世界中で起きている出版社とコンソーシアムの対立に、収束の兆しが見えません。ドイツ、フランス、オランダのコンソーシアムが学術出版社との契約を打ち切る中、スウェーデンのコンソーシアムも、出版大手エルゼビアとの契約を更新しないことを発表しました。
世界中で起きている出版社とコンソーシアム(共同事業体)の対立に、収束の兆しが見えません。ドイツ、フランス、オランダの大学や図書館を含むコンソーシアムが学術出版社との契約を打ち切る中、スウェーデンのBibsamコンソーシアムも、この対立構造の仲間入りを果たしました。スウェーデン国内の85の高等教育機関および研究機関が参加しているBibsamコンソーシアムも、出版大手エルゼビアとの2018年6月30日以降の契約を更新しないことを発表しました。
Bibsamコンソーシアムのメンバーによると、同コンソーシアムはこれまで、エルゼビアのコンテンツへのアクセス権を得るために計1200万ユーロ(約1420万米ドル)を費やしてきました。また、コンソーシアムに所属する機関の研究者たちは、エルゼビア誌で論文を出版するために、論文掲載料を払ってきました。ストックホルム大学の学長とBibsamコンソーシアムの委員長を兼任するアストリッド・ソダーバーグ・ウィディング(Astrid Söderbergh Widding)氏は、「科学情報の価格高騰によって出版社が多額の利益を得る一方で、大学の予算は圧迫され続けています」と指摘し、「エルゼビアの方針は、オープンアクセスへのシフトを希望するコンソーシアムの方針と異なるため、契約を更新しないという決断に至りました」と述べています。
欧州委員会(European Commission)は、2020年までにすべての科学研究を無料公開するための歩みを進めています。 この目標が達成される可能性は低いものの、欧州の図書館や大学は、この方針に沿った取り組みで一定の成果を挙げており、今回のBibsamコンソーシアムの決断も、その一環といえます。
大学や図書館は、出版社が設定する高額なアクセス料に対して不満を溜め込んでおり、今年5月初旬には、欧州各国の代表者が集まって、前進に向けた話し合いが行われました。複数のコンソーシアムと大手出版社との契約交渉が破談に終わったとネイチャーが報道する中、代表者たちはエルゼビアやシュプリンガー・ネイチャーなどの出版社との契約条件を改善するために協働することで合意しました。
オープンアクセス化への大きな歩みとして、スウェーデンのコンソーシアム「VSNU」は、シュプリンガー・ネイチャーおよびオックスフォード大学出版局と「Read and Publish」契約を世界で初めて締結しました。この契約では、図書館は出版社のコンテンツにアクセスするための費用を払いますが、有料論文の閲覧とオープンアクセス論文の出版費用が、1つにまとめられています。オーストリア、フィンランド、英国などのコンソーシアムも、大手出版社と同様の契約を結ぶことを目指しています。
SPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition、国際学術情報流通基盤整備事業)のヘザー・ジョセフ事務局長は、「図書館が大手出版社と契約を打ち切るという大胆な措置を取っている主な理由として、Sci-Hubの普及、プレプリントやアクセプト論文へのアクセシビリティの向上が挙げられます」と述べています。
欧州の図書館や大学は、オープンアクセス化に向けて強硬な姿勢を見せており、出版社に自分たちと同じ方向を向くことを求めています。この変化の波が、論文の出版やアクセス形態にどのような影響を及ぼすのか、今後の動向に要注目です。
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参考文献:
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