科学研究を支援するロシアの民間基金が、政府から「外国エージェント」であるとの判断を下され、閉鎖に追い込まれました。この決定は、ロシア科学界の将来や士気に大きな影響を及ぼす可能性があります。
過去13年以上に渡り、ロシアの科学者たちに1千万ドル以上の研究資金を提供してきたThe Dynasty Foundation(Dynasty基金)が、ロシア政府によって「外国エージェント」であるとの判断を下された後、閉鎖を決定しました。この判断の主な根拠は、同基金の創設者であるドミトリー・ザイミン(Dmitry Zimin)氏が、年間1千万ドルを、欧米にある自身の銀行口座から送金しているというものです。裁判所はまた、外国エージェントとして登録することを拒否したDynasty Foundationに対し、5000ドルの罰金を課しました。同基金は、正式な閉鎖が完了するまで、現在の資金供与先への義務は果たすとしていますが、この展開は、ロシアの科学研究の将来やロシア科学界の士気に大きな影響を及ぼす可能性があります。
この状況を詳細に論じているSicenceInsiderには、次のように書かれています。「(ロシア政府が新たに整備した外国エージェント法によると、)検事総長によって望ましくないと判定された組織は、ロシアでの活動を停止しなければならず、その銀行口座は閉鎖される。そのような組織に協力する団体あるいは個人は、ロシア国外からの協力である場合を含め、起訴される。違反した場合、初回は罰金、2回目は6年以内の禁固刑に処される可能性がある」。
政府がDynasty基金を潜在的脅威と判断したことに対するザイミン氏の対応には、失望の声が上がっています。彼は、毎年行なっていたロシアへの研究資金の提供を取りやめ、その後、同基金の評議会は閉鎖を決めたことを発表しました。この決定は、ロシアにおける科学研究にとって大きな打撃となる可能性があります。ある記事によると、Dynasty基金は昨年、「若手研究者(主に数学者と物理学者)を支援する20のプロジェクト、科学教師のための競技会、サイエンスフェスティバル、世界的に著名な研究者による講演会などに1千万ドルを投じた」ということです。
モスクワにあるロシア科学アカデミー/レベジェフ物理研究所(Lebedev Physical Institute, RAS)のエフゲニー・オニシチェンコ(Evgeny Onishchenko) 氏はザイミン氏について、「私利私欲にとらわれず、ロシアにおける科学の発展と普及を助けてきたが、当局は、彼が自分の資金を外国の銀行口座から送金しているという欠陥を見つけた。そして彼をスパイだと公言した」と述べています。Centre for Genomic Regulation(スペイン、バルセロナ)のフョードル・コンドラショフ(Fyodor Kondrashov)氏は、Dynasty基金が資金提供するサマースクールを運営していますが、2人の同僚と共にネイチャー誌への手紙を書き、その中で次のように述べています。「他の多くのロシア人科学者と同じく、我々は、これらの出来事が、ロシアの科学に対して直接的かつ切迫した長期に及ぶ結果をもたらすと考える」。
なお、標的となった機関はDynasty基金以外にもあります。ロシア連邦院は、疑いのある組織として12の団体を挙げています。そのうちの1つにジョージ・ソロス氏の基金があります。この国際科学基金(International Science Foundation)、いわゆるソロス基金は、科学研究を支援する信頼性の高い団体として、ロシア国内で研究費を提供し、さまざまな学術活動を支援するために1億ドル以上を投じてきました。