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著者による故意ではない著作権違反:ケーススタディ

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著者による故意ではない著作権違反:ケーススタディ

【ケーススタディ】あるジャーナルに論文がアクセプトされてうれしくなった著者は、自分のブログで論文をシェアしました。論文は短報で、掲載後はオープンアクセスにするという合意がなされていましたが、その後、問題に発展しました。

事例:ある著者の論文がジャーナルにアクセプトされました。論文は短報で、掲載後はオープンアクセスにするという合意がなされていました。アクセプトされてうれしくなった著者は、自分のブログで論文をシェアしました。しかし数日後、ジャーナル編集者からメールが届き、ジャーナルの著作権に関する合意に反したため、論文の掲載を取りやめると言われました。著者は驚き、困惑しました。オープンアクセス論文なら、ジャーナルが著作権を所有しているわけではないと思っていたからです。著者はエディテージ・インサイトにアドバイスを求めました。


対応:ジャーナルのウェブサイトを確認すると、ハイブリッドジャーナルであることが分かりました。つまり、無料でアクセスできる論文と、購読者のみアクセスできる論文が混在するジャーナルだったのです。さらにウェブサイトには、ジャーナルの著作権に関する方針がはっきりと書かれていました。


著者に話を聞くと、ジャーナルのウェブサイトによく目を通していないことが分かりました。論文をシェアしたブログ記事には、ジャーナル名と共に、論文がアクセプトされて出版される予定であることも書かれていました。これは、故意ではなかったにせよ、完全に著作権違反となります。我々は、ブログから論文を削除するよう著者にアドバイスしました。


また、ジャーナルの著作権方針の意味について著者に説明し、彼の間違いを指摘しました。第一に、出版前に論文をシェアすべきではありませんでした。第二に、投稿前にジャーナルの方針を注意深く読むべきでした。出版後にブログでシェアする場合も、オンライン版の論文へのリンクをシェアするか、ジャーナルから事前に許可を取り付けることが必要でした。


著者には、編集者に謝罪のメールを送り、ブログから論文を削除したことを伝えるよう提案しました。そして、著作権違反は故意ではなかったこと、そして原因は自分の認識不足にあると説明するよう伝えました。編集者からの返信には、この件は編集委員と討議した上で決定する必要があると書かれていました。


その後、時間をかけて何度もメールのやり取りをした結果、編集委員会でようやく論文を出版するという合意がなされました。しかし著者は、今後この行為が繰り返された場合は厳しい処置がとられるという警告を受けました。


まとめ:著作権に関する方針はジャーナルによって異なります。アクセスが限定されている従来型のジャーナルや購読ベースのジャーナルでは、著者は、自分の論文を出版し公開する権利をジャーナルに譲渡することになります。たいていのオープンアクセス・ジャーナルでは、著者に非独占的ライセンスを要求することはなく、ジャーナルに著作権を譲渡しなくてもよいことになっています。しかし、すべてのオープンアクセス・ジャーナルがこのシステムを採用しているわけではありません。オープンアクセス・ジャーナルでも、著作権譲渡の方針を採用しているところもあります。著作権の譲渡が必要なジャーナルでは、著者が論文を利用するたびに、ジャーナルから許可を得なければなりません。このことは通常ジャーナルのウェブサイトに書かれており、著者は、論文がアクセプトされた後に著作権譲渡合意書にサインしなければなりません。


著者は、ジャーナルに投稿する前に、ウェブサイトに書かれた著作権や利用方法に関する方針を読み、そこに書かれたすべての条件に従わなくてはなりません。方針をよく理解できなかった場合は、論文をシェアする前に許可が必要かどうかを編集者に確認した方がよいでしょう。著作権の侵害は法的問題です。そのような問題は直接交渉で解決されることもありますが、法的通知が出されることもあり、極端な場合には訴訟や処罰などに発展する可能性もあります。

 


「学術界では査読の変化に対する抵抗が強いようです」

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「学術界では査読の変化に対する抵抗が強いようです」
テナント氏は、インペリアル・カレッジ・ロンドン地球科学科の博士課程(古生物学)の最終学年に在籍しています。研究テーマは、太古の生物の多様性と絶滅のパターン、そしてこれらのパターンを生み出した生物環境要因です。科学コミュニケーションにも情熱を傾けており、科学はパブリックドメインであるべきだという強い信念を持っています。また、Green Tea and Velociraptors(「緑茶とベロキラプトル」)というブログを運営するほか、重要だと考えているテーマについて活発にツイートも行なっています。

本インタビューでは、若手研究者の視点をお届けします。テナント氏は博士課程の大学院生として研究を行い、論文出版や学会への出席に加え、世界中を旅して研究者を対象としたオープンな研究・科学政策についての啓蒙活動を行なっています。また、活発なブログ投稿や査読のほか、その他の活動―例えばこのインタビューへの対応―も行なっています。テナント氏は、専攻の変更も厭わず、子供の頃から大好きだった古生物学の研究に飛び込みました。その過程で、科学コミュニケーションと政策に関するあらゆることへの関心、とくにオープンサイエンスへの情熱を自覚しました。テナント氏は、ネットワーキングの真の潜在力を現実化し、それを利用して学術研究の重要事項に関する対話に積極的に参加しようとする研究者で、厳しい研究スケジュールを管理しながら、さまざまな活動に取り組んでいます。今回は、研究やその他の分野で興味を持っていることについてお話を伺いました。とくに、本格的な研究活動とその他の活動の両立についてお聞きしました。科学や学術出版の重要な進展について、より多くの人々が知るべきだという強い思いが、テナント氏の仕事への原動力になっているようです。


テナント氏ヘのインタビュー・シリーズ第2回目の今回は、彼が情熱を傾けているテーマ:オープンアクセス、オープンデータ、科学コミュニケーション、オープン査読、インパクトファクターの撲滅(!)についての見解を伺いました。また、科学コミュニケーションと政策に関する意見や情報の交換を促す活動にどの程度関わっているのかについてもお聞きしました。学術界で気がかりな問題として挙げられたのは、研究者にオープンアクセスとその意義についての知識が欠けていること、インパクトファクターが誤用されていること、新しい査読システムの導入に対する恐れがあることなどです。テナント氏は、科学社会における自らの立場や、科学コミュニケーションの推進役(ファシリテーター)としての自らの役割について、研究者らがもっと積極的に関わっていく必要があると主張しています。

テナントさんのLinkedInのプロフィールを見ると、「地球科学に関する学術研究、アウトリーチ、政策立案の相互関連性を高めること」を目指すと書いてあります。その目的をどのように達成しようと思っていますか?

私は、科学コミュニケーションや、政策立案プロセスと科学との関連性を理解すること、そして研究とコミュニケーションにおけるその他の側面の重要性を強調し続けています。例えばインペリアル・カレッジ・ロンドンではScience Communication Forumの運営を手伝いましたが、そこで研究政策の重要な側面である、オープンアクセスやオープンデータの進展についてのワークショップやイベントを開催しました。また、皆さんに研究プロセスについて知ってもらうため、新しい研究や、博士課程の院生としての経験について、あらゆる機会を捉えて執筆活動をするようにしています。政策関連の仕事は最近少し停滞気味ですが、それは単に時間の制約によるものです。それでも地質学会科学委員会 (Geological Society’s Science Committee)のメンバーなので、少しは貢献できることを嬉しく思っています。最近は、研究の透明性についての関心が高まっています。とくに、「オープンサイエンス」の進展状況に注目しています。研究者がこのテーマについてできる限り適切な情報を得られるよう、これまでに5年間ほどを費やしてきました。また、博士課程の後半に入ってから、オープンな研究と出版のプラットフォームであるScienceOpenの仕事を引き受けました。オープンアクセス、オープンデータ、科学コミュニケーション、オープン査読、そしてインパクトファクターの撲滅などを広めることに多くの時間を費やしています!

ブログ記事で、「(オープンサイエンスは)まだ誤解されているので、OpenConコミュニティのさらなる努力が必要だ」と書いておられます。この点について詳しく説明して頂けますか?

もちろんです!ここでは、オープンアクセス一般について述べています。世界の知識の中心へのアクセスという問題という、この上なく重要な問題に関する議論なのに、いまだにこのトピックについての知識があまりに乏しい人がいることに驚いています。最近、学術界におけるオープンアクセス、経済、より広範な社会におけるエビデンスについてレビューした論文を共同で執筆しました。無料で公平に知識にアクセスできること以上に重要なことはないと思っています。この論文は、私のほかの活動と同様、目的に近づくための小さな一歩です。


1つの具体例として、セルフアーカイビングに対する理解の欠如についてお話ししたいと思います。オープンアクセスはコストが高すぎる、あるいは選択肢が少なすぎるから役に立たないと文句を言う研究者が多くいます。セルフアーカイブは(ホスト費用と維持費を別にすれば)どこでも誰でも無料でできますし、Sherpa/Romeoのようなツールを利用すれば、どのような制限があるのかも簡単に分かります。オープンアクセスはコストが高すぎるといいますが、財政面や学術面における特権階級限定の現在のアクセスを提供するシステムに、毎年80~100億ドルほどの費用がかかることを忘れているのではないでしょうか。そのコストに比べたら、ほんのわずかの費用で誰でもアクセス可能な、オープンな形式で世界中の研究結果を公開できるのです。オープンアクセスについて知れば知るほど、学術出版界が奇妙に思えてきます。現在のシステム維持を擁護する、あるいはオープンアクセスに反対する議論が、ますます脆弱になるように思われます。


一般の人は研究論文へのアクセスを望んでいない、あるいは必要ないと主張する研究者もいます。実際、ベルリンで開かれたイベントで、某大手出版社の広報部長がそう言っているのを聞きました。そのように傲慢で無知なエリート主義の視点では、研究界にいまだはびこっている「象牙の塔」の意識を壊すことはできません。「一般の人」は知識にアクセスする必要はない、望んでいない、あるいは値しないという見方は、卑劣で、誤った情報に基づいた認識であり、何年にもわたるグローバルな研究と努力を無視しているというのが私の見解です。学術関係者全員が、このような見解をなくす努力をしていかなければなりません。

ブログの別の記事で、「インパクトファクターや商業出版社がシステムを独占している状態からは脱しつつある」ものの、「インパクトファクターは好むと好まざるとにかかわらず、品質の評価基準としていまだに利用されている」と書かれています。これについて詳しく説明して頂けますか?

インパクトファクターとジャーナルのランキングは、学術界を破滅に至らしめるものだと思います。大学の教員たちの利用頻度が高いジャーナルを図書館員が選べるようにと考えられたのがインパクトファクターですが、今では研究者とその研究を安価に手早く評価する方法として使われています。知識とエビデンスの探究者であるはずの研究者が、学術界の構造を決定する重要物とみなされているこれほどにも脆弱で無意味でかつ誤用されているメトリクスに頼らなければならないのは皮肉としかいえません。インパクトファクターは再現さえできないため、基本的にはトムソン・ロイターと出版社との交渉によって「持ち込まれた」ものだとするエビデンスもあります。どのような形式にせよ、ジャーナル・ランキングを利用することは、学術的実践の貧しさと言えるでしょう。


最近、インパクトファクターを撲滅してより優れた評価システムに移行するために研究者や研究機関がさまざまなレベルで行えることについての提案を行いました。あれこれ議論した末、インパクトファクターを撲滅するだけでは不十分だということが分かりました。まだ評価に利用している人がいる間にインパクトファクターの使用をやめる(あるいは「インパクトファクター・ゲーム」をやめる)のは、危険すぎるのです。現在分かっているのは、インパクトファクターの存在によって、最高の研究者を失う事態になっている、ということだけです。そうした研究者たちは、真の変化をもたらすために最善の研究を行い、それをできるだけ多くの人に伝えたいという思いをもって研究というキャリアの道に入った人たちです。しかし、出世主義のために、学術界はインパクトファクター狩りの様相を呈しており、何を出版するかよりも、どこから出版するかが重要なのだということに気づいて幻滅してしまうのです。これは、科学のためにも科学者のためにも良くないことです。学術界にいる人は皆、インパクトファクターの誤用と支配が継続していることに対し、少なくとも部分的には責任があることを認識し、よりましな代替物を考案できていないことについての説明責任を負うべきでしょう。

学術コミュニティは、査読や出版の代替モデルを受け入れられるほどオープンだと思いますか?代替システムで出版された研究は、従来の方法で出版されたものと同様に正当な研究とみなされているでしょうか?

我々は、グローバルな学術コミュニティが多種多様な人の集まりだということを認識する必要があります。まとまった集団意識のようなものがあるわけではなく、小さなコミュニティの集合体であり、1つ1つがかなり異なっています。そのため、学術コミュニケーションのプロセスに起こりつつある変化への意見は常に多種多様で、両極端に分かれていることもよくあります。


10年前、オープンアクセスは嘲笑の的でした。伝統的出版社はそんなものうまくいくはずがないと言い、研究者は質の低い論文の集まったゴミ箱のようなものだと考えており、助成金もごくわずかでした。現在では、オープンアクセスの方針や規定がグローバルなシステムで定められており、当初強硬に反対していた人も、今ではさまざまな理由によってその多大な利益を認識するに至っています。学術界が常に求めるものは、エビデンスです。「そのシステムがうまくいくということを示してみせてくれ」ということです。オープンアクセスがこの段階にたどりつくまで、すなわち従来のシステムよりも効率的で高品質で安価で、おおむね優れており、またビジネスモデルとして維持できるということを示すまでには、しばらく時間がかかりました。今では、オープンアクセスに特化したジャーナルや、オープンアクセスを義務化している研究助成機関も多く、出版におけるイノベーション(そのほとんどは学術界自体から生み出されたもの)も増えており、さらなる利益を上げる出版社も出てきました。しかし変化は遅く苦しいもので、ここにたどり着くまでには、大変な苦労をしながら何年も交渉を重ねる必要がありました。正式な査読を受ける前の段階の論文を効果的に即時出版するという「プレプリント」などには、まだまだ議論が必要です。高エネルギー物理学や数学などのように、この手の議論を何十年も続けている研究コミュニティもあります(実は、インターネットが発明されたのはこれが理由なのです!)が、生命科学の分野では、さまざまな理由から、少し遅れています。ただ、速度は遅くても、少しずつ変化は起こっており、新しい出版や伝達の方法で実験することを楽しんでいる研究者もいます。変化の受け入れにオープンな研究者もいますが、保守的な人も多く、今後どうなっていくかは、社会的規範や実践、政策、選択肢の有無など、数多くの要因が絡み合って決まっていくことでしょう。最大の問題は、潜在的な利益よりもリスクの方が高い場合も多いということです。研究者が、オープンであることと自分のキャリアとのどちらかの選択を迫られる立場におかれることは、何としても避けなければなりません。


私が博士課程に入ったばかりの頃、「オープンアクセスだけの出版で研究者としてのキャリアを積んでいくなんてできっこない」と何人かの同期に言われました。(この後日談は後で紹介します。)私の最初の論文がPeerJから出版されたとき、先輩研究者からは「インパクトファクターもないんだから、意味がない」と言われました。これには傷つきました。2番目の論文はPLOS ONEに掲載されましたが、このときも別の先輩研究者に、「査読がないから意味がない」と言われました。これは2014年でしたから、まだ最近のことです。これらのコメントを忘れることができないのには、いくつか理由があります。2番目のコメントは明らかに間違いで、オープンアクセスに関する理解が根本的に欠如していることを示しています。最初のコメントは、ジャーナルを中心に据えたままで、新モデルへの移行を目指して学術出版システムをいくら変えようとしたところで、研究そのものの質と研究の伝達や研究者の評価(これはジャーナル名とインパクトファクターによってほぼ決まってくる)を切り離すことはできないということを示しています。これが本当に重要な点で、学術界の構造改革をせず、出版だけを改革していても十分ではないことに多くの研究者が気づき始めたのです。それから3年後、査読付きで出版された私の論文9本は、すべてオープンアクセスで出版されましたが、そのおかげで名誉ある学部賞を受賞するという幸運にあずかりました。反対派の人々に、どうだ!といってやりたいですね。


査読に関しては、まだオープンアクセスほど議論が出尽くしているとは言えないようです。Mozilla Global Sprintで、ウェブサイトの力をよりうまく利用した、将来的に可能性のある査読モデルとはどのようなものかについて、共同で論文のドラフトを書き始めました。これはかなり進歩的で想像力を必要とすることですが、学術界では、査読の変化に対する抵抗が強いようです。現在上級研究者の地位にある人は、今の査読システムと伝統的な出版形式でうまくやってきました。そうでなければ今のような地位にいないはずです。ですから、このような人たちが、そのシステムに亀裂を入れるような考えをよく思わないのは当然です。問題は、上級研究者の中でもさらに上の、権威ある地位にいる人々に、大規模な変化の動向だけでなく、人々の内面にまで影響を及ぼす力があるということです。これは、オープン査読について話をすればより明確に分かります。若手研究者にオープン査読のことを話すと、ほとんど全員が恐怖感をおぼえるのです。それは皆同じ理由、つまり「記名式で査読を行うと、上級研究者が自分の査読を快く思わなかった場合、その反動で自分のキャリアに悪影響が出るかもしれない」ということです。これは権力というダイナミクスの乱用であり、査読システム自体とは何の関係もありません。上級研究者は説明責任を負わないままシステムを統制し、ゆがめることができるままになっている、という事実が問題なのです。ですから、力を握っている側の、現状を維持しようという強固な保守体制と、査読や学術コミュニケーション一般に関してよりまっとうな展望を持っている人々との間では、常に戦いが繰り広げられています。問題は、変化を望む人(例えば学生など)にはもっとも危険にさらされる人が多く、現在のシステムに収まっている人々は、そこで利益を得てきたために変化への動機がほとんどないということです。学術界の「文化的惰性」について言う人は多いですが、これがその大きな要因になっていると思います。

研究者が、科学コミュニケーションや科学政策における現在の動向について知っておくことは重要でしょうか。

研究者は、研究を行うことで給与をもらっています。研究が研究者の最優先事項であることは確かですが、自分を取り巻く世界が変化しているのに気づかずに研究を続けるのは愚かです。研究者があまりにも情報に疎いのを知ってがっかりすることもあります。例えばインペリアル・カレッジ(やその他の機関)でも、全国的なオープンアクセス方針が新たに制定され、オープンアクセスに特化した助成金や公共リポジトリまでできたことを知らないという研究仲間がたくさんいました。出版の寡占という問題、つまり自分たちと同じ水準で研究へのアクセスができない人がいるという事実や、毎年出版社に支払わなければならない金額などについて考えたこともない、という人が大勢います。「自分には必要な研究へのアクセス権がある。一体何が問題なんですか?」ということを何度も言われましたが、きわめて腹立たしいことです。インパクトファクターの計算方法や、研究データを共有する方法や理由、その他さまざまな側面における学術コミュニケーション環境の変化を分かっていない人もたくさんいます。ただ、たいていはもっと学びたいという姿勢なので、その点は素晴らしいことだと思います。もっと学べるように活動し、変化をもたらすことを奨励し、自分のまわりに賛同者のコミュニティを作っていこうとする人が必ずいるのです。だから私はOpenConが大好きなのです!


でも、順調にいかない要因もいくつかあります。それは第1に、学術コミュニケーションのさまざまな面に関する知識を研究者が個人で身につける状況であること、第2に、大学や研究機関がこれに関するトレーニングを提供していないこと(つまり、複雑で急速な進化を遂げている領域だということです)、そして第3に、研究コミュニティがこれらの事項についてより高度なレベルでオープンに議論をしておらず、自分たちの行なっていることが常に公共の利益と研究の伝達や普及に貢献しているかを確認していないことです。


すべての研究者とその研究に影響を与えるような大規模な議論は常にあります。例えば、EUの著作権改革や、2020年までにEUの助成で行われたすべての研究をオープンアクセスにするという提案があります。私が話をする研究者の中には、出版社に著作権を譲渡する署名をしたら、自分の研究の所有権がなくなることすら分かっていない人が大勢います。このような単純な事実を明らかにすると、おおいに戸惑い、信じられないという人が多いのです。出版社は、自分たちがなるべく利益を得られるような形でこれらのシステムの変化を促すロビー活動に精を出すでしょう。研究者としては、まずはこれらの変化を理解するために必要な知識を身につけ、さらには自分たちの意見を広め、変化に影響を与えるプラットフォームを持たなければ、何もできません。


テナントさん、研究と学術出版の重要な側面に関する見解を共有してくださり、ありがとうございました!

インタビュー最終回では、新米研究者への貴重なアドバイスと、学術出版の将来についての展望を伺います。


テナント氏へのインタビュー記事:

 

ジャーナルからリジェクトされないようにするにはどうしたらいいですか?

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Question Description: 

私は今、ジャーナルに投稿するために論文原稿を準備しています。編集者からリジェクトされたり、書き直しを要求されたりしないようにするために知っておくべきこと、あるいはすべきことについて、アドバイスをもらえますか?

回答

リジェクトは、ジャーナルの審査過程では避けられないものであり、それを防ぐための方法は残念ながらありません。論文原稿が何の修正もなくそのまま受理されるのは、きわめてまれなことです。また、論文の質や新奇性について求められる水準はジャーナルごとに異なります。つまり、あるジャーナルでリジェクトされた論文が、修正後に別のジャーナルで受理されることもあるのです。 


著者としては、論文の構成がしっかりしていること、論理がスムーズに展開していること、そして文法的に正しく書かれていることを確認するとよいでしょう。文章や論理の展開に自信がなければ、プロの編集/校正業者の助けを借りるのも一案です。また、ジャーナルの著者向けガイドラインに従っているかも確認してください。出版規定を遵守し、剽窃や盗用二重投稿サラミ出版などの問題がないようにしましょう。


以上のことをすべて行えば、完璧な論文原稿を完成させるためにできることはすべてやった、と言えます。ただ、それだけのことをしても、リジェクトや修正の要求を回避できるわけではありません。通常は、査読コメントを注意深く読んで、提案に基づいて論文を改善するというプロセスが待っています。たとえあるジャーナルで論文がリジェクトされても、別のジャーナルからいつかは必ず出版できるはずです。このプロセスはほとんどの研究者が経験することですから、覚悟しておきましょう。

中国で英文ジャーナルの創刊が増加

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中国で英文ジャーナルの創刊が増加

中国では大学や出版社による英文ジャーナルの創刊が急増しているようです。あるレポートでは、英文ジャーナルの創刊数の増加により、240億元規模といわれる中国のジャーナル市場が急拡大していると報告されています。

The Publishers Association(出版社協会)のレポート、PA Market Report China Journalsによると、中国では大学や出版社による英文ジャーナルの創刊が急増しているようです。2016年8月24日に発表された同レポートでは、英文ジャーナルの創刊数の増加により、240億元規模といわれる中国のジャーナル市場が急拡大していると報告されています。同レポートを執筆したチュー・シャオイン(Chu Xiaoying) 氏(Charlesworth China副部長) とポール・リチャードソン (Paul Richardson) 教授 (国際出版コンサルタント/教育関係者) は、「新英文ジャーナルがキノコのように続々と出てきている  」 と述べています。


中国は、世界の科学界で重要な役割を果たす存在へと少しずつ歩みを進めています。中国の出版論文数は世界の約20%を占めており、米国(約23%)に次いで2位となっています。中国で発行されているジャーナルはほとんどが中国語ですが、同レポートは、中国が英語の出版によって海外の読者と世界的影響力を獲得しようとしているとみています。このため、英文ジャーナルの創刊だけでなく、中国語ジャーナルの一部英訳や、英文の抄録の掲載などの取り組みも行われています。


創刊された英文ジャーナルのほとんどは科学・技術・医学(STM) 分野のもので、国際水準で見ても強いインパクトを持つものが多くあります。同レポートによると、これらのジャーナルの中には、世界でもっとも被引用回数の多かったジャーナルを対象とするトムソン・ロイターの2016年版Journal Citation Reportに含まれたものも185誌あったということです。さらに両著者は、中国の出版社には中国政府の支援があること、中国国内の出版社が出版業界についての理解を深めていることから、中国の英文ジャーナルは今後も増加するとみており、「21世紀に論文を出版する専門家にとって、中国はもっともエキサイティングで重要なマーケットの1つとなることは間違いないだろう」と述べています。


参考記事:

China launching increasing number of journals in English

Growing Chinese journals market 'too big to ignore', PA report says

初回判定の審査に長い時間がかかっているのはなぜ?

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Question Description: 

臨床系ジャーナルに論文を投稿し、編集者による最初の審査結果を待っているところです。ジャーナルによると、最初の審査は2週間前に終わっているが、論文が査読に回されるかどうかについては、まだ編集者の決定を待たなければならないということです。最初の審査に時間がかかりすぎているような気がします。これは良いしるしなのかそうでないのか、Dr. Eddyは経験からどう思われますか?

回答

最初の決定が出るまでの期間として、2週間は長くないと思います。最初の審査結果が出るまでに2、3週間かかることは珍しくありません。あなたの論文を査読に回すかどうか決めるのに時間がかかっているということは、編集者があなたの論文を公正に評価しようとしている証拠です。


編集者はあなたの論文に価値を認めているのではないかと思われます。そうでなければ、論文は即座にリジェクトされるはずです。編集者は時間をかけて論文の長所と短所の両方を吟味し、公正な判断を下そうとしているのだと思われます。

ハゲタカ出版社疑惑のOMICSがカナダの著名出版社を買収

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ハゲタカ出版社疑惑のOMICSがカナダの著名出版社を買収

ハゲタカ出版社の疑いがある学術出版社OMICSが、カナダの著名出版社2社を買収しました。カナダのマスコミ大手CTV Newsとトロント・スター紙が共同調査を行なった結果、買収の手法が物議を醸すものであるらしいことが分かりました。

論理的根拠に乏しいいわゆる「ジャンクサイエンス」(疑似科学/ニセ科学)を流布しているとの非難を浴び、ハゲタカ出版社の疑惑がかけられている学術出版社、OMICS International(インド)が、カナダの定評ある著名出版社、Andrew John PublishingPulsus Groupを買収しました。この2社が出版するジャーナルには、Plastic SurgeryCanadian Journal of PathologyCanadian Journal of OptometryCanadian Journal of General Internal Medicineなどがあります。この買収について、カナダのマスコミ大手CTV Newsとトロント・スター紙は共同調査を行いました。調査報告によると、買収が発覚した経緯も物議を醸すものであるらしいことが分かりました。トロント・スター紙の報告によると、Andrew John Publishingの社員やその提携医学機関は、買収について知らされていませんでした。Andrew John Publishingの医学ジャーナル4誌でかつて編集長を務めていたローズ・シンプソン(Rose Simpson)氏が不審な点を感じてグーグル検索したところ、買収が発覚したといいます。シンプソン氏は、カナダの研究界に警鐘を鳴らすためにこのことを大々的に公表する決意をしました。 


Canadian Society of Internal Medicine (CSIM)などのジャーナル数誌は、出版元がOMICSに買収されたことを最近知り、出版契約を解除しようとしています。トロント・スター紙の報告では、CSIM会長のステファン・ホワン(Stephen Hwang)博士の以下の言葉が引用されています。「かつては信頼性の高かったジャーナルが、買収によってゾンビジャーナルに変わってしまっていることがあるので注意が必要です。すでに科学的な整合性が失われた状態で、まだ辺りをうろついて論文を出版し続けているかもしれませんが、もはやかつてのジャーナルではない可能性があるのです」。この件についてコロラド大学の司書で准教授のジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏はブログ記事で、「OMICSがAndrew Johnの買収をカナダでの『足がかり』として利用し、学会ジャーナルを中心とするほかのジャーナルも買収しようとしていることが明るみになりつつある」と述べています。


OMICSに対する申し立て:オープンアクセス出版モデルを掲げるOMICSは現在、米国の連邦取引委員会(FTC)から、「出版の性質」と出版プロセスについて事実を歪曲したとする訴訟を起こされています。訴えの内容は、編集委員や査読プロセスに関する虚偽の主張を行なったというものです。FTCによると、OMICSのウェブサイトには著名な学術関係者や経験豊富な編集者、査読者の協力を受けていると書かれています。しかし、名前を掲載されている編集者の中には、協力に同意していない人も含まれているようです。例えば、ブリティッシュコロンビア大学の准教授であるウィリアム・ジア(William Jia)氏は、OMICSの外科ジャーナルから編集の依頼を受けたものの、まだ何の仕事もしていないと述べています。また、(OMICSのジャーナルから)論文を出版しようとしている著者は、数百ドルから数千ドルにのぼる出版費用について知らされないままになっているということです。ほかにも、架空の国際学会の宣伝を行い、信じ切っている参加希望者に学会費を払わせようとしているという疑惑があります。さらに、訴訟に関するFTCの最新発表によると、OMICSのジャーナルの「影響度の数値は、OMICSが独自に算出したものであり、消費者に明確な事実が公表されていない」ため、信用できないと言われています。


OMICSの反論:OMICSグループのCEO兼専務取締役であるスリヌバブ・ゲデラ(Srinubabu Gedela)氏はFTCの訴えを否定し、「我が社に対する告発は、すべて欧米諸国の(中略)一部の出版社やその代理人からのものに過ぎない」と強調しています。 ゲデラ氏は、OMICSが年間5万本以上の論文を掲載する700誌以上のオープンアクセス誌をどのように運営しているのかについて説明するとともに、同社が5万人にのぼる強力な国際編集委員会から支持されていると主張しています。彼はまた、OMICSの査読プロセスに対するFTCの告発についても否定しています。OMICSがジャーナルの内容を左右しているという懸念に対してゲデラ氏は、「Pulsus Groupのジャーナルの内容や編集に対して制約は設けていない」と述べています。


OMICSによる買収というニュースにより、非倫理的な出版行為や「ハゲタカ出版」、「ジャンクサイエンス」に関する新たな議論が巻き起こりました。責任ある出版リソース連合(CRPR)創設者の1人であるスザンヌ・ケトリー(Suzanne Kettley)氏は、ジャンクサイエンスに誘発される可能性のある弊害について次のように述べています。「オンライン上にジャンクサイエンスがはびこれば、例えば予防接種に関する情報を探している人が、偽ジャーナルに掲載された、実際の研究に基づかない反ワクチン派の論文を見つけるかもしれず、危険です」。今回の出来事で研究者や編集者は、OMICSが「カナダのジャーナルの名前や評判をハイジャックする」のではないかと恐れています。OMICSに対するFTCの訴えは重大なものであり、FTCが勝訴すれば、OMICSは複数の違法行為に対する罪状を受け、何千本という出版済み論文をジャンクサイエンスとしたことに対する責任を負うことになります。


参考記事:

論文の依頼を断る英文メールの書き方

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Question Description: 

ある論文の出版社から国際学会で発表した内容について、出版したいと依頼がありました。しかし、既に別の論文に投稿し受理されております。依頼者にどのようにしてメールを書けばよろしいでしょうか。メールの書き方を教えてください。宜しくお願い致します。

回答

論文出版の依頼を断る場合の英文メールの例として、下記を参考にしてください。


Dear Mr./Ms./Dr. [Editor's name],


Thank you for your invitation to submit my manuscript titled [Insert manuscript title] to your journal. However, I am sorry to inform you that the manuscript has already been accepted for pulication by [Insert name of journal that has accepted]


However, I would definitely look forward to publishing with your journal in the future.


Sincerely,


[Your name]


===========


[編集者の名前]


貴誌に私の論文[論文タイトルを挿入]を掲載するとのお話を頂き、ありがとうございます。しかしながら、論文はすでに[アクセプトされたジャーナルの名前]からアクセプトされ、掲載予定となっております。 


将来、貴誌で論文出版の機会がありますことを楽しみにしております。


何卒よろしくお願いいたします。


[あなたの名前]

論文の査読について

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Question Description: 

英文学術雑誌に論文を投稿し、100日以上経過しているのですが、最初の査読結果について連絡がありません。この論文は博士論文の基礎論文となっており、今年度中には論文が受理されている必要があります。editorial officeに私の状況を連絡し、査読結果を返してほしいとお願いしているのですが、査読に時間がかかっています。よい対処方法はないでしょうか。1人目の査読は終わり、2人目の査読に時間がかかっているようです。

回答

残念ながら、ジャーナルの出版プロセスには非常に時間がかかり、査読には2~4か月以上かかることもあります。論文投稿から初回判定までには6~8か月かかるのが普通なのです。論文投稿はもう少し早く行うべきでした。この段階ではまだプロセスを早める働きかけを行うべきではないので、編集者にときどきリマインダーのメールを送る程度に留めるべきだと思います。進捗を2週間おきに問い合わせてみましょう。


別の方法として、このジャーナルから論文を取り下げ、スピード出版を行なっているジャーナルに投稿し直すことが考えられます。あなたの専門分野で、ごく短期間のレビューでスピード出版を行なっているジャーナルを探してみましょう。事前に問い合わせを送り、いつまでに判定が必要かを伝えた上で、期限までに判定結果を出せるかどうか尋ねてみましょう。前向きな答えなら、論文の投稿を検討してもよいでしょう。ただし、別のジャーナルに投稿する前に、最初のジャーナルから論文取り下げの確認を得ることを忘れないでください。


参考記事

論文の取り下げを依頼する英文メールの書き方

What can I do if the editor does not confirm my withdrawal request?

 


学術誌『Angewandte Chemie(アンゲバンテ・ケミ) 』の概要と投稿時のアドバイス

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学術誌『Angewandte Chemie(アンゲバンテ・ケミ) 』の概要と投稿時のアドバイス

学術誌Angewandte Chemieの概要と投稿時のアドバイスをご紹介します。本誌は、化学の全領域およびその関連分野に関する論文と記事を掲載しています。英語版とドイツ語版があります。

 

目的と対象領域

Angewandte Chemieは、化学の全領域およびその関連分野に関する論文を掲載している。英語版とドイツ語版がある。

出版元

ワイリードイツ法人(Wiley-VCH)/ドイツ化学会(German Chemical Society)

発行頻度

週刊(年間52号を1巻として発行)

編集体制

1982年からペーター・ゲーリッツ(Peter Gölitz)氏が編集者を務めている。副編集長(deputy editor)2名。また、編集委員会(20名)と国際諮問委員会(44名)がある。

詳細はこちらから:http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/%28ISSN%291521-3773/homepage/2002_edbd.html#iab

 

出版基準

Angewandte Chemieでは以下の論文および記事を掲載している:コミュニケーション、レビュー論文、ミニレビュー、エッセー、ハイライト、コレスポンデンス、正誤表、書評、死亡記事。「レビュー論文、ミニレビュー、エッセーは基本的に編集者の招待によるものだが、著者が自主的に執筆したものを掲載する場合もある」。各論文および記事の長さは、スペースを含めた文字数で規定されている(単語数ではない)。さらなる詳細は著者向けガイドラインを参照。


編集方針と投稿ガイドライン

投稿論文はすべて、www.editorialmanager.com/anieから著者としてログインした後、VCH-WileyのEditorial Manager経由でアップロードする。初めて利用する著者は、最初に登録が必要。


査読プロセス

標準的な査読プロセスを採用。査読者への手引き:https://www.wiley-vch.de/util/em-forms/referee/anie_index.php
(手引きは、執筆を検討中の著者にも参考になります。)


投稿規定

論文のカテゴリーに応じてテンプレートが用意されており、投稿原稿を規定のフォーマットに沿って整えられるようになっている。膨大なキーワード表もあり、著者は設定するキーワード5つのうち、2つをそのリストから選ぶ。著者向けガイドラインには、アブストラクト、イントロダクション、方法、結論の執筆についての簡潔なアドバイスも含まれている。

著者向けガイドライン:http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/%28ISSN%291521-3773/homepage/2002_authors.html


インパクトファクターとランキング

インパクトファクター: 11.261 (2014年)


役立つリンク集

ジャーナルのウェブサイト: http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/%28ISSN%291521-3773

著者向けガイドライン: http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/%28ISSN%291521-3773/homepage/2002_authors.html

編集委員会: http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/%28ISSN%291521-3773/homepage/2002_edbd.html#iab

エルゼビアによるオンライン査読システムでの特許取得が、学術界で論争に

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エルゼビアによるオンライン査読システムでの特許取得が、学術界で論争に

エルゼビアは昨年、米国特許局からオンライン論文トランスファー・サービスに関する特許を取得しました。しかし、同様のサービスを利用する出版社はすでに多数存在するため、特許取得のニュースは、オープンアクセス出版を推進する人々からの強い反発を招きました。

大手学術出版社のエルゼビアは2016年8月30日、米国特許局から「オンラインでの査読システムと方法」という名称の特許を取得しました。この特許は、エルゼビアのオンライン論文トランスファー(転送)・サービスに関するもので、論文投稿と査読の管理に利用されているものです。投稿論文をリジェクトされても、同じ出版社の別のジャーナルが紹介され、そちらに論文原稿を転送できるという仕組み(「ウォーターフォール(waterfall)」とも呼ばれる)と同様のサービスを利用する出版社は、すでに多数存在します。このため、今回の特許取得のニュースは、オープンアクセス出版を推進する人々からの強い反発を招きました。


オープンアクセスは、学術出版界での足場をしっかりと固めてきました。オープンアクセス方針を掲げるジャーナルや大学も多数あります。このため、エルゼビアの特許取得には、ソーシャルメディアやインターネット上で多くの批判が寄せられました。米シリコンバレーで活動するウェブ技術者のベン・ベルトドミュラー (Ben Werdmüller) 氏は、この特許は革新を阻みかねず、「きわめて有害」だと発言。また、デジタル著作権に関する非営利組織「電子フロンティア財団(lectronic Frontier Foundation)」は今回の特許について、「ばかげていて妥当性のない、システムに対する告発」だとして激しい批判を展開しています。エルゼビアのトム・レラー (Tom Reller) 氏(バイスプレジデント)は、「本特許についての心配は無用です。これはあくまで、当社独自の論文転送システムを複製から守ることが目的です」と述べて自社の立場を擁護しています。


論文転送システムのアイデアは目新しいものではないため、多くの専門家は今回の特許に懐疑的で、特許発行について軽蔑的な目が向けられています。電子フロンティア財団によると、エルゼビアが特許を申請した2012年当時にも、他のジャーナルを提案するという考え方は学術界ですでに知られているものでした。


今回の特許がほかのジャーナルにどのような影響を及ぼすかについては、エルゼビアが特許権を行使するまでは不透明です。


この件についてどう思いますか?あなたの見解や意見をぜひ聞かせてください。   


参考記事:

Elsevier’s New Patent for Online Peer Review Throws a Scare Into Open-Source Advocates

Stupid Patent of the Month: Elsevier Patents Online Peer Review

学術誌『Nature Methods(ネイチャー・メソッズ)』の概要と投稿時のアドバイス

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学術誌『Nature Methods(ネイチャー・メソッズ)』の概要と投稿時のアドバイス

学術誌『Nature Methods(ネイチャー・メソッズ)』の概要と投稿時のアドバイスをご紹介します。同誌は、「生命科学における十分に試行された基本的研究技術の新しい方法および顕著な改善」に関する論文を掲載しています。

目的と対象領域

Nature Methodsは、「生命科学における十分に試行された基本的研究技術の新しい方法および顕著な改善」に関する論文を掲載している。また、「研究業務に深く関与する学術研究者や企業研究員等の広範な学際分野の読者を対象としている」。

出版元

ネイチャー・パブリッシング・グループ(Nature Publishing Group)

発行頻度

月刊(年12号で1巻)

編集体制

編集長のNatalie de Souza(ナタリー・デ・ソウザ)氏が6人の編集チーム(シニアエディター2名、アソシエイトエディター2名、アシスタントエディター1名、技術エディター1名)を統括している。

詳細はこちら:http://www.nature.com/nmeth/about/about_eds/index.html

 

出版基準

「方法論的な機能性およびただちに適用できる包括的な技術的説明を徹底的に評価した」幅広いテーマの論文を掲載している。論文には、以下の4つをはじめとする各種フォーマットがある:論文(article)、短報(brief communication)、分析(analysis)、リソース(resource)。その他のフォーマットとして、通信(Correspondence)、ニュースと視点(News and views)、レビュー(Review)、歴史的な視点を含む視点(Perspectives)、歴史的な解説を含む解説(Commentary)、応用に関する覚書(Application note)がある。

論文の種類について:www.nature.com/nmeth/authors/article_types/index.html


編集方針と投稿ガイドライン

全投稿論文をオンライン投稿システムhttp://mts-nmeth.nature.com/cgi-bin/main.plexで受け付ける。初めて利用する著者は最初に登録が必要。投稿前の質問もオンラインシステムで受け付けている。

著者への手引き:www.nature.com/nmeth/gta.pdf


査読プロセス

すべての投稿論文はまず編集部内でレビューされる。最初に編集主任が読み、他の編集者と相談の上で査読に回すかどうかを決定する。著者は、査読候補者および査読プロセスから除外すべき人物を提案することができる。ただし、最終的な決定はジャーナルが下す。


スムーズな出版のために

Nature Methodsは、ネイチャー・パブリッシング・グループが出版する他のジャーナルの多くの著者向けリソースを共有している。文章は可能な限り能動態を使用し、専門用語や頭字語を避ける。アクセプトされた論文はすべて編集部で編集され、文法的に正しく、論理的かつ簡潔明瞭な文章で書かれ、同誌の過去の論文と検索用語や専門用語の一貫性が保たれた状態に整えられる。

著者向けリソース:www.nature.com/authors/author_resources/how_write.html


インパクトファクターとランキング

インパクトファクター(2014年):32.072


役立つリンク集

ジャーナルのウェブサイト: www.nature.com/nmeth/index.html

著者向けガイドライン: www.nature.com/nmeth/gta.pdf

編集委員会: www.nature.com/nmeth/about/about_eds/index.html

論文の種類:www.nature.com/nmeth/authors/article_types/index.html

著者向けリソース: www.nature.com/authors/author_resources/how_write.html

 

学術出版の未来と若手研究者へのアドバイス

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学術出版の未来と若手研究者へのアドバイス
テナント氏は、インペリアル・カレッジ・ロンドン地球科学科の博士課程(古生物学)の最終学年に在籍しています。研究テーマは、太古の生物の多様性と絶滅のパターン、そしてこれらのパターンを生み出した生物環境要因です。科学コミュニケーションにも情熱を傾ける彼は、科学はパブリックドメインであるべきだという強い信念を持っています。また、「Green Tea and Velociraptors(緑茶とベロキラプトル)」というブログを運営するほか、重要と考えるテーマについて活発なツイートも行なっています。

本インタビューでは、若手研究者の視点をお届けします。テナント氏は博士課程の大学院生としての研究活動、論文出版、学会出席に加え、世界中を旅して研究者を対象としたオープンな研究・科学政策についての啓蒙活動を行なっています。また、活発なブログ投稿や査読のほか、その他の活動―例えばこのインタビューへの対応―も行なっています。テナント氏は、専攻の変更を厭わず、子供の頃から大好きだった古生物学の研究に飛び込みました。その過程で、科学コミュニケーションと政策に関するあらゆることへの関心、とくにオープンサイエンスへの情熱を自覚しました。テナント氏は、ネットワーキングの真の潜在力を現実化し、それを利用して学術研究の重要事項に関する対話に積極的に参加しようとする研究者で、厳しい研究スケジュールを管理しながら、さまざまな活動に取り組んでいます。今回は、研究やその他の分野で興味を持っていることについてお話を伺いました。とくに、本格的な研究活動とその他の活動の両立についてお聞きしました。科学や学術出版の重要な進展について、より多くの人が知るべきだという強い思いが、テナント氏の仕事への原動力になっているようです。


本インタビュー・シリーズ最終回の今回は、以下の3点について伺いました。

  • 現在の学術出版界のどこに変化が必要か。
  • 学術出版の将来像は。
  • 研究者/コミュニケーターとしての経験に基づく、研究者へのアドバイス。


テナント氏は、「公共の最善の利益」を考慮した科学政策を強化していくことの必要性と、研究のあらゆる側面における透明性という考え方を学術界全体で積極的に受け入れていくことの必要性を語っています。彼によると、見通しは決して暗くないとのこと。科学コミュニケーションの将来には楽観的な見方をしているそうです。最後に、若手研究者への貴重なアドバイスももらいました。


研究の伝達と科学政策について3つのことを変えられるとしたら、何を変えますか?また、その理由は何ですか?

「オープン」それ自体に価値があるかのように語られることがよくありますが、これは真実の半分にすぎません。オープンであることによって与えられるものが本当の価値であり、それは文脈によって決まります。科学政策では、よりオープンであることで、意思決定過程の透明性が増すことが期待されます。どのエビデンスが利用されたのか?どこでどのような形で結果が得られたのか?非公式のどのような会話やミーティングが持たれたのか、そしてそこで何が討議されたのか?これは民主的な説明責任(アカウンタビリティ)の透明性を支えるものであり、社会政策を形作る上で重要な部分だと思います。科学政策とは多くの人にとって、方法、材料、考察のセクションがまったくない論文の結論のセクションを読んでいるようなものなのです!


私は、政策立案者や資金助成機関が、公共の最善の利益のためにもっと行動することを望んでいます。例えば、利益が出ていない学術出版社の存続と、他のところでの資金の有効活用のどちらかを選ばなければならないとしたら、後者を選ぶということです。少なくとも一部は公的助成を受けていて、利益率が40%という出版社が、文献への公共のアクセスを禁止していたら、そのシステムは何かが大きく間違っていると分かります。このようなシステムを変えて行くには、安定した学術コミュニケーションのためのインフラ整備が必要です。(これは、ビヨルン・ブレンブス(Björn Brembs)やジェフリー・ビルダー(Geoffrey Bilder) のような人々が提唱していることです。)これはつまり、コミュニケーションを含むすべての研究プロセスを対象とした、効果的な標準ワークフローを構築するということです。これに政府の援助が得られれば、利益をむさぼっている出版社と、そこで提供される相対的価値の低い高コストのサービスで資金を浪費することなく、何十億ドルという大金を節約してその資金を研究に投入することができます。


でも何よりも必要なのは、現在の評価システムの徹底的かつ大規模な改善です。どんな理由があるにせよ、このデジタル化の進んだ時代に、不適切な評価基準をまだのうのうと利用していることは、絶対に許されないことです。これは実は、2番目に挙げた点にも関連しています。というのも、研究コミュニケーションがジャーナルの権威と従来の出版プロセスの両方から切り離されたインフラを構築できれば、お粗末な評価基準(例えばジャーナル全体に基づいたもの)から離れる動きが出てくるはずだからです。若手研究者と議論をすると、ほとんどいつもこの問題に立ち戻ります。まず出版システムによってひどい目に遭い、さらに研究評価システムによって不利益を受けることを恐れ、科学にオープンに取り組むどころか、正しく取り組む気もなくしてしまっている人もいます。我々がまだ実際的で体系的な解決方法を考え出せていないということに、憤りと困惑を感じます。

今から20年後、学術出版界はどうなっていると思いますか?

現在の「出版」の姿は、ほぼ完全に分断あるいは解体しているのではないでしょうか。英文校正や組版など、まっとうな価値のあるサービスは自動化されるか、あるいは非常に低価格での外注化が進むほど出版プロセスが効率化されるのではないかと思います。(インターネットや技術の力を使うなどして)すでにそのような兆候を見せているジャーナルがあります。査読は、StackExchangeを利用する人々に見られるように、オープンで建設的かつ透明なコミュニティによって行われるプロセスとなるでしょう。伝統的な出版社は存続するものの、表面上もしくはデータ関連のサービスを提供するようになるでしょう。これは、出版から完全に独立した研究コミュニケーションシステムが構築されることで可能になります。出版社やジャーナルがどの論文を出版するかを選ぶのではなく、研究を出版できる特権に対して、彼らが料金を支払うべきなのです。著作権の改革も行われ、論文の著作権を研究者自身が持つようになって、出版社が収入を得るためのツールとして利用されることはなくなるでしょう。評価は、コミュニティによって、コミュニティのために行われます。例えば、StackExchangeのような簡単なシステムを通じてコミュニティ全体でコンテンツが評価され、そのコンテンツが再利用され、理解されるという形です。研究者が粗削りな論文を書くことを強いられることはなくなり、「論文」そのものが分離するでしょう。データ収集者がデータを発表し、コミュニケーターが文脈を決定し、統計家がデータを分析し、機械がグローバルな知識データベースの大規模なメタ分析を実行する、というように。現代の技術の可能性を駆使して、最終的に1つあるいは一連のプラットフォームを作るのです。


もちろん、これらはどれもきっと実現しないでしょう。学術界の文化は惰性的ですから。でも、私たちは楽観的になれますし、そうあるべきで、貪欲な少数の企業の懐のためではなく、公共の利益のための研究を日々追求すべきなのです。

若手研究者へのさらなるアドバイスをお願いします。

若手研究者として自分が学んできたことを、ここでいくつか紹介します。
 

  • 研究以外の分野でスキルを身につけること。自分の守備範囲を広げ、学術界の外の人と話をし、他人の経験と視点をできるだけ取り入れましょう。聴くことには、話すことよりもずっと価値があります。
  • 自分にとって重要なことを見つけ、そのことに時間を使いましょう。それが自分の好きなことであれば、最善を尽くしてやりましょう!
  • 学術界では何をするにしても、結局は誰かに嫌われることになるのが常です。これはたいてい、現状に挑んでいるということなのです。ですから、困難や抵抗を恐れず、できるだけ人あたり良く振る舞いましょう。
  • 自分に興味のある分野で同じようなことをやっている人のネットワークを探しましょう。ソーシャルメディアのおかげで、科学コミュニティの力は非常に見えやすくなっています。学べて、協力できて、必要に応じて手を差しのべてくれる人が必ずみつかるでしょう。
  • 質問することを決して恐れないこと。我々は質問することで学び、全体として進歩していきます。「当たり前」のことを質問するのは愚かだと言う人がいたら、それは科学には不要な傲慢さです。我々は常に学び続ける存在であるということを覚えておきましょう。
  • そして最後に。学生としてすべきことがたくさんあり、いっぱいいっぱいになってしまうこともあるでしょう。そんな場合の最高のアドバイスは、「No(ノー)」と言えるようになること、そして自分ができる以上のことを引き受けないようにすることです!物事は、結局はほかの誰かがやってもよいのです。とくに、大学院生はいつも負担を抱えてプレッシャーを受けていますから、時間を有効に管理する必要があります。

 

テナントさん、役立つ洞察をありがとうございました!素晴らしいインタビューとなりました。研究と執筆の成功をお祈りしています。テナントさんの予測のいくつかが実現しますように!


テナント氏へのインタビュー記事

 

プレプリントが研究の普及に果たす役割

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プレプリントが研究の普及に果たす役割

現代社会においては、科学研究の成果が出たらいち早く公開する必要があります。研究結果をただちにシェアする必要性が高まる一方で、学術ジャーナルの出版プロセスが遅々としていることから、科学者のストレスが増し、その結果、プレプリントを利用する流れが生まれました。

現代社会においては、研究の成果が出たらいち早く公開する必要があります。学術界での競争が激化しており、助成金の獲得、ポストへの応募、キャリアアップのために、最新の研究成果を示さなければならないからです。それだけでなく、科学の進歩を加速させるためにも、研究結果をタイムリーに公開し宣伝することは必要です。これはとくに、医療関連の発展、決定、政策に影響を及ぼす生物学や医学などの分野や、進歩がきわめて速いコンピューター・サイエンスや情報技術などの分野に言えることです。研究結果をただちにシェアする必要性が高まる一方で、学術ジャーナルの出版プロセスが遅々としていることから、科学者のストレスが増し、その結果、プレプリントを利用する流れが生まれました。


プレプリントとは何か?

プレプリントとは、著者が公共のサーバーにアップロードした、論文原稿(ドラフト)の最終版です。これは多くの場合、ジャーナルに投稿された論文と同じ版です。論文原稿がアップロードされると、その整合性を確認するために簡単なチェックが行われます。その後、査読を経ずに1、2日でオンライン上に掲載され、誰でも無料で閲覧できるようになります。論文の修正版を後日アップロードすることも可能ですが、古いバージョンは残されます。


各分野で人気のプレプリント・サーバー

プレプリントをホストする、プレプリント・サーバーあるいはリポジトリと呼ばれるウェブサイトはいくつかあります。様々な分野の論文を受け入れるプレプリント・サーバーもあれば、特定の分野限定のものもあります。もっとも古い人気のサーバー、arXivは、物理学のプレプリントを配布するために1990年代に生まれました。このサイトは現在、物理学、数学、コンピューター・サイエンス、統計学など、各種分野の論文を受け付けています。生命科学分野で有名なのは、bioRxivPeerJ PrePrintsです。ネイチャーにも生物学、医学、化学、地球科学分野の論文向けプレプリント・サーバー、Nature Precedingsがあります。社会科学・人文科学のプレプリントを掲載しているものにはSocial Science Research Networkがあります。


なぜプレプリントを利用するのか?


・即時性:プレプリントを利用する最大の利点は、ジャーナルの出版プロセスにつきもの「遅れ」という要素がないため、研究結果がほかの人にすぐに利用してもらえるということです。


・オープンアクセス:プレプリント・サーバーに論文を登録することは、世界中の科学者に研究を無料提供するための優れた方法です。これは、グリーン・オープンアクセスと呼ばれています。


・優先権の確立:世界中で多くの科学者が同じ研究アイデアに取り組んでいる中、プレプリントを公開すると、アイデアや発見の優先権を主張する助けとなります。プレプリント・サーバーは通常、論文の登録された日付を記録します。


・貴重なフィードバックが得られる:プレプリントを登録すれば、論文のリンクを送って科学者仲間にフィードバックを求めることができます。論文の誤りを見つけてコメントしてくれる人もいるかもしれません。そのようなフィードバックを利用して自分の研究の質を判断し、ジャーナルに投稿する前に論文を改善することができるのです。こうすれば、ジャーナルにアクセプトされる確率も高まります。


・早い段階で注目を集められる:プレプリント・サーバーに登録された論文は通常、引用が可能です。つまり、論文がジャーナルに掲載される前に引用される可能性があるということです。研究を気に入ってもらえれば、ソーシャルメディアでシェアしてもらえるかもしれません。このように、正式に出版される前から、あなたの研究に注目が集まる可能性があるのです。


・研究のエビデンスになる:助成機関や雇用委員会から、最近の研究のエビデンスを見たいと言われることもよくあります。そのため、助成金や仕事の申し込みを検討しているときに出版に遅れが生じると、大きな不利益が生じる可能性があります。そのようなとき、プレプリントはとても役に立ちます。


・共同研究や学会への参加の機会が増える:学会やセミナーの運営者は、未出版の研究を発表してくれる人を探していることもよくあります。プレプリントがあれば、露出度が増え、学会運営者や共同研究の候補者から連絡をもらえる可能性が高まります。


・さまざまな研究結果を公表できる:ジャーナルでの出版では、新奇性が重要な基準であることが多いものです。そのため、ネガティブな結果や再現研究を発表することは難しくなります。その点、プレプリントなら多様な研究結果を公表できて、この問題を解決できます。



プレプリントに関する懸念


プレプリントに関して科学コミュニティが抱いている最大の懸念は、査読が行なわれていないということです。査読は、基本的な欠陥のある論文や質の悪い論文を間引くために欠かせない、品質管理機能です。さらに、査読がないことで、プレプリントによって一般の人々に誤った情報が伝わる可能性もあります。環境科学やワクチンの安全性などに関する研究分野では、有害な影響が出る恐れもあります。ですから、研究の種類によっては、プレプリントでの公開に向かないものもあるかもしれません。もう1つの問題は、優先権を主張する目的のためだけに、時期尚早にもかかわらず研究結果を発表する研究者もいるかもしれないということです。


確かに、これらはもっともな懸念です。しかし、査読を行なっている現在のジャーナルシステムにも、これらの問題がまったくないわけではありません。質の悪い研究論文や再現不可能な研究が蔓延していることは、撤回される論文数が毎年増えていることからも明らかです。さらに、害を及ぼす可能性のある誤った情報が、出版済みの文献を通して一般に普及する可能性もあります。査読済みというしるしが付いているだけに、そのような危険度はより高くなります。一方、プレプリントでの著者側の責任は非常に重いものです。著者は、科学コミュニティで自分の評判に傷をつけることは避けたいと思っているので、アップロードする論文の質には一層気を使うのです。


プレプリントは、査読された論文の代わりになるものではありませんし、近い将来にジャーナルに取って代わるものでもないでしょう。しかし、スピードの遅い現在のジャーナル出版の問題に実際的な解決をもたらす存在と言えます。科学の進歩に貢献している限り、プレプリントは科学コミュニティに利用され続けるでしょう。


参考記事:

http://asapbio.org/roleofpreprints

http://asapbio.org/preprint-info/preprint-faq

https://en.wikipedia.org/wiki/Preprint

http://science.sciencemag.org/content/352/6288/899.full

http://academia.stackexchange.com/questions/16832/why-upload-to-academic-preprint-sites-like-arxiv

http://www.nature.com/news/biologists-urged-to-hug-a-preprint-1.19384

https://www.theguardian.com/science/occams-corner/2015/sep/07/peer-review-preprints-speed-science-journals

 

査読状況の丁寧な問い合わせ例文は?

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Question Description: 

1/10に論文を投稿してから約2か月Editor assignedの状態のままです。一度問い合わせをしたいと思いますが、丁寧な問い合わせの仕方の例文をお願いします。

回答

論文を投稿してから2か月経つとのことなので、そろそろ問い合わせを行うべきですね。以下のテンプレートを参考にしてください。
 

Dear Dr./ Mr./Ms. [Editor's Name],


I have submitted my manuscript titled [insert manuscript title] to your journal on January 10, 2017 and the status has remained "Editor assigned" since then. Since it has been two months since my submission, I was wondering if the status is not getting updated due to a techincal error. It would be great if you could let me know when I can expect the next status change.


Sincerely,

[Your Name]


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[編集者の名前]


2017年1月10日に貴ジャーナルに[論文タイトル]という論文を投稿しましたが、ステータスが「Editor assigned(編集者決定)」のままです。投稿から2か月経ちますので、システムエラー等でステータスが更新されていないのではと心配しております。ステータスがいつ変更になるか、お知らせ頂ければ幸いです。


         よろしくお願いいたします。
   
   [あなたの名前]

short communicationとNoteについて

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Question Description: 

論文には、原著論文の他に、short communicationやNoteがありますが、査読は何名で行われるのが一般的でしょうか? 1名の場合があると聞いたことがあります。

回答

私の知る限り、短報(short communication)や研究ノート(research note)の査読プロセスも、原著論文と同じです。論文の査読を依頼する査読者の人数は、編集者次第です。論文の質について明確な判断を下すのに1人の査読者で十分だと編集者が考えれば、1人にしか依頼しないでしょう。一方、必要と考えれば、2人以上に依頼することもあるでしょう。しかしながら、「原著論文の査読は2人以上に送る」という方針のジャーナルもありますが、実証データの少ない短報や研究ノートについてはその方針を厳格に適用しないこともあるようです。短報や研究ノートではデータや分析が少ないので、必ずしも複数の査読者を必要としないためでしょう。


ジャーナル編集者が短報の査読を1人にしか依頼しないもう1つの理由は、この種の論文はほとんどの場合、タイムリーに出版することに意味があるので、迅速に出版する必要があるということです。査読は出版プロセスの中でもっとも時間のかかる部分なので、編集者は1人の査読者だけで進めることを選ぶのでしょう。


科学が直面する7大問題:Voxによるアンケート結果の概要

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科学が直面する7大問題:Voxによるアンケート結果の概要

科学の進歩は、研究者たちが重要な発見を日々発表することによって加速しています。しかし科学コミュニティは、現代の科学はその土台を揺るがすような諸問題に苦しんでいると主張しています。270名の研究者を対象に行われたアンケート調査の結果から、科学の直面する7つの問題が明らかになりました。

科学の進歩は、研究者たちが重要な発見を日々発表することによって加速しています。しかし科学コミュニティは、現代の科学はその土台を揺るがすような諸問題に苦しんでいると主張しています。何が問題視されているのかを理解するために、世界情勢・科学・政治などに関する議論を掲載する米国のウェブサイト、Voxが、270名の研究者を対象にアンケート調査を実施しました。回答者には、世界中の大学院生、(終身在職権を持つ)教授、フィールズ賞受賞者、研究所長などが含まれています。回答者たちの意見は、現在の科学が「対立が多くて分かりにくい」プロセスになっており、「最良の問いを追求し、意義深い真実を発見することよりも、自己防衛を優先」せざるを得ない状況になっているという点で一致していました。研究に従事する人々の回答から、科学の直面する7つの問題が明らかになりました。


1. 財政がひっ迫する学術界

研究者は、研究費の確保と維持のための果てしない闘いの渦中にいます。科学に携わる労働力が増加する一方で、ほとんどの国では過去10年ほどの間に研究助成金が減少しています。助成金をめぐって上級研究者と争わねばならないキャリアの浅い研究者の状況は、とくに深刻です。科学研究の実践方法も、この激しい競争の影響を受けています。アンケート回答者の指摘によると、研究助成金は数年単位で交付されるものがほとんどなので、研究者は短期プロジェクトを選ぶ傾向が強くなり、複雑なリサーチクエスチョンに取り組むには期間が不十分だということもあるようです。これは、研究者が助成団体や所属先に配慮した選択を行なっているということです。しかし、そのような選択を行うことで、質も影響度も低い研究論文が増えることになります。


2. 出版論文のお粗末な研究デザイン

お粗末なデザインの研究は、学術界の大きな懸念となっています。その主な原因の1つとして、論文の統計的欠陥があっても気づかれないまま出版されてしまうことが挙げられます。もっとも価値があるのは画期的な研究結果とされているため、研究者は、論文を出版するために研究結果を実際以上に素晴らしいものだと思わせたいのです。さらに研究者は、データに見られる特定のパターンを重視し、ジャーナルにとって魅力的な結果に見えるように研究デザインを作為的に変える傾向があります。統計的に有意な結果が出た仮説だけを報告する“p-hacking”(p値ハッキング)も増加しています。とくに生物医学研究でp値の誤用が目立っています。つまり、出版されている研究結果の中に科学的に無意味なものがかなりあるということです。これは、資金とリソースが恒常的に無駄になっているということを意味します。  


3. 再現研究(複製研究・追試)の不足

結果の再現の不可能性も、研究における重大な問題です。ネイチャーは最近、再現性に関する研究者の見解を理解するためのアンケートを実施しました。それによると、アンケート回答者の大部分が「再現性の危機」は存在すると考えていると報告しています。研究に内在するその他の問題、例えば不適切なデータや複雑な研究デザインなども、再現の妨げとなっています。しかし、科学の利害関係者は追試や再現研究の追及に懐疑的で、ジャーナルもたいていは、原著論文や画期的な結果を発表したがります。再現研究は新奇性に欠けるためです。研究者や資金助成機関も、同じような理由で追試には投資したがりません。ほとんどの実験結果が検証も確認も行われていないということで、これは学術界にとって大きな損失です。


4. 査読における問題

査読は科学出版を支える重要な基盤だと考えられていますが、ここにも問題があります。査読は粗悪な研究を除外し、論文に明らかな欠陥がないようにするものです。しかし、査読はやる気次第ともいえる作業なので、遅れがちになったり、役に立たない査読報告があったりすることもよく知られています。さらに、著者が査読者から追加実験を強要されたり、特定の論文の引用や不必要な変更をするよう迫られるなどの嫌がらせにあったとの報告もたびたびあります。ほとんどのジャーナルの査読はシングルブラインド方式(単盲検法)のため、偏った見方や専門家ゆえの嫉妬が入り込む余地があります。その他、査読システムに依存し過ぎているために、著者や編集者、あるいは第三者のサービスがシステムを悪用して査読詐欺を生む結果にもなっています。そのため、現在の査読システムを疑問視する研究者も大勢います。  


5. 研究へのアクセスに関する問題

学術界は、オープンデータの義務化データシェアの義務化を採用することで、徐々にオープンサイエンスおよびオープンアクセスへと移行しています。しかし、購読者モデルでジャーナルを運営している大手出版社も多くあります。購読料は増加の一途をたどっているため、とくに発展途上国では、研究者だけでなく研究機関も購読料を支払って研究にアクセスすることが困難になりつつあります。アンケート回答者の多くは、科学研究の普及に影響を及ぼすとして、このような現状に批判的でした。さらに、有料でしかアクセスできないはずのほぼすべての論文に、権限のないアクセスを提供するSci-Hubのようなウェブサイトの出現のほぼ唯一の原因と言えるのは、購読料ベースの出版モデルだと思われます。このような結果を避ける唯一の方法は、科学コミュニティがもっと簡単に研究にアクセスできる方法を考案することでしょう。


6. 十分かつ正確な科学コミュニケーションの欠如

科学コミュニティの内と外では大きなコミュニケーションギャップが存在することはよく知られています。このため、科学に関する誤解や意見の食い違い、そして一般の人々が適切な情報に基づく意思決定ができないなどの問題が生じています。このような事態に至った責任の一端は、研究者にもあります。研究者には、自分の研究に関心を持ってもらうために一般の人々と交流する時間がなく、またそうした熱意に欠けていることもあるからです。その結果、一般の人々はマスコミに依存することになり、それが科学的事実の誤解を招いているという批判もあります。学術研究における競争の激しさが、研究の伝達がうまくいかない原因ともなっています。注目を集めようとして結果を誇張し、ポジティブな結果だけを宣伝して、研究者、大学、ときにはジャーナルさえもが、一般の人々に誤解を与えてしまうことがあります。しかし科学コミュニティは、一般の人々が科学の問題を認識し、自分たちの税金がどのように研究に投資されているのかについて意見を主張できるように、責任をもって科学の正確な状況を伝えるよう努力すべきです。


7. ストレスの多い学術界とポスドク研究者の生活

ポスドク研究者の生活が厳しいものであることに議論の余地はありません。多くの研究室で研究の実践に貢献しているのはポスドクであり、学術研究の未来を担うのもポスドクですが、彼らは熾烈な競争、低い給与、不安定な身分のために数々の課題に直面しています。ポスドク研究者の数は増加していますが、学術界の常勤職が同じ速さで増えているわけではありません。そのうえ、博士課程では学術界以外の仕事を探す訓練を受けることもないので、ポスドク研究者はキャリアを積む道を探すのに苦労しています。科学研究が順調に前進していくためには、これらの若い研究者たちが科学の本流に吸収されていかなければなりません。

 


Voxのアンケート結果は、現在学術界が取り組んでいる重大な問題を浮き彫りにしています。学術界はその他にも、ジェンダーによる不平等、研究や学業の不正、インパクトファクターへの過剰な依存など、多くの問題を抱えています。さまざまな問題はあるものの、それでもまだ科学には希望があります。科学コミュニティは、透明性を高め、倫理の重要性に関する認識を高め、閉鎖的でなく協調的な方向に歩みを進めていくことで、科学の進歩が停滞しないよう努めています。しかし、科学に即効薬はありません。したがって、これらの変化がもたらされるには時間がかかるでしょう。それでも、1つ1つの取り組みが、科学を前進させていく大きな力となるでしょう。

 

短報の投稿時にジャーナル編集者への連絡を求められるのはなぜ?

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オンライン投稿システムで原稿を投稿しようとしたところ、以下の指示が記載されているのを見つけました。「短報を投稿する場合は編集者に直接問い合わせてください」。これは、短報/速報のような原稿については専用のテンプレートが用意されていて、編集者に連絡するとそれを送ってもらえるということでしょうか?

回答

短報や速報の扱い方はジャーナルによってさまざまだと思いますので、今回の場合は、短報を投稿したい旨を指示通り編集者に伝えるのがベストでしょう。「オンライン投稿システムでそのような指示を目にしたので、短報の投稿に特別な手順があるのどうか知りたい」と問い合わせてみましょう。また、編集者の興味を引くためにも、ジャーナルの読者にとってどのようなメリットがあるかなどを含めて、原稿のテーマを簡単に紹介すると良いでしょう。

Pubmedに記載されないのはなぜ?

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Pubmedに記載されているjournalに投稿し、acceptをいただきました。そのjournalのonlineには記載されていますが、Pubmedに記載されていません。同journalで他の研究者の方が後にacceptされたものはPubMedにあったのですが、自分の論文は見当たりませんでした。 なぜでしょうか?   journal cardiology in the young 形式 brief report

回答

PubMedに収載されたジャーナルに論文が掲載されたのなら、本来はPubMedに登録されるはずです。まずは、過去の発行済みジャーナルの論文がPubMedに登録されているかを確認してみましょう。ジャーナルのウェブサイトをくまなくチェックして、あなたの論文をPubMedへの登録から除外するような方針がないかどうかを確認してみましょう。ジャーナルによっては、エンバーゴ(公開解禁日)を設けているところもあります。つまり、出版後、一定の期間を経てからでないと無料公開できないというルールです。しかし、同じジャーナルに後からアクセプトされた方の論文がPubMedに登録されているということなので、今回のケースではエンバーゴが理由ではなさそうです。上記の確認を行なっても解決しなければ、編集者に問い合わせてみましょう。

ジャーナル側の遅れによって論文発表で先を越される:ケーススタディ

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ジャーナル側の遅れによって論文発表で先を越される:ケーススタディ

著者Aが某有名ジャーナルに論文を投稿しましたが、判定プロセスにひどく時間がかかり、投稿から9ヶ月経っても論文ステータスは「査読中」のままでした。一方、別の著者Bが、同じテーマの同じ結果の論文を、スピード出版を行うジャーナルから出版しました。著者Aは、自分の努力が無駄になったのはジャーナル側の遅延のせいも同然だと感じ、非常に憤慨しました。

事例:著者Aが某有名ジャーナルに論文を投稿しましたが、判定プロセスにひどく時間がかかっていました。投稿から9ヶ月経ち、編集者に何度もメールを出したにもかかわらず、論文ステータスは「査読中」のままでした。一方、別の著者Bが、同じテーマの同じ結果の論文を、スピード出版を行うジャーナルから出版しました。著者Aは、自分の努力が無駄になったのはジャーナル側の遅延のせいも同然だと感じ、非常に憤慨しました。著者Aは、著者Bよりも先に論文を投稿したという確信がありました。著者Aの論文はジャーナルに9ヶ月も預けられた形になっていましたが、著者Bの論文はスピード出版ジャーナルから出版されたため、出版までの期間も短かったと推測されるからです。ジャーナルがもっと迅速に処理していれば、その論文を他の誰よりも早く出版できたはずだと思わずにはいられませんでした。さらに追い打ちをかけるように、数日後、そのジャーナルは著者Aの論文をリジェクトしました。著者Aは、エディテージ・インサイトにアドバイスを求めました。


対応:エディテージ・インサイトは、残念ながら科学研究で先を越されるのはよくあることだと伝えました。著者Bよりも先に論文を投稿したという主張は正しいかもしれませんが、科学出版では、先に論文を発表した人が功績を認められるものなのです。


著者Aには、著者Bの論文を丁寧に読み、何かしらの抜けや、論文で触れられていない些細な点がないか確認してみるようアドバイスしました。著者Bの研究に別の角度からアプローチし、無視されている副次的な結果に注目するなどして、著者Bの論文を改良することを提案しました。その上で、著者Bの論文とは異なる、できればそれ以上に盤石で優れた、自分なりの論文を書くのです。できるだけ早くこの作業を行い、出版にトライするよう伝えました。


また、論文が執筆できたら、arXivなどのプレプリントサーバーに論文を投稿することもアドバイスしました。プレプリントにはアップロードされた日付が入るので、論文の優先権を確立しやすくなるためです。また、通常はプレプリントサーバーからの引用も可能なので、出版前に引用される可能性も出てきます。


著者はエディテージ・インサイトのアドバイスに感謝し、今後はジャーナル側の遅延によって先を越されることがないよう、論文は投稿前にすべてプレプリントサーバーに投稿することに決めました。


まとめ:科学では、複数の研究者が同じテーマについて世界各地で別々に研究を行なっており、互いの研究に気づかないまま、同じ結果を同じ時期に出すことも珍しくありません。そのような場合、科学における優先権は、結果を最初に発表した研究者あるいは研究グループに与えられます。2番手の発表者は、得られる功績が小さくなるので、面白くないでしょう。これが「先を越される(出し抜かれる)」ということで、科学ではしばしばみられる状況です。この慣行は、「出版しなければ消え去るのみ」という学術界の文化から生じたものです。


出版の遅れのせいで、ある特定の理論、分析、発見についての科学における優先権をほかの人に獲られてしまうのは、よくあることです。科学出版の激しい競争の中では、ジャーナル側の遅れによって先を越されることを避けるために、研究者側の努力も重要です。


以下のような手段を使えば、研究の優先権獲得に有効でしょう。
 

  • プレプリントサーバーに論文をアップロードする
  • 学会で予備段階の研究結果を発表する


先を越されてがっかりすることがないよう、懸命に取り組んだ研究のアイデアや理論については、積極的に優先権の確立に努めることを強くお勧めします。

若手研究者たちの困難とニーズ:SSPによる調査結果の概要

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若手研究者たちの困難とニーズ:SSPによる調査結果の概要

学術界は競争の激しい世界であり、若手研究者はキャリアを切り開く過程でさまざまな困難に直面します。学術界の未来を背負って立つ彼らに対して、同じ業界の人々はそのニーズや困難を理解し、解決を支援していくことが重要です。

学術界は競争の激しい世界であり、若手研究者はキャリアを切り開く過程でさまざまな困難に直面します。学術界の未来を背負って立つ彼らに対して、同じ業界の人々はそのニーズや困難を理解し、解決を支援していくことが重要です。


そのような中で、学術出版界のあらゆる領域でコミュニケーションの推進と発展を図る非営利組織、Society for Scholarly Publishing(SSP)が、キャリア10年未満の若手研究者を対象としたアンケート調査を実施しました。この調査の主眼は、若手研究者たちの不安の声を拾い上げ、彼らが専門家として成長していくためには何が必要かを学術界で共有できる基盤を構築することです。


SSPのProfessional Development Committee(専門能力開発委員会)の分科であるEarly Career Subcommitteeが実施した34項目のアンケートに対し、507名から回答が得られました。回答者の平均年齢は30歳で、実務経験の年数は40%が2~5年でした。アンケートでは、学術界での経験、能力開発、所属先での待遇に関する質問が行われました。調査の結果は、2016年6月にバンクーバーで開催されたSSPの第38回年次大会で、「Sharing the Future Voices…(未来の声を分かち合う)」と題して発表されました。重要な結果をいくつか見ていきましょう:


1. 若手研究者の46%が、もっとも手強い問題は「自分の適切な役割をみつけること」だと回答しています。続いて多かった回答が、「適切なキャリアパスをみつけること」(42%)、「適切な所属先をみつけること」(33%)でした。 これらは領域に関係なく見られる懸念で、キャリア関連の情報を提供するガイダンスやリソースが欠如していることを示しています。


2.  若手研究者は、自分が就きたいポストについて明確な考えを持っているのでしょうか?調査では、40%が「たまたま希望のポストに就けた」、または「求人検索で自分のスキルに合う求人が表示されたので希望のポストに就けた」と回答しています。また、出版に関わる仕事に就くことにこだわっている若手研究者はわずか26.2%でした。


3. ソーシャルメディアやオンライン上には学術界に関する情報が大量に見られますが、驚くことに、これらは若手研究者にとっての主な情報源ではないことが分かりました。78%が、同僚や仲間に解決策や情報を求めると答えています。一方で、もっとも多く利用されているソーシャルメディアは、LinkedInTwitterFacebookという結果でした。


4. 学術界の動向を知ったり学んだりするためのもっとも有効な手段として挙げられたのは、ウェビナー(Webinar)でした。69%が「一度は学術関連のウェビナーに参加した経験がある」と答えており、72%が「所属先が会合などの交流イベントへの参加を支援してくれた」と回答しています。これは心強い結果です。とは言え、キャリアの初期段階にある若手の育成支援は、今後さらに充実させていくべきでしょう。


5. マネジメントや人脈作りの訓練は、キャリアの形成に欠かせないものですが、「業界トレンドに関する継続的な教育」を行なっている雇用者はわずか32%でした。調査結果によると、マネジメント教育を行なっている雇用者は20%、人脈作りの教育訓練を行なっている雇用者はわずか6%でした。


 

若手研究者は、対処すべきことがたくさんある中で、雇用者や指導者から十分な支援を受けられていないのが現状です。SSPのEarly Career Task Forceで共同座長を務めるマット・クーパー(Matt Cooper)氏は、「若手研究者たちが日々を過ごす職場では、個別のより広範な能力開発や教育は見過ごされがちです」と述べています。学術出版と学術コミュニケーションの明るい未来のためにも、次世代の研究者たちが最低限の負担でキャリアを積んでいける環境作りにより力を入れるべきでしょう。

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