ブラジルで、臨床試験が行われていない抗がん化合物である合成ホスホエタノールアミンの製造と販売が合法化され、がん患者は、処方箋なしでこの化合物を入手できることになりました。この状況に、ブラジル人研究者らは激しい怒りを表しています。
ブラジルのジルマ・ルセフ大統領は、臨床試験が行われていない抗がん化合物である合成ホスホエタノールアミンの製造と販売を許可する法律に署名するという、驚くべき行動に出ました。同法は4月14日から施行されており、がんと認定された患者は、処方箋なしでこの化合物を入手できるようになっています。同法は、「この薬のがん治療の有効性は研究で証明されていない」とするレポートが科学技術省から出された後に施行されました。ルセフ大統領の決定は、安全性と有効性について国際的に認められたプロトコルに基づいて新薬の承認を規制するブラジル国家衛生監督庁の権威を否定するものであり、ブラジル人研究者らは激しい怒りを表しています。
この化合物は、がん患者からは「特効薬」として多くの需要があります。その開発は、1990年代初期にサンパウロ大学の分析化学者であったジルベルト・シャリース(Gilberto Chierice)氏によって行われました。同大学の研究室は、合法化されていないこの薬を何年にも渡って患者に支給してきました。大学がこれを中止しようとしたところ、患者側が訴えを起こし、さらにはこの薬の入手が可能になるよう、政府にも強い圧力をかけました。ルセフ大統領は、政治的圧力に負けて今回の法案を通したという見方が有力です。ブラジリアのブラジル臨床腫瘍学会 (Brazilian Society of Clinical Oncology)会長であるグスタボ・フェルナンデス(Gustavo Fernandes)氏は、今回の動きに不快感を表明し、「救世主を求める偽科学の勢いに押された形の政治的決定」であり、「この問題を解決する上で最悪の方法」と述べています。
この化合物について、動物実験では有効性を示唆する結果もありますが、ヒトでの有効性を証明する前臨床試験や臨床試験は行われていません。これを服用する患者の中には、良好な結果を報告する人もいれば、効果がなかったという人もいます。標準的な治療方法よりもこの化合物を望む患者もいる状況に、研究者たちは懸念を表明しています。
合法化されたとはいえ、この化合物の製造が許可されている設備が不足しているので、患者による入手は困難です。この薬に本当に効果があるのか、また未知の副作用はないのかを確かめるため、臨床試験の実施を望む研究者もいます。
参考記事:
Brazil president signs law legalizing renegade cancer pill
Brazilian law grants patients right to use untested cancer ‘drug’