博士号取得は、ただでさえ困難に満ちた道のりです。未知の国の新しい文化の中で目指すとなると、気が遠くなってしまいそうです。知らない国で博士号やポスドクを目指すのであれば、乗り越えなければならないいくつかの困難が伴うことになります。しかし、具体的な対策をとって、対応のためのツールを用意しておけば、そのような困難を最小限に食い止めることができます。
博士号(PhD)取得は、ただでさえ困難に満ちた道のりです。未知の国の新しい文化の中で目指すとなると、気が遠くなってしまいそうです。知らない国で博士号やポスドクを目指すのであれば、乗り越えなければならないいくつかの困難が伴うことになります。「いろいろな状況での対処法が分かるだろうか?」、「指導教官とのコミュニケーションなど、具体的な場面でどうすべきか分かるだろうか?」などの疑問が湧き、心配になるのも当然のことです。行き先の国や大学などの学術文化について、参考となるような規範を知らなければ、さらに困難は増すでしょう。しかし、具体的な対策をとって、対応のためのツールを用意しておけば、そのような困難を最小限に食い止めることができます。博士号取得の道を順調に歩むために、私自身が実践した4つのことをここでお伝えしたいと思います。
教授・メンター・PI(研究責任者、principal investigator)とコミュニケーションをとる上での責任は自分が持つ
これは、アジア圏の学生には理解し難いことかもしれません。アジアでは、自分からメンターに向かって時間を割いてもらい、ミーティングを要求するのは文化的に無礼とみなされるからです。でも、一旦海外に出たなら、そのような考えは変える必要があります。必要な時には、教授・PI・指導教官に話しかけることをためらってはいけません。こんな風に考えてみてはどうでしょう。学術界での競争は激化し、現在の研究はリソースがほとんどない、新しいパラダイム上で行われているので、研究に従事する教授は以前と比べて時間が足りなくなっています。ですから、自分から働きかけるようにすれば、教授が優れたメンターとなる手助けをすることができるのです。
また、教授と話をするときには、少々図太い神経を持つべきだということも学びました。最初のうちは、自分の出したメールに指導教官からすぐに返信が来ないと、頭の中であれこれ理由を想像しているだけでした。でもやがて、教授たちは非常に忙しいのだということがわかりました。すぐに返事がなくても、くよくよ思い悩まないようにしましょう。自分は研究ばかりしていると思っているかもしれませんが、そんなことはありません。上には上がいます!研究に従事している教授(とPI)のほとんどは、助成金の申請、論文執筆や監督業務、進行中の研究とその方向性の管理、実験室の監督、授業、学部内の業務、大学内の政治的調整などのすべてを、時間をなんとかやりくりして行なっています。ですから、もしあなたが金曜日にメールを送ったとしても、おそらく月曜日の朝には他のメールの山に埋もれてしまって、返事をもらえるのは更に数日後となるでしょう。時間を節約し、かつ心配ばかりしないで済むようにするための解決策の1つは、教授のオフィスを訪問し、重要案件や期日が迫っている案件に対するフィードバックや意見を求めてもよいかどうか尋ねてみることです。これは私も実際に行なった方法ですが、うまくいきました。また、こうすることで、指導教官とよい関係を築くことができるようになったと思います。指導教官とコミュニケーションをうまくとるためのスキルは、どんな状況でも役に立つので、必ず身につけておきましょう。
助けを求める
これも、文化的観点から、外国人留学生にとってはやりにくいことです。助けを求めるということは、自分の失敗を認め、何をすべきかわからないと言っているのと同じだと思うかもしれません。私が最初に研究室に入ったとき、初めて使う統計手法について助けを求めることを、大いにためらいました。ある意味、自分にとって最も困難なことだったかもしれません。そう、助けを求めることがです! でも、助けを求めることでPIから教わったことがあります。それは、研究室に入ったばかりのあなたが、何でも知っているとか、研究室にある各種の物品の使い方に詳しいとは誰も思っていないということです。彼女(私のPI)は、私が学習曲線の始まりにいるのは自然なことだと捉え、研究室の上級研究員に助けてもらえるように配慮してくれました。このとき私が学んだのは、次の2つのことです。学習曲線は当然あるということ、そして助けを求めなければ、必要な能力をすでに備えていると思われるということです。確かに、助けが必要だとは言い出しにくいものです。言いにくくても、開き直って助けを求めなさい、というのが私からのアドバイスです! 例を挙げるなら、テンプレートやフォーマットを教えてほしいと頼んでみるとか、今取り組んでいる課題の経験者が研究室にいるか聞いてみる、といったことです。今までやったことがないということを丁寧に説明し、アドバイスが欲しいと頼めば、必要な助けは必ず得られるはずです。ほとんどの教授は自分の学生をとても大切にし、学生が学べる環境を整えたいと思っています。助けを求めることで、あなたは自分の学ぶ意欲を示していることになるのです。
仲間・趣味のネットワークを構築する
大学にある留学生向けの団体に連絡してみましょう。ダイバーシティ推進委員会や社会活動の団体をのぞいてみたり、大学や学部のニュースレターを購読してみることもできます。例えば、私がいた大学には、マイノリティに属する大学院生や留学生のためのサービス、学生のクラブ、キャンパス内でのイベントを結びつけるグループがあり、そのどれもがキャンパス内の多様性を統合することを奨励していました。このようなグループを活用すれば、研究室の外での生活に触れる機会となるでしょう。さらに、新しく興味を持ったことや趣味を通じて視野を広げる努力をしましょう。スポーツ団体などの活動団体に入ると、自分と似た考えを持った新しい人々と出会えいまし。PhDは精神的な負担も大きいので、研究室の外にも居場所を持ち、燃え尽きてしまわないようにすることが大切です。
キャリア関係のネットワークも同時に構築する
博士課程在籍中のあなたの人生で重要なことは、研究室での仕事、学会発表、論文出版だけではありません。早い段階で、自分のキャリアの選択肢について理解を深める必要があります。ギリギリになってポスドクや就職口を探す研究者がほとんどですが、それは間違っています。積極的に仕事やポスドク先を探していないうちは、ジョブ・フェアや大学での就職関係のイベントに登録しましょう。地域の企業や分野の研究コミュニティでフェローシップの機会がないか探してみましょう。州・連邦政府機関の多くはプロジェクトでインターンを受け入れていますし、非営利団体ではボランティアを募集することもよくあります。このような機会は、ネットワークを拡張する扉を開き、授業で学んだことを実生活で生かす機会となり、履歴書への記載事項を増やすことにもつながります。職業関連のネットワークを広げる方法には、他にも、分野の学会に入会する、地域・地方団体を探して積極的に連携を図る、在学生も参加できる卒業生向けのイベントに参加する、などが挙げられます。このような活動を通じて、分野の専門家と会うことができ、博士号取得後に何をしたいのか、自分でもよりよく理解できるようになるでしょう。
私も様々な困難に直面しましたが、やがて、そのような思いをしているのは自分だけではないことがわかりました。私と同じように、新しい環境で沈むことなく、うまく泳ぎ切れるよう奮闘している研究者がたくさんいました。自分の文化とは異なる学術文化の海を航海していること、異なった視点を理解して新たな経験を受け入れる広い心を持つことを、決して忘れないようにしましょう。