今年初め、新薬の治験で被験者1名が死亡、5名が何らかの神経系合併症を起こすという悲劇的事故がフランスで発生しました。治療にあたっている医師によると、患者には治療不可能な脳障害が残る可能性があるということです。
今年初め、新薬の治験で被験者1名が死亡、5名が何らかの神経系合併症を起こすという悲劇的事故がフランスで発生しました。治験を行なったポルトガルの製薬会社バイアル(Bial)が、この事実をプレスリリースで公表しました。治療にあたっている医師によると、患者には治療不可能な脳障害が残る可能性があるということです。コード名BIA 10-2474という今回の新薬の詳細は完全には公表されていませんが、開発業務受託企業として有名なバイオトライアル(Biotrial)はこの新薬について、大麻に類似した化合物をもとに、パーキンソン病の不安障害、運動疾患、慢性痛、多発性硬化症、高血圧、肥満などの治療目的で開発されたものだと公表しました。
バイアル社は動物実験での成功後、治験フェーズ1で健康な人間に治験薬を投与し、安全性と有効性を確認していました。治験は2015年7月に開始され、治験薬が投与された健康な治験参加者に副作用は見られませんでした。バイオトライアル社のウェブサイトに掲載された詳細情報によると、前回の治験では、28~49歳の参加者に対し、2週間の登録期間中に様々な量の治験薬が10日間投与されていました。しかし、2016年1月に開始された治験では、患者から健康悪化の報告があり、急きょ中止に追い込まれました。
専門家らは、今回の事故原因は投薬量のミスか薬の品質の劣化ではないかと推測しています。同時に、事故に関する情報が欠如していることに疑問を呈しています。フランス国立医薬品・医療製品安全庁(ANSM)の科学諮問委員会でかつて委員を務めていたキャサリン・ヒル(Catherine Hill)氏は、「フランス当局の対応は迅速でもなければ透明でもない」と述べています。
治験の初期段階で分子構造が非公表とされることは珍しくありませんが、多くの研究者はそのことを批判しています。薬の分子構造が分かれば、専門家はその薬がターゲットとしたタンパク質以外のタンパク質にも作用したかどうか、またその薬が毒となって作用してしまう人がいたかどうかを判断できるからです。バイアル社の広報担当者スザナ・バスコンセロス(Susana Vasconcelos)氏は、今回の治験はすべての国際基準に従って実施された説明し、同社は「この状況に至った原因を余すところなく徹底的に追求する所存である」と述べています。
参考文献:
Scientists in the dark after French clinical trial proves fatal (accessed January 19)
More details emerge on fateful French drug trial (accessed January 19)