カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と南カリフォルニア大学(USC)が、国からの助成金を受けて行われたアルツハイマー病の研究権利をめぐって法廷で争っており、学術界のみならず世界中のマスコミの注目を集めています。
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と南カリフォルニア大学(USC)が、連邦資金助成を受けて行われたアルツハイマー病の研究権利をめぐって法廷で争っており、学術界のみならず世界中のマスコミの注目を集めています。
この争いは今年7月、アルツハイマー病共同研究(Alzheimer's Disease Cooperative Study、ADCS)の所長、ポール・アイゼン(Paul Aisen)博士がUCSDを離れ、USCに移った直後に始まりました。UCSDは、USCとアイゼン氏(及びアイゼン氏と一緒にUSCに移った彼の研究チームメンバー8名)が、ADCSから研究データを違法に持ち出し、その研究プロジェクト・データにアクセスできないようにしたとして訴訟を起こしました。この訴訟によると、アイゼン氏はUCSDおよび同研究に資金を提供している米国立老化研究所(National Institute on Aging)の同意を得ないまま、USCに研究を移動させようとしたということです。UCSDによると、アイゼン氏は、「給与は『あなた(アイゼン氏)が獲得する外部の研究資金』によって支払われるという見込み」があるということでUSCからの誘いに乗ったと主張しています。さらにまた、アイゼン氏はUCSDがアクセスできないアマゾンのクラウド・アカウントに研究データを移し、権限を持たないにもかかわらず研究データの管理を行なった、とも主張しています。UCSDは陪審裁判の他、USCに対して金銭を請求することを検討していますが、その金額は明らかにされていません。
USCはこの訴訟について遺憾の意を表明し、アイゼン氏を引き抜こうとするリクルート活動は学術界で普通に行われていることであり、UCSDの反応は激しすぎるとしています。アイゼン氏は、研究データは2013年以来、継続してクラウド・アカウントに移動させており、USCからのUCSDからもアクセス可能であると述べています。7月6日、アイゼン氏は「この訴訟は、アルツハイマー病の研究の保護やサポートというよりも、研究機関への所属の問題である」と述べています。
7月31日、USCはUCSDに交差訴訟を起こし、UCSDの行為は尊大であると主張しました。UCSDはアイゼン氏に「忠誠を誓う」署名をさせようとしたとし、それは「憲法違反である」と述べています。アイゼン氏はまた、UCSD在職中に電子データへのアクセスができないようにされたとし、訴状では、それによって「アイゼン氏の臨床試験監督能力が奪われ、患者の安全と研究の整合性が危機にさらされた」と述べられています。さらに、今回の訴訟は「学問の自由を抑圧し、研究者たちをカリフォルニア大学というシステムから離れないよう脅すことが」目的だとも述べています。
これに対し8月3日、UCSDはUSCの申し立てを全て否定し、交差訴訟は「歪曲、虚偽の申し立て、および全くの嘘を集めたもの」だという声明を発表しました。
一方、8月3日、アイゼン氏の研究に資金提供を行う製薬会社の一つであるイーライリリー社は、A4 試験と呼ばれる無症候性アルツハイマー病の抗アミロイド治療の研究で試験薬のテストを行うため、研究資金をUCSDからUSCに移行すると発表しました。同社は、「A4試験およびその参加者の最善の利益のためには、UCSDでの本研究の管理を終了させることが望ましい」としています。しかしカリフォルニアの裁判所はUSCに対し、訴訟の決着がつくまでは全データをUCSDに渡すよう命じたと伝えられています。
大々的に報道された今回の訴訟には、多くの紆余曲折がありました。今後もさらなる展開が見られると予想されます。