学術コミュニケーションの課題を解決するために、さまざまなソリューションが提供されています。問題は、そのソリューションが十分に導入されていないことです。変化のスピードが緩やかなのはなぜなのでしょう?学術コミュニケーションにイノベーションは起きるのでしょうか?
学術コミュニケーション産業におけるイノベーションの現在について語るとすれば、少なくとも、「研究者のライフサイクルにはいまだに変化が見られない」と言うことができるでしょう。研究を行う動機や成果への報酬に変化はなくても、研究の進め方については、現在多くのツールが提供されています。以下に、学術コミュニケーションにおける課題と、それを解決するためのツールの一例を挙げます:
1. 科学におけるパブリック・エンゲージメント(公衆関与)の不足
複雑な科学情報を、さまざまなフォーマットやスタイルを通してより幅広い人々に伝えるためのウェブサービス が数多く存在します。しかし、インパクトファクターや出版論文数などの旧態依然とした評価指標が、研究成果の価値を発信することの重要性を損なっています。STEM(科学・技術・医学・工学)研究は、社会にさまざまな恩恵をもたらします。それにも関わらず、研究成果が社会に与える影響については適切かつ体系的に考慮されているとは言いがたく、 科学研究や科学者たちを殻に閉じ込め、パブリック・エンゲージメントを制限することにつながっているのです。
2. 出版ワークフローにおける改善の必要性
研究者レベルでは、 研究の再現性や透明性を向上させるための新たなツールやシステムが登場しています。しかし出版社のワークフローは、生データ、研究デザイン、プロトコルなどの投稿や共有を処理するためのシステムが十分に整っているとは言えません。
3. 研究者識別子の普及率の低さ
研究者を永続的に識別するためのデジタル識別子は、とくに研究者名の曖昧さを回避する必要性が高い地域での普及率が低く、すべての学術出版社がORCIDを義務化できていないのが現状です。
4. 適切なリソースの不足
所属する研究室のリソース/インフラによって研究が制約を受けないよう、研究者の研究活動をサポートするオンライン・マーケットがあります。しかし、助成金申請による資金の獲得の有無がリソースへのアクセスを左右するものであるという根強い考え方があります。
学術コミュニケーションの変化のスピードが遅いのはなぜか?
これは苦情と捉えられるかもしれませんが、(一部を除いて)それは本意ではありません。ここで強調したいのは、イノベーションの必要性です。科学者時代に厄介な問題と向き合っていた元科学者たちが新たに生み出している大きな流れ(Overleaf、Publons)は絶え間なく続いており、現役の研究者たちにソリューションを提供しています。
問題は、そのソリューションが十分に導入されていないことです。学術コミュニケーションの変化のスピードが緩やかなのはなぜなのでしょう?この緩やかな速度は、次のイノベーションの波にどのような影響を与えるでしょうか?必要な規模で価値を創造できないイノベーションは排除されてしまうのでしょうか?あるいは、新たなアイデアの生成につながるのでしょうか?10年前の学術界には存在しなかった画期的なツールのうち、あなたはいくつ使ったことがありますか?
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