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中国の出版慣行に影響を与えている社会文化的要因

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中国の出版慣行に影響を与えている社会文化的要因

中国は急速に発展を遂げており、科学技術の分野でも世界をリードする立場に立とうとしています。論文出版数や研究助成においては、米国に次ぐ実績を残しています。一方で、査読詐欺や研究不正などの度重なるスキャンダルが、国の発展の足を引っ張っています。

Tumor Biology誌による中国人著者の論文107の大量撤回劇は、学術界の文化、学術誌が掲げる基準、研究者が抱える苦難やプレッシャーなど、学術出版にまつわるさまざまな議論を巻き起こしました。同時に、学術界でたびたび議論の的となる「中国人研究者の公正性」に関する疑念を再び浮かび上がらせました。これまでにもさまざまな国の研究者が学術不正行為を行なっていますが、その件数がもっとも多いのは中国でしょう。


中国は急速に発展を遂げており、科学技術の分野でも世界をリードする立場に立とうとしています。論文出版数や研究助成においては、米国に次ぐ実績を残しています。最近の研究で、中国は国際共同研究による論文出版数で世界3であることも分かっています。これらの指標は、国の成長度合い、グローバル化への意識、研究の質の高さを示すものでしょう。一方で、査読詐欺や研究不正などの度重なるスキャンダルが、国の発展の足を引っ張っています。これらの不正が先述の大量撤回に繋がったと思われますが、米国の報道機関Quartzは、20122016年に査読不正によって撤回された論文の50%以上に中国が関与していると伝えています。このような規模での非倫理的な出版行為は、国の科学技術に損失を与え、信頼を失墜させてしまう恐れがあります。


このような事態を避けるためには、問題の根本を理解する必要があります。経済成長における科学技術の重要性を認識した1977年、中国政府は、科学技術研究への大規模投資を開始しまし。予算の増加に伴って研究の裾野が広がり、多くの人材が学術界に集まるようになりました。結果として、研究のアウトプットが増加し、中国は科学技術大国としての歩みを始めました。しかし、出版慣行に関する規制の不足と、西洋とは完全に異なるきわめて競争的な学術文化が相まって、中国の研究者たちは研究不正に手を染めるようになりました。


中国では、学術的な成果は個人の価値と捉えられているため、研究のアウトプットに不均衡が生じてしまいます。研究者は、昇進・昇給・就職のために一流誌での論文出版を常に要求されます。研究者のみならず、医師もインパクトファクターの高いジャーナルでの論文出版を求められます。中国の医師の40%近くが、過度なプレッシャーによって不正を働く可能性があるとの調査結果も出ているほどです。科学技術の世界をリードするための競争が、競争的で不健全な学術文化を生んでしまっているのです。


中国の多くの機関が、職員に対して国際誌やインパクトファクターの高い査読付きジャーナルでの論文出版を奨励しており、その中には金銭的インセンティブが伴うケースもあります。Nature誌による最近の記事では、四川農業大学が、Cell誌に論文が掲載された研究者に1350万元(200万米ドル)の賞金を与えたことが紹介されています。国中に蔓延しているこのようなシステムは、良質な研究を適切なジャーナルで発表することよりも、インパクトファクターの高いジャーナルで発表することを研究者たちに強いることになります。


もう1つ重要な要素として挙げられるのが、中国独自の文化規範による影響です。中国では、年配の人や地位の高い人を敬うことが良しとされています。そのため、学術界でも、研究不正を行なっている年長の研究者や、非倫理的な行為を強いる指導者に対して、若手研究者が声を上げるのは難しいかもしれません。たとえば、立場が上の研究者から、画像の改ざんと引き換えに論文著者としての資格を提示された場合、若手研究者はそれに従わざるを得ないでしょう。


もう1点考慮すべき社会文化的な側面は、コンテンツのコピーや借用が、中国では学習方法の1として認められているということです。極端な場合、コピーは、元の著者への敬意と捉えられます。また、すべての中国人研究者が英語を流暢に扱えるわけではないため、出版済みの論文を、盗用の意識がないまま、帰属を適切に示すこともなく、そのままコピーしてしまう傾向にあります。西洋ではこのような行為は非倫理的であると見なされているため、中国人研究者が国際誌で同様の行いをすると、リジェクトや撤回につながってしまいます。


中国政府は、増加し続ける学術不正が国の信頼を下げ、発展を阻害しているとして、防止策を講じ始めています。Tumor Biology誌による大量撤回のニュースを受けた政府は、この一件が「中国の科学研究への国際的信頼と中国人研究者の尊厳に多大な傷を付けた」として、研究不正を一切容認しない方針を掲げています。研究者が非倫理的な出版ルートを選択することを阻止するため、政府や研究機関が何らかの懲罰を設けているケースもあります。中国科学技術協会(CAST)は、中国のすべての研究者に対して、「学術不正を自制し、断固として拒否すること」を求めています。


科学コミュニティは、信頼のもとに成り立っています。編集者は査読者を慎重に選定しているという信頼。査読者は細心の注意を払って論文を審査しているという信頼。そして何より、研究者は誠実に研究・出版を行なっているという信頼を前提にして、学術界は成り立っています。学術界には莫大な資金と労力が費やされているため、1件の研究不正が、その分野全体を揺るがすことになります。発展可能な文化を構築するためには、適切な出版慣行を守ることの大切さを研究者に説いていくことが重要でしょう。


関連記事:An update on China's investigation into the 107 retracted papers


arXivについて教えてください。

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Question Description: 

arXivに論文を投稿する方法を教えてください。また、arXivに投稿した後、同じ論文を別のジャーナルに投稿することはできますか?

回答

arXiv(アーカイブ)は、物理学、数学、コンピューターサイエンス、量的生物学、計量ファイナンス、統計学、電子工学、システム科学、経済学などの分野の研究論文の電子ファイルを受け付けているリポジトリです。arXivは学術誌ではないので、ここで公開された論文は出版論文とはみなされません。リポジトリに登録した論文は、プレプリント版として扱われるのが一般的で、同じ論文が学術誌で出版されれば、arXivのプレプリント版にDOIを追加することができます。また、arXivにアップロードされたファイルの著作権の状態は、それぞれ異なっている場合があります。


arXivに論文を投稿するには、アカウントを作成してファイルをアップロードします。アップロードが完了すると、論文の科学的信憑性を確かめる簡単な審査があります。問題がなければ、12日でオンライン上に無料公開されます(査読はありません)。


通常、プレプリント論文を本格的な論文としてまとめ、査読付きジャーナルで出版することは可能です。ただし、リポジトリに登録されている論文の投稿について、何らかの制限や規定を設けているジャーナルもあります。論文のプレプリント版などをオープンリポジトリで公開(セルフ・アーカイブ)することを予定している場合は、そのリポジトリやターゲットジャーナルの方針を確認しておきましょう。

こちらの記事も参考にしてください:

自ら雨を作り出すアマゾンの木々

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自ら雨を作り出すアマゾンの木々

アマゾンの雨季は、ほかの熱帯地域と時期が若干異なっているため、長年に渡ってその謎が研究者の興味を引き付けてきました。この程、アマゾンの木々が自ら雨季を作り出していることが分かり、長年の謎がついに解明されました。

アマゾンの雨季は、ほかの熱帯地域と時期が若干異なっているため、長年に渡ってその謎が研究者の興味を引き付けてきました。この程、アマゾンの木々が自ら雨季を作り出していることが分かり、長年の謎がついに解明されました。生態系が自分で雨を作るとは、驚きの事実です!


アマゾンの雨季が比較的早く始まる理由は、これまで不明とされてきました。この謎を解明するために多くの先行研究が行われてきましたが、研究者たちは頭を悩ませるばかりでした。アマゾンから発生する水蒸気の存在は確認されていましたが、その発生源を辿ることができずにいたのです。Proceedings of the National Academy of Sciences誌(PNAS)で発表された新たな研究では、NASAの人工衛星「オーラ(Aura)」に搭載された対流圏放射分光計(TES)による水蒸気データの分析を行いました。その結果、乾季の終わりに見られる雲は、熱帯雨林から蒸発した水によって形成されていることが分かりました。


研究チームの一員であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校の気象学者、ロン・フー(Rong Fu)氏は、雨量が増加する時期と熱帯雨林が成長する(新葉が生える)時期が一致していることを指摘しています。葉の成長は、太陽光をエネルギーに変換する植物の光合成プロセスに直接影響を及ぼします。光合成中に、葉の裏側にある小さな気孔から水蒸気が放出されることで、アマゾン地帯の雲が形成されているのです。


アマゾンの木々と雨の関係を調査した2012年の研究では、大気が降雨に備えるための塩の粒子を、植物が放出していることが明らかになりました。今回の研究では、植物が、雨季の開始により重要な役割を直接的に果たしていることが分かりました。


また、この研究は、気候における植物の重要性に関する積年の議論に一石を投じています。植物は受動的であるという従来の見解を覆し、植物が能動的に雨を作り出せる可能性を提示しているからです。また、干ばつを防ぐ上で森林破壊を抑えることの重要性も強調されています。研究者らは今後、コンゴの熱帯雨林を調査し、同様の現象が見られるかを検討する計画です。


doi/10.1073/pnas.1621516114

次の研究プロジェクトはクラウドファンディングで?

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次の研究プロジェクトはクラウドファンディングで?

研究プロジェクトを遂行するための予算確保は、研究者が直面する大きな課題です。研究費の要求に対する助成金支給件数は十分でなく、とくに若手研究者がこの競争を勝ち抜くことは至難の業です。そんな中、研究費の獲得に苦労している研究者たちは、クラウドファンディングなどの新たな手段に目を向け始めています。

科学研究がもたらす利益は、必ずしも定量化できるものではありませんが、あらゆる人に利益をもたらすものであることは確かです。科学的知見を得るための実験やデータ分析の実施には研究費が必要ですが、その予算の獲得は、決して容易ではありません。


研究プロジェクトを遂行するための予算の確保は、研究者が直面する大きな課題の1つです。研究費を求める研究者の数に対する助成金支給件数は十分でなく、とくに若手研究者がこの競争を勝ち抜くことは至難の業です。より重要度が高いと思われる研究プロジェクトに、限りある予算を適切に割り当てていくと、結果的にその他のプロジェクトは無視されがちです。多くの機関が、この問題に対処しようと努めています。たとえば米国立衛生研究所(NIH)は、若手研究者が予算を獲得しやすいように、ポイント制を利用して助成金に制限を設けるシステムを導入しています。しかし、このような取り組みの決断や導入も、そう簡単なことではありません。そんな中、研究費の獲得に苦労している世界中の研究者たちは、クラウドファンディングなどの新たな手段に目を向け始めています。


研究者の中には、一般市民から資金援助を受けるというアイデアなど、考えつきもしなかったという人もいるようです。しかし、今や研究者は、インターネットやソーシャルメディアを通じて不特定多数の人々とつながり、研究の宣伝や予算の獲得ができるようになっているのです。クラウドファンディングは、とくに小~中規模のプロジェクトで、協力して予算を獲得するための新たな手段として、ここ数年間で認知度が高まっています。すでに多くの成功例があり、大きな可能性を秘めたシステムとして注目を集めています。科学研究向けクラウドファンディングの人気プラットフォームExperiment.comを対象に行われた調査によると、クラウドファンディングの成功事例件数は、20131月から20157月の間に着実に増加していることが分かっています。


正しく利用すれば、クラウドファンディングは、プロジェクトの周知と予算獲得の助けもなります。科学プロジェクトを支援しようという気運が一部の市民の間で高まっており、最近では以下の研究にそれぞれ4000ドルと4400ドルの支援金が集まりました:

Engineering Bacteria of the Lung Microbiome to Degrade Carcinogens and Toxins(発がん性物質や毒素を分解する肺ミクロビオーム細菌のエンジニアリング)

Identifying Snow Leopards, Tigers and other Endangered Species by developing a low-cost DNA field test kit - Part 2(低価格DNA検査キットの開発によるユキヒョウやトラなどの絶滅危惧種の特定-第2報)


目標予算額が1万ドルに設定されたUnraveling the mystery of TDP-43, a versatile protein involved in several Neurodegenerative disorders(種々の神経変性疾患に関わるTDP-43タンパク質の謎の解明)という研究プロジェクトは、期限まで12日を残した段階ですでに目標額の85%の資金を集めました。これらの例のように、研究者は、研究費の獲得にクラウドファンディングを積極的に利用すべきなのでしょうか?クラウドファンディングの主な特徴を確認しながら考えていきましょう。


クラウドファンディングが研究費の獲得手段として魅力的である理由の1つは、その柔軟性と簡単なプロセスにあります。助成団体は、助成金を支給するにあたって厳格なプロセスを設定しており、研究者はグラント・プロポーザル(助成金申請書を作成しなければなりません。これは、エビデンスに乏しい研究や、援助に値しない研究への資金提供を回避するために設定されているものです。また、予算が不適切に使用されることを防ぐため、資金の使途を明記するなどの透明性が求められます。一方、クラウドファンディングに申請書は必要なく、資金提供者に使途を示すことが推奨されてはいるものの、義務付けられてはいません。科学プロジェクト向けのクラウドファンディング・プラットフォームExperimentは、まさにクラウドファンディングの柔軟性を体現しています。このサイトのプロジェクトはすべて、運営スタッフによる厳格な審査、フィードバック、科学的承認を受ける必要がありますが、プロジェクトの提案は誰でも行うことができます。


従来の助成団体から実験的なプロジェクトの予算を獲得するのは、難しいことです。助成団体は、なるべくリスクの少ない研究を求める傾向にあるからです。また、多くの助成団体は研究コンセプトの実証を求めるため、実験的なプロジェクトが受理される可能性はきわめて低いのが現実です。一方、クラウドファンディングはむしろ、きわめて実験的なプロジェクトを求めています。たとえば、To Selfie or Not to Selfie - How Can Scientists Foster Public Trust on Instagram?(自撮りはあり?なし?―科学者がインスタグラムで一般市民の支持を集める方法)という研究は、本記事執筆の時点ですでに目標予算額の58%を集めています。従来の助成金を得られる可能性がほとんどなさそうな、Assessing stress in migrants and minorities after the 2016 U.S. Presidential Election using hair cortisol(毛髪コルチゾールを用いた2016年の大統領選挙後の移民およびマイノリティーたちのストレス評価)のような研究でも、目標予算額の約11%が集まっています。


クラウドファンディングを利用して実行されたプロジェクトは、増加してはいるものの、まだまだ黎明期にあると言えます。予算を獲得できるかどうかは、プロジェクトの分野と目標予算額が重要な要素となります。多くの可能性を秘めたクラウドファンディングですが、大規模なプロジェクトや、多額の予算を必要とするプロジェクトに対応するシステムは十分に構築されていないのが現状です。たくさんの人から少しずつお金を出してもらうというコンセプトなので、研究者は、過度な野心を持ち出して高額な予算を設定することは避けた方がよいでしょう。最小限の設備と人員で遂行できる小規模プロジェクトほど、予算を獲得しやすいと思われます。たとえば、How do temperature and competition affect true fruit flies and their natural enemies?(気温や競争がミバエとその天敵に及ぼす影響)というプロジェクトは、500ドルという目標額を早々にクリアしました。大規模プロジェクトでは、やはり助成団体からの予算獲得を目指すのが最良の道でしょう。


クラウドファンディングは、先を予測しにくいシステムです。ほとんどのプラットフォームは、オール・オア・ナッシング型か、フレキシブル型のいずれかを採用しています。オール・オア・ナッシング型のExperimentなどでは、最初に設定した目標金額に達した場合のみ資金を受け取ることができます。目標額に届かなかった場合は、それまでに寄付されたお金は一切受け取ることができません。一方、フレキシブル型では、目標額は設定せず、寄付されたお金をすべて受け取ることができます。しかし、予測がしにくいのはまさにこの部分で、研究者は、終わってみるまで資金がいくら集まるのか知ることができません。したがって、従来の助成金は、クラウドファンディングとは対照的な、安定した手堅い選択肢と言えます。


これまで、クラウドファンディングを利用した複数のプロジェクトが成功を収めています。そうした実績を考えれば、従来の資金獲得方法に取って代わる可能性に期待を抱いてしまいますが、クラウドファンディングはあくまで、予算獲得のための代替的かつ補助的な手段であることを認識する必要があります。クラウドファンディングが、従来の助成金システムに取って代わることはないでしょう。一般市民からの注目を集めるためには、ソーシャルメディアで膨大な量のキャンペーンや宣伝を行う必要があり、助成金申請と同じくらいの労力が必要になることもあり得ます。まだ歴史が浅いクラウドファンディングは、成功率の予測や、従来の助成金申請と比べたときの時間やコストの計算が困難です。とは言え、小規模プロジェクトのチームや若手研究者が、クラウドファンディングによるメリットを享受しやすいのは確かでしょう。


関連記事:研究助成金を獲得するための新戦略

ネガティブな研究結果は、論文として発表すべきでない?

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以前、先例のない画期的な研究アイデアを思いつきました。倫理審査の承認も受け、前向き研究(prospective study)として、必要なデータ収集に励みました。しかし、統計分析の結果はすべてネガティブなもので、私の仮説を立証するものにはなりませんでした。この結果にとても失望しており、論文にまとめたとしても出版される見込みがあるかどうか分かりません。私はどうしたらよいでしょうか?

回答

その研究に多大な時間と労力を注ぎ込んだことを考えれば、論文として出版する道を模索すべきでしょう。ネガティブな結果を含む論文を出版したがらないジャーナルが多いのも事実ですが、科学の進歩のためにはネガティブな結果も重要であることは、ジャーナルも承知しているはずです。ネガティブな結果にも意義はあるので、発表する価値はあります。


ネガティブな結果が発表されれば、同じ研究が繰り返される無駄を省けます。研究者たちがその論文を読めば、その仮説が正しくなかったことを知ることができ、無用な時間や労力や資源を費やさずに済みます。また、ネガティブな結果は、ポジティブな結果を生み出すための道を開くものです。ネガティブな結果を踏まえて選んだ別のメソッドが、ポジティブな結果につながるかもしれません。アインシュタインの相対性理論ですら、先人たちが積み重ねてきた失敗をもとに構築されたものです。


現在の出版システムに欠陥があることや、ネガティブな結果に対する出版バイアスが存在するのは事実です。しかし、このような価値観に変化をもたらせるかどうかは、あなたを含めた科学者たちにかかっています。実際、科学コミュニティはこの問題を認識しており、状況を変えようと多くの人々が動いています。Journal of Negative Results in Biomedicine誌、PLOS ONE誌、The All Results Journals誌などの学術誌は、ネガティブな研究結果であっても投稿を行うよう研究者に働きかけています。これらのジャーナルへの投稿も、一度検討してみてください。


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優れた文献レビューを書くための5箇条

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優れた文献レビューを書くための5箇条

研究テーマが決まってリサーチクエスチョンを練り上げたら、次にやるべきは文献レビューです。文献レビューは研究と論文出版に欠かせないステップであり、これをしっかりと行うことで、多くのメリットが得られます。

研究テーマが決まってリサーチクエスチョンを練り上げたら、次にやるべきことは文献レビューです。文献レビューとは、テーマに関するあらゆる著作物を評価しながらまとめることです。包括的な文献レビューは、研究と論文出版において欠かせないステップです。文献レビューをしっかり行うことで、多くのメリットが得られます。科学者へのキャリア情報提供サイト「Science Careers」が「文献(先行研究)の把握はなぜ重要か」と科学者たちに問いかけたところ、数々の興味深い回答が得られました。とくに印象的だったのは、「文献情報をいつでも最新の状態にアップデートしておくことは、研究者としてのキャリアを通じて常に重要なスキルと言えます。現状の知識の隙間を把握しておかなければ、時代遅れの研究や的外れな研究を行なってしまうことになります」というデニス・バウアー(Denis Bauer)博士の回答でした。文献レビューを徹底的に行うことには、ほかにも大きなメリットがあります。文献レビューは、学術誌での論文出版には欠かせない作業です。文献レビューを徹底的に行うことで、研究にしっかり取り組み、分野の先行研究を認識しているということを、ジャーナル編集者や査読者に対してアピールすることができます。


以上のことから、質の高い論文を執筆するためには、効果的な文献レビューが不可欠であることに疑いの余地はありません。ただし、文献レビューを行う過程で、テーマに関する先行研究があまりない(出版されている論文数が少ない)という状況に遭遇することがあるかもしれません。この場合はまず、自分を疑ってみましょう。世界の出版論文数は毎年250万本のペースで増え続けています。したがって、あなたの研究テーマが誰にも検討されていないという可能性はきわめて低いのです。とは言え、専門性が高い研究や、分野の課題に関する特定の側面をテーマにしている場合は、残念ながら先行研究が少ないか存在しない、という状況に遭遇しがちであるのも事実です。


こういったケースに当てはまらない場合に関連研究が見当たらないのはなぜでしょうか?考えられるのは、検索の戦略が完全に間違っているか、またはただ単に不十分ということです。論文の参考文献リストは、必ずしも長くなければならないということはありませんが、研究を行う上では、先行研究のレビューによって分野の現状を示す必要があります。テーマに関連する先行研究が見つからないときはどうすればよいのでしょうか?以下で紹介する5つのヒントを参考にすれば、幸先の良い文献レビューのスタートを切れるでしょう: 


1. 検索範囲を拡げる

リサーチクエスチョンを何日も何週間も練っていると、考え方が凝り固まってしまうことがあります。リサーチクエスチョンを、非常に狭い枠の中に閉じ込めてしまっていることもあるかもしれません。そんな場合、直接的な関係はなくても他分野のテーマに関連文献がある可能性を見落としてしまうことがあります。たとえば、「堆肥にできるプラスチックは製造可能か?」というリサーチクエスチョンを設定したとしましょう。インターネットで徹底的に調べた結果、関連する文献は2件しか見つかりませんでした。あなたはこれをチャンスと感じるかもしれません。自分の研究によって、この分野の知識の大きな隙間を埋められ、研究の重要性を主張しやすくなる、と喜ぶかもしれません。しかし、文献レビューのセクションで何を語るべきか、という点については頭を悩ませることになるでしょう。


文献の検索範囲を拡げれば、先述のリサーチクエスチョンのもととなっている仮説を支持する関連文献が見つかるかもしれません。たとえば、プラスチックを生分解性にするためのプロセスや、堆肥として使われているプラスチックに類似した材料について調べてみます。どちらもリサーチクエスチョンに直接関係しているわけではありませんが、研究の基礎となる情報を与えてくれるはずです。手始めに、コーンスターチなどの天然素材由来のバイオプラスチックをはじめとする環境に優しいプラスチックについて調べてみるのもよいでしょう。これによって、関連情報が得られるだけでなく、より大きな概念的枠組みの中に自分のリサーチクエスチョンを置くことができ、研究の正当性についての説得力を増すことができるでしょう。


2. 適切なキーワードで検索しているか確認する 

関連文献の検索における別の問題は、見当違いのキーワードや無関係なキーワードを使ってしまうことです。探している論文にふさわしいキーワードを決めて、的を絞った検索をしなければなりません。リサーチクエスチョンが決まったら、メインコンセプトを決定し、そのコンセプトに対するキーワードを決めましょう。たとえば、childhood schizophrenia(児童統合失調症)に関する研究を行う場合は、「schizophrenia(統合失調症)」、「early onset schizophrenia(早発型統合失調症)」、「schizophrenia in children(子供の統合失調症)」、「early symptoms of schizophrenia(統合失調症の初期症状)」といったキーワードが有効でしょう。グーグルでより限定的な検索を行いたい場合は、キーワードを二重引用符で括りましょう。これにより、二重引用符内のフレーズを含むページのみがヒットします。下の画像は、二重引用符でキーワードを括ったときの検索結果例です:

An example of an enclosed keyword search


また、キーワードを引用符で括らない場合、キーワード内の単語の順番を入れ替えると、異なる検索結果が表示されます。つまり、「schizophrenia symptoms in children」と「childhood schizophrenia symptoms」では、異なる検索結果が得られるということです。それでも参考文献が見つからない場合は、各キーフレーズ(単語)の同義語・類義語を調べてキーワードを増やしてみましょう。より焦点を絞った検索をしたい場合は、自分の論文で使う予定があるキーワードを使いましょう。これにより、分野におけるそれらのワードの妥当性を知ることができます。また、コンセプトやキーワードの定義をより厳密に行う必要があるかどうかも明らかになるでしょう。


3. 関連する文献を見つけたら、熟読する

参考文献の数が限られているということにはメリットもあります。なぜなら、数が少なくてもその参考文献リストが包括的なものであれば、11つの文献をより深く読み込むことができるからです。大量の文献に目を通す必要がないので、個々の詳細を吟味する余裕が生まれます。大量の文献を取捨選択した結果、重要な文献を除外してしまったのではないかという心配をしながら研究を進めることにもなりません。さらに、先行研究が少ないということは、基礎的知見がまだあまり得られていないということです。この場合、先行研究の限界を指摘すれば、自分のリサーチクエスチョンを構築/強化することに繋がります。


4. 見つけた文献の参考文献をたどる

参考文献は、読者を分野の先行研究に導くものです。論文に参考文献を載せるということは、その論文を情報源として認めたと示すことです。論文の参考文献を追跡する方法には、forward searching(前向き検索)とbackward searching(後ろ向き検索)の2通りがあります。関連文献をいくつか見つけることができたら、それらの論文の参考文献を見てみてください。これが後ろ向き検索と呼ばれる方法で、より多くの関連文献を探すことができます。一方、最初にピックアップした論文を引用している文献をチェックする方法を前向き検索と呼びます。この方法によって、キーワード検索では引っかからなかった文献に出会うことができます。また、ピックアップした文献の著者が書いたほかの論文もチェックしてみてください。以上の作業を行えば、参考文献リストをさらに強化することができるでしょう。


5. 助けを請う

それでもダメなときは、遠慮なく助けを請いましょう。まずは、所属大学の図書館が必要なジャーナルを購読しているかどうかを司書に確認しましょう。文献がいくつか見つかっていれば、それが掲載されているジャーナルを調べ、関連文献があるかどうかを確認してみてください。教授や指導教官や先輩に聞いてみるのも一案です。似たような苦境に立たされた経験があるはずなので、きっと何らかのヒントを持っているでしょう。行き詰まりを感じているなら、先輩研究者に正しい方向へ導いてもらうというやり方も、決して間違ってはいません。

ResearchGateQuoraMendeleyなどの、研究者に特化したオンライン・フォーラム/グループも一度探索してみてください。こういった場では研究者同士の交流ができるので、自分では探し出せないような論文などを教えてもらえることがあります。同様に、困っている研究者に論文を紹介することもできます。ただし、受け取ったりシェアしたりする論文は、合法的にコピーされたものなければなりません。つまり、その論文の著作権を持っていなければ、論文をシェアすることはできないということです。


文献レビューで行き詰まったとしても、先行研究の不足を理由に引き返す必要はありません。自分の研究テーマに関連する文献が見つからないときは、「関係のあるものはほかにないか」と自問してみてください。このような状況でやるべきことはただ1つ、リサーチクエスチョンにつながる可能性のあるすべてのエリアを特定し、その中から自分の論文に関係するものをリストアップすることです。こうすることで、参考文献を探しやすくなるだけでなく、すでに見つけていた文献を手がかりとして前に進むことができるはずです。このアプローチによって、最終的には、良く整理された包括的な文献レビューをまとめ上げることができるでしょう。また、Editage’s Literature Search Serviceなどの専門の出版サポートサービスを利用して、関連性のきわめて高い論文を確実に探してもらうことも、1つの選択肢として頭に入れておきましょう。


参考記事:

 
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ニュートリノと原子核の相互作用を初めて検出

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ニュートリノと原子核の相互作用を初めて検出

私たちは、ニュートリノと呼ばれる何兆もの微細な粒子に囲まれています。この粒子の相互作用の可能性について、40年前から多くの物理学者が予測していましたが、現在に至るまでそのエビデンスは得られていませんでした。そんな中、この相互作用を検出できる新たな方法が発見されました。

私たちは、ニュートリノと呼ばれる何兆もの微細な粒子に囲まれています。粒子の中でもっとも謎が多いとされるニュートリノは、絶え間なく地上に降り注ぎ、光速で私たちの体を通り抜けたかと思うと、跡形もなく宇宙空間に舞い戻っていきます。この粒子の相互作用の可能性について、40年前から多くの物理学者が予測していましたが、現在に至るまでそのエビデンスは得られていませんでした。そんな中、この相互作用を検出できる新たな方法が発見されました。オークリッジ国立研究所(ORNL)の研究者らが40年前の予測を実験的に証明することに成功し、その結果をScience誌で発表しました。


さらに興味深いことに、この相互作用の検出に使用されたのは、巨大な検出器ではなく、壺程度のサイズの装置でした。研究では、3種類のニュートリノ(電子、ミュー、タウ)が原子核に跳ね返ることが確認され、3種すべてが異なる相互作用を示すことが明らかになりました。これらの相互作用は稀にしか起きませんが、ニュートリノを観測するための唯一の手段となっています。


この発見を、多くの物理学者が歓迎しています。マサチューセッツ工科大学の理論物理学者で、ニュートリノ原子核コヒーレント弾性散乱coherent elastic neutrino-nucleus scattering)理論の提唱者であるダニエル・フリードマン(Daniel Freedman)名誉教授は、「私の43年前の理論が実証されたことにとても興奮している」と述べています。今回の発見は科学の大きな進歩であり、より高度な研究、ダークマターの探索、核不拡散防止の土台となるものです。


DOI: 10.1126/science.aao0990

アクセプト論文の校正では、最低何か所の修正を行えばいいですか?

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Question Description: 

エルゼビアのジャーナルに論文がアクセプトされました。校正を行うときは、図表を含めて最低何か所の修正やコメント追加を行えばいいでしょうか

回答

校正で修正すべき箇所の最大/最小の数に関する規定はとくにないと思います。見つけたミスは、すべて直す必要があります。論文全体を入念にチェックして、編集チームが見落としているかもしれないミスを探しましょう。また、表記揺れにも注意してください。表記揺れとは、たとえば、同一論文内で「email」と「e-mail」という表記が混在している状態です。どちらでも構いませんが、どちらか一方の表記に統一しましょう。省略語、引用方法(参考文献のフォーマット)、数字、大文字/小文字などの表記も統一されていることを確認してください。コメント追加や修正は、必要なだけ行なって構いません。重要なのはコメントの数ではなく、ミスがもれなく修正されることだと考えましょう。


そろそろ科学と政治が手を結ぶ時ではありませんか?

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そろそろ科学と政治が手を結ぶ時ではありませんか?

外界と関わることなく研究室にこもっている人、というのが、研究者に対する一般的なイメージでしょう。しかしここ数年で、研究者、政治家、一般社会の関係に大きな変化が見られるようになりました。

外界と関わることなく研究室にこもっている人、というのが、研究者に対する一般的なイメージでしょう。しかしここ数年で、研究者、政治家、一般社会の関係に大きな変化が見られるようになりました。世界中の研究者たちは、科学の置かれた状況に関する不快感を社会に表明するようになり、新聞の見出しを飾るようなケースも珍しくなくなっています。


このような変化の引き金となったのは、権力者が必ずしも科学に関して最良の判断を下せるわけではないという認識が広まったことでしょう。科学研究の重要性に関する意識が高まり、政策決定プロセスへの参加の流れが強まってきたことで、科学コミュニティが一般コミュニティに関わりはじめたのです。ドナルド・トランプ氏が米大統領に選出されたことは、間違いなくこの変化の大きな要因であり、研究者たちに自ら立ち上がることを促しました。科学補佐官の任命に対するトランプ大統領の消極的な姿勢は、公的医療、国防、科学予算などに関する重要事項を決める際の専門家による科学的アドバイスの重要性について、世界中で議論を巻き起こしました。この認識が雪だるま式に広がった結果、研究者と一般市民の両方に支持されたマーチ・フォー・サイエンスというムーブメントも起きています。ほかにも世界中でさまざまなデモが起きており、チリの研究者たちは研究予算の不足を訴え、スペインの研究者たちは不安定な雇用と予算の問題に怒りの声を挙げ、最近ではインドの研究者たちが同じく研究予算の減少に対して抗議活動を行なっています。


しかし、これらの動きは、政府の方針に影響を与えるほど大きなものなのでしょうか?カーネギー国際平和基金の特別フェローで、国際的に知られるコラムニストであるモイゼス・ナイム(Moisés Naím)氏は、「大規模な抗議活動は、政府の目をこちらに向けさせることはできても、何かが変わる保証にはならない」との見解を示しています。ソーシャルメディアの時代において、デモを組織することは容易ですが、真の変化をもたらすには多くの労力が必要です。ナイム氏は、「変化を実現するには、街頭でのデモ活動を政治的変化や政策改革に変換できる、従来の政治的任務に常時携わることのできる組織が必要」としています。ワシントン大学フォスター・スクール・オブ・ビジネスで戦略マネジメントを専門とするアピナブ・グプタ(Abhinav Gupta)助教も、1つの抗議活動が政策に影響を与える可能性は少ないという見方に同意しています。グプタ氏は、一般社会や関連組織へのエビデンスベースの教育が重要であるとし、大きな目標を達成するためには、そのような取り組みがより効果的であると主張しています。以上のことから言えるのは、研究者は、単なる抗議に留まらない活動を行なっていく必要があるということでしょう。   

研究者が恐れているのは、政治的な問題に関わることで信頼を失ってしまうことです。

研究者が政策決定に関わることは、なぜ重要なのでしょうか?研究者は、事実ベースでの情報提供ができ、意思決定のメリットとデメリットを分析でき、政治的・経済的問題に科学的観点から意見することができます。ノースカロライナ州立大学の化学教授でウェイク郡教育委員会のメンバーであるジェームズ・マーティン(James Martin)氏は、「研究者の視点は、民主主義政治においてきわめて重要」と述べています。同氏は、学術界の枠を超えて公選職に身を投じた自身の経験から、「私が政策決定に関わっていることは、同僚や一般コミュニティの信頼を得る上で有益」であるとし、「私は一般的なイメージとは違った研究者と見られており、学生たちは私が政治に関わっていることを、自分たちの教育に対する責任感の証と捉えています」と語っています。ペンシルベニア州選出の元連邦議会議員候補で化学者のショネシー・ノートン(Shaughnessy Naughton)氏も、「これまでの経験や受けてきた教育訓練の中で、科学的視点を持って今日の複雑で差し迫った環境や技術の問題に対処することの重要性を実感しました」と述べ、同様の意見を表明しています。ノートン氏は、「国会議員が重要問題に科学的視点を持ち込むことはほとんどない」と指摘し、「確実なエビデンスに基づいて動く訓練を受けた、問題解決のための分析能力に優れた研究者なら、適切な政策決定を行う助けになれる」と主張しています。


研究者たちは、なぜこれほど長きにわたって一般社会や政治と関わることを避けてきたのでしょうか?この問いの根底にはいくつかの理由があります。まずは、政治的な問題に関わることで自らの評判・信頼を失ってしまうリスクを恐れているということです。「研究者たるもの、中立性を維持し、政治と関わるべきではない」という風潮は、研究者たちの間に根強く残っています。カリフォルニア科学アカデミーのジョナサン・フォーリー(Jonathan Foley)事務局長は、「つまるところ、民主主義社会における政治とは、問題をどのように解決するかということであり、科学は、経済、健康、安全、将来など、私たちの生活のほぼすべてに重要な役割を果たしています」と述べ、先述したような風潮がなくなることを願っています。また、「政治から科学を切り離してはいけないし、逆もまた然りです。そのような試みは愚かです」と述べています。この最たる例が、研究者と政治家の両者が関わっている、気候変動に関する世界的な議論です。


研究者が、大きな負荷のかかる多忙な日々を送っていることは確かでしょう。論文の出版競争や、研究予算の獲得競争、仕事と私生活の両立など、日々向き合わなければならないことは山積みです。ハーバード大学の博士課程に在籍するプロイ・アチャクルウィスット(Ploy Achakulwisut)氏は次のように述べています。「多くの科学者が、一般社会や政治との対話に苦手意識を持っており、経験も足りていません。この問題は、学術的キャリアのあらゆる段階において、そういったものに関わる動機が不足していることに起因しています」。研究者のほとんどはすでに手一杯であり、さらに一般コミュニティや政治コミュニティと関わることに躊躇してしまうのは仕方がないことなのかもしれません。しかし、今日の科学界では、知識を持つ者が、権力を持つ者とより近い距離で関わっていくべきだという流れが生まれています。


とは言え、すべての研究者が、研究者としてのキャリアを投げ出してまで本格的に政治に関わりたがることはないでしょう。バージニア・ジーウェン(Virginia Gewin)氏は、自身の記事の中で次のように述べています。「研究者としてのキャリアを歩みながら、政治家のアドバイザーや関連組織委員会のメンバーなどを務めることで政治に関わることはできます。あるいは、長期休暇をとって政治運動に参加するのもよいでしょう」。科学とは、人類が万物を理解するためだけに存在しているのではなく、より豊かな生活を送るためのものでもあります。そして、この方向に進んでいくためには、研究者、政策決定者、一般市民が意識を共有しなければなりません。したがって、研究者は、自分たちの役割に対する従来の価値観を投げ捨てて、心地良いだけの場所から一歩踏み出し、より政治的な役割を担っていく必要があると言えるでしょう。

ソフトロボットアーム:内視鏡手術の新たな選択肢

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ソフトロボットアーム:内視鏡手術の新たな選択肢

硬質な器具を用いる侵襲手術は、体内組織を誤って傷付けてしまうリスクが伴います。侵襲を最小限に抑えられる器具の開発が求められる中、ハーバード大学の科学者らが、高度な知能を持つロボットアームとして機能する装置を設計しました。

硬質な器具を用いる侵襲手術は、体内組織を誤って傷付けてしまうリスクが伴います。侵襲を最小限に抑えられる器具の開発が求められる中、ハーバード大学の科学者らが、高度な知能を持つロボットアームとして機能する装置を設計しました。侵襲手術を安全に行えるソフトロボットは以前からありましたが、実際に手術を行えるレベルのロボットは今回が初めてです。


Advanced Materials Technologies誌で発表された今回の研究を率いるシーラ・ルッソ(Sheila Russo)博士は、チャールス・リバー・ラボラトリーズ社のロバート・ウッド(Robert Wood)氏が開発した、折り紙をヒントにして生まれたポップアップ型ロボットに関する先行研究に大きな影響を受けました。ルッソ博士らは、柔らかなパーツと硬いパーツを組み合わせたハイブリッドモデルを開発。各パーツは、接着剤ではなく化学結合でつながっているため、高い柔軟性を持つ装置に仕上がっています。また、鋭利な器具と比べて組織により優しい吸着カップが付いています。内視鏡は折りたたまれた状態で体内を移動し、目的の位置に着くと水力アクチュエータによってポップアップする仕組みになっています。


この装置は製造方法がシンプルなので、大量生産が可能です。また、微小な空間に内視鏡を入れる必要がある脳や肺といった部位でのきわめて複雑な手術に合わせて、最小1ミリまで縮小した装置を作ることも可能です。研究者らは将来的に、費用効率が良いこのロボットアームを、使い捨ての装置として普及させることを目指しています。

「私たちは基本的に、著者の側に立った活動をしています」

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「私たちは基本的に、著者の側に立った活動をしています」
エディテージ・インサイトの編集長として、研究者のためのマルチリンガル・ラーニングやディスカッション・プラットフォームの運営・管理を行い、非英語ネイティブの研究者が国際英文学術誌で論文を出版するためのサポートを11年以上続けている。学術編集者/トレーナーとして、研究者が論文出版の過程で直面するプレッシャーや困難を間近で実感してきた経験から、論文出版や講演を通じた著者教育や、著者とジャーナルのコミュニケーションを促進する活動に熱心に取り組むとともに、編集長としてエディテージ・インサイトを支えている。

クラリンダ・セレジョ(Clarinda Cerejo)は、エディテージ・インサイトの編集長として、研究者のためのマルチリンガル・ラーニングやディスカッション・プラットフォームの運営・管理を行なっています。クラリンダは、非英語ネイティブの研究者が国際英文学術誌で論文を出版するためのサポートを11年以上続けており、学術編集者/トレーナーとして、研究者が論文出版の過程で直面するプレッシャーや困難を間近で実感してきました。その経験から、論文出版や講演を通じた著者教育や、著者とジャーナルのコミュニケーションを促進する活動に熱心に取り組むとともに、編集長としてエディテージ・インサイトを支えています。


エディテージ・インサイトの創設から4年が過ぎたのを機に、2013年の起ち上げ当時を振り返ってみたいと思います。エディテージ・インサイトが起ち上げられた経緯、そのビジョンと目的、将来の計画などについて聞くのに最適な人物は、編集長であるクラリンダ以外にいません。今回のインタビューでは、エディテージ・インサイトがたどってきた道のりや今後の展開などについて、クラリンダ自身の視点で語ってもらいました。

エディテージ・インサイトの成り立ちを教えてください。いつ、そしてなぜこのようなサイトが起ち上げられたのでしょうか?

エディテージは、言語校正出版支援といったサービスの枠を超えたサポートを、研究者に提供するよう努めてきました。出版サポートを通して著者の皆さんと交流する中で、彼らが文章能力の向上や業績を積むことに熱心であること、出版プロセスを成功させるための情報やアドバイスを常に求めていることを知りました。経験豊富なアドバイザーはそう簡単に見つかるものではありませんし、見つかったとしても、そのような人物に、若手研究者に付きっきりで出版プロセスをナビゲートするような時間的余裕はないはずです。さらに、非英語ネイティブの研究者が、英米などの英語を母語とする研究先進国と歩調を合わせようとしても、言語がその障壁になってしまうという大きな問題がありました。


2012年に行なった著者とジャーナル編集者へのアンケートで、著者たちが次のようなことを求めていることが分かりました:

(1) ジャーナルにおける出版プロセスや選定基準の透明化

(2) 出版倫理についての、自分たちの母国語での情報

(3) ジャーナル編集者や査読者とのコミュニケーションに関するガイドライン

(4) 出版プロセスの専門家にリアルタイムで質問ができるようなシステム


一方、ジャーナルは著者に対して次のようなことを求めていました:

(1) ジャーナルの対象分野にマッチする論文の投稿

(2) 研究不正へのジャーナルの対応方法の把握

(3) カバーレターの書き方や査読コメントへの返答の仕方の理解


以上のことから、著者とジャーナルの間にある隔たりを埋め、あらゆる立場の研究者に手を差し伸べ、非英語ネイティブの研究者に学術界の最新情報を(それぞれの言語で)届けられるようなグローバル・プラットフォームが求められていると確信しました。そのようなプラットフォームがあれば、学術出版界に計り知れない価値をもたらせるのではないかと考えたのです。そのような理由から、エディテージ・インサイトは、英語中国語日本語韓国語での情報発信を行なっています。

起ち上げ当初のビジョンはどのようなものでしたか?現在までの間に、そのビジョンはどのように変わりましたか?また、ビジョンはプラットフォームにどのように反映されていますか?

私たちのビジョンは当時も今も変わっておらず、世界中の研究者にとってもっとも信頼のおける最大のリソースになることです。取り組みの内容には、世界中の研究者に手を差し伸べること、研究者のあらゆる疑問に答えられる態勢でいること、学術界の専門家に意見をシェアしてもらうこと、業界のトレンドや進展に関する見解をシェアすること、研究者たちの移り変わるニーズに対応すること、そのニーズに応えるために全力を尽くすこと、などがあります。これらの取り組みが一定の成果を挙げていることは、数字を見れば明らかでしょう。たとえば、私たちは現在までに2500件以上のコンテンツを提供しており、サイトには毎月200ヶ国以上から20万人の読者が訪れ、Q&Aフォーラムでは何百という質問に回答しています。


数字が1つの指標になるのは事実ですが、私たちが正しい方向に向かっているかどうかの真の指標となるのは、読者の皆さんの意見です。設立4周年を機に読者の皆様から頂いた感謝の言葉の数々には、編集部一同、大変感激しました。今後も、自分たちができることと読者のニーズを満たす方法を、常に模索していきたいと思います。たとえば、大量のコンテンツや長いチュートリアルを読み切る時間がない研究者もいるだろうと考え、毎日5分で少しずつ学べるコーヒータイムコースというコーナーをスタートさせました。同様に、より深く自分のペースで学びたいという研究者には、インタラクティブ・ラーニングコースと総合ハンドブックというサービスを提供しています。読者から寄せられる11つのメールが私たちの喜びであり、新たなサービスを企画・提供するモチベーションになっています。ビジョンは設立当初から変わりませんが、プラットフォームは、読者のニーズに合わせて進化を続けています。

エディテージでは、編集者をはじめとする出版業界の専門家の視点を著者に伝えるコンテンツを数多く提供しています。編集者や出版社に著者への理解を深めてもらうために、どのような取り組みをされていますか?

当サイトの読者の多くは研究者ですが、ジャーナル編集者や出版界のリーダーなどもユーザーコミュニティに数多く参加しています。Q&Aフォーラムは、編集者にとって宝の山と言えます。なぜなら、著者から寄せられる質問を読めば、著者が困難に感じていることや不満に思っていることを把握できるからです。フォーラムで、自分の回答や意見を交えたコメントをしているジャーナル編集者もいます。とは言え、これは受け身の対応であることは承知していますし、ここに時間を割けないジャーナル編集者もいるでしょう。そのため、少し前に著者への大規模なアンケートを実施し、ジャーナル編集者や出版社の目に付きやすい関連ジャーナルにその結果を発表するという取り組みを行いました。


また、ジャーナル編集者や出版社が参加する、世界各地で開催されている大規模な学術会議にはすべて出席するようにしています。著者に焦点を当てたセッションやパネルディスカッションに参加して、著者の視点や困難を紹介しています。このように、私たちは基本的に、著者の側に立った活動をしています。

エディテージ・インサイトならではの困難には、どのようなものがありましたか?それをどのように克服しましたか?

201311月に起ち上げられたエディテージ・インサイトは、大きな夢を抱きながらも当時はまだ読者が少なく、予算も最小限で、何よりスタッフは3人しかいませんでした。私たち自身や上層部の人間に、エディテージ・インサイトには予算を注ぎ込む価値があり、理想とする形を実現できる力がある、ということを証明しなければならなかったのです。いわゆる「ゼロからのスタート」という典型的な環境でした。白熱した企画会議や、あらゆるコンテンツに関する議論と見直しの繰り返し。読者からコメントをもらったときの喜びや、ミスをしたときの落胆。トライ&エラーを重ね、夜遅くまで働くことも珍しくありませんでした。その中で、唯一正しいことだったと胸を張れるのは、(今もそうあるよう努めていますが、)読者の声を聞くということでした。Q&Aフォーラムは、初期の頃からのサービスです。質問が寄せられるたびに、著者たちが直面する困難について考えてきたことが、現在のコンテンツ戦略につながっています。また、早い段階から業界の専門家へのインタビューも開始しました。目標とするインタビュー数を達成するのに多少時間はかかりましたが、早い段階で彼らと出会えたことで、自分たちが前に進み続けるためのかけがえのない洞察力や自信を得ることができました。

次の一手は何でしょう?数年後、エディテージ・インサイトはどこにいますか?読者に伝えたいことはありますか?

私たちが情報を発信して読者がそれを受け取る、というステージはすでに超えていると考えています。エディテージ・インサイトが目指すのは、活気溢れる参加型のコミュニティです。月に20万人の読者が訪れるエディテージには、ありとあらゆる専門性と経験を網羅できるポテンシャルがあります。あとは、この大きな可能性を活かす方法を見つけるだけです。以上を踏まえて、読者の皆様にメッセージを送ります:


読者の皆様へ

皆様のご支援なしに、私たちがここまで来ることはできませんでした。ありがとうございます!今後とも、エディテージ・インサイトに一層のご支援とご協力を頂ければ幸いです。エディテージ・インサイトに参加・協力するには、さまざまな方法があります。Q&Aフォーラムで質問したり、ほかのコミュニティメンバーの質問に答えたりすることができますし、Researcher Voiceというコーナーでは、エディテージ・インサイトのゲストライターとして、ご自身の経験やストーリーをシェアすることができます。また、インタビューしてもらいたい人物のリクエスト、記事へのコメント、アンケート・クイズ・投票・パズルへの参加も可能です。知り合いの研究者にSNSで私たちのコンテンツをシェアして頂くこともできます。もちろん、りよサイトを作るためのフィードバックとして、私たちに直接メッセージを送って頂くことも歓迎です!

今後とも引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

クラリンダ

acceptされた論文の取り下げは可能か

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Question Description: 

editage insight様 先日は1年半という長いreviewで困っていたジャーナルへの対策をご教授いただきありがとうございます。 其の後抗議のメールを数回送ることでなんとか"okey"という一言reviewとともにacceptされました。 ただしその後よくよくこのjournalを見返すと ちょうど私がsubmitした前後からMEDLINEから消え、 IFもなくなり、 publicationもonline first only した継続されていませんでした。 またそのonline first onlyもずっと草稿状態のままのものが掲載されています。 歴史は長いようなのですが、この雑誌http://www.internationalsurgery.org/loi/insu?code=icsu-siteがこのまま消滅してしまうことはあるのでしょうか? また、このまま日の目を浴びない可能性がある自著をこのjournalに掲載料を払って載せず、今から他誌に再度投稿することは(投稿料支払期限が過ぎるまで待つなどして)可能なのでしょうか? ご教授宜しくお願いします。

回答

アクセプト後に論文を取り下げるのは、適切な行為とは言えないでしょう。あなたの論文には、編集者や査読者の貴重な時間や労力がかけられているからです。ジャーナルの質は、インパクトファクターで測ることはできません。分野で長年にわたる評価を保ち、高品質な論文を出版しているジャーナルなら、そこで出版する価値はあるはずです。Medlineへの登録については、ジャーナルが何らかの変更や方針の改正を行なっていて、そのために一時的に登録が消えている可能性もあります。その場合、変更作業が完了すれば、再び登録の申請が行われるかもしれません。ジャーナルのオンラインファースト版では、リプリントが掲載されます。これは、何らおかしなことではありません。もし出版プロセスに遅れが出ても、研究の優先権を確立することができるので、著者にとってはむしろメリットがあると言えます。

 

このジャーナルは定期的な出版を継続しているようですし、廃止になることを示すような情報はどこにも書かれていません。この時点で論文を取り下げて別のジャーナルに投稿したら、出版までに数か月を要します。それだけでなく、別のジャーナルからもアクセプトを得られるという確証はありません。リジェクト判定を受けたら、さらに長い時間がかかります。今回の疑問点については、ジャーナル編集者に問い合わせてみることをお勧めします。また、あなたの論文がどの号に掲載される予定なのかも聞いてみましょう。これらの確認作業を行うことで、十分な情報に基づいて判断を下せるはずです。


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理論的枠組みは、学位論文に欠かせない要素ですか?

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Question Description: 

学部の教員の1人が、学位論文のフォーマットを見直す必要があるのではないかという提案をしました。委員会のあるメンバーは、論文が長くなりすぎないように、「理論」そのものを研究している研究でない限り、「理論的枠組み」のセクションを削除した方がよいと主張しています。しかし、私は、学位論文のフォーマットから理論的枠組みを削除する理由はどこにもないと考えており、上記の意見には納得できません。理論的枠組みは、すべての学術研究や概念的枠組みの基礎となるものであり、研究はそのような視点から行われるべきであると個人的には考えています。また、データ収集の過程で、データのまとめ方や分析にも制限を設けることになるので、やはり削除する理由は見当たりません。メンバーの多くが削除に賛成しており、私は少数派です。この多数派の判断は正しいのでしょうか?私の専門が社会科学であるために、理論的枠組みを重要視しすぎているのでしょうか?この問題についてご意見を頂ければ幸いです。

回答

学位論文のフォーマットから理論的枠組みを外すべきではないというご意見に、賛成です。その理由は以下の通りです。


すべての科学は、他者の知見の上に成り立っています。完全にオリジナルな普遍的価値を持つ科学は、存在しません。実験に基づく研究やエビデンスベースの調査はすべて、何世代にも渡って先人が築いてきた知見を土台として成り立っています。そして、実験によって先行研究の有効性を立証するのです。科学的研究とは、知識の基盤を洗練、調整、複製、批評することです。したがって、基礎的知識または「理論」とは、科学者が自分たちの研究を組み立てるための基礎となるものです。


また、学位論文の執筆者は学生であるということにも留意する必要があります。まだ研究者の卵である学生たちの研究は、不完全な基礎の上に組み立てられています。少なくとも、自らの研究の基礎となる先行研究に関する最低限の知識がない限り、真に科学の一員であるとは言えません。正当な科学研究を行うためには、現在行われている研究その研究が行われるに至った過去の知見との関係を明確に理解しておかなければなりません。これを理解せずして、学生が一人前の研究者になることはできないでしょう。


したがって、理論的枠組みを構成する基礎研究に触れないような論文を学生に書かせることは、分野に蓄積された知見の全体図における自分の研究の立ち位置を把握するための、全体論的視点の獲得を阻害することにつながってしまうと思われます。

遺伝子操作された子ブタが臓器移植に希望をもたらす

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遺伝子操作された子ブタが臓器移植に希望をもたらす

ブタの臓器はヒトの臓器と同じように機能し、大きさも似ています。しかし、ブタの臓器を人体に移植することは、多くの研究者にとって鬼門でした。そんな中、今回Science誌で発表された論文が、臓器提供を待つ患者たちに希望を与えています。

死亡患者から提供された臓器によって、心臓、肝臓、腎臓などの臓器に障害を抱えている患者の命が救われています。しかし、健康な臓器を必要とする患者の数は膨大で、移植手術の順番待ちリストは長くなる一方です。適合する臓器の提供を待つ間に亡くなってしまうケースも珍しくありません。これまで、代替となる治療法を開発するためのさまざまな試みが行われてきましたが、遺伝子編集技術のおかげで、ようやく希望の光が見えてきました。


ブタの臓器はヒトの臓器と同じように機能し、大きさも似ています。しかし、ブタの臓器を人体に移植することは、多くの研究者にとって鬼門でした。そんな中、今回Science誌で発表された論文が、臓器提供を待つ患者たちに希望を与えています。バイオテクノロジー企業のeGenesisが率いたこの研究では、CRISPR(クリスパー)遺伝子編集技術を用いて、子ブタDNAに潜む有害ウイルスを不活性化することに成功。この技術によって、ブタ一般に認められるブタ内在性レトロウイルス(PERV)の切り離しが可能になったのです。このウイルスフリーの遺伝子素材を、代理母となる雌ブタに移植して、世界初のPERVフリーのブタクローンを誕生させました。この子ブタたちが、異なる種の臓器や細胞を移植する「異種移植(xenotransplantation)」の実用化に向けた大きな一歩になることが期待されています。


遺伝子編集技術を用いた、免疫学的に人間により近いブタの開発は、すでに進行中です。ただし、ブタゲノムにはほかにも多数のウイルスが存在しています。人体への移植を実用化するために検討すべきリスクは、まだまだ残っていると言えるでしょう。


DOI: 10.1126/science.aan4187

 

科学論文における時制の使い分け

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科学論文における時制の使い分け

英語は汎用性の高い言語ですが、時制の使い分けに苦労する人も多いのではないでしょうか。科学論文で使うべき時制は、IMRaD形式の各セクションによって異なり、それぞれのセクションにふさわしい時制があります。

英語は汎用性の高い言語ですが、時制の使い分けに苦労する人も多いのではないでしょうか。とくに科学論文を執筆するときは、どの時制で書くべきかに頭を悩ませることでしょう。科学論文で使うべき時制は、IMRaD形式の各セクションによって異なり、それぞれのセクションにふさわしい時制があります。主題となっている研究プロセスの側面に応じて、使用すべき時制は、より細かく複雑になっていきます。以下の図は、研究論文を書くときに選択すべき正しい時制を、セクションごとにまとめたものです。この図を参考にして、論文出版というゴールに一歩近付いて頂ければ幸いです!

※こちらの図はPDF版のダウンロードが可能です。プリントするなどして参考資料としてお気軽にご利用ください。

How to use correct tenses while writing a research paper

 

【科学論文における時制の使い分け】

1. イントロダクション

以下の内容は単純現在形で書く:

・研究の背景と目的

・テーマに関する先行研究

・普遍的な一般的事実

[例:The Earth revolves around the sun.(地球は太陽のまわりを回っている)]

・自分の研究に関連する、事実と考えられる先行研究の結果

以下の内容は単純過去形で書く:

・過去に真実と考えられていたが、誤りであることが明らかとなった知見

[例:Bats were thought to be blind.(コウモリは盲目であると考えられていた)]

・先行研究の研究方法の説明


2. 文献レビュー

テーマに関連する先行研究の説明は、単純過去形で書く。ただし、複数の時制を組み合わせる場合もある:

・研究または著者に焦点を当てる場合は、過去形

・研究に関して自分の視点を語る場合は、現在形

・最近の先行研究を引用する場合、または過去の研究を一般化する場合は、現在完了形

[例:Recent studies have shown that… (最近の研究は…ということを示している)]

[例:Several researchers have studied these stimuli…(複数の研究者がこれらの刺激について調べている)]


3. 材料および実験方法

自分が何をどのように行なったかを説明する場合、これらの行為がすでに完了している場合は単純過去形で書く

・初期段階の実験手順を説明するときは、必要に応じて過去完了形で書く

[例:Subjects who had been assigned to the control group were given a placebo instead of Drug A.(対照群に割り当てられた被験者には、薬品Aの代わりに偽薬が与えられた)]


4. 結果

・論文執筆時点で実験が完了している場合は過去形で書く

・結果を説明するために図表を引用する場合は現在形を使う

[例:Fig. 3 shows that…(図3が示すように]

・自分の論文をまとめる場合も同様

[例:Section 4.1 discusses…4.1では…について述べている)]


5. 考察

知見をまとめるときは過去形を使う

結果の解釈や有意性、結論を述べるときは現在形を使う

・結果をもとにした今後の課題や必要な研究に言及するときは未来形を使う

 

参考記事:


時系列やテーマに沿った文献レビューの書き方を教えてください。

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表題の件について不明な点が多いので、具体例を交えながら解説して頂けないでしょうか?よろしくお願いします。

回答

時系列に沿った文献レビューでは、入手できる情報(文献)を、古い順に記述していきます。このようなレビューでは、方法のセクションで、各文献の出版日をもとに文献をグループ分けするのが一般的です。たとえば、もっとも古い文献の出版年が1991年だった場合、文献を「19912000年」、「20012010年」、「2011年~現在」、という3グループに分けてレビューを行います。


この構成方法は、概念や方法論が時とともにどのように発展してきたかに注目する場合に使われます。たとえば、未成年者の皮膚がんに関する文献レビューであれば、まずはもっとも古い診断・治療方法について確認し、順次、最新のモデルや治療について書き進めます。


テーマに沿った文献レビューでは、主題を理解するのに重要と考えられる論点や理論に基づいて先行研究をまとめて、解説します。たとえば、未成年者の皮膚がんに関する文献レビューをこのアプローチで行うなら、「黒色腫皮膚がんと非黒色腫皮膚がん」、「日焼けによる皮膚がん」、「皮膚がんに対する未成年者の意識や考え方」、「治療法」などについて、テーマごとに解説することができるでしょう。

エディテージが学術出版社向けの自動文書評価ソリューション「Ada」を開始

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エディテージが学術出版社向けの自動文書評価ソリューション「Ada」を開始

投稿論文と出版論文の数が急激に伸びる中、出版サイクルの短縮を目指す出版社にとって、自動化は喫緊の課題となっています。エディテージはこのほど、研究論文の科学的内容を評価するための自動文書評価ソリューション、Adaを開始します。

(2018518日、米フィラデルフィア) - 学術コミュニケーションの世界では、出版社の利便性を高めるために、新しいテクノロジーをいち早く取り入れ、自動化を進めています。そこでエディテージはこのほど、研究論文の科学的内容を評価するための自動文書評価(Automated Document Assessment)ソリューション、Adaを開始します。


Adaという名称は、世界初のコンピュータープログラマーとされる、バベッジの解析機関に取り組んだエイダ・ラブレス(Ada Lovelace)にちなんでいます。Adaは、読みやすさや倫理的要求事項への順守状況という側面から、投稿論文の質を自動的に評価し、出版プロセスの各段階にかかる時間と手間を節約します。従来の自動評価ツールと違って、Adaは科学的内容の評価を目的として作られており、かつてないレベルでのカスタマイゼーションを実現しています。


カクタス・コミュニケーションズのテクノロジー部門バイスプレジデントのニシェイ・シャー(Nishchay Shah)は、Adaの機能を次のように説明しています。「Adaの仕組みはとてもシンプルです。テキストを入力情報として受け入れ、品質スコアを出力します。出版社はそれをもとに、論文を査読に回すかどうかを決めることができます。データベースやルールは、カスタマイズすることができます。つまり、特定のジャーナルや専門分野に合わせた設定が可能だということです。また、ジャーナル別、論文タイプ別、出版サイクルの段階別に、評価の厳密さを変えることもできます。Adaでは生データを取り込みむので、ファイルの種類は問いません。このため、あらゆる投稿フォーマットでの利用が可能です。AdaAPIに依拠していて、頑健なインフラをベースとしているので、編集部で現在利用中のツールやプロセスともすぐに連係させることができます」。


言語チェックのほか、Adaでは、倫理的事項に関する宣言についてのチェックを行うこともできます。これはジャーナルごとに設定することができます。また、補足的な内容チェックも簡単に追加することができます。さらに、原稿が基準を満たしていない場合は、著者にフィードバックを送ることも可能です。


投稿論文と出版論文の数が急激に伸びる中、出版サイクルの短縮を目指す出版社にとって、自動化は喫緊の課題です。小規模出版社、ニッチな分野の出版社、オープンアクセス出版社は、Adaを使うことで、活動を拡大しやすくなります。Adaは、学術コミュニケーションの世界に自動化の波を起こす存在となることでしょう。

査読者に指摘されていない箇所を、著者の判断で微修正しても問題ないですか?

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ジャーナルから論文の小幅修正を求められています。査読者のコメントに基づいた修正を行う場合、どのような修正を行なったかを示す記録を残す必要があることは認識しています。また、今回のジャーナルには、すべての修正記録を含め、査読コメントへの返答を別途提出する必要があります。それを踏まえて、論文の修正記録について2つの質問があります。


1. たとえば、「that」を「which」に変えるといった簡単に直せる文法ミスも、修正記録として残す必要がありますか?適切に修正するだけでは不十分でしょうか。


2. 指摘は受けていないものの、論文の構成や分かりやすさの改善につながると考えられる段落や文章(レイアウト)の入れ替えは、修正記録に残す必要はありますか?内容を変更するわけではなく、あくまで論文の流れや分かりやすさを改善するために文章を入れ替える作業は、行なってもよいものなのでしょうか。

回答

編集者が見落としている文法の誤りや誤字脱字などを修正することは問題ないでしょう。この場合、修正の記録を残す必要はありませんが、ミスが複数あった場合は、返答の際に、初稿段階で見落としていた文法ミスをいくつか修正したことを伝えてもよいでしょう。


一方、文章の順番を入れ替えるなどの比較的大きな変更については、その時点で査読者がその指摘をしていないということを踏まえれば、行わない方が賢明です。論文を改善する上で、どうしてもその変更が必要であると考えるなら、編集者にその是非を問うか、修正記録にその変更を行なった理由を説明するコメントを添えましょう。


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認知力の低下を抑えて脳を若く保つ

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認知力の低下を抑えて脳を若く保つ

脳の学習・記憶・適応能力は、加齢により低下します。身体のほかの部分と同じように、脳機能は明らかに衰えていくものです。しかし、マウスを使った最新の研究により、たった1つの遺伝子を操作することで脳の認知機能を活性化できることが明らかになりました。

脳の学習・記憶・適応能力は、加齢により低下します。身体のほかの部分と同じように、脳機能は明らかに衰えていくものです。しかし、マウスを使った最新の研究により、たった1つの遺伝子を操作することで脳の認知機能を活性化できることが明らかになりました。


ユタ大学健康学部の科学者らによって行われた今回の研究は、Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)のオンライン版で発表されました。この研究は、マウスの脳の視覚野を対象として、経験に適応する能力の向上を目的に行われました。研究チームのリーダーで、神経生物学および解剖学博士のジェイソン・シェファード(Jason Shepherd)准教授は、次のように述べています。「成人の脳のたった1つの細胞を操作するだけで、脳の可塑性を大きく向上させられることを示している今回の結果は、とても興味深いものです」。


加齢による脳の変化に関する研究は、常に科学者の興味を引き付けてきました。脳の可塑性には「クリティカル・ウィンドウ」と呼ばれる、効果的な回復が見込める時期が存在します。研究者らは、何がクリティカル・ウィンドウを開けさせているのか、そして閉まってしまうとそれ以上の回復は見込めないのか、という問いにも向き合うことになりました。Arc遺伝子を欠いたマウスのクリティカル・ウィンドウは開かないことが先行研究で分かっていたため、研究チームは、Arc遺伝子が通常の脳の発達時期におけるクリティカル・ウィンドウのコントロールに果たす役割に着目しました。その結果、Arc遺伝子の操作によって脳の可塑性を維持できることが示されたのです。


今回の研究結果は、医学・医療への応用が期待されており、認知機能の低下を抑えて脳を活性化するための新たな治療法の開発に繋がる可能性を秘めています。この研究から、脳卒中や脳の損傷から回復できる方法も確立されるかもしれません。

アクセプトかリジェクトか、はたまた修正か?より良い査読で学問を発展させる

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アクセプトかリジェクトか、はたまた修正か?より良い査読で学問を発展させる

査読とは、研究テーマや適用された方法に関する専門知識を持つ学者(peer)が、研究の評価(review)を行うことです。査読の目的とは、出版論文の質を最大限まで高めることです。査読者は、さまざまな問いに答えながら、普及させるだけの価値がある研究かどうかを見極めます。

 [ウォルターズ・クルワー(Wolters-Kluwer)社向けに作成された記事を、許可を得てここに再掲載しています。執筆者: Elizabeth S. Karlin(スタッフエディター)Jennifer Campi(シニアスタッフエディター)Mary Beth DeVilbiss(Academic Medicine誌マネージングエディター)]


査読とは、研究テーマや適用された方法に関する専門知識を持つ学者(peer)が、研究の評価(review)を行うことです。査読の目的とは―これが本記事のテーマですが―、出版論文の質を最大限まで高めることです。査読者は、ある種の陪審員として、普及させるだけの価値がある研究かどうかを見極めます。


査読プロセスは、昔からほとんど変わっていません。研究者は、実施した研究や調査の報告書である原稿を用意します。そして、それを適切なジャーナルに送ります。通常、原稿は内部でのチェックを受けます。そして、担当編集者(編集長か共同編集者)が、原稿を査読に回さずにリジェクトするか、査読に回すかを決めます。担当編集者、ジャーナルの編集委員、ときには原稿の著者自身が、査読者候補を推薦します。たいていは、論文を自分でもたびたび執筆する専門家のグループから、23人の査読者が選ばれます。


この次のステップであるレビューは、学問に欠かせない要素です。編集者は必ずしも査読者の提言に同意するわけではなく、またそうする必要もありませんが、原稿に関する貴重な情報源として、査読者は頼れる存在です。編集者、読者、ほかの学者たち、そして科学の進歩の恩恵を受ける人々―つまり私たちの誰もが、研究に洞察を加え、その強みと弱点をつかみ、重要な欠陥を明らかにし、新しい発見に光を当てることを査読者に頼っているのです。


査読者が答えを出す重要な問いには、次のようなものがあります:

  • この原稿は既存の文献をさらに充実させ得るか? (テーマは重要なものか? 課題に関する見解を変え得るものか? 分野の発展に貢献するものか?)
  • デザイン(方法論)や議論(ロジック)に致命的な欠陥はないか?
  • 著者はこの原稿をどのように改善できるか?


上記の問いに答えるために、査読者は、報告書のイントロダクション、参考文献リスト、方法、結果、考察、結論の各セクションを吟味しなければなりません。以下に、各セクションについての問いと提案をまとめました。


イントロダクションと参考文献: テーマの性質、文脈、最新の報告のニーズを読者が理解できるような、文献に基づく十分な背景情報が提示されているか? 引用文献は、最新の研究から基礎研究までを網羅しているか? 文献は、さまざまな視点を示す、バランスの取れたものになっているか? 著者自身の目的、疑問、仮説が明確に述べられているか?


方法: 方法は、著者が研究したいと望んでいる課題や疑問に対して適切か? 別の研究者が研究を再現するための十分な情報が示されているか? 前提条件は明確か? 研究はいつどこで実施されたのか? 研究の対象者や参加者はどのような人か? ヒトや動物が関与する場合、必要な倫理的承認は得ているか? 手順や分析手法は説明されているか? 問題があらゆる角度から検討されているか?


結果結果は、方法に対応したものになっているか? あらゆる手順と分析の結果が報告されているか? 結果の有意性が、統計的かつ臨床的に示されているか?


考察と結論得られた結果が、別の前提条件や対象についても一般化できるかどうかを検討しているか? 結果のあらゆる意義が検討し尽くされているか? 結果が科学にどのような影響を与えるかを示しているか? 将来の研究への道筋や取り組みについて検討されているか? 結論で、何らかの限界およびその限界の影響について考察されているか?


査読を進める上で、これらの問いが役立つはずです。また、以下のリソースも有益です:


Review Criteria for Research Manuscriptss, 2ndEdition (www.aamc.org/reviewcriteria)

査読プロセス全体を把握し、評価すべき論文の各側面(タイトルやサマリー、アブストラクトやイントロダクション、結論や参考文献)を体系的に吟味するための、査読者のための包括的ガイドです。本書は経験豊富な学者と査読者が執筆し、Academic Medicine誌の共同編集者2名が編集を行いました。査読者のための便利なチェックリストが含まれ、質的研究、体系的レビュー、イノベーションの説明といった新しいタイプの原稿について説明しています。また、査読者としてのマナーにも触れています。新米査読者にもベテラン査読者にも役立つこのマニュアルは、難しい原稿と格闘する査読者、隙のない原稿を準備したいと願う著者、そして研究の実施・評価・応用・発信・考察について学んでいる学生(とその指導者)を支えるリソースです。


What Editors Want: An Overview for Reviewers/編集者は査読者に何を望んでいるのか(https://vimeo.com/academicmedicine)

編集者は何を望んでいるのか?という、査読者の一般的な疑問について答えるショート映像です。Academic Medicine誌の編集者とスタッフによるこのプレゼンテーションでは、査読者としてのマナー、査読の形式、査読の内容を扱っています。これは、同誌の膨大な査読者向けリソースの一部です。査読者の意見に関するガイドは、査読者向けページ「For Reviewers(http://journals.lww.com/academicmedicine/Pages/ForReviewers.aspx)からダウンロードが可能です。その他のビデオや練習課題も開発中です。


査読者向けワークショップ
Academic Medicine誌の編集者とスタッフが査読に関する基本情報を紹介し、その後で参加者にセッションを引き継ぐ、ダイナミックで双方向的なワークショップです。セッション参加者は小グループに分かれて、Academic Medicine誌に投稿された実際の原稿をレビューします。最後にプレゼンターと参加者で、原稿、査読のプロセス、そこから得られた気づきについて意見を交わします。今後のワークショップとイベントに関する情報は、ジャーナル(acadmed_online@aamc.orgt)にお問い合わせください。


Academic Medicine誌のブログ「AM Rounds」の査読者向けシリーズ記事 
査読について学び、そのスキルを向上させるためのおそらくもっとも有効な方法は、査読者自身の言葉に接することでしょう。全11回のシリーズ記事 (http://academicmedicineblog.org/category/peer-reviewer-resources)では、Academic Medicine誌のExcellence in Reviewing Award(最優秀査読賞)を授与された査読者が、良い査読を行なって優れた査読報告書を書くためのヒントを紹介しています。また、査読の利点と目的、さらには査読への愛も披露しています。


 

査読者と著者のために、査読の良いところを活用するこれこそが、最終的な目標です。CVの充実のほか、ときには受賞やCMEクレジットといった査読の実際的メリットに加え、学者たちには、他人の研究のレビューを続ける理由があります。然るべきレビューには時間と労力が必要ですが、それにもかかわらず学者たちが原稿の評価を行うのは、自分の研究分野の最新の知見に触れる機会が得られるからです。査読者たちは、学問のプロセスに参加しているのです。そして、自分たちを支えてくれたコミュニティに恩返しをし、あらゆる人の利益のために、科学を進歩させているのです。


画像提供shutterstock.com

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