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「小さな研究不正は、あきれるほどの規模で蔓延しています」

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「小さな研究不正は、あきれるほどの規模で蔓延しています」
研究公正に関する権威で、「もっとも影響力のある生物医学研究者400人」の1人。疫学で博士号を取得した後は、教授、博士課程学生の指導者、学長などを歴任。複数の学術機関や研究機関で要職に就き、これまで700点近い出版物に著者/共著者として関わった。現在は、責任ある研究活動、問題のある慣行、学術出版不正などに関心を寄せ、科学的公正性を取り巻くジレンマについて世界的な取り組みを行うことの必要性を主張している。2017年には、第5回研究公正に関する世界会議(アムステルダム)のオーガナイザー兼共同議長を務め、研究公正基金の国際会議財団の会長に就任した。

今回のインタビューでは、研究公正に関する権威であるレックス・ブーテ(Lex Bouter)教授に、オランダ研究公正ネットワーク(Netherlands Research Integrity NetworkNRIN)による最善の研究および出版慣行の促進のための取り組みについて伺いました。また、研究や教育活動に従事する中で、科学研究や出版プロセスの公正性に関心を抱くに至った経緯についてもお聞きしました。教授は、報告されない小さな研究不正の件数が驚くほど多いことを危惧しており、あらゆるレベルの研究者に対して研究倫理に関するガイダンスを提供するための、より優れたインフラの整備が世界的に必要であると主張しています。


ブーテ教授は、1982にユトレヒト大学で修士号(生物医学)を取得後、ティルバーグおよびユトレヒトの教員養成大学で教職に従事しました。その後、マーストリヒト大学の博士課程(疫学)に入学し、1992年に疫学の教授に就任しました。


これまでいくつもの重役を歴任し【アムステルダム自由大学メディカルセンターEMGO+ヘルスケア研究所所長(19922006年);オランダ疫学学会会長(19961997年);オランダ健康協議会会員(20012013年);アムステルダム自由大学理事会理事(Rector Magnificus)(20062013年);オランダ中央倫理員会副委員長兼メソドロジスト(2001-2013)】、複数の委員会で委員長を務めました【アムステルダム自由大学メディカルセンター部門(2001-2006);オランダ保健研究開発機構のInnovative Medical Devices Initiative実行委員会(2009) オランダ科学研究機構追試研究実行委員会(2016~)】。


教授は、研究や教育活動に従事する中で、科学研究とその社会的影響に伴う倫理的側面に関心を抱くようになり、「科学的公正性をめぐるジレンマに取り組むためには、グローバルなアプローチが必要である」と主張しています。現在は、方法論と公正性に関する教育と研究に取り組んでいます。2017年にはオランダ王立芸術科学アカデミーの医学研究部門の会員に任命され、第5回研究公正に関する世界会議(アムステルダム)のオーガナイザー兼共同議長を務め、研究公正基金の国際会議財団の会長に就任しました。


これまでに約700点の出版物に著者/共著者として関わり、その被引用件数は48000件以上に上ります。「もっとも影響力のある生物医学研究者400人」の1人であり、通算74人の博士課程学生の指導にあたりました。また、Cochrane Collaboration Back Review Groupの編集者(19962002年)および編集長(20022006年)を務め、Textbook of Epidemiology(疫学の教科書)の著者の1人に名を連ねました。

オランダ研究公正ネットワーク(Netherlands Research Integrity NetworkNRIN)について詳しく教えて頂けますか?設立経緯と理念を教えてください。

NRINは、オランダ保健研究開発機構の手厚い支援を受けて2014年末に発足しました。立ち上げの理由はシンプルで、目標に掲げたのは、研究公正と責任ある研究の遂行が求められる現場において、研究や教育に携わる人々の考えや最善の慣行について情報交換し合うネットワークを構築することでした。また、機密を扱うカウンセラーや研究不正の告発に対応する常設委員会の役員向けのプラットフォームを提供することも目指しました。なぜこのような目的を掲げたかというと、これらの問題への関心が国内で急速に高まっているにも関わらず、研究機関同士が交流することは稀で、それぞれの機関が孤立した状態にあったからです。

目標を達成するために、NRINはどのような活動を行なっていますか?NRINはオランダ国内の研究公正に関する問題だけを扱うのですか?

NRINは、研究公正の分野における研究・教育従事者や、研究不正の告発に対応する人々向けに、有益な情報を提供するポータルサイトを運営しており、開催予定の学会や、助成金、行動規範、ガイドライン、教材、書籍や動画などに関する情報を紹介しています。また、国内外を問わず、会員登録をしたユーザーにニュースレターの配信も行なっています。NRINが運営している学会も重要な役割を果たしています。研究と教育に関するそれぞれの学会には、毎年多くの参加者が集いますが、これらの学会を、可能な限り活発で双方向的なものにしようと努めています。さらには、研究公正に関する機密を扱うカウンセラーや、研究不正の告発に対応する常設委員会の役員を対象とした非公開会議なども開催しています。


NRINのウェブサイトは、様々な国の人々が閲覧しており、会員の約半数はオランダ国外の人々です。学会に参加するのは主にオランダ人ですが、毎回諸外国からゲストを招いています。

とくに成功したと感じるNRINの活動にはどのようなものがありますか?

NRINが開催している会議は、好評で参加者も多いことから、もっとも成功している活動の1つと言えるでしょう。より具体的に言うと、さまざまな利害関係者が集まった集中協議セッションでは、オランダの研究公正行動規範の改訂について議論が交わされました。この会議は、策定委員会に有益な情報を与え、最終改訂版に影響を与えました。また、20175月にアムステルダムで開かれた5研究公正に関する世界会議の運営において重要な役割を果たしたことも、誇らしく思っています。

教授の専門分野に話題を移したいと思います。科学研究と出版プロセスの公正性に関心を抱いたきっかけは何でしたか?

私はプライマリーケアと公衆衛生を専門とする疫学者として、研究所の所長を15年間務めました。その後、アムステルダム自由大学7年間学長(rector)を務める栄誉にあずかりました。同時に、オランダ中央倫理員会の副委員長およびチーフ・メソドロジストの役割を12年間担いました。これらの重役を経験する中で、研究が必ずしも本来あるべき姿で行われていないことを知ったのです。


私は、オランダ国内外で大規模な研究不正が暴かれることに驚く一方で、あきれるほど広く蔓延した小さな研究不正は、全体としてより大きなインパクトを持つと感じました。この状況を改善するためには、研究の質に関する私たちの意識をより高める必要があると思います。具体的には、機関コード、実施手順に関するガイドラインや基準、教育/指導、内部監査の導入などの取り組みが必要でしょう。何より重要なのは、研究者が自分たちのミスや疑念、ジレンマについて自由に議論ができるような風土を作ることです。研究公正に関する問題は複雑です。その上、「研究についての研究」が行われはじめたのはごく最近なので、我々が研究公正について知っていることはごくわずかで、問題を解消する特効薬のようなものもありません。したがって、研究者やその所属機関/組織、助成団体、学術誌を含むすべての関係者が協調しなければならないのです。

研究者たちに責任を持って研究を遂行してもらうために、どのような教育/指導を行なっていますか?

アムステルダム自由大学メディカルセンターの博士課程の学生には、研究公正に関するコースの受講を義務付けています。オランダ国内の大学では、同様の取り組みが複数行われており、学部課程や修士課程においても、研究公正への注目度は着実に増しています。問題は、より上級レベルの研究者向けの教育制度がほとんどないということです。私はよく、「あらゆることに免許が必要だが、子育てと博士課程学生の指導にだけは免許はいらない」というジョークでこの問題を皮肉っています。我々は最近、新米指導教官向けの、研究公正に関する研修プログラムを提供するプロジェクトを立ち上げました。研究不正の主な発生要因として、指導や監督不足が頻繁に報告されています。ですので、あらゆるレベルの研究者に対して、より良いガイダンスを提供しなければならないと感じています。


我々が生物医学分野の博士課程の学生に提供している複合コースは、eラーニングモジュールから始まります。すべての学生に同じ情報を共有してもらうことで、対面ミーティングの時などにそのつど事実情報を確認し合う時間を省略しています。受講者は、eラーニングモジュールの内容に関するテストに合格する必要があります。そして、内容について指導教官と議論したり、自分の研究プロジェクトとの関連性を検討したりすることが求められます。ミーティングプログラムでは、責任を持って研究を遂行すること、疑わしい研究慣行を避けること、研究者が日々直面するジレンマに向き合えるように手を貸すことなどについて丸一日議論を行い、6週間後に同様の議論を半日間行います。また、このコ-スでは、MCDMoral Case Deliberation)による対話型講義と小グループでのディスカッションやセッションを組み合わせ、受講者の経験を基にした決議論を導入しています。これらのMCDセッションでは、関係者それぞれの立場における行動規範や価値観を理解することを目指して、ジレンマの系統的な分析を行なっています。受講者が、研究公正に関するジレンマに的確に対処できるようになることが、本コースの最終目標です。我々は、問題となっている事柄について説教や非難をせず、親密な雰囲気の中でオープンに議論できることが重要だと考えています。コースの最後には、受講中に何を学んだか、どのような影響を受けたかについて半ページ分のレポートを書いてもらいます。


最善の倫理的慣行に関する意識を植え付けるアプローチとして、とても興味深い取り組みですね。NRINが、研究における倫理的ジレンマに関する意見交換の場を大切にしているのは素晴らしいことだと思います。

インタビュー前半はここまでです。後半は、非倫理的行為の蔓延を防ぐために、学術出版界の利害関係者ができることについて伺います。


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