分野の主要なジャーナルに出版される論文を概観すれば、他の研究者が何を研究しているのかが分かります。また、Science Directのような、様々なポータルが無料で提供している、テーマ別の購読者向け通知も活用しています。現在購読しているジャーナルは、毎週、自分が選んだ分野の最新の論文情報を送ってくれます。これらにざっと目を通すことで、世界中のトップレベルの専門家による自分の研究分野の進展を追うことができます。これが、研究で何が起こっているかを把握する方法の一つです。
博士は英国と日本で研究を行い、諸外国の研究者とも研究をしておられます。彼らの考え方や研究への取り組み方は、中国の研究者とかなり違うと思われますか?
私の個人的な経験から思うに、(中国国外の)外国の科学研究は、個人的な興味に基づいており、研究者が知識を探求するという傾向があります。中国の研究者は、「与えられた課題に基づいて研究をする」傾向が強いかもしれません。
博士は、研究を行う学生の指導もなさっています。新しい世代の研究者を育てるという点で、最も気がかりな点は何でしょうか。
ご質問に答えるために、ScienceNetに掲載されている王德华(Wang Dehua)博士のブログ記事に触れたいと思います。テキサス大学物理学部の著名な物理学者であるスティーブン・ワインバーグ氏は、Four Golden Lessonsで、科学界でのキャリアを歩み始める学生向けに、科学者からのアドバイスを掲載しています。中国語に翻訳すると“Si ge Huangjin Jielu”とでも表される言葉です。その記事から、もっとも印象深い知恵のいくつかを紹介します。
1. 働きながら学ぶこと。苛立たないこと。
2. 課題を作り出し、困難に立ち向かう勇気を持つこと。
3. 忍耐を持ち、孤独に耐えること。研究のプロセスに集中すること。
4. 科学的発見の歴史とコミュニケーションを理解すること。そこから得られる教訓を生かして、自信を築いていくこと。
新青年促進會(Youth Innovation Promotion Association)と中国科学院(CAS)の会員として、また最高水準の研究機関で多くの科学的研究プロジェクトを管理し参加してきた経験から、研究者を育成し、研究資金を増やし、研究成果の活用を促進するための政策やプログラムを改革・発展させるという点で、政府の努力に対してどのようなことを期待されますか?
2013年7月17日、習近平総書記がCASを訪問し、重要な発言をされました。習総書記はCASに対し、「分野横断的な科学技術の発達、革新的な才能を集めた国内の場を確立し、水準の高い国家技術シンクタンクを確立し、世界水準の科学研究機関を設立する」ことを要請しました。これらの提案を実行し、第18回(中国共産党)全国代表大会及び第18回党中央委員会第三次総会の目標を達成するため、CASは、「イニシアチブ行動計画及び総合的改革浸透計画概要(CAS Initiatives Action Plan-cum-Comprehensively Deepening Reform Outline、以下「イニシアチブ行動計画」)」を発表しました。これは現在及び未来におけるCASの改革、イノベーションそして発展のための行動指針です。
2014年7月7日、科学技術機関の改革を増強し、中国における研究革新を促進することを目的としたグループが、第7回会議でイニシアチブ行動計画を承認しました。本計画では5つの面が取り上げられています。
1. 研究機関の格付けと改革
2. 科学研究全般のあり方に関する修正および最適化
3. 才能発掘・人事システムの再構築の強化
4. シンクタンクの調査に基づいた新システムの確立
5. 研究機関の発展を目指した開放性の奨励の徹底
全部で25の改革と発展の施策が発表されました。このため、CASイニシアチブ行動計画は、中国の科学テクノロジー研究システムの大幅な改革に先鞭をつけることになりました。この計画に含まれる目的は、現在の傾向や必要に応じた改革を強化するための指針ともなっています。また、本計画は、国家発展の推進力として革新を奨励するための、非常に大きな戦略的重要性をもつものです。イニシアチブ行動計画は、相互に関連性の高い科学研究機関を統合し、政治、製造、教育、科学研究セクター間の協力を強化するものです。これにより、中国のトップダウンのシステムが改善され、関係者全員の協力に基づいて機能する統合システムの問題解決を強化します。一般技術の重要な核心部における飛躍的前進をもたらし、中国の技術的問題を解決するという使命をもった先導的勢力として、イニシアチブ行動計画は、指針としても、また研究開発のモデルとしても、重要な貢献をすることになるでしょう。
葛博士、ありがとうございました。
インタビューはDeborah Yangが行いました。