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日本の科学力低下の3つの理由

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日本の科学力低下の3つの理由

科学研究は、経済大国日本の根幹をなすものです。国内経済は1980年代前後に急成長を遂げ、科学技術への重点的な投資を行うことで、日本は研究やイノベーション先進国としての地位を確立してきました。しかし近年になり、科学研究におけるそのリーダーシップが、世界の中で発揮できなくなってきています。

科学研究は、世界第3位の経済大国である日本の根幹をなすものです。国内経済は1980年代前後に急成長を遂げ、科学技術への重点的な投資を行うことで、日本は研究やイノベーション先進国としての地位を確立してきました。2000年以降、日本の研究者は自然科学分野でノーベル賞を17回受賞しており、その科学力の高さを示してきました。しかし、近年になり、日本は科学研究におけるリーダーシップを世界の中で発揮できなくなってきています。日本の科学力の低下にはいくつかの要因が挙げられており、国内の研究者は自分たちの将来に不安を感じ始めています。


クラリベイト・アナリティクス社のウェブ・オブ・サイエンス(WOS)とエルゼビア社のスコーパスのデータを取り入れたNature Index 2017のレポートで、日本の研究アウトプットが低下傾向にある証拠が示されています。同レポートの概要を以下に紹介します:
 

  • 質の高い論文に占める日本の論文の割合は、2012~2016年の間に6%減少している。
  • スコーパスに収録されている総論分数は2005~2015年の間に80%増加しているが、日本の論文が占める割合は7.4%から4.7%に低下している。
  • 日本の研究者による論文出版数は全体的に低下しており、得意分野の材料科学と工学の分野では約10%、コンピューター・サイエンスの分野では約37.7%減少している。
  • 日本の学術論文の平均被引用数は停滞しており、その成長率は、1.3%(2005年)から1.5%(2015年)と、わずか0.2%しか増加していない。


急速な経済成長を遂げている中国や、科学研究を前進させている米、韓などの先進国と比較すると、日本は明らかに失速しています。日本の学術関係者たちは、自国の研究環境の悪化がこの結果を招いていると考えています。エルゼビア・アカデミック・リレーションズ副社長のアンダース・カールソン(Anders Karlsson)氏は、「日本のグローバルシェアは低下しており、それに伴って世界への影響力も低下している」と述べています。

ここからは、日本の科学研究が直面している主な問題点や課題について見ていきましょう。


科学政策の弱体化が研究アウトプットに影響

一国の科学研究力は、政府の科学政策に大きく依存しています。残念ながら日本では、大学などへの援助が十分とは言えません。ジャパンタイムズの社説で指摘されているところによると、日本の科学論文は半数が国立大学から発信されていますが、2017年の国立大学への政府補助金は、2004年と比べて10%減少しています。日本の研究アウトプットが停滞傾向にあるのも無理はありません。


予算が削減されているのは、大学の補助金だけではありません。2012年以降、科学技術への総投資額は5%減少しています。2017年10月に安倍首相が解散総選挙を表明した際、日本のトップ研究者たちは、5年前に安倍政権が発足して以来、政府は科学を軽視し続けてきたと指摘しています。また、政府による競争的資金の総額は増えてはいますが、これらの補助金はプロジェクト単位のものであり、研究者たちは実際の研究よりも、この資金獲得レースに多くの労力を割かなければならない状況になっています。


基礎研究の軽視も、日本の科学力が低下している大きな要因です。基礎研究は、イノベーションや知見を拡充に欠かせないものです。大きな発見の下には、必ずと言っていいほど基礎研究という土台があります。日本学術会議の前会長で豊橋科学技術大学の大西隆学長は、「政府は、応用科学の種となりアイデアとなる基礎研究の振興にもっと力を入れるべきだ」と主張しています。


若手研究者への職の不足

科学予算の削減は、さまざまなことに影響を及ぼしかねません。予算削減によって、日本の若手研究者の就職先の選択肢が狭まっています。正規採用は狭き門となり、大学は彼らに安定した常勤職を用意できずにいます。


予算の不足は、若手研究者の独立を阻害することにも繋がり、自分の研究室を持つことを難しくします。大阪大学大学院生命機能研究科の仲野徹教授は、「このような状況に置かれた若い研究者が独立した場合、過酷な現実が待ち受けていることが予想されます。この現実が、彼らの独立の意欲を削ぐ大きな要因となっているのです」。


仲野教授は、テニュアトラック制度を整備することの重要性を強調しています。テニュアトラック制度とは、一定の任期付き雇用契約を全うした若手研究者に常勤のポジションを与える制度で、米国で幅広く採用されています。完全無欠な制度ではありませんが、より多くの研究者が学術界に留まる動機にはなるでしょう。


国内労働力の減少

日本の研究者たちの最大の懸念は、労働力の減少を意味する高齢化により、科学発展のスピードを維持することが困難になることです。労働力の減少は、政府が科学への投資を抑えている理由の1つでもあります。日本学術振興会の家泰弘理事は、「政府予算は、社会の高齢化には抗えない」と述べています。


日本政府は、この問題を打開するための予算案を出す必要があるでしょう。科学技術振興機構(東京)の濱口道成理事長は、外国の研究者や学生を呼び込み、日本の学術界に刺激を与えることの重要性を説いています。


 

日本の対応策

失敗は許されません。状況はきわめて深刻です」と、仲野教授は警鐘を鳴らしています。日本政府は事態の重大さを考慮し、主要研究機関への支援を除々に開始しています。教育と研究のバランスによって研究機関を分類し、それに応じて予算を配分する制度も提案されています。また、40歳以下の研究者を3年以内に10%増加させる計画もあるようです。日本が再び世界をリードする科学技術大国に返り咲くことができるかどうかは、研究界を苦悩させている根深い問題を、今後数年で政府が解消していけるかどうかにかかっています。


関連記事

A perspective on Japan's diminishing research output

Japan's research landscape and the need for internationalization

学術界の内外で働く女性:日本の社会学的視点から


参考記事

Japanese research leaders warn about national science decline

Japanese science stalls over past decade, threatening position among world's elite

The slow decline of Japanese research in 5 charts

The crisis in Japan’s scientific research output

Why money is tight for Japanese science

The Crisis Facing Japanese Scientific Research


「Under Review」は、査読者に論文が割り当てられている状態を指しますか?

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Question Description: 

シュプリンガーのジャーナルに投稿した論文のステータスが「editor invited」に変わった1ヶ月後、「editor assigned」に変わり、現在は「Under Review」になっています。「Under Review」は、編集者による初回チェックが完了し、査読に回ったということですか?

回答

ほとんどのジャーナルで、「under review」は編集者によるチェックが完了して査読に回った状態を意味します。ただし、ステータスの内容はジャーナルによって異なります。「under review」を、編集者による初回チェック/レビュー時に使用しているジャーナルもあります。この場合、論文が査読に回ると、ステータスは「reviewers assigned」や「reviewers invited」に変わります。ジャーナルのウェブサイトで、どのようなステータス表記が使われているか確認してみてください。査読者決定に該当するステータス表記がない場合は、次のステータスに変わるまで待つしかないでしょう。数週間経っても変化がないときは、ジャーナルの編集者に丁寧に問い合わせてみましょう。


関連記事:

How long will the status of my paper show "Under Review?"

論文ステータスが「査読者決定」から、「査読中」に変わるまでの期間はどれくらい?

機関リポジトリに登録している論文を、別のリポジトリやジャーナルに投稿することは可能ですか?

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Question Description: 

現在、データ分析学の修士課程に在籍中です。研究論文2本(オピニオン論文的なもの)を大学のデジタル・レポジトリに投稿し、2本とも受理されました。著者は私一人です。これらの論文を正式に出版したいと考えているのですが、ジャーナルへの投稿や別のリポジトリでの公開は可能ですか?

回答

大学の機関リポジトリである点を考慮すると、ジャーナルへの投稿や別のリポジトリへの登録(公開)は、倫理的に問題ないでしょう。リポジトリの目的は、論文を迅速かつ無制限に公開することです。複数のリポジトリに論文を登録することは、研究の露出を増やす1つの方法です。また、オープンリポジトリには、分野を限定したものや複数分野を扱うものなど、さまざまな種類があります。リポジトリにはそれぞれの役割があり、複数のリポジトリに登録すれば、それだけ論文の露出を増やすことができます。


ジャーナルへの投稿についても、まったく問題ありません。むしろ、プレプリントは積極的にジャーナルに投稿すべきだと思います。プレプリントはあくまで、研究情報を公開するものなので、出版物ではありません。論文に信頼性を付与したいなら、査読付きジャーナルでの出版が欠かせません。


ただし、リポジトリで公開されている論文の投稿に際しては、ジャーナル側が何らかの制限や規定を設けている場合があります。多くのジャーナルは、出版準備中に加えられた編集や修正を含まないプレプリント論文の公開だけを認めています。出版準備中に修正が加えられた論文を、修正箇所を示した状態で公開することを認めているジャーナルもありますが、最終版の論文の公開を認めているジャーナルは、ごく少数です。公開猶予機関(エンバーゴ)を設けている出版社もあり、この場合は出版後数ヶ月経ってからでないとリポジトリで公開することができません。論文を投稿する際は、ジャーナルの投稿規定をよく確認しましょう。


以下の記事も参考にしてください:

 

 

書評論文に査読はありますか?

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Question Description: 

書評論文(book review)をジャーナルに投稿したいのですが、このタイプの論文の標準的なプロセスを教えてください。書評論文にも査読はありますか?または、編集者の初回チェックを通れば、後は編集/校正を経てそのまま出版されるのでしょうか?

回答

書評論文にはジャーナル内で対応する場合が多く、外部の査読者に送られることは基本的にはありません。その代わり、社内編集者が査読を行い、その編集者から修正を求められる場合があります。編集者が承認すれば、編集/校正のプロセスを経て、出版の運びとなります。ただし例外もあり、とくに人文科学分野で複数の書籍を扱う書評論文は、査読に回されることがあります。

データ共有を拒んだ著者の論文査読を拒否:査読者の対応に賛否

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データ共有を拒んだ著者の論文査読を拒否:査読者の対応に賛否

心理学の分野で起きている、データシェアリングと透明性に関する論争が、再び世間の注目を集めています。米国心理学会(APA)が発行するジャーナルのある顧問編集者が、元データの共有を拒んだ著者の論文の査読を拒否したことを理由に、辞職を迫られています。

心理学の分野で起きているデータシェアリングと透明性に関する論争が、再び世間の注目を集めています。米国心理学会(APA)が発行するジャーナルの顧問編集者、ゲルト・ストルムス(Gert Storms)氏は、著者から論文の元データの共有を拒まれたために査読を拒否したことを理由に、辞職を迫られています


ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)の心理学部教授を務めるストルムス氏は、データの透明性や共有の重要性を啓蒙する Peer Reviewers' Openness Initiative(査読者の開放性に関するイニシアチブ)を支持する研究者の1人です。このイニシアチブでは、規定の条件を満たさない論文に対して「査読を引き受けない、出版を認めない」ことを約束する査読者を募っています。データ共有を拒んだ著者の論文の査読依頼をストルムス氏が断ったのも、このイニシアチブに則ったということでしょう。


この問題は、ストルムス氏が、APAのJournal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition誌の顧問編集者として論文の査読にあたっていた際に、オープンデータを支持する意思をジャーナル側に伝えた2016年に端を発しています。同氏が査読を拒否すると、ジャーナル側は、編集委員会から身を引くよう求めました。ストルムス氏はこの要求も拒否し、「ずさんな科学を阻止する」という自身の責務を果たし続ける意思を表明しました。


ストルムス氏と共通の考えを持つ2人の編集者、ロバート・ハートスイカー(Robert Hartsuiker)氏とマーク・ブリスバート(Marc Brysbaert)氏は、Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition誌の編集者、ロバート・グリーン(Robert Greene)氏に、ストルムス氏支持を訴え、「ストルムス氏が辞職するなら自分たちも辞める」と訴えました。ハートスイカー氏は、「議論や批判的な声を受け止めず、ただ辞職を求める」ジャーナル側のやり方は不誠実であると批判しました。一方、グリーン氏によると、ストルムス氏の立場はAPAの方針(論文の投稿時や判定プロセス中に、データの共有を義務付けない)に反しており、著者に過失はないため、支持できないとしています。また、「現状では成り行きを見守ることしかできませんが、編集委員会からストルムス氏を追い出すつもりはありません。評議会で何らかの進展があるでしょう」と述べています。


心理学の分野でこのような論争が起きたのはこれが初めてではなく、過去にも、研究不正や再現不可能な研究結果に関する問題が複数回発生しています(例: オランダの心理学者ディーデリク・スターペル(Diederik Stapel)氏が執筆した高評価の論文に、いくつものデータの捏造・改ざんが存在したことが明らかになった)。カリフォルニア大学デービス校の心理学者、シミン・ヴァジール(Simine Vazir)氏は、透明性のない論文のインパクトや価値を測るのは、「ボンネットの中を確認せずに中古車を購入するようなもの」であるとして、査読中や出版後のデータ公開の必要性を説いています。ストルムス氏が支持するイニシアチブは、科学研究にはびこるこれらの問題に対処するために立ち上げられたものです。


学術コミュニティの一部は、Twitterでストルムス氏への支持を表明しており、オープンサイエンス支持者からは大きな反響が巻き起こっています。APAの評議会では、データシェアリングや透明性に関する方針の見直しを検討する必要があるでしょう。


この問題についてどのようなご意見をお持ちですか?ストルムス氏の立場を支持しますか?査読者から依頼があれば、データを共有しますか?下のコメント欄からご意見をお寄せください。


関連記事:


参考記事:

Peer-review activists push psychology journals towards open data

著者名の並び順の最後にくるのは誰が適当ですか?

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Question Description: 

著者として一番最後に名前が記されることには、どのような意味がありますか?国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のガイドラインや、「Dr. EddyのQ&Aコーナー」のオーサーシップに関する記事(学術出版におけるオーサーシップの基本について、著者名の並び順の決め方、クレジットにふさわしい著者、など)を読みましたが、並び順の最後にくる著者についての規定があるのか、どうか良く分かりませんでした。(学部長ではない)指導教官の名前は、どの位置に持ってくるのが適切ですか?最後より、2番目に記載する方が貢献度の高さを示せますか?また、最初と最後の著者の貢献度は同じですか?ご回答よろしくお願いいたします。

回答

著者の並び順には、分野ごとの慣習があります。生命科学の分野では、研究にもっとも貢献した、論文の全責任を負う著者を第一著者とします。一方、並び順の最後に記載されるのはグループリーダーや研究責任者で、重要な知識や指導の面では貢献しているものの、実際の実験や論文の執筆は行なっていないことが多いです。また、最後に記載される著者がコレスポンディングオーサー(責任著者)であるのが一般的です。とは言え、著者の並び順は、あくまでもそれぞれの分野における慣習であり、規定があるわけではありません。2人以上の著者が研究に等しく貢献している場合は、その旨を記載する必要があるでしょう。


以下の記事も参考にしてください: 著者名の順番を決める

誠意はジャーナル編集者のためならず―著者への5つのヒント

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誠意はジャーナル編集者のためならず―著者への5つのヒント

れほど内容の良い論文も、投稿規定から逸脱して粗雑に書かれていれば、ジャーナル編集者からは見向きもしてもらえません。そんなリスクを負わないための、著者のための5つのヒントをお届けします。

[本記事はウォルターズ・クルワー(Walters-Kluwer)社の著者向けニュースレター、Author Resource Reviewに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。


本記事は、Eye & Contact Lens誌の編集長を務めるテリー・モナハン(Terry Monahan)氏(文学修士)が執筆したものです。モナハン氏は、雑誌・学術誌の執筆と編集に30年以上携わり、マグロウヒル・ヘルスケア出版社(McGraw-Hill Healthcare Publications)とPLOS(Public Library of Science)で10年以上に渡って編集長を務めました。]

 

学術誌の編集者や査読者は、自分たちの仕事に誇りを持ち、論文の質を高めるために日々尽力しています。そのような専門家でも、複数のタスクを抱えて時間に追われる中でいい加減な論文を目にすると、うんざりしてしまうことがあります。そのような落胆が先入観になり、編集者にそれ以上論文を見てもらえなくなる ― そんなリスクを負いたい人はいないはずです。しかし、ジャーナルは容赦しません。


Eye & Contact Lens 誌は、論文の執筆訓練がまだ不十分な若手研究者や博士課程の学生からの投稿を積極的に受け付けています。論文が査読にたどり着くまでには、指示を含むコミュニケーションが3回程度繰り返されることもありますが、この過程を辛抱強く乗り越えた著者は、多くを学ぶことができます。ジャーナル側にとっては手間のかかる作業ですが、査読のプロセスがスムーズに進行することにもなるので、全員にメリットがあると言えます。論文が最終的にアクセプトされなかったとしても、次に書く論文は、格段に質の高いものになるはずです。このような先行投資は、ジャーナルに投稿する著者のすそ野を広げることに繋がり、論文の質の向上も見込めます。


とは言え、このような取り組みが必ずしも功を奏すとは限りません。ジャーナルの投稿規定や修正(リライト、校正、編集)の要求をことごとく無視する著者は、編集者に悪い意味で記憶されることになり、「この著者の論文は無視するように」との通達が共有される可能性もあります。最初の段階で編集者を味方に付けておくことは、何よりも重要なのです。


以下のヒントを参考にして目の前の壁をできるだけ低くし、出版への道を開きましょう:


1. 正しい英語を使う

英文誌に投稿する場合、丁寧な文章で書かれていて、句読点の誤りがなく、英語が校正済みであることは最低条件です。非英語ネイティブの著者なら、投稿前にネイティブスピーカーや英語編集者、英語校正サービスの力を借りて、レビューと修正を行う必要があります。どれほど内容が良くても、言語が不明瞭な論文は、ジャーナル編集者から優先順位を下げられてしまう場合があります。


2. 論文の価値をアピールする

編集者は、投稿された論文がなぜ重要なのかを知りたがっています。研究や視点の独自性がどこにあるのかが、カバーレターやイントロダクションで明確に述べられていますか?テーマが難解なら、そのように伝えるべきですし、その妥当性を説明する必要があります。臨床研究であるなら、その新規性と妥当性を明確に説明しましょう。編集者から新規性がないと判断された論文はリジェクトされてしまう可能性がありますが、その判断が間違っている可能性もあります。カバーレターとイントロダクションで、自分の考えを可能な限り盛り込むようにしましょう。


3. 編集者に論文を読んでもらえる努力をする

ジャーナルは、扱っている対象範囲、テーマ、論文の種類や、著者向けの詳しい投稿規定を用意しています。ターゲットジャーナルとの関連性を示す魅力的なタイトルやキーワードを使用することで、編集者の興味を引くことができるでしょう。ただし、編集者は、本文を読むまでもなく、質の悪い論文を見抜けるものです。たとえば、参考文献のフォーマットが不適切であれば、その論文は真っ先に弾かれてしまいます。ジャーナルの投稿規定に従っていない論文は、リジェクトの筆頭候補に挙げられます。


投稿規定は、論文執筆時のガイドとして、また投稿前の最終チェックリストとして活用しましょう。何か問題があれば、編集者に連絡を取り、その都度解決するようにしてください。編集者の連絡先は、ジャーナルの投稿ページの投稿規定に記載されています。


4. 自己剽窃に注意

「剽窃(盗用)」は、他人の成果物を自分の成果物として提示することとして広く知られています。一方、「自己剽窃」は、剽窃と同様に研究不正とみなされる行為でありながら、その認知度は決して高くありません。


多くの学術雑誌(Eye&Contact Lens誌を含む)で使用されている剽窃防止ソフトを提供するiThenticateが発表した白書では、「自己剽窃とは、自身の過去の論文の全体または一部を再利用すること」と定義されています。つまり、著者が自分で自分を「剽窃」することです。自己剽窃の問題は、原著論文を保護する著作権法から生じるほか、原著論文とその関連論文が未出版であることを著者が出版社に保証することから生じます。


この問題は、あくまで「引用」の範囲として認められる場合と、「剽窃」として出版社への著作権侵害に該当する場合の線引きが難しく、多くの課題が残っています。明確に定義することができないため、出版社と編集者の間でも、どれくらいのテキスト量を認めるべきかについて意見が異なっています。著者が自著論文を引用する場合は、その量を制限するなどして慎重に行う必要があるでしょう。出版社は、剽窃検知ソフトを使用して、(自著論文であるか否かに関わらず)過去の論文からの過度の引用の発見に努めています。これを踏まえて、論文は慎重に執筆し、リジェクトされるリスクを軽減しましょう。


剽窃と自己剽窃の詳しい情報については、出版規範委員会(COPE)のウェブサイトをご覧ください。著者と編集者向けの、検索も可能な便利なリソースです。テキストの再利用の限度やオーサーシップに関しては、Chicago Manual of Styleをご覧ください。


5. 査読者の各コメントに丁寧に対応する

査読プロセスは、研究の進め方、結果の示し方、そしてその結果の意義を明確に説明して学術的価値を付与する最善の方法を示してくれる、豊かな情報源です。査読に回されるのは、編集者が価値を見出した論文だけです。そして、編集者が査読を依頼するのは、論文を慎重に評価できる専門性と能力を持つ、信頼のおける査読者です。


論文の修正を依頼されたら、査読者からのコメントの1つ1つに丁寧に対応しましょう。修正を加えた箇所を具体的に示し、そのテキストをハイライトしましょう。修正した論文が編集者にとって分かりやすいほど、著者への信頼は増し、追加の修正なしでアクセプトされる可能性が高まります。

 


何より重要なのは、できる限り編集者の興味を引き付けること、編集者を尊重する意味で論文を丁寧に執筆すること、査読で指摘された点を真摯に受け止めることです。これらのことを守れば、アクセプトまでの道もスムーズになり、胸を張って論文出版にこぎつけられるでしょう。

投稿論文のステータスが「New Submissionの」まま約1か月経過しました。

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Question Description: 

こんにちは、Dr. エディ。質問があります。 Springerの外科系雑誌に論文を投稿しました。 2017/11/14にsubmitし、「Current Status」が「New Submissionの」まま約1か月経過しております。このまましばらく待つべきでしょうか?
あるいは、投稿論文の現状について編集者に問い合わせでもいいものでしょうか?
アドバイスお願いします。

回答

大手出版社が扱うジャーナルには、膨大な量の論文が投稿されます。その結果、初回判定までのプロセスにも時間がかかります。ジャーナルに問い合わせを行うのはまだ早いので、もうしばらく待ってみましょう。12月は休暇を取る人も多いので、論文の処理にはより一層の時間がかかるかもしれません。1月の2週目になってもステータスが変わらなければ、ジャーナルに問い合わせを行なってみてください。


関連記事:


「非英語ネイティブの若手研究者ほど、剽窃を疑われやすい風潮があります」

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「非英語ネイティブの若手研究者ほど、剽窃を疑われやすい風潮があります」
パキスタン科学アカデミー事務局長、クエイド・アザム大学(パキスタン、イスラマバード)生命工学部長。パキスタンで苦労して学位を取得した後、日本で博士号と複数の奨学金を取得。熱意に満ちた研究者として多くの支持を集め、科学的発見が人類に恩恵をもたらす可能性を信じている。生命倫理に関する活動に対し、UNESCOアヴィセンナ科学倫理賞(2015年)を受賞。これまでに300点以上の学術出版物(ジャーナル論文、学会論文、書籍など)を執筆している。

ザブタ・カーン・シンワリ(Zabta Khan Shinwari)博士とは、アジア科学編集者会議2016(ACSE、ドバイ)で初めてお会いしました。学術研究や学術出版および科学研究に関する倫理的問題について実りある意見交換を行う中で、博士が自分の周りの世界を変えるために奮闘する情熱的な科学者であることを知りました。今回のインタビューでは、そのときの会話の続きとして、学術出版に関するさまざまなテーマについてお話を伺いました。


ザブタ・カーン・シンワリ博士は、パキスタン科学アカデミーの事務局長と、クエイド・アザム大学(パキスタン、イスラマバード)の生命工学部長を務めています。熱意に満ちた研究者として多くの支持を集める博士は、科学者が科学的発見をし、一般の人々とコミュニケーションを深めることで、人類に恩恵をもたらすことができると信じています。また、先住民族の利益と保護をはじめとする生物多様性保全の支援活動のほか、生命倫理や、バイオテクノロジー分野におけるデュアルユース教育の重要性を啓蒙する活動でも知られています。


現代の植物バイオテクノロジーにおける分子分類学・系統分類学を専門とする博士は、パキスタンの厳しい環境の中で学位を取得後、日本で博士号を取得し、博士研究員としてさまざまな研究に従事しました。研究活動の中で300種以上の植物遺伝子を特定しましたが、その多くは過酷な気候やストレスへの耐性があるものでした。また、パキスタン自然史博物館、パキスタン国立農業研究センター、世界自然保護基金(WWF)などの各機関とも関わりを持っています。コハト科学技術大学(KUST)では、副総長として大学のインフラ整備や女性の高等教育への進学率向上の実現において中心的な役割を果たしました。パキスタンの地方部族コミュニティにおける持続可能な天然資源の利用促進や、国内の恵まれない地域の人々が高等教育を受けられる環境作りなどにも尽力してきました。バンヌ科学技術大学 やKUST医療科学研究所(KIMS)の設立にも携わり、カルシ・リサーチ・インターナショナル(民間の研究機関)の最高経営責任者や、カルシ大学(パキスタン、ラホール)の副総長を歴任しています。


シンワリ博士は、倫理、生命倫理、バイオセーフティ、バイオテクノロジーのデュアルユースへの理解を啓蒙する活動により、UNESCOアヴィセンナ科学倫理賞(2015年)を受賞しました。また、これまでに300点以上の学術出版物(ジャーナル論文、学会論文、書籍など)を執筆しています。


インタビュー前半では、科学者と一般の人々の間に横たわる溝と、その埋め方について伺いました。後半の今回は、科学研究と科学コミュニケーションに関わるすべての人々(若手研究者、ベテラン科学者、政策立案者、ジャーナリスト、科学コミュニケーションの専門家)に向けたアドバイスを頂きました。また、パキスタンをはじめとするアジア諸国の科学者が直面する障壁についても伺いました。話の中でたびたび登場した問題は、科学者への支援体制があらゆる局面において不足しているということでした。


若手研究者がキャリアの序盤に論文を出版することを妨げているものは何だと思いますか?

個人的な経験から、英語を母語としない研究者には、より一層の苦労があると思います。1つ目の障壁は、ジャーナル出版界の共通語は英語ですが、すべての人が英語をネイティブレベルで扱えるわけではないということです。これは、非英語ネイティブにとって大変不利な状況です。このため、非英語ネイティブは、論文出版に苦手意識のようなものを抱えています。内容以前に言語上の問題で論文が弾かれてしまう可能性があり、英語ネイティブの研究者と同じ土俵で戦えていないのです。


障壁はほかにもあります。現在、私は経験を積んだ研究者/論文著者であり、ジャーナルから出版の手助けを依頼されるような立場にいます。これまでに積み上げてきた信頼があるので、書いた内容の真偽を疑われるようなことはありません。しかし、我々の地域の若手研究者は、そう上手くはいきません。確かなエビデンスと共に最高の論文を投稿したとしても、その成果物が、学術関係者から無条件で信頼されることはないでしょう。今日では、若い非英語ネイティブほど、剽窃などの非倫理的出版行為を疑われてしまいます。研究不正が世界中で巻き起こっている現状では、経験の浅さが論文出版の障壁となっているのです。


3つ目の障壁は、高額な出版費用です。より多くの論文を発表しなければならない中で、発展途上国の著者たちは、研究費を受給したとしても、出版費用まで賄うことは困難です。この問題には貨幣価値の問題も含まれています。ジャーナル出版費用(オープンアクセスも含む)は、ドル、ユーロ、またはポンドで支払う必要がありますが、発展途上国の研究者は、ドルの価値に及ばない通貨でこの費用を賄わければなりません。若手研究者が論文出版の機会を失わないためにも、このような不公平は是正されるべきです。


博士課程の学生やポスドクたちは、キャリアのあらゆる段階で苦労することになります。厳しい世界であり、その道を駆け抜けるためには多くの支援やトレーニングが必要です。そして、彼らに必要な手助けをするのは、年長の学術・出版関係者の責務だと思います。

若手研究者に向けた、出版に関するヒントやアドバイスを頂けますか?

アジア諸国で行われる研究の多くは、地域固有の問題に関するものです。研究テーマがその地域に則したもの(地域固有の動植物や気象現象など)である場合、英文国際誌に論文が掲載される可能性は低いでしょう。ジャーナルの編集者は、論文が世界にどのような影響を与えられるかを考慮するので、地域色の強い論文は選ばれにくいのです。したがって、限定的なテーマで研究を行なっている場合は、その知見と世界/国際社会との関連性を述べるようにしましょう。あるいは、地域固有のテーマを扱うジャーナルを探す必要があるでしょう。国際誌はさまざまな国の人々が読むので、自分の論文が読者やその分野にとってどのように有益かを、読者に伝える必要があるのです。アジア諸国の政策立案者たちは、社会に恩恵をもたらす、地域密着型の研究を促す政策を創出する必要があると強く思いますが、これはまた別の話になります。


もう1つ重要なアドバイスは、インパクトファクターに執着するのは無意味だということです。これは繰り返し強調されていることですが、ここでもう一度言わせてください。研究者の唯一の使命は、研究を行い、それを発表することです。「出版するか消え去るか(publish-or-perish)」という文化に追随することではありません。


最後に、国際的な学術・出版の世界に飛び込みたいなら、共同研究を行うことを検討してください。あなたと一緒に研究することに興味を持っている外国の研究者を探しましょう。共同研究は知識の交換が行える貴重な場であり、国際的な視野が身に付くだけでなく、コミュニケーションスキルや研究スキルの著しい向上が見込めます。

アジア諸国で年長の研究者・学術機関・政府が研究者を支援し成長を手助けするためには、どのようなことができますか?

政府は、地域の研究の振興に努め、科学者がそれぞれの地域の発展に繋がるようなテーマで研究を行える環境を作らなければなりません。これは、科学者の職を確保するだけでなく、彼らが社会に貢献するための手助けになります。国際誌での論文出版が不要だと言いたいわけではありませが、インパクトファクターやグローバルな活動に目を向けすぎると、早急に改善すべき地域の問題が置き去りになってしまいます。研究者の出世は、インパクトファクターが高いジャーナルでの論文出版数ではなく、社会に与えたインパクトによって判断されるべきです。そして、研究者の国際的露出を高めたいなら、国際学術機関と連携し、共同研究を行う機会をより多く創出する必要があるでしょう。

世界の研究界の中で、パキスタンの立ち位置はどの辺りですか?

研究の質や量という意味で、パキスタンは比較的良くやっていると思います。最近発表されたトムソン・ロイターの報告によると、「過去10年間でパキスタンの科学的生産性は4倍以上も増加しており、2006年の論文数が約2000本であったのに対し、2015年には9000本以上に増えています。また、パキスタンを拠点とする著者による被引用数が高い論文の数は、2006年の9本から2015年には98本と、10倍以上増加しています。パキスタンはこの10年の間に、BRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)と比較しても、被引用数が高い論文の割合がもっとも高い国に浮上しました」。加えて、国内の博士号取得者も、この数年で増加しています。


しかし、これらの結果を額面通りに受け取るだけでは不十分でしょう。改善すべきことはいくつもあります。個人的には、研究者が自分たちの研究に専念できない環境があると感じています。このように考える理由はいくつかあります。まず、パキスタンの研究者は、3人の国際審査員の承認を得ることで博士号を取得できます。そして、博士論文を提出する前に、最低1本の論文をインパクトファクターの付与されたジャーナルで出版しなければなりません。このようなプレッシャーの中で、パキスタンの研究者は出版至上主義の文化に押し込まれてしまい、国内の問題を解決する研究テーマよりも、論文を出版しやすいテーマを選択するようになってしまいます。教育や研究の昇進システムに欠陥があることで、国の発展に寄与するような科学研究が進まない状況に陥っています。政策立案者や政府、学術関係者は、20年後に効果が期待できるような研究(健康問題、生物医学的ソリューション、環境問題など)に焦点を当てるべきだと認識すべきです。それでも少しずつ変化が見られ、パキスタンはイノベーションに向けて確実に歩を進めています。

パキスタンの学術関係者は、研究・出版の倫理原則をどの程度意識していますか?

率直にお話しましょう。私の感覚では、研究・出版に関する倫理問題を意識しているパキスタンの研究者は、全体の5%程度だと思います。これは、先ほどお話した学術研究とその評価システムに起因しています。過度なプレッシャーを与えられた研究者は、インパクトファクター付きジャーナルでの出版のためなら、手段を選ばなくなります。重要な別の点は、研究者に倫理的出版慣行に関する教育を行う場合、剽窃を例に挙げて、原文の要約/言い換えを行うか、または出典を明記するよう指導して済ませることがほとんどだということです。研究者が犯しがちな非倫理的行為はほかにもあるのに、それらの不正行為を避ける方法についての指導が行き届いていないのです。たとえば、データの改ざんを防ぐには、「データの捏造/改ざんはやめましょう」と言う以外に、これという解決策や対策はありません。あるいは、実際は10人分の患者データしか集めていないのに、データをより良く見せようとして、100人分のデータがあるように書いてしまうケースもあります。研究者のこのような行為を防ぐためには、どのような訓練が必要でしょうか?データの捏造/改ざんは、剽窃より重大であるとされているにも関わらず、あまり議論されることがありません。もちろん、剽窃も許される行為ではありませんが、データの捏造と改ざんは、より悪質な行為だと思います。

研究者として学んだもっとも重要なことは何ですか?

興味深い質問ですね!少し考えさせてください。

 

  • まずは、すべての研究者が、何かしら良いことを生み出す能力を持っているということです。少々哲学的な話になりますが、研究者は、自分の研究が科学・社会・人類に与える影響を考えつつ、より大きな視野を持つ必要があると、長年の経験から思うようになりました。これは、地に足をつけるという意味でも、モチベーションを維持して良いパフォーマンスを発揮するためにも効果的です。自分自身と自分の研究が与え得るポジティブな影響を信じ続けていれば、達成できないことなど何もありません。
     
  • また、成功への近道は学術界には存在しないということも学びました。努力がすべてです。同時に、その努力は正しい方向に向かっていなければなりません。研究者は、プレッシャーから逃れるために、アラジンの魔法のランプのような楽な道を求めがちです。やるべきことをしっかりやっていれば、目的地に必ずたどり着けます。
     
  • そして、学術界での成功は、一朝一夕に達成できるものではありません。小さな達成の積み重ねが、いつしか大きな成功となるのです。
     
  • 最後に、研究者としての成功は、有名になることではありません。研究者として経験を積み、成功を収めるほど、社会に対する責任や、自分を頼ってくれる若い研究者、ジャーナル編集者、研究仲間への責任が増すものです。


インタビューは以上です。シンワリ博士、研究者に向けた深いアドバイスや率直なご意見を共有して頂き、ありがとうございました。科学研究や科学コミュニケーションに関するさまざまな問題について改めて考えるきっかけを頂き、とても有益なインタビューとなりました。皆様にも伝わるものがあったなら幸いです!


インタビュー前半はこちらをご覧ください。

参考文献のミスがリジェクトに繋がる可能性はありますか?

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Question Description: 

大幅修正を行なった論文を高名なジャーナルに再投稿したのですが、査読コメントへの回答として示した参考文献にミスが1つあったことに、送った後で気付きました。すぐに編集者に連絡を取ると、「論文は現在査読中のため、編集を加えることはできない」との返答がありました。この状況をとても心配しています。ほかの箇所にミスはないのですが、論文がリジェクトされる可能性はありますか?

回答

その他の修正がしっかり行われているなら、この1つのミスが論文に悪影響を与えることはないでしょう。エラーがある旨を編集者にもう一度説明し、正しい参考文献を提示すると共に、査読者にこの情報を伝えてもらうようお願いしてみましょう。可能なら、編集部ではなく担当編集者に直接連絡を取ってください。編集部宛てのメールは、査読者とやり取りをする権限がない編集アシスタントが対応している場合が多いですが、担当編集者なら、査読者と連絡を取り合っている可能性が高いので、あなたからの情報を伝えてくれるでしょう。

弦理論解明のカギは重力波にあり?

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弦理論解明のカギは重力波にあり?

弦理論(ひも理論)は、物理学においておそらくもっとも議論が尽くされた量子重力理論ですが、今、この理論が再び議論の対象になっています。ただし、今回は弦理論の正しさが証明されることになるかもしれません。

弦理論(ひも理論)は、物理学においておそらくもっとも議論が尽くされた量子重力理論ですが、今、この理論が再び議論の対象になっています。ただし、今回は弦理論の正しさが証明されることになるかもしれません。


弦理論は、すべての素粒子は一次元の弦によって構成されており、これらの弦が宇宙空間を伝搬し相互に作用しているという仮説で、「余剰次元(隠れた次元)」の存在も示唆していますが、科学的に証明されているわけではありません。しかし、Journal of Cosmology and Astroparticle Physics 誌で最近発表された論文で、余剰次元の存在の解明が試みられています。それは、弦理論を直接的に裏付けるものとなります。重力波が存在する証拠を科学者たちが発見したのは、およそ2年前です。また、時空の歪みとして捉えられている重力波の存在を初めて予想したのは、アインシュタインです。


マックス・プランク重力物理学研究所の研究者らが最近発表した論文では、重力波によって余剰次元の存在を証明する方法が2通り示されており、この中で、「異次元が存在すると仮定すると、重力波は確実にその次元に波及する」と説明されています。また、余剰次元の存在を明らかにするためには、高周波帯の重力波の検知と、余剰次元の「呼吸」を検出することが鍵になることを立証しています。きわめて微細なものであると考えられている余剰次元は、弦理論の根幹をなすものです。したがって、この次元の存在が明らかになれば、弦理論の正しさは揺るぎないものになるでしょう。


ソース:
doi: 10.1088/1475-7516/2017/06/048

論文タイトルをつけるための5つのヒント

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論文のもっとも大事な要素の1つが、タイトルです。それは、論文を前にした読者、ジャーナル編集者、査読者が、最初に目にするものだからです。タイトルは、目を引くものであるだけでなく、研究のエッセンスを捉えたものでなければなりません。こちらのビデオで、パーフェクトな論文タイトルのつけ方を学びましょう。


体系的な原稿のまとめ方についてもっと詳しく知りたいという方は、論文の枠組みの作り方について解説した、こちらのビデオをご覧ください。


また、原稿の執筆や出版について分からないことがある方は、こちらからお気軽にご質問をお寄せください。

表の引用に対する参照文献著者への報告方法

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Question Description: 

自分たちが導出した式の検証データとして、論文に記載された表の詳細データを利用しました。参照文献で論文を引用し、表の変数名を自分たちのものに書き換えました。さらに簡単な計算から得られる変数を自分たちのデータ表に追加しました。また引用した論文で用いられた従来の式を参照用に用いました。原稿はアクセプトされて出版待ちです。参照論文の著者に引用のお願い(報告)をどのようにすべきでしょうか?(12/8のRoohiさんのYour Publication Coach "D'ont be a table thief!"を読んで心配になりました。

回答

私の理解が正しければ、心配されているのは、別の人が発表した図版(表)を再利用する際の許可の取得についてですね。出版済み論文の表内のデータを利用した上で、少々の変更を加えてその表を再利用しようとしているのであれば、その論文の掲載ジャーナルの出版社から許可を得る必要があるでしょう。論文が出版されると、著作権は著者からジャーナルに移る(オープンアクセス出版は除く)ので、ジャーナルからの許可を得る必要があるのです。ジャーナルのウェブサイトに、図版の再利用の許諾申請方法について、説明が載っているはずです。


出版済み論文が購読型ジャーナルに掲載されたものなら、ジャーナルのウェブサイトを参照して、許諾申請のメールを送りましょう。許可が得られたら、あなたの論文が掲載される予定のジャーナルに、その旨を伝えましょう。一方、出版済み論文がオープンアクセスジャーナルで出版されたものなら、許可を得る必要はないでしょう。オープンアクセスモデルでは、論文全体に自由にアクセスでき、データの再利用にも制約はありません。


あるいは、出版済み論文の表そのものは使わず、表のデータのみを計算に利用して自分なりの表を作るのであれば、許可を得る必要はありません。その場合は、すでに対応されているように、適切に出典を明記すれば問題ありません。


数式の再利用については、参考文献の引用を適切に行いさえすれば、出版済み論文のオリジナルの数式を、参考として含めるだけで十分です。


関連記事:

senior editorからの反応がなく、editorial processが進まない。

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Question Description: 

7月に論文を投稿し、8月にminor revisionという結果になり、すぐにreviseした論文を提出しました。 それ以降、全く、statusがeditorial assessmentから変更なく、4か月が経とうとしています。その間に2回reminderを送りましたが、変更ありませんでした。 先日、3回目を送り、editorial officeから今の時点でsenior editorからの返答は全く無いとの謝罪とsenior editorに優先的に私の論文を処理するようにとメールをしたとの返事がきました。 それから約1週間たちますが、全く進んでいる形跡がありません。 さすがに、誠意がないのではと苛立つ気持ちがわいています。 今まで長期間待ったのでwithdrowは避けたいです。reminderを送り、senior editorを変更してもらうというのは可能でしょうか?

回答

ご質問内容からすると、ジャーナルと最後にコミュニケーションを取ったのは約1週間前で、その際、シニアエディターがあなたの論文を優先的に処理するよう取り計らうとの回答を得たということですね。ジャーナルの査読プロセスに3~4か月かかるのは、けっして珍しいことではありません。再提出された修正原稿へのジャーナル編集者の対応として考えられるのは、次の2パターンです:


1. 修正箇所を自分で確認し、査読者に送る必要があるかどうかを判断する


2. 最初に査読を担当した査読者に修正原稿を送り、修正が十分かどうかを確認してもらう


あなたの原稿は、最初に査読を担当した査読者に送られたものの、その査読者の都合がつかないか、あるいはまだ確認を終えられていない、という可能性も考えられます。そうした状況なら、4か月の遅れにも説明がつきます。あなたのメールを受け取った編集部は、シニアエディターにレビューを改めて要求し、プロセスの進捗確認を行なったようです。その時点からまだ1週間しかたっておらず、ジャーナルはあなたの問い合わせに反応しているので、心配には及ばないと思います。再度リマインダーを送るとしたら、2週間ほど待ってから進捗状況を問い合わせてみるのがよいでしょう。シニアエディターの変更を求めるのは、さらなる遅れにつながる可能性があるため、お勧めできません。あなたの原稿は出版に近づきつつあるので、取り下げて別のジャーナルに投稿し直すことも賢明ではないでしょう。そうなれば、ジャーナルの評価プロセス全体を一からやり直すことになるからです。


あなたの原稿は軽微な修正が必要と判断されただけなので、出版の可能性は高いと思います。今は忍耐強く待ち、ジャーナルに定期的にフォローアップを行うのが最善の策でしょう。


関連記事:

カバーレターで、"research article"で難しい場合、"research note"あるいは"research report"で審査して欲しいことをあらかじめ伝えるべきか。

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Question Description: 

どんな形でもいいので英語で出版させたい論文があります。投稿先の雑誌の論文は、"research article"・"research note"・"research report"の3つがあります。著者としては、"research article"が第一希望ですが、これが難しい場合は"research note"あるいは"research report"で審査されても構わないと思っています。このことをカバーレターで伝えておくべきでしょうか?もし伝えるべきであれば、カバーレターでの記載例(英語)も併せて示して頂けるとありがたいです。

回答

いろいろな種類の論文を出版しているジャーナルに論文投稿を行う際は、論文の種類をしっかり特定することが極めて重要です。論文は、内容、焦点、得られた結果の意義によって幅広く分類されています。


報告しようとしている論文が、そのサンプル数、方法、分析、得られた結果等の点で正規の長さの論文には見合わなくても、ターゲットジャーナルの読者の関心領域に対するメッセージや観察事項が含まれているなら、research noteもしくは短報として投稿することが可能です。


ジャーナル編集者や査読者は、原著論文の基準には達しないものの示唆に富む研究については、同じジャーナル内で、research noteもしくはresearch reportとして投稿するよう提案することがよくあります。


それでもなお、ご自身の論文が、原著論文としてよりも、短報としての方が好ましい査読報告書を得られる可能性が高そうだと考えるのならば、おっしゃる通りにカバーレターに書くことはできます。 あなたの論文のメリットと、それが原著論文としてジャーナル読者の興味をどのように引くかを明確に述べた上でなら、カバーレターに、おっしゃるような代案を追記することは可能です。


英文の例は以下の通りです:


"The current manuscript, if published in its entirety in your journal as an original article, will substantially contribute to the current understanding of _____________ (include the name of the topic). Moreover, I believe, disseminating the insights gained from the key findings of this study is important to broaden the perspective of the practitioners in the field and motivate further exploration. Therefore, if required I am willing to restructure the manuscript and present the important observations of the study even in the form of a Research Report or Research Note in your journal.’’

(本報は、貴ジャーナルに原著論文として掲載された暁には、【テーマ】の現在の知見におおいに貢献するものと考えます。また、本研究における主要な結果から得られた洞察を広めることは、分野の専門家の視点を広げるほか、さらなる探求を促す上で重要だと考えます。したがって、もし必要であれば、原稿の構成を変え、重要な観察結果をResearch ReportもしくはResearch Noteとして提示することもやぶさかではありません。)


学術出版におけるさまざまな論文の種類について、以下の記事も参考にしてみてください。


アクシオス・レビュー、査読サービス事業からの撤退を発表

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アクシオス・レビュー、査読サービス事業からの撤退を発表

独立査読機関のアクシオス・レビュー(Axios Review)は今年2月、3月1日をもって業務を停止し、以後の査読依頼を受け付けないことをTwitterで発表しました。アクシオス・レビューの創始者/マネージング・エディターは、今回の決断の理由を「会社を運営していくのに十分なだけの査読依頼はありましたが、むしろその量に対応し続けることが難しくなってきました」と説明しています。

2017年2月23日、独立査読機関のアクシオス・レビュー(Axios Review)は、3月1日をもって業務を停止し、以後の査読依頼を受け付けないことをTwitterで発表しました。アクシオス・レビューの創始者/マネージング・エディターのティム・ヴァインス(Tim Vines)氏は、今回の決断の理由を次のように説明しています。「会社を運営していくのに十分なだけの査読依頼はありましたが、むしろその量に対応し続けることが難しくなってきました」。


アクシオス・レビューは、2013年にサービスを開始して以来、従来の出版システムに革新をもたらす可能性を秘めた企業としてその地位を確立し、2016年には非営利組織として再スタートを切ることを発表していました。同社が提供していた査読サービスは、「有料」、「独立」というコンセプトに基づいて提供されていました。著者がジャーナルに論文を投稿する前にアクシオスに査読を依頼すると、アクシオスは受け取った論文を厳格に審査し、ターゲットジャーナルの対象範囲や基準を満たしているかどうかを判断します。その上で、論文に適していそうなジャーナルにアプローチして、出版を検討する意思を確認します。このプロセスを踏むことで、著者は、ジャーナル選び→投稿→リジェクト→ジャーナル選び…、というストレスフルなループに陥るリスクから逃れることができるというわけです。アクシオスの編集委員会と査読者たちは、論文の質を高め、新規性の欠如や研究領域の不一致によるリジェクトの可能性を取り除き、論文が出版されるまでの期間を可能な限り短縮することを目指して、サービスを提供していました。


ヴァインス氏は、The Scholarly Kitchenのフィル・デイビス(Phil Davis)氏とのインタビューで、アクシオスの閉鎖を決断した3つの要因を挙げています。1つ目の要因は、アクシオスによる査読を経ても、さらに査読を行おうとするジャーナル編集者が多く、この追加査読の必要性に納得できずに不満を抱いていた著者らの存在です。ヴァインス氏はこの点について、「そのような著者は、ジャーナルの編集者が念には念を入れるという意味で、独自のルートで論文を査読に回したいと考えるのが当然であることを理解していなかったのでしょう。論文がアクシオスの査読を受けていたとしても、ジャーナル編集者は自由に判断を下すことができる、という点を著者に明確に示しておくべきでした」と語っています。


2つ目は、同社が査読費用を250ドルに設定して以降、成長が低迷したことです。費用が発生することに過剰に敏感になった著者らは、支払いを躊躇するようになりました。オープンアクセスの出版費用は、(生態学や進化論などの)分野によってはアクシオスの査読費用よりもはるかに高額です。加えて同社は、著者がジャーナルに支払うAPC(論文掲載料)から査読費用を差し引く契約をBioMed Central傘下のジャーナルと結んでいました。この著者らの反応に、ヴァインス氏も驚きを隠せなかったと言います。


3つ目は、学術コミュニティの変化(アクシオスが提唱した新たな出版モデル)への適応力の乏しさです。「ビジネスの世界に転身した友人たちは、私たちの事業が失敗に終わったことに困惑しています。彼らは常に、コストと引き換えにどれほどの時間/労力を削減できるかという視点で、サービスを買うことの価値判断を行なっています。学術の世界では、投稿・再投稿を繰り返す実りのない数ヶ月をカットできたとしても、250ドルを支払うことをためらうのです。この事実から言えるのは、研究者たちが、自分の時間や部下/学生の時間を過小評価しているということです」。1年前にエディテージが行なったインタビューで、ヴァインス氏は次のように述べています。「学術コミュニティにおいて、独立査読サービスが学術出版の標準ルートになる日が来ることを切に願っています」。


Peerage of ScienceRubriqなども、独立査読サービスを提供する機関です。Peerage of Scienceのワークフローで特徴的なのは、投稿とレビュー、査読のレビュー、論文の修正/アップロード、最終的な論文の評価、などの段階別にサービスを選択できる点です。Rubriqにはさまざまな研究領域の研究者が在籍しており、2週間以内に査読を完了できることが売りになっています。どちらのサービスも、アクシオスのワークフローとは異なっていますが、将来的にアクシオスと同じ問題に直面するか、さらなる発展が続いていくのか、その動向が注目されます。


今回のアクシオスの決定は、独立型の、または移管可能な査読というコンセプトが、サービスとして長期的に持続可能であるか、という問いを投げかけています。従来型の学術出版ワークフローが深く根付いている現状において、学術界は、変化や新たな出版ワークフローに適応できるか否かを試されていると言えます。たとえば、論文を直接出版するわけではないアクシオスのような第三者に費用を支払うことへの著者の抵抗や、ジャーナルが独立機関による査読を信頼していない、などの課題に対する適応力が試されます。また、査読は対象研究領域に熱意を持つ個人が提供する無料奉仕活動である、との見方が一般的な中で、査読の商業化自体が従来のシステムに比べて受け入れられにくいという側面もあります。


アクシオス・レビューの撤退が、今後の査読システムの先行きを暗示するものとは言えないまでも、どのようなワークフローが長期的に持続可能なシステムとして成功するのか、また、出版コミュニティはそのようなワークフローの実現をどのようにサポートできるのかを、真剣に検討し議論する必要性が示されていることは確かでしょう。


参考記事:


新しい査読モデルについてどう考えますか?現在の査読システムに満足していますか?この問題についてご意見がありましたら、下のコメント欄からぜひコメントをお寄せください。

EIインデックスへの登録条件について教えてください

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Question Description: 

EI(Engineering Index)に論文を登録したいのですが、その登録条件について分からないことが1つあります。条項の中に「参考文献はローマ字表記とする」と書かれているのですが、これはどういう意味ですか?ご回答よろしくお願いいたします。

回答

ローマ字(ラテン文字)は、英語を書くときに使うアルファベットで、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語などでもアルファベットを使用します。この条項の意味するところは、「論文内で引用したすべての参考文献を、ローマ字で表記してください」ということです。つまり、中国語や日本語の論文を引用したとしても、参考文献を書くときはローマ字で表記する必要がある、ということになります。


こちらの記事も参考にしてください: Journal indexing 101: Understanding the basics

分析法バリデーションのガイドライン: 論文の再現不可能性と撤回を避けるには

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分析法バリデーションのガイドライン: 論文の再現不可能性と撤回を避けるには

研究結果が再現不可能であった場合、その論文は出版されるべきではありません。なぜなら、再現不可能な手法を用いれば、ほかの科学者の時間、労力、資源、予算を無駄遣いすることになるからです。再現不可能な論文は撤回されるべきであり、その欠陥を明らかにする必要があります。

とくにハードサイエンス(自然科学)や工学の分野において研究者としてのキャリアを築く上で、実際の実験を行うのは、プロセス全体の一部でしかありません。ハードデータの収集を含む研究開発を進めるためには、事前にデータ収集戦略(一般的に「研究手法」という)を練る必要があります。 研究手法とは、有効なデータを導く実験を行うための具体的な方法のことで、論文の出版前に、再現性や反復性を実証することができるものです。研究者には、研究を慎重に進め、得られたデータの検証(バリデーション)を行い、再現・反復が可能であることを立証する責任があります。生物学、生物化学、生物医療を始めとする分野での研究開発では、実用的で有効な分析データの収集に依存する部分が大きいため、何らかの形の分析手法が必要なのです。


分析法バリデーション(Analytical Method Validation、AMV )


メソッドバリデーションにおいては、分析方法に関する医薬品規制調和国際会議(ICH)など、一般に認められた組織が定めた基準を満たす、最適化された手法を採用する必要があります。ICHは基本的に、規制機関や医薬品、バイオ医薬品業界からの分析法のバリデーション方法に関する情報を取り入れています。ICHのガイドラインの一部は、それらの分析法を検証するために認められたアプローチについて、すべての加盟国の合意が得られています。その後これらが国際製薬機関(米国食品医薬品局、欧州医薬品庁、日本薬剤師会など) による承認を受け、一般的な処方薬としての承認や取引の管理が行われるのです。これらのガイドラインは、機関に管理されていない店頭医薬品には適用されません。分析法バリデーション(AMV)には、併行精度(repeatability)、室間再現精度(reproducibility)、頑健性(robustness)、堅牢性(ruggedness)、システム適合性(system suitability)、検出限界(limits of detection)、定量限界(limits of quantitation)など、多くの項目があります。基本的には、医薬品や生物医薬品および規制対象分野において、最終的に使用される分析科学的手法の妥当性、有用性、再現性を保証することを目的としています。動物実験、ヒト臨床研究、およびマーケティングに関する規制認可を得ようとする企業は、これらのICHガイドラインに準拠する必要があります。ただし、学術誌に論文を投稿する個人は、このガイドラインに従う必要はありません。実際、ジャーナルや編集者、査読者は、著者にAMVの使用に関するガイドラインに従うことを義務付けていません。


分析法の基準を設ける組織はICH以外にも存在しますが、ICHほど知名度の高い機関はありません。ICHは、すべての医薬品や生物医薬品関連企業、関連する慣行、米国食品医薬品局を含む主要規制機関を管理しています。ICHに加え、米国立標準技術研究所(NIST)やその他の科学機関も、バリデーション法の開発・適用に関する独自のガイドラインを設けています。たとえば、バリデーション・テクノロジー研究所(I VT)は、バリデーションを専門とする有名な民間組織で、バリデーションに関するあらゆるテーマを扱う老舗オンライン・ジャーナル、Journal of Validation Technology(JVT)誌を定期刊行しています。


多くの書籍、学術誌、レビュー論文、雑誌、ウェブサイトなどで、AMVについて熱心な議論が展開されています。たとえば、ICHのAMVガイドラインは、オンライン上で簡単に見つけることができます。このガイドラインに関連するキーワードで検索すると、あらゆる機関が発行している文献がヒットします。研究者は、論文投稿に先立ち、独自の手法でAMVを実施するために、これらの基本的ガイドラインを認識しておかなければなりません。また、薬事的承認や規制当局の承認を得るためのメソッドバリデーションは、その他の産業や組織の慣例と異なる場合があることも理解しておく必要があります。一般的に、AMVを実施する科学者のほとんどが、ICHのガイドラインに従っています。しかしながら、米国または海外の規制当局への提出書類において、同ガイドラインの遵守を義務付けられているのは、医薬品・生物医薬品分野だけです。世界中の科学誌の中でも、論文投稿時にこの要求をしているジャーナルはありません。すべてはその場その場の著者の判断に任されているのが現状です。査読者が稀に判断を下すケースもありますが、著者への投稿規定の中で、ICHやAMVに触れられていることはありません。


AMV実施のための基本的ガイドラインの一部を以下で紹介します。
 

1. 併行精度と室間再現精度


化学、生物学、生物化学、医・薬学的な目的において、比較的新しい分析法は、基本的なAMV基準を満たしている必要があります。科学研究の大半は、ハードデータ(平均値を持つ数値、その平均値の標準偏差[SD]、相対標準偏差[RSD、%RSD]、変動係数[CV]など)の収集を目的としています。そして、各測定を何度繰り返したか(n数)を示さなければなりません。米国食品医薬品局は、少なくとも3回は必要、6回以上が望ましい、としています。


測定データが1点しかない科学論文をよしとする査読者や編集者はいないでしょう。しかし、ICHの基準はジャーナル論文には適用されないので、通常は、査読者がAMVに含めるべき項目を定義しています。このため、AMVの定義は、著者や査読者によって異なり、ジャーナルや編集者による指示もありません。


n=1の論文を投稿すれば、著者の信頼が下がるでしょう。ただし、私の知る限り、どの分析ジャーナルもこのような規定を明記していないということを強調しておきたいと思います。著者への投稿規定の中で、ICHのAMVガイドラインに触れている科学誌はありません。つまり、AMVは重要事項であるにも関わらず、その実施に必要なAMVガイドラインは、著者や査読者の判断に委ねられているということです。


すべての分析データは、平均値ごとのすべての数値(およびデータ)と、併行精度、測定回数nを示さなければなりません。また、それぞれの測定値のバラつきをSDや%RSDなどで示します。実験が適切に実施されたなら、これらの偏差は、ごく小さな値であるはずです(1~2%以下)。この場合、併行精度が優れていると言えます。


通常、1人の測定者がすべての測定を一貫して行います。そして、元の測定者と同様の方法と器具を用いて、同様の専門知識、能力を有する別の測定者によって反復されることがあります。基本的に、元の測定者が併行精度の測定を行い、その後同等の資質を持つ別の測定者が、同じ方法で、異なる実験室、器具、試薬、化学薬品などを用いて再現実験を行います。これにより、総合的な室間再現精度が示されます。定量的には、これらの数値のRSD(%RSD)は、数パーセント以下に収まることが求められます。しかしながら、現在のところ、著者に室間再現精度を示すことを求める科学誌は存在せず、著者や査読者の多くも、アクセプト・出版に値する論文に室間再現精度を含める必要があることを認識していません。この事実を言い換えると、ジャーナルのガイドラインや編集者の希望に関わらず、AMVや併行精度、室間制限精度を試行せず、各測定値のデータプロットが1点しかないような論文であっても、出版に値すると考えている著者が存在しているということです。


あるいは、科学は、一個人の独自の手法によって示された知見が、同等の技能や専門性を持つ別の研究者の手に渡り、さらに研究開発が進められて行く、という繰り返しで成り立っているとも言えます。ただし、その結果が再現不可能であった場合、その論文は出版されるべきではありません。なぜなら、再現不可能な手法を用いれば、ほかの科学者の時間、労力、資源、予算を無駄遣いすることになるからです。再現不可能な論文は撤回されるべきであり、その欠陥を明らかにする必要があります。


2. 頑健性と堅牢性


良好な分析法バリデーションを示す指標として、ほかに頑健性や堅牢性などがあります。頑健性は、温度、湿度、溶媒の純度、試薬の原産地、器具の状態、器具の品質、大気圧などのパラメータの変動があっても、その手法が有効であることを示します。頑健性が高いほど、%RSDが(正負に関わらず)0に近い値に収まっていることを示します。測定結果の%RSDが小さいほど、パラメータの微小な変動に対して反応しにくい(信頼性が高い)ということです。頑健性に乏しいということは、測定結果のRSD(%RSD)が大きく、正確な測定を行うためには、きわめて限定的な範囲で実験パラメータの設定を行わなければならないことを意味します。


一方、堅牢性は、反復測定や変動したパラメータ下でも長期的に機能することを示し、RSDが小さいほど、実用的で再現性が高いデータであることを保証するものです。ほとんどの研究者が、実用性、コストパフォーマンス、別の研究施設へのデータ転送のしやすさなどと並んで、頑健性や堅牢性が保証されている分析法を採用するはずです。ICHガイドラインに準拠していない科学論文で、頑健性や堅牢性について議論しているものは皆無です。このような論文のほとんどが、単一の(最適化された)実験パラメータのみを用いてすべて(またはほとんど)のデータを提示しており、頑健性や堅牢性という重要な指標に触れていません。


3. システム適合性試験


最終的には、分析法のシステム適合性試験を行う必要があります。つまり、目的に適う測定結果が得られることを立証しなければなりません。これには、実際の既知のサンプル(実際に同定・定量化する分析物)において、少なくとも2つ以上の成分のシステム適合基準が必要です。この基準は、標準サンプル中に存在するほかの成分からのピークの分離度の基準値を示すために必要です。また、分析対象成分のピークは、標準的な定量分析方法により、高真度かつ高精度で同定・定量が可能である必要があります。ただし、真の定量研究は、事前に実施されたシステム適合性試験を基にして、別の研究として行われます。システム適合性は、実際にサンプルの測定を行う前に、分析システムが適切に動作していることを証明するものです。しかしながら、学術界における研究開発の多くの現場では、これが実施されていないのが現状です。一方、産業界では、実際の測定が実施される前に、システム適合性を評価するのが一般的です。


4. AMVのその他の要素(真度、精度、検出限界など)


研究でデータを収集するための有効な分析法を構成する要素には、ほかにどのようなものがあるでしょうか?設定が簡単、初心者でも使いやすい、メンテナンスが簡単、動作が安定している、コンピュータ制御ができる、素早くデータが取得できる、などの要素は当然重要です。このような基準を満たす分析法があれば、科学の発展は加速するでしょう。ほかにも、真度(分析値と測定値の一致度合い)が高い、各測定値の精度が高い(RSDが小さい)、検出限界/定量限界が小さい、直線性の範囲が広い、などのデータ収集が可能な手法が重要になりますが、何よりもデータの頑健性が大切です。これらの望ましい特性が、自分の、またはその他の測定結果における分析法の中に組み込まれていることが肝心です。

 

AMVを実施するための既存ガイドラインは容易に入手できるにも関わらず、再現不可能な分析法や結果は、依然として頻繁に見られます。このような結果は、しばしば公開済みデータの撤回に繋がり、研究者の評判に深い傷を付けることになります。再現不可能な結果の公開を防ぐ方法はあるでしょうか?統計処理のための十分なデータポイントを含む、すべてのデータ(最低でも、併行精度と室間再現精度)を示すことを研究者が義務付けられていれば、再現不可能なデータが公開されることも、再現不可能性を理由に論文が撤回されることもなくなるでしょう。研究者も、論文撤回によるキャリアや信頼の喪失を免れることができます。つまり、データの発信者とその発信源(実験室)が上記の慣行に従い、良質な科学と確かなデータ/結果を生み出している限り、科学の信頼性と未来は保証されるのではないでしょうか。そしてそれは、あなた自身の未来にも言えることかもしれません。

論文の図表をカラーで出版すると、追加費用が発生しますか?

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ジャーナルの投稿規定の、次の文章がよく理解できませんでした: 「図表のカラー表示について、オンライン版では追加費用は発生しません。印刷版でもカラー表示は可能ですが、カラー印刷に掛かる費用は著者が全額負担するものとします。カラー印刷費用をお支払い頂いた場合のみ、カラー印刷を承ります」。これは、論文が受理または出版された場合、追加費用の支払いを義務付けられるということですか?印刷版の出版は義務なのでしょうか?ご回答よろしくお願いいたします。

回答

この文章の意味するところは、オンライン版では図表を無料でカラー表示にでき、追加費用は発生しないけれども、印刷版で図表をカラー表示したい場合は、追加費用が発生するということです。一般的に、有料のカラー印刷を選択するかどうかは任意です。論文がアクセプトされたら、編集者から、図表をカラーと白黒のどちらで掲載したいかの意思確認があるはずです。白黒で問題なければ、追加費用は発生しません。現在では、ほとんどのジャーナルがオンライン版と印刷版の両方を発行しており、どちらにも、同じ内容が掲載されます。とくに断りを入れない限り、アクセプトされた論文は、オンライン版と印刷版の両方に掲載されます。

理不尽な掲載料請求に対して

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Question Description: 

先日、ある雑誌の編集部からメールが来て、創刊号に2ページ程度の掲載文のinvitationがありました。オープンジャーナルなので、当方は一切お金を払わない旨を明言し、医学展望のような雑文を送りました。その後一ヶ月くらいたってメールでUS$3600のinvoiceとHPにEdirorialとして文がアップされていました。今回は、雑種HPの投稿の窓口からでなく、編集者に雑文を送っただけです。雑誌のHPを確認したところはオープンジャーナルの掲載手数料にはUS$1800と載っています。この雑誌をしらべたらBeall’s listにのっているハゲタカ雑誌でした。1週間に一回くらいpaymentとメールをよこします。 この場合、反応しないで放置するか、それとも掲載撤回の申し出と上記の経緯から料金は払えない旨の返事をしたほうがよいのでしょうか。(おそらく撤回を認めないなどといってくるでしょうが。)なを、今回は論文でなく雑文なので、HPが閉じられてもなんら影響はないです。

回答

文章を送る前に、背景を調べてみるべきでした。ジャーナルが文章の取り下げの申し出に応じるとは思えませんが、かかわりを断ちたいのであれば、一度試してみましょう。支払いは一切行う気がないこと、文章を非公開にしてほしいことを伝えてみてください。支払いを行わないことは最初に明言しているので、ジャーナルとしても強制はできないはずです。


ジャーナルがあなたの文章を取り下げない場合、それについてはどうしようもありません。支払い請求のメールを無視し続け、ジャーナルとのやり取りをストップするしかないでしょう。


ハゲタカジャーナルとの接点が、研究者としてのあなたの信用や評判に傷をつけないとも限らないので、今後いかなる場合も、Editorialとして公開された今回の文章を、CVやプロフィールに含めないようにしましょう。


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