米国立衛生研究所(NIH)は、同研究所の資金助成を受ける研究者に課されていた、ヒトキメラの作成を禁じる助成金の一時停止措置を解除すると発表しました。キメラ研究の継続を喜ぶ研究者もいれば、方針の変更点に納得できないという研究者もいます。
8月4日、米連邦機関の国立衛生研究所(NIH)は、同研究所の資金助成を受ける研究者に課されていた、ヒトキメラの作成を禁じる助成金の一時停止措置を解除すると発表しました。キメラ研究には、ヒトの多能性幹細胞を動物の胚に注入してキメラを作成する作業が含まれています。2015年9月、NIHはキメラ研究を禁じるだけでなく、これらの研究プロジェクトに対する資金助成も停止。しかし、NIHの資金助成を受ける研究者らは、この措置は幹細胞研究と再生医療の発展を脅かすものだとして抗議していました。NIHは禁止措置を解除することを決めましたが、キメラ研究の助成金申請の審査には、特別審査委員会を設けるとしています。
研究者は主に、動物モデルでヒトの病気について研究するためにキメラ・モデルを使用します。しかし、キメラ研究の目的は、摘出後にヒトに移植できる、ヒトの臓器を育成することです。倫理的な問題が伴うため、キメラ研究は学術界で物議をかもすテーマです。キメラは、ヒトでも動物でもありません。このため、このような複合的な生命体の扱い方に関するガイドラインが存在しないことに対して、研究者たちは懸念を表明してきました。また、このような研究によって、人間並みの知能や人間のような外見をもった新種の動物の出現につながるのではないかという懸念もあります。NIHは、ガイドラインを厳格化してこれらの課題に対処しようとしています。具体的には、ヒト以外の霊長類の胚にヒトの幹細胞を注入できるのは胞胚期以降とし、キメラの脳にヒトの細胞が多くならないようにします。さらに、キメラの子孫の人間化を阻止するために、キメラの繁殖も禁止します。
改定方針に対する反応はさまざまです。キメラ研究の継続を喜ぶ研究者もいれば、方針の変更点に納得できないという研究者もいます。ロックフェラー大学(ニューヨーク)の発生生物学者であるアリ・ブリバンルー(Ali Brivanlou)氏は、NIHは動物胚の変化の時期について考えるよりも、キメラにおけるヒトとしての特徴の割合を定めて制限することを重視すべきだという考えです。科学コミュニティと一般社会からの懸案について考慮するため、この方針については、一般からも意見が募集されました。それをふまえてNIHが最終的なガイドラインを定めた後、キメラ研究の禁止が正式に解除されることになります。
参考記事
US agency lifts ban on funding human-animal hybrids
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