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STEM分野で不足する女性研究者:「水漏れパイプ」

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STEM分野で不足する女性研究者:「水漏れパイプ」

科学・技術・工学・数学(STEM)分野の専門家への需要が高まる中、これらの分野では、世界の人口の半分を占める女性が不足している状態です。女性のSTEM離れの原因には、さまざまな要素が影響していると考えられます。

科学技術によるイノベーションは、社会の持続的な発展や進歩のための、あるいは気候変動や疫病や所得格差といった世界的な問題に対処するためのカギと言えます。必然的に、科学・技術・工学・数学(STEM)分野の専門家への需要は高まっています。しかしこれらの分野では、世界の人口の半分を占める女性が不足している状態です。UNESCO統計研究所は、世界の科学研究における女性の参加率は30%以下であると発表しています。


この偏りには、いろいろな要素が影響していると考えられます。ダスグプタ(Dasgupta)氏およびストラウト(Strout)氏によるレビュー論文は、さまざまな発達段階における女性特有の社会心理学的要素が、「leaky pipeline(水漏れパイプ)」と呼ばれる、女性のSTEM離れの原因になっていると指摘しています。論文では、(a)幼年期および思春期、(b)成人形成期、(c)労働期の3つの発達段階に着目して、各段階で教育環境や人間関係や家族特性がどのような形で障害となっているかを示した上で、STEM分野での参加率や貢献度における性差を明らかにしました。それぞれの発達段階について、詳しく見ていきましょう。


幼年期および思春期

子どもは多くの場合、「女子は協調性に優れ、家族やその他の人間関係に焦点を当てた活動を志向する」、「男子は物理的世界の探索を好み、問題解決やお金を稼ぐなどの活動を志向する」といった男女をめぐる固定観念によって、それぞれの性別に伴う役割や期待を意識し始めます。たとえば米国では、「数学は男がするもの」という文化的風潮が、女子が文学よりも数学を敬遠する傾向を生み出しており、STEM系科目の成績に男女差が生まれる要因になっています。また、子どもがどの学問分野に興味を持つかは保護者による影響が大きく、女子が科学や数学に取り組むモチベーションは、保護者のサポートの有無によって左右されます。仲間からの承認欲求や同性の友人たちの関心領域も、思春期の女子がSTEM分野に進むかどうかに影響を及ぼします。さらに、職業的価値に関連する個人的目標も、STEM教育に影響します。女性は男性よりも共同体への関心が高く、STEM分野(ソーシャルワーク、看護、教育などを除く分野)では共同体への参加を果たせないというよくある誤解が、女性をSTEM分野から遠ざけています。


成人形成期

大学でSTEM分野(とくに物理科学、コンピューター科学、工学、数学)に進んだ女性は、帰属意識を持つことに困難を感じています。このことは、これらの分野が「男のするもの」であるという根強い偏見に起因しており、結果として、女性のSTEMへの参加率の伸び悩みや、それに伴う人員不足を招いています。また、一般的にSTEM系学部における男女比は、少なくとも31の割合で男性が多いため、同性の同級生が少ない女学生は帰属意識を持ちにくく、分野への関心の低下にもつながっています。STEM分野における女性教授の存在が、女子学生に自信を与えて成長を促すことが明らかになっていますが、ロールモデルとなる女性の教員やリーダーは、まだまだ少ないのが現状です。


労働期

STEM分野でキャリアを歩むことを決めた女性は、就職活動の時点で最初の壁にぶつかります。イェール大学の研究者らによる調査では、米国の科学分野の教員の多く(男女ともに)が、同等の経歴を持つ男女の候補者がいた場合、男性候補者に対してより高い評価とより高い報酬を与える判断をする傾向があると報告されています。この調査結果を踏まえると、研究者としての評価や昇進についても同様の傾向が見られると考えられます。また、職場においてもSTEM分野の女性は男性よりも帰属意識を持ちにくく、若手の女性研究者が十分な専門的指導を受ける機会も少ないと言えます。そして、STEM分野において出産や育児がキャリアに及ぼす影響は、男性よりも女性の方が大きいでしょう。夫婦ともにSTEM分野の研究者である場合、求職活動において、女性側がキャリアを優先できないという不利益を被るケースが一般的です。これは「two-body problem(二体問題)」と言われています。


解決のための提案

ダスグプタ氏とストラウト氏の論文では、女性のSTEM分野への参加を促すには、エビデンスベースの解決策や政策を講じる必要があると述べられています。STEM分野への関心を高めるには、教員や研究者が学生と交流するラボセッションなどの機会を積極的に提供していくべきでしょう。プログラミングクラブやサイエンス・サマーキャンプなど、実社会と結び付いた格式張らないSTEM活動は、女学生のSTEMへの関心を高めることが示されています。チームワークの重視や、女性限定または女性多数といった要素を加えることで、女学生が参加しやすくなるでしょう。STEM分野において、女子学生は実際の女性ロールモデルの存在に勇気付けられることが明らかにされているため、これらの活動には女性の科学者やエンジニアが多数参加すべきでしょう。STEM分野でキャリアを積んだ女性教員や女性研究者と交流することで、固定観念を解消し、自信を深め、分野への帰属意識を高めるのにも役立つでしょう。STEM分野の女性研究者を増やすには、就職や助成金申請審査のジェンダーフリー化、職場での女性の受け入れ体制の強化、仕事と家庭の両立を可能にする政策の導入、性別の壁を克服するための専門家によるサポートなどが必要になるでしょう。


女性のSTEM離れには、すべての発達段階に共通する2つの主な要素があります。1つは、科学や工学を男性と結び付ける文化的固定観念です。もう1つは、STEMコミュニティにおける女性の帰属意識の欠如です。STEMへの女性の参加と貢献を向上させるには、ジェンダーバイアスの問題を解決するプログラムや政策の導入が不可欠と言えます。


SAGASTEM and Gender Advancementは、STEM分野におけるあらゆるジェンダーギャップの改善を目指してUNESCOがグローバルに進めているプロジェクトです。女性のSTEM分野のキャリアに影響を及ぼす事柄の調査を行うほか、地域・国・世界レベルでの適切な政策の立案などの活動を行なっています。このような政策を世界中で実施することで、STEM分野への女性の参加が促され、女性の科学的能力が最大限に活用され、さらには持続的発展やグローバルな科学技術的進歩につながっていくでしょう。


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学術界の女性たち(シリーズ)

アカデミズムの世界の偉大な女性たち: 18 人のノーベル賞受賞者をたたえて


共著者の人数に制限はありますか?

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Question Description: 

著者や共著者の人数に制限はありますか?

回答

論文の共著者の人数に制限はありません。ただし、共著者全員が研究に著しい貢献を果たしていて、共著者としての資格を本当に満たしていることを確認することが重要です。ICMJEのガイドラインでは、以下のすべての項目を満たす場合のみ、オーサーシップが与えられると規定されています:

 

  • 研究の構想やデザイン、あるいは研究データの取得・分析・解釈に相当の貢献をした
  • 重要な知見となる部分を起草した、あるいはそれに対して重要な修正を行なった
  • 出版前の原稿に最終的な承認を与えた
  • 研究のあらゆる側面に責任を負い、論文の正確性や整合性に疑義が生じた際は適切に調査し解決することに同意した


以上の項目のすべてを満たしているわけではない場合も、「共著者」ではなく「貢献者」として名前を載せることが可能です。著者数の多い論文では、各著者の貢献内容を示したオーサーシップに関する報告書をカバーレターと併せて提出することを、多くのジャーナルが推奨しています。


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著者への注意喚起:偽のジャーナルや学会の罠を避けるには

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ドナルド・サミュラック博士(カクタス・コミュニケーションズ、エディテージ米国オフィス代表)が聞く対談シリーズ:パート4


【参加者】
アン・ウッズ博士(Dr. Anne WoodsWKH看護師長)
ショーン・ケネディ氏(Shawn KennedyAmerican Journal of Nursing誌編集長)


対談の話題は、偽の出版社、ジャーナル、サービスプロバイダー、学会へと移ります。ケネディ氏は、ハゲタカジャーナルから論文執筆依頼を受けた経験を紹介し、オープンアクセスモデルもハゲタカ出版社の増加の一端を担ったと述べます。サミュラック博士は、ハゲタカ出版社の出現によって論文出版を支える信頼が損なわれたとした上で、出版に際して著者をどう守るべきかを語ります。ケネディ氏は、大学図書館がまっとうなジャーナルを見極める形を模索することが最良の方法だと主張し、ハゲタカジャーナルや偽の学会を見分けるための役立つヒントを紹介しています。


本対談シリーズのその他のパート:

責任著者の6つの役割(論文投稿前)

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責任著者の6つの役割(論文投稿前)

責任著者になることを目標にしている研究者は少なくありません。責任著者は、論文作成に大きく貢献するだけでなく、さまざまな手順に従って出版プロセスを円滑に進める能力を持っている必要があります。この記事では、責任著者になることの意味と、論文投稿前の責任著者の役割について取り上げます。

オーサーシップ(著者資格)を重視しない研究者はいません。著者として論文に名前が載るかどうかは、大きな問題だからです。論文出版はすべての研究者が避けて通れない道であり、学術界に身を投じるのであれば、誰もがその道を行くことになります。あなたがPIprincipal investigator、研究責任者)の下で研究活動をしているなら、自分が取得したデータをPIに渡すことになるはずです。PIは、あなたやほかの同僚たちのデータをまとめて1本の論文に仕上げます。論文に十分な貢献を果たした人の名前は論文著者として掲載され、PIを責任著者(コレスポンディング・オーサー)とした論文が出版されます。この責任著者になることを目標にしている研究者は少なくありません。出版された論文には、責任著者の名前にメールアドレスが添えられた小さなアイコンが付きます。これは大きな責任が伴うという印でもあり、いい加減に務められるような立場ではありません。この記事では、責任著者になることの意味と、論文投稿前の責任著者の役割について取り上げます。


論文の責任著者にふさわしいのは誰か?


これを理解するために、まずは国際医学編集者会議(ICMJE)が定義するオーサーシップの基準を見てみましょう。論文への貢献にはさまざまな形があります。著者資格があるのは、研究の構想やデザインおよび論文の執筆に著しい貢献を果たし、最終原稿の出版を承認した人です。責任著者の役割は昔から変わらず、ICMJEのオーサーシップ・ガイドラインでは以下のように定義されています:


「責任著者は、論文の投稿・査読・出版プロセスにおいて、ジャーナルとのコミュニケーションに主たる責任を負う人物である。責任著者は、オーサーシップの詳細情報の提供、倫理委員会の承認の取得、臨床試験登録書類や利益相反申告書の提出などの、ジャーナルの管理要件が適切に満たされていることを確認しなければならない。ただしこれらの責務は、1人または複数の共著者に委任することができる」


このように、責任著者は論文に著しい貢献を果たすだけでなく、さまざまな手順に従って出版プロセスを円滑に進める能力を持っていなくてはなりません。PIが責任著者を務めることが多いのは、PIが中心となって研究全体を率いていて、また、十分な出版経験を積んで投稿書類一式の内容を把握しているからです。複数の著者が関わる共同研究プロジェクトでは、それぞれの研究者がさまざまな情報を持ってきます。それらを論理的かつ包括的な論文としてまとめ上げるには、相応の労力とリーダーシップが必要なので、責任著者が果たす役割はきわめて重大です。このようなプロジェクトでは、責任著者はグループから指名されることが一般的であり、自薦で務めることは稀です。なお、単著論文の場合は、著者本人が責任著者になります。ここからは、責任著者の役割を見ていきましょう。


責任著者として果たすべき役割は?


責任著者は、出版の前後を含め、論文出版のあらゆる段階で重大な責任を負います。まずは、論文を投稿する前にすべきことを見ていきます。
 

  1. 進捗が期日に沿っているか確認する:論文に関連するあらゆるコミュニケーションを担う立場として、共著者の進捗を定期的に確認し、それぞれの役割が期日通りに果たせるようにしましょう。これは、共著者の所属先が異なっている場合はとくに重要です。たった1人の遅延が、論文の投稿日程の遅延を招きかねないからです。ただし、共著者のやり方に口を出すリーダーではなく、論文を出版するためのタイムキーパーあるいはコーディネーターとして振る舞いましょう。各著者の役割は、初期の段階で明確にしておき、合意を得ておく必要があります。
     
  2. 論文原稿を用意する:ジャーナルに投稿する原稿に不備がないことを確認しましょう。具体的には、IMRAD(イントロダクション、方法、結果、考察、結論)、タイトル、キーワード、アブストラクト、図表、引用箇所、参考文献リストを含めて、不備がないことを確認します。異なる役割を持つ複数著者による論文の場合は、各著者の貢献が適切に反映されていることを確認しましょう。また、別々の成果物を寄せ集めたようなまとまりのないものにならないように、論文に統一性があることを確認しましょう。
     
  3. 投稿書類一式を揃える:著者からそれぞれの受け持ち分を受け取ったら、ジャーナルに提出する投稿書類一式を揃えるのも責任著者の仕事です。まずは、ジャーナルの要件(同意書、関連委員会からの倫理承諾書など)をリスト化しましょう。ジャーナルの指示に従って論文を仕上げ、投稿時には必要なすべての書類が揃っている状態にしましょう。なお、研究によっては、被験者のインフォームド・コンセント倫理委員会の承認は、研究開始前に取得しなければなりません。これらの書類を欠いた論文は受け取りを拒否されることがあるので、責任著者は、こうした手順を前もって十分に理解し、投稿時にすべての書類が確実に揃っている状態にしておかなければなりません。
     
  4. 各著者の情報が正確かどうかを確認する:論文にすべての著者名が正確に書かれていることと、著者名の順番が正確であることを確認しましょう。著者名の順番は、後でトラブルが発生しないように、すべての著者と話し合って決定しましょう。この話し合いは、論文の執筆開始前の初期段階に行うのが一般的です。各著者のメールアドレスや所属先が、最新の正確な情報かどうかも確認しましょう。すべての著者からオーサーシップの詳細に関する署名入りの同意書を貰い、ほかの投稿書類と一緒にジャーナルに提出します。複数著者による論文の場合は、各著者が論文に果たした役割を示す、著者の貢献度に関する申告書の提出を求めるジャーナルもあります。この申告書では、すべての著者による同意と署名が必要です。責任著者として、必要事項を記入してジャーナルに提出しましょう。
     
  5. 倫理的慣行が順守されていることを確認する:責任著者は、論文が倫理的に作成され投稿されていることを保証する責任を負っています。責任著者(および共著者)は、サラミ法剽窃・自己剽窃連続投稿・二重出版データの改ざん・捏造などの、いかなる不正行為にも手を染めてはなりません。これは重要な責務であり、すべての著者が最善の倫理的慣行を順守するよう働きかける必要があります。
     
  6. オープンアクセスに関する手続きをリードする:共著者とともにオープンアクセス出版を選んだら、責任著者は、論文掲載料(APC)の支払いの管理、助成団体や所属機関の要件を満たしていることの確認、論文のリポジトリへの登録(必要に応じて)など、オープンアクセスに関するすべての手続きを先頭に立って処理する必要があります。


以上が、論文投稿前の責任著者の大まかな役割です。記事の後半では、論文投稿後の役割について取り上げます。


記事後半:What corresponding authors are expected to do after journal submission


参考資料:


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校正後のEarly viewについて

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Question Description: 

無事に論文が受理され、proof校正のチャンスが1度だけありました。修正が必要な箇所が結構見つかったので、全て入力して編集社に送信しました。最近、Early viewの知らせがありPub medでもabstractが見れる状態となりました。早速ダウンロードしたのですが、論文中の表で指摘しておいたところが、1点修正されておりませんでした。論文を見るたびにどうしても気にはなってしまうのですが、early viewはもはや出版済と同様の状態で修正は不可能との認識で良いのでしょうか?そうであれば、論文全体にはそれ程大きな影響がないので気にしないようにしようかと思っています。

回答

ジャーナルから校正原稿を受け取ったら、必要な修正を行なってから返送します。修正された論文は、印刷版に先立ってオンライン版で公開されます。この段階で、論文をオンラインで見られるようになります。これが論文の最終版となりますので、以降の変更はできなくなります。Early View論文は引用が可能で、そのためのオンライン出版日とDOIも添えられています。したがって、論文を修正することは難しいでしょう。不安が残る場合は、ジャーナル編集者に連絡して相談してみてください。編集者は、修正の内容次第では、次号で正誤表(errata) を出してくれるはずです。


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エディテージがグローバル調査報告書を発表―学術出版社への貴重なヒントに

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エディテージがグローバル調査報告書を発表―学術出版社への貴重なヒントに

エディテージは、学術出版に関わる幅広い分野の著者の視点をまとめた報告書を発表しました。この報告書は、世界の約7000人の著者の意見を集めた貴重なものです。回答者の多くは、英語を母語としない非西洋諸国の若手研究者でした。

エディテージは、学術出版に関わる幅広い分野の著者の視点をまとめた報告書を発表しました。この報告書は、研究のアウトプットで世界をリードする中国の著者2000人超を含む、世界の約7000人の著者の意見を集めた貴重なものです。回答者の多くは、英語を母語としない非西洋諸国の若手研究者でした。この層は、国際学術出版社や国際誌が働きかけを強めようとしているものの、今回のような数千人規模の接触が難しい層だと言えます。
 

「学術出版に関する著者の視点:グローバル調査報告書2018(Author Perspectives on Academic Publishing: Global Survey Report 2018)」と題したこの報告書は、以下の点に示唆を与えています:

  • 学術出版の各段階(論文の準備から査読コメントへの対応まで)で著者が直面する課題
  • 剽窃やオーサーシップなどの倫理関連の問題に関する著者の認識レベル
  • オープンアクセスに対する著者の意識
  • 査読に関する著者の意見と査読経験
  • 著者が対処したいと望む、学術コミュニケーションにおける喫緊の課題


学術出版界では、複数の構造的な変化に加え、非英語ネイティブの著者からの投稿件数の急増が見られます。国際学術出版社各社は、属性の推移に協力して対応しており、この新たな著者セグメントとの適切な関わり方を模索しています。その意味で、この報告書は大変タイムリーなものだと言えるでしょう。
 

エディテージの情報および教育部門であるエディテージ・インサイトの編集長を務めるクラリンダ・セレジョ(Clarinda Cerejo)は次のように述べています。「私たちは、非英語ネイティブの著者とともに活動してきた16年の間に、国際英文誌での論文出版に伴う問題への理解を誰よりも深めてきました。この報告書は、著者と出版社の情報や知識の潜在的なギャップを埋めることに役立ててもらうためのものです。これによって、学術出版システムの中にいるすべての利害関係者の取り組みが、うまくかみ合うようになればと思います」。
 

学術界と学術出版全体が絶え間なく変化する中、この報告書は、学術出版社が著者ファーストのベースを築くための下地に光を当てるものです。つまり、非英語話者の著者が増えている地域のニーズを代弁するものなのです。
 

報告書のダウンロードはこちらから:
学術出版に関する著者の視点:グローバル調査報告書2018
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ジャーナル・出版社・学会がソーシャルメディアですべきこと、すべきでないこと

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ジャーナル・出版社・学会がソーシャルメディアですべきこと、すべきでないこと

ソーシャルメディアでのアピールは、非常に強力で露出度の高い手段である分、慎重に進めないと簡単に罠にはまり、過ちを犯してしまう危険があります。だからこそ、ソーシャルメディア戦略を立てる際は、重要な7つの指針を念頭に置いておく必要があります。

本記事の前半では、ジャーナル/出版社/学会がソーシャルメディアを活用することのメリットを紹介しました。今回は、オンラインのインフォグラフィック作成ツール「Visme」の創設者であるペイマン・タエイ(Payman Taei)氏に、学術コミュニケーションの場で影響力を発揮して評価を得るためのソーシャルメディアの正しい活用法について伺いました。


ソーシャルネットワークは、誕生から10年ほどであるにも関わらず、私たちのこれまでの生活をがらりと変えてしまいました。

人々は、あらゆる情報をソーシャルメディアに投稿しています。ソーシャルメディアは、今の私たちにとってもっとも身近なコミュニケーションツールです。11の会話では口が裂けても言わないようなことが、FacebookTwitterInstagramでは日常的に拡散されています。


私たちのごく身近にあるソーシャルネットワーキングは、自分たちの行動に自覚的な学術誌や出版社にとって、ブランディングやビジネスの大きなチャンスとなっています。「ソーシャル」なアプローチを導入する学術団体は増える一方で、とくにTwitterFacebookLinkedInなどのプラットフォームで自らの存在感を高めています。


ソーシャルメディアでのアピールは、非常に強力で露出度の高い手段である分、慎重に進めないと簡単に罠にはまり、過ちを犯してしまう危険があります。ソーシャルメディアでの過ちはリアルタイムで起こり、わずか数秒で世界中の人に知れ渡ってしまうこともあります。だからこそ、ソーシャルメディア戦略を立てる際は、重要な指針を念頭に置いておく必要があります。


1. 宣伝するのではなく、語りかける:オンラインマーケティングのためのマーケティング戦略の一環に過ぎないという前提でソーシャルメディアを利用するのは、もっとも大きな間違いの1つです。ソーシャルメディアの本質は、関係性のマネジメントにあります。したがって、出版論文の宣伝をするためだけに利用することは、避けるべきでしょう。そのような露骨なマーケティングは、単調になりがちで、読者もうんざりしてしまうからです。さまざまなタイプの情報を発信し、読者が関心を持っている話題は丁寧に扱いましょう。たとえば、オープンアクセス(OA)を話題にする場合は、自社のOA出版ルートの宣伝をするだけでなく、OA出版に関するブログ記事の紹介や、OAに対する自分たちの考え方をシェアします。フォロワー(著者、査読者、一般の人々など)は、このような投稿により大きな関心を持ちます。


2. さまざまなフォーマットでのコンテンツ発信を試みる:好例は、インフォグラフィックです。Vismeは、インフォグラフィックがソーシャルメディアでいかに効果的かを主張しています。インフォグラフィックは、見映えの良いビジュアルフォーマットにさまざまな情報を分かりやすくまとめたものです。しかし、ただインフォグラフィックをソーシャルメディアで発信すれば良いというわけではありません。自社製品やサービスの宣伝として単にインフォグラフィックで飾るのではなく、フォロワーたちがどのような会話をしているかに注目し、求められている情報に沿って、どのようなインフォグラフィックを提供すべきかを検討しましょう。

重要FacebookTwitterなどのプラットフォームでは、マウスを数回クリックするだけで、読者に関するさまざまな情報をほぼ無制限に得られます。(私が創設した)Vismeのようなツールを駆使してインフォグラフィックを作成する場合は、このような背景情報を判断材料にしましょう。

ソーシャルメディア戦略を実行する際は、インフォグラフィックありきで読者にアプローチするのは避けましょう。これでは本末転倒だからです。まずは、読者に目を向けましょう。その上で、「自分ならどのような疑問に答えられるか?作成したインフォグラフィックでどのような問題を解決できるか?」と自問してみましょう。

この、ささやかながらも重要な視点の違いが、ソーシャルメディアで支持されるインフォグラフィックになるかどうかを左右します。


3. さまざまなフォーマットでコンテンツをシェアする:インフォグラフィックだけにこだわることなく、さまざまなフォーマットを試しましょう。ソーシャルメディアでの研究関連の情報発信に効果的なその他のフォーマットには、レイ・サマリーと動画アブストラクトがあります。レイサマリー(lay summary)とは、一般的な言葉を使って研究を分かりやすく簡潔にまとめたものです。動画アブストラクトは研究を視覚化したもので、動画というフォーマットはオンライン上での関心を集めるのに効果的です。読者の関心を引きやすいという意味では、SlideShareによるプレゼンテーションも効果的な視覚情報です。どのようなフォーマットであれ、発信できるコンテンツは、すでに自分が発表しているものか、自作のものに限ります。あるいは、自分がおもしろいと感じた関連コンテンツをシェアすることもできます。大切なのは、情報を伝えながら引き込めるようなコンテンツマーケティング戦略を敷くことです。


4. 「流行」に便乗しない:学術誌や出版社がソーシャルメディアで犯しがちなもう1つの大きな間違いは、自分たちを流行りのイベントに無理やり結びつけようと必死になってしまうことです。

この種の過ちは小さなものかもしれません。しかし、Twitterで流行中のハッシュタグを利用して露骨な自己宣伝ツイートをするのに夢中になれば、「自分たちの売上のためにソーシャルメディアを利用しているだけ」という印象を読者に与えてしまいます。最悪の場合、最近では毎日のように見られる「炎上」状態を招き、自分たちのイメージに大きな傷を付けてしまうことになるでしょう。


自分たちの出版社/学会を流行のイベントに結びつけようとするなら、前もって検討すべき重要なポイントがあります。まずは、「自分の出版社/機関/助成団体は、利用しようとしているトレンドと関連があるか?」という点をじっくり検討しましょう。答えが確実に「いいえ」の場合、その話題からは距離を保つのが賢明です。次に、その話題に触れたとして、「その情報は読者にとって興味深く有用なものか?」を検討しましょう。たとえば、オープンアクセスウィークのように、すでに大勢の関心を集めている大規模なグローバルイベントに触れれば大きな反響が期待できますが、先述の問いの答えが「いいえ」なら、その労力は別のことに向けた方が良いでしょう。


5. 下調べをする:ソーシャルメディアで自分の存在感を確立・維持するには、時間と労力、前向きな姿勢、クリエイティブセンスが必要になります。ソーシャルメディア・プラットフォームでの情報発信を始める前に、プラットフォームやほかのジャーナル/研究者の投稿について調べ、自分たちの出版物や組織の特徴を知り、ターゲットとする読者層を把握しましょう。とは言え、下調べばかりしていても先へ進めません。ときには、実際に情報を発信してみて、必要に応じてアプローチを変えるというやり方も大事です。


6. タイミングが重要であることを知る:何をするにしても、タイミングはきわめて重要です。それは学術出版でも同じです。学会やグローバルイベント、主要学会などの大規模イベントの情報を、常にキャッチしておく必要があります。また、フォロワーたちがもっとも活動的な時間帯も把握しておきましょう。たとえば、アジアの研究者に向けた情報を発信する場合は、その人たちがリアルタイムで情報を見られるタイムゾーンを選択しましょう。最適な投稿頻度も見極める必要がありますが、それは投稿を繰り返すうちに見つかるでしょう。毎日4回ツイート/投稿する出版社もあれば、1回しか行わない出版社もあります。


7. 最適なプラットフォームを見つける:成功しているビジネス/マーケティングの専門家たちは、3075%の時間をソーシャルメディアに費やしています。学術出版社や学会も、どれくらいの時間をソーシャルメディアに当てるかを決める必要があります。この時間を使って、各種ソーシャルメディア・プラットフォームへの理解を深め、それぞれがどのような機能を果たすのかを把握します。Facebookは小売業や飲食業などのBtoC業界に適したプラットフォームですが、Natureのような学術出版社もFacebookを巧みに活用しています。Twitterは幅広い情報発信が可能で、利用者は世界のほぼ全域にいます。実際、多くの学術誌/出版社/企業/サービスプロバイダー/研究者/学術出版に関心を持つその他大勢の人々が、Twitterを利用しています。視覚情報が豊富な場合は、TumblrPinterestのようなプラットフォームが適しているでしょう。研究者や出版の専門家とつながりを持ちたい場合は、LinkedInを利用しましょう。LinkedInは、編集者や査読者などの募集にも利用できます。


ほかにも、特定の分野に特化したサイトは数多くあります。プラットフォーム選びで考慮すべき重要な点は、ターゲット層のプラットフォームへのアクセシビリティです。たとえば、中国の研究者はTwitterにアクセスできない可能性があります。つまり、中国の学術コミュニティに情報を発信したいなら、彼らがアクセスできる媒体を使わなければならないということです(例:WeChatなど)。また、2つ以上のプラットフォームを使って各サイトで自分たちの存在を示し、コネクションを築いている出版社も珍しくありません。


誰もが学びの途中

とは言え、ソーシャルメディアは比較的若いコミュニケーション・プラットフォームであり、現在も変化し続けています。


2007年にFacebookが登場したとき、このプラットフォームが後に米国の大統領選の結果に影響を及ぼすほどの存在になるとは、誰が予想したでしょうか。このように、ソーシャルネットワーキングは成長と進化を続けています。同様に、これらのネットワークにおける出版社と著者の関係も、変化し続けるべきなのです。つまり、間違いを許容すること、間違いは避けられないものだと認めることを含めて、半永久的な学習曲線を描いていく必要があるということでしょう。


とはいえ、ソーシャルネットワーキングを正しく理解し、ベストな利用法を知り、FacebookTwitterで交流する際に適切なスタート地点に立てているかどうかを常に意識していれば、ソーシャル時代にしか起き得ない、キャリアを台無しにするような失敗は避けられはずです。皆さんのジャーナル/出版社/学会が、良好なソーシャルメディア戦略を構築できることを願っています。


関連記事:ジャーナルも出版社も学会も、今すぐソーシャルメディアを活用しよう

アクセプト後の論文修正

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Question Description: 

先日、アクセプトされた論文がありますが、本文の内容で修正が必要な部分があり、編集部宛に修正した本文、謝罪文を送りましたが、このような場合にはどのような対応がベターでしょうか?

回答

必要な修正についてジャーナル編集者に連絡するという対応は、正しかったと思います。ただ、ごく小さな修正であれば、編集部から校正原稿が送られてくるのを待って、そのときに伝えてもよかったかもしれません。

原稿がすでにオンライン出版されている場合は、次号で正誤表(Erratum)を出してもらえるようジャーナルに依頼します。

関連記事:

論文受理後、小さなミスに気づきました。すぐに連絡すべき?それとも校正を待つべき?


責任著者の役割(論文投稿後)

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責任著者の役割(論文投稿後)

論文の責任著者(コレスポンディング・オーサー)が、論文投稿後や論文出版後に果たすべき役割について説明します。また、責任著者という役目を効果的に果たすために必要な資質についても取り上げます。

本記事の前半では、論文の責任著者(コレスポンディング・オーサー)を務めることの意味と、責任著者が論文投稿前に果たすべき役割について取り上げました。後半の今回は、論文投稿にすべきことを説明します。また、責任著者という役目を効果的に果たすために必要な資質についても取り上げます。


論文投稿後に責任著者が果たすべき役割
 

  • 中継ぎになる:論文投稿後、責任著者にはジャーナルと共著者をつなぐ役割があります。ジャーナルの意思決定はすべての著者に伝えなければなりません。査読コメントへの対応方法については、各著者の意見を請いましょう。複数の著者が部分的に参加している論文では、責任著者がすべての査読コメントに回答するのは難しいと思います。このような場合は、各コメントに対して責任を負う共著者に、回答を分担してもらいましょう。
  • 期限を厳守する:ジャーナルから論文の修正と再投稿を求められた場合や質問を受けた場合は、設定された期日を厳守しましょう。
  • 完璧な修正版を投稿する:徹底的な校正を行い、修正版にミスがないことを確認しましょう。
  • 再投稿パッケージ一式を投稿する:修正版を投稿する前に、ジャーナルからの質問や指摘された問題に、体系的かつ適切に対処できているかどうかを確認しましょう。対処できていない問題がある場合は、再投稿レターでその理由を説明しましょう。
  • すべての著者から再投稿の承認を得る:修正した論文の最終版は、すべての共著者からチェックを受け、再投稿の承認を得る必要があります。責任著者として、その承認を書面として残しておきます。この承認書は、ジャーナルにも送っておくとよいでしょう。
  • 著者情報をアップデートする:共著者の所属先や関連情報に変更があった場合、責任著者はその情報をジャーナルに伝えます。


論文出版後に責任著者が果たすべき役割


責任著者としての仕事は、論文が出版された後も続きます。論文を読んだ研究者や企業から、質問や意見がメールで寄せられることがあります。研究グループまたは共著者の1人との将来的な共同研究の相談や、論文の特定箇所に対する賛同/異議の表明、不備の指摘など、さまざまな反応があるでしょう。寄せられたすべての反応への回答者として責任著者が適任とは限りませんし、共著者は論文にどのような反応があったのかを把握しておく必要があるため、やり取りは、すべての共著者と共有しておきます。


以上が、論文の出版前後で責任著者が果たすべき役割です。これらを踏まえて、理想的な責任著者の人物像や資質について考えていきましょう。


責任著者が持つべき資質とは?


責任著者という役割は、管理職的な側面が多く含まれ、大きな責任が伴います。論文に関するコミュニケーションは、責任著者が先頭に立って行わなければなりません。したがって、問題発生時も、責任著者が論文の代表者として矢面に立つことになります。責任著者とは、以下の条件を満たす人物です:
 

  • すべての共著者とジャーナルとのコミュニケーションに責任を負い、コミュニケーションの透明性を確保できる
  • トラブルが発生した際に、チームの代表者として論文の責任を負う覚悟がある
  • 各共著者の仕事をとりまとめ、一貫性のある論文に仕上げる執筆能力がある
  • 細部に気を配ることができ、ミスをしない
  • 共著者の所属先やメールアドレスなどの変更に対応できる
  • ジャーナルとのコミュニケーションをそつなく円滑に進められる
  • 若手研究者が業務をやり遂げられるよう、上級者として働きかけられる
  • 出版プロセスに関する十分な経験がある
  • すべての研究ファイルを少なくとも6年間は保管できる安定性がある


忘れてならないのは、責任著者は、論文のすべての共著者の代表であるということです。責任著者は論文の「声」です。すべての共著者の声を反映して、共著者らがすべての意思決定に関わっていることを確認する大きな責任を負っています。理想的な責任著者とは、細部に気を配り、倫理観が強く、完全な透明性を持ってジャーナルや共著者とのコミュニケーションを進めることができる人物です。


この記事が、責任著者が果たすべき役割についての理解する助けになれば幸いです。


補足:共同研究が増加の一途をたどる昨今では、論文に寄せられるすべての質問に対し、(専門分野が異なることもあるため)1人で対応するのは困難です。そのため、論文によっては責任著者を2人以上設定できる場合があります。しかし、この設定を認めているジャーナルは決して多くありません。著者の1人が論文の保証人(guarantor)になるよう求めるジャーナルもあります。保証人は、出版前後を通じて、論文がジャーナルの方針に沿っているかどうかを確認する必要があります。また、研究や論文の倫理的側面に対する責任を負います。このようなケースでは、責任著者は、その他の管理的責務を担い、共著者やジャーナルとのコミュニケーションが透明かつ円滑に進められるよう努めます。


記事前半:責任著者の6つの役割(論文投稿前)


参考資料:


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チェックリスト「Think.Check.Attend.」でハゲタカ学会を見破る

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チェックリスト「Think.Check.Attend.」でハゲタカ学会を見破る

研究者たちは、増加の一途をたどるハゲタカ出版社やハゲタカジャーナルへの警戒を強めていますが、最近では「ハゲタカ学会」という新たな脅威が出現しています。疑わしい学会であるかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。

研究者たちは、増加の一途をたどるハゲタカ出版社やハゲタカジャーナルへの警戒を強めていますが、最近では「ハゲタカ学会」という新たな脅威が出現しています。研究者が学会からの発表依頼や招待状を受け取るケースが各分野で増えていますが、その多くは、偽の出版社や学会運営者が登録料で利益を得るために学術会議を装っているものです。彼らの主なターゲットは、まだ警戒心の弱い若手研究者です。発表予定者や出席予定者に、何らかの理由で学会が開催できなくなったことを一方的に伝え、登録料を返金せずに逃げてしまうハゲタカ学会もあります。学会が実際に開かれる場合もありますが、その内情は、出席者たちがイメージする大規模な国際学会とはかけ離れたものです。出席者もまばらで、事前にホームページで告知されていた名のある研究者たちによる講演もありません。このような疑わしい学会やイベントの事例は、サイエンス誌ニューヨーク・タイムズハフポストなどで多数報じられています。


このように研究者は、ハゲタカジャーナルやハゲタカ出版社だけでなく、ハゲタカ学会の存在にも警戒を強める必要があります。しかし、疑わしい学会であるかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。Knowledge Eによる取り組みである「Think. Check. Attend.(考えて、確認して、出席する)」は、研究と出版に関するイノベーションや発展を支援する組織で、学会の信頼性や学術的資質を査定するためのガイドとして、研究者や学生向けに、出席すべき学会とそうでない学会の判別基準を提供しています。


Think. Check. Attend.は、信頼できるジャーナルを判別するためのキャンペーン、「Think. Check. Submit.(考えて、確認して、投稿する)」のメソッドを参考に、信頼のおける学会と避けるべき学会を見分けるためのガイドラインを提供しています。研究者たちは、簡単なチェックリストに従うだけで、発表や出席をしても問題ない学会かどうかを判断することができます。


以下に、そのチェックリストを紹介します:


主催者およびスポンサーについて
 

  • 学会を主催している組織団体を知っていますか?
  • 学会の開催地はすぐに分かるようになっています?
  • この学会が開かれるのは今回が初めてですか?
  • 過去にこの学会に出席した経験のある人が身近にいますか?
  • 費用(会議出席料、登録料など)は明示されていますか?また、これらの支払いを拒否した場合も発表者として認められますか?
  • 学会を支援するスポンサーはいますか?
  • スポンサーの中に知っている団体は存在しますか?(とくに、工学や生物医学などの産業関連分野)
  • ホームページに、出席費用、受付期限、開催日程、編集委員会、プログラム内容、開催地などの情報が漏れなく記載されていますか?
  • 過去にこの学会の議事録を読んだことはありますか?


学会のアジェンダおよび編集委員会

 

  • 学会のアジェンダ(議題)やスケジュールは明示されていますか?
  • 対象領域は、あなたの専門分野や関心のある分野とマッチしていますか?
  • 基調講演者についての情報はありますか?
  • ホームページに、編集委員会に関する情報は明示されていますか?
  • 編集委員会のメンバーの中に知っている人物はいますか?
  • 編集委員会は、プレゼンテーションに対する編集権限や査読の種類を明示していますか?


学会議事録
 

  • 組織委員会は、学会議事録がどこで出版されるかについての情報を開示していますか?
  • 出版された議事録がどのインデックスサービスに登録されるか、また、議事録がどのサービスで評価を受けるかは明示されていますか?
  • 議事録の出版社は、COPE(出版倫理委員会)、DOAJDirectory of Open Access Journals)、OASPA(オープンアクセス学術出版協会)などの信頼できる団体のメンバーですか?


以上の質問のほとんどに自信を持って「はい」と答えられる学会に限って、出席や、アブストラクトの提出をするようにしましょう。このチェックリストを活用して、ハゲタカ学会の餌食にならないようにしてください。


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チェックリスト「Think Check Submit」であなたの論文に最適なジャーナルを選ぶ

倫理的なオーサーシップとは?―ジャーナル編集者の視点

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ドナルド・サミュラック博士(カクタス・コミュニケーションズ、エディテージ米国オフィス代表)が聞く対談シリーズ:パート5(最終回)


【参加者】
アン・ウッズ博士(Dr. Anne WoodsWKH看護師長)
ショーン・ケネディ氏(Shawn KennedyAmerican Journal of Nursing誌編集長)


最終回の今回は、学術コミュニティが密接につながるにはどうすべきか、そしてどうすれば著者が論文の売買や剽窃などの不正行為に走らないか、というテーマについて議論が交わされました。せめてもの救いは、今は不正行為を見つけやすくなっているので、不正を犯した著者も発見されやすいということです。出版界は、不品行や不正を働く者に対して神経を研ぎ澄ませる、新たな時代に入っています。そのため、不正をはたらいた著者は、キャリアも信頼も含めて、すべてを失ってしまうことになります。しかしサミュラック博士は、自分たちが把握している非倫理的出版行為は氷山の一角に過ぎないと感じているようです。


本対談シリーズのその他のパート:


Part 1: ジャーナル編集者と出版社が語る:効果的な出版プロセスとは

Part 2: ジャーナル編集者が著者に求めること

Part 3: ジャーナル編集者が警戒する5つの非倫理的出版行為

Part 4: 著者への注意喚起:偽のジャーナルや学会の罠を避けるには

査読者からEnglish editingを求められました

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Question Description: 

先日投稿した論文がminor revisionで戻ってきました。そのうちの1人の査読者からIt is a nice clinical study with great design and solid analysis. Actually, I have nothing to add. This work should be acceptable pending English editing.とコメントが返ってきました。この場合、英文校正に出したのちに修正論文を投稿したほうがいいのでしょうか?それとももう一度自分で目を通して、英文法や誤字脱字をcheckするのみでいいのでしょうか? minor revisionで返ってきたのに英文校正に出して大幅に英文が変わってしまうのもどうかと思いまして。

回答

おっしゃる通り、校正によって全体的な内容や焦点が変わってしまうのは好ましくありませんが、ジャーナルは、文法や文章の流れに関する英文校正を大変重視しているものです。なぜなら、それによって出版物の品質が左右されるからです。必要な修正の程度が分かりませんので(文法やスペルミスを直すのみか、それ以上なのか)、その点を確認してから判断してはいかがでしょうか。

英文のブラッシュアップについては、通常、編集部から著者に連絡が行きます。ジャーナルによっては、独自の英文校正サービスを提供しています。校正の程度によっては、プロの助けを借りることも検討してみましょう。エディテージでも校正サービスを提供していますので、必要な場合はhttps://www.editage.com/からお気軽にご連絡ください。


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所属先が2か所ある場合はどちらを優先すべきでしょうか

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Question Description: 

日本のA大学に所属していますが、1年間の在外研究でB大学の客員研究員という立場にあります。A大学でデータ収集し、B大学でデータ分析し執筆した論文を投稿予定です。投稿規定によると、「研究が行われた機関」を所属先とすることになっています。A大学・B大学の併記が認められていない場合、B大学を所属先とするのが適切でしょうか。 (B大学には受け入れていただいた関係から、なんらかの貢献をする必要があると考えています。客員研究員がB大学の名前で論文を発表したところで貢献にはならないのでしょうか。大学の評価が発表論文数によるものとしたとき、客員研究員の発表した論文はカウントされないものなのでしょうか。むしろ、専任教員でもないのにB大学の名前を使うのは不適切になるのでしょうか。 一方で、1年間の在外研究のチャンスを与えてくれたA大学にも貢献せねばならないという気持ちがあり、A大学の名前を使うべきか悩んでおります。)

回答

著者の所属先は通常、現時点で所属している機関/大学を記載します。ジャーナルが複数の所属先の記載を認めていない場合は、正式な所属先を記載するのがベストでしょう。つまり今回の場合は、A大学を所属先とし、B大学からの支援については謝辞(Acknowledgements)のセクションで感謝を示すということです。これは、A大学が正式な所属先で、B大学は一時的な所属先であるからです。いつでも、正式な所属先を記載することをお勧めします。

 

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修正投稿後の再問い合わせに関して

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Question Description: 

学位論文の元になる論文を6月当初に投稿後、レビュー中が続いたため、8月末に一度編集に問い合わせ、その後Major revision となりました。major では有りましたが2名査読者のうち、一名は投稿可、もう一名から6箇所の修正指摘が来ました。2週間で修正投稿を行いましたが、学位審査の締め切りが近づいていた事もあり、修正投稿後1週間程度で教授の方からチーフエディタに確認してもらいましたが、査読者の手元にあるため、システム的に難しい、と言われました。その後再投稿から3週間程度経ちますが、いよいよ学位審査締め切りも迫っているため、焦っています。こちらのコラムを拝見して再投稿後も1ヶ月以上待たされる事があるとは、理解はしています。投稿システムの画面を確認すると、現在まだレビュー中です。再度編集部に現在の状況を確認してもいいものでしょうか? チーフエディタまで一度確認入れてる為、心証が悪くなることも気になりますが、教授から他の雑誌への投稿先変更も提案されているので、悩んでいます。

回答

ご状況はお察ししますしご心配な気持ちはよくわかりますが、残念ながら今の時点でできることはあまりなさそうです。原稿が査読中であるとの返答がチーフエディタから届いているなら、再度問い合わせても、査読プロセスが早まる可能性は低いでしょう。現在のジャーナルから原稿を取り下げて別のジャーナルに投稿しても、査読プロセスを一からやり直すことになるので、さらに時間がかかってしまいます。アクセプト論文が学位論文に必要ならば、現在の状況を所属先の学位論文審査委員会に伝えることを、指導教官と相談してみてはいかがでしょうか。査読者の一人はすでにアクセプトを表明しており、別の査読者のコメントにも対応して原稿を修正しているので、最終的なアクセプトの可能性は高いと思われます。状況を考慮してもらえるよう、学位論文審査委員会に求めてみることをお勧めします。

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オープンアクセスに関する質問トップ8

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オープンアクセスに関する質問トップ8

学術出版に関する経験が比較的浅い研究者は、オープンアクセス(OA)出版にさほど積極的でない傾向があります。これは、OAに関する噂やよくある誤解が大きな要因になっていると言えます。エディテージ・インサイトに実際に寄せられた質問をもとに、研究者たちが知りたがっている情報を探ります。

オープンアクセス(OA)は、研究を最大限に露出し、インパクトを高めてくれるものであるだけでなく、研究活動を円滑に進めるための手段でもあります。多くの学術団体・助成団体・研究者たちがOAを支持しており、その潜在的メリットの認知度を高めようと活動しています。オープンアクセスウィークも、そのような目的を果たすための取り組みの1つです。


しかし、とくに学術出版に関する経験が比較的浅い研究者は、OA出版にさほど積極的でない傾向があります。これは、OAに関する噂やよくある誤解が大きな要因になっていると言えます。エディテージ・インサイトも、OA出版に懐疑的な著者からアドバイスを求められることがよくあります。彼らがOA出版に懐疑的になる要因とは、どのようなものなのでしょうか。以下に、当サイトの読者から実際に寄せられた質問を紹介します。ここから、研究者たちがどのような情報を知りたがっているのかを見て取ることができます。本記事がOA支持者にとって、どのような情報をもって啓蒙活動に取り組むべきかの指針になれば幸いです。


以下は、OAに関してもっとも頻繁に聞かれる質問です。それぞれに対する回答の概要も併せて紹介します。


1. ジャーナルの出版形式におけるOAモデルと購読モデルの違いは何ですか


購読モデルでは通常、コンテンツを読む読者に対して料金を請求します。一方、OAモデルでは、コンテンツはオンラインで無料公開されます。つまり、購読モデルでは、そのジャーナルを購読している人しか論文を読むことができないのに対し、OAモデルでは誰でも自由にコンテンツにアクセスできます。


また、購読モデルでは論文の著作権がジャーナルに移るのが一般的であるのに対し、OAモデルでは著者が著作権を保持し、共有や再利用が可能なクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC license)を利用するのが一般的です。ただし、ほとんどのOAジャーナルは、論文がアクセプトされた著者に対して、論文掲載料(APC)を請求します。


2. 機関リポジトリに登録している論文を、別のリポジトリやジャーナルに投稿することは可能ですか?


論文を複数のリボジトリに登録することに、倫理的な問題はありません。ただし、一方に修正を加えた場合は、別のリポジトリに登録しているものにも同様の修正を加えなければなりません。さもないと、オンラインであなたの論文を検索した読者が、異なるバージョンがあることに混乱してしまいます。Figshareのような定評のあるリポジトリに論文を登録するなら、別のリポジトリにも同時に登録する必要はないでしょう。それでもプレプリントを複数のリポジトリに登録するという場合は、それぞれのリポジトリが複数登録に制限を設けていないかどうかを確認しておきましょう。


また、プレプリントを完全な論文として仕上げ、査読付きジャーナルに投稿することにも、まったく問題はありません。むしろ、プレプリントは積極的にジャーナルに投稿すべきでしょう。


3. ジャーナルへの投稿費用は、論文のアクセプト/リジェクトにかかわらず、支払わなければならないのでしょうか?


OAモデルでは、一般的に著者がジャーナルに論文掲載料(APC)を支払います。したがって、投稿や査読には一切費用が発生しません。費用が発生するのは、論文が出版のためにアクセプトされた場合に限ります。リジェクトの場合は、費用を支払う必要はありません。投稿の時点でAPCを請求してくるジャーナルには警戒が必要です。


4. オープンアクセスフィーについて


論文掲載料(APC)の額は、ジャーナルや出版社によって異なります。ある調査によると、ジャーナルの中には5000ドルを超える金額を設定しているところもあるようです。他方、たとえば学会や非営利の出版社が発行しているジャーナルなどは、APCを一切徴収していません。


5. PLOS ONEに論文を投稿し、Figshareでデータをシェアする予定なのですが、著作権について教えてください。


PLOSONEは著者に対し、データ共有方針を順守し、データ利用ステートメントを提出することを求めています。論文タイプ別のデータ共有に関する具体的な要件については、PLOSONEのウェブサイトをご覧ください。


FigshareのデータセットやメタデータCC0ライセンスで公開されるので、データセットはパブリックドメインとして公開されることになります。このため、データ再利用のための法的制約は緩くなります。Figshareのデータ利用者は、データ所有者に再利用について事前に申し出る必要はないものの、出典を明記することが求められます。FigshareのデータにもDOIが付いており、引用が可能です。DOIを引用することで、ほかの研究者たちが元データにさかのぼりやすくなります


6. ジャーナルにAPCを割り引いてもらうようお願いしても問題ありませんか


論文掲載料(APC)は助成団体、所属機関、または著者自身が負担するものです。一部の発展途上国の著者に対してAPCを割り引くなどの措置をとっているジャーナルもあります。また、予算が枯渇してしまった著者や、論文投稿に対する金銭的支援を受けていない著者が、APCの支払いを免除してもらうようジャーナルに要求するケースは実際にあります。投稿の時点で、APCの割引・免除を求める理由を説明するメールをジャーナルに送っておくことが望ましいでしょう。また、APC免除に関する要件が定められている場合もあるので、問い合わせる前にジャーナルの規定を読んで確認しましょう。


7. arXivについて教えてください。


arXiv(アーカイブ)とは、物理学、数学、コンピューターサイエンス、計量生物学、計量ファイナンス、統計学、電子工学、システム科学、経済学などの分野の研究論文の電子ファイルを受け付けているリポジトリです。arXivは学術誌ではないので、ここで公開された論文は出版論文とはみなされません。リポジトリに登録した論文は、プレプリント版として扱われるのが一般的で、同じ論文が学術誌で出版されれば、arXivのプレプリント版にDOIを追加することができます。また、arXivにアップロードされたファイルの著作権の状態は、それぞれ異なっている場合があります。論文のプレプリント版などをオープンリポジトリで公開(セルフ・アーカイブ)することを予定している場合は、そのリポジトリやターゲットジャーナルの方針を確認しておきましょう。


8. インパクトファクターが高い一流購読誌に論文をリジェクトされ、同じ出版社が発刊しているOA誌(インパクトファクターなし)に再投稿することを薦められました。この提案に従うべきですか?


著者は、どのジャーナルで論文を出版するかでなく、論文を出版することで何を達成したいか、という点を明確にしておくことが重要です。ジャーナルの出版モデルとインパクトファクターの関係は、気にしないようにしましょう。それよりも、自分が何を優先したいのかを確認してください。論文をより多くの人に読んでもらいたいならOAジャーナルが適していますし、名声を高めることが目的なら、インパクトファクターの高いジャーナルで論文を出版することが近道になるでしょう。


論文を同じ出版社の別のジャーナルに再投稿することを検討する場合は、分野内で定評のあるほかのジャーナルと比べてみましょう。そのジャーナルで論文を発表した経験のある同僚はいますか?先行論文でこのジャーナルの論文は引用されていますか?同じ出版社の別のジャーナルに再投稿する場合も、論文にとって最適なジャーナルを選ぶときと同じ要領でジャーナルを評価してください。

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以上の質問について、どう思いましたか?著者がOAについて混乱しがちな点が、クリアになったでしょうか?疑問や疑念は解消しましたか?これらの質問に関するご意見や、OAについての疑問がありましたら、お気軽にお問い合わせください


編集長後記:本記事のオリジナル版には、事実と異なる情報が掲載されていました。本記事は、ソーシャルメディア上で受けた学術コミュニティからのフィードバックをもとに、誤りを訂正して更新したものです。貴重なご意見を頂いたリチャード・ポインダー(Richard Poynder@RickyPo)氏、ピーター・スーバー(Peter Suber@petersuber)氏、ササ・マルカン(Saša Marcan@cane51000)氏、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider@schneiderleonid)氏、デイヴィッド・グローニウェジェン(David Groenewegen@groenewegendave)氏、ウォルト・クロフォード(Walt Crawford@waltcrawford)氏に、この場を借りて御礼申し上げます。この共同作業こそ、まさにOAや出版後査読の力を示すものであると実感しています。


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Systematic Reviewと、そのプロトコルとの違いについて

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Question Description: 

Systematic review(SR)のプロトコルがある雑誌にアクセプトされ、そのプロトコルに従ってSRを実施しました。そのSRを同じ雑誌に投稿したところ、リジェクトされました。リジェクト理由を見ると、データベースの数の不足などが原因とされていました。プロトコルのアクセプトから2年ほど経過していたため、それまでの間にその雑誌のレベルもかなり上がっており、SRに対する要求が高まっている印象でした。 そのため、内容をもう一度改めて別の雑誌に投稿してみました。すると「プロトコルとSRの違いがわからない。同じ論文ではないのか」と散々問い合わせがあり、最終的にリジェクトされました。 たしかにプロトコルなのでSRで記載している内容とほとんど同じです。しかし、当然ながらプロトコルは方法までしか掲載されていないので、今回のSRとは別であることが当たり前だと思っていたのですが。 SRをまた別の雑誌に投稿してみようと思ってはいるのですが、そのためになにか対策すべきことを教えてください。お願いします。

回答

実際の原稿とジャーナルの判定通知を確認しないことには、残念ながら、具体的なアドバイスをすることは難しいです。言えるのは、システマティックレビューはPRISMA声明に従って書く必要があるということぐらいです。システマティックレビューの実施と執筆に関する包括的指針については、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0079444/#ddd00069 を参照してみてください。


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若手研究者のためのシステマティックレビューの書き方指南

ポスドクのキャリア形成を指導教官としてどう支援すべきか

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ポスドクのキャリア形成を指導教官としてどう支援すべきか

指導教官とポスドクの関係が破綻した結果、研究室が機能不全に陥った事例が多数報告されています。指導教官とポスドクの関係がこじれてしまうと、ポスドクのキャリアに悪影響を及ぼす可能性もあります。両者の関係に亀裂が生じる要因には、どのようなものがあるのでしょうか。また、このようなトラブルを避けるために、ポスドクは何をすべきでしょうか。

ポスドクは、次世代の学術界を担う研究者たちであり、研究室を円滑に運営するために欠かせない存在です。しかし、そんなポスドクが過度なプレッシャーに晒されているケースは珍しくありません。論文出版や研究室内の雑務に関するストレスとは別に、ポスドクたちは、研究者としてのキャリアを築いていくことの困難に直面しています。新米研究者たちは、自分の研究室を起ち上げることや、研究費を獲得するといった目標を、果てしなく遠いゴールのように感じているでしょう。ポスドクがそのような成果を得るには、指導教官や主任研究員の協力が不可欠です。指導教官とポスドクの関係性についてはさまざまな意見がありますが、両者の関係が破綻した結果、研究室が機能不全に陥った事例が多数報告されています。両者の関係がこじれてしまうと、ポスドクのキャリアに悪影響を及ぼす可能性もあります。では、指導教官とポスドクの関係に亀裂が生じる要因には、どのようなものがあるのでしょうか?また、このようなトラブルを避けるために、ポスドクは何をすべきでしょうか?本記事では、これらの問いに対する答えを提示したいと思います。まずは、研究室で頻発するトラブルについて見ていきましょう。


1. 指導教官が高圧的な研究室は、誤った方向に進んでしまう可能性がある


学術界がきわめて競争的な世界であることは事実です。もっとも多くの利益を得るのは、著しい貢献や画期的な発見をした研究者です。そのため、研究室の長は研究成果を挙げなければならないというプレッシャーに晒されており、多くの場合、そのプレッシャーはポスドクに下りてきます。フロリダ大学生理学および機能ゲノミクス学部のチャールズ・ウッド(Charles Wood)学部長は、「一部の主任研究員は、自分が定めた具体的な実験結果に沿った成果を若手研究者たちに求めるという結果主導型システムで研究室を運営している」と述べ、「このような要求やプレッシャーは、既定の路線を外れてみる余地や、失敗から学ぶ機会を若手研究者から奪っており、悲惨な結果を招き得る」と指摘しています。求められた結果を出そうとするあまり、研究不正に手を染めてしまうケースも発生しかねません。このような指導教官の下で何年も勤めることになれば、キャリアに傷が付いてしまいます。ウッド氏は、「そのような環境で育った若手研究者がその研究室を離れることになれば、科学者としての道をあきらめるか、自らの研究室を起ち上げることができても、同じやり方で研究室を運営してしまうでしょう」と述べています。


2. ポスドクのキャリアに対する非協力的姿勢


ポスドクは、研究者として独立する前に、まずは指導教官の下で数年間の経験を積み、その後で、一部のポスドクが自分の研究室を持てるようになります。協力的な指導教官は、ポスドクのその後の成功に大きな役割を果たすことができます。たとえば、協力的な指導教官は、ポスドクが研究室を去る際に、新たな所属先でも今まで取り組んできた研究を継続できるよう取り計らってくれます。独立して間もない研究者が研究費を集めて一から研究をスタートさせるには数年間を要する可能性があるため、このような対応は、ポスドクにとって計り知れない支援となります。スタンフォード大学の神経生物学者、ベン・A・バレス(Ben A. Barres)氏は、「研究プロジェクトの引き渡しは、若手研究者が成功を収めるために欠かせない措置なので、ポスドクの基本的権利として認めるべき」であると述べています。バレス氏は、協力的な指導が科学の進歩に重要な役割を果たすと確信しています。指導教官は、ポスドクのキャリアの展望について話し合い、彼らが成功を掴むための労力を惜しんではなりません。プロジェクトの引き渡しを拒んだり、就職のための推薦書を書かなかったりなど、ポスドクのサポートに非協力的な指導教官は、ポスドクの成長、ひいては科学の発展を阻害していると言えるでしょう。


3. 対抗意識はポスドクと指導教官の両者にとって有害になり得る


ポスドクに研究を引き渡すことを認めたとしても、指導教官がその研究でポスドクに競争を仕掛けるケースもあり、経験の浅い研究者にとっては大きな障壁となります。限られた経験と予算では、予算がより潤沢であるはずの指導教官の研究室に太刀打ちする術はありません。バレス氏は、「指導教官が教え子に対して不誠実だと、教え子の成功の確率が低下し、結果的に研究分野の発展が阻害されます。その一連の流れは、ベテラン研究者たちの間では常識になっています」と述べています。また、ポスドクが研究の継続を願っていても、その研究を「食べかけのパイ」とみなして協力を放棄するという別の対応をする指導教官もいます。いずれのケースも、大きな進歩は望めないという点で共通しています。ウッド氏は一方で、結果を早く得るために教え子同士を競わせるタイプの指導教官がいることも強調しています。「勝者」となったポスドクを評価して論文のオーサーシップを与えるなどのやり方は、ストレスフルな職場環境を作り上げ、学ぶ環境としても不健全であるため、適切な指導とは言えません。


ポスドクが良い指導教官を選ぶには


指導教官は、ポスドクの将来に長期的に影響を及ぼす力を持っています。とは言え、ポスドク自身が自分のキャリアに責任を持つことも重要であり、研究室での職に就く前に、十分な情報を得た上で選択をする必要があります。ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)所長でノーベル化学賞受賞者(1989年)のトーマス・R・チェフ(Thomas R. Cech)氏は、ポスドクに次のようなアドバイスを送っています。「研究室での職に就く前に、その研究室で求められる責務、与えられる機会、“卒業生”のその後の進路などの情報を慎重に吟味した上で、選択すべきです」。多くの研究室が、ポスドクが研究室を去った後の研究継続に関する方針を定めています。これらのことは、研究室に入る前にあらかじめ確認しておくべきでしょう。バレス氏は、「大学院生は、興味のある研究室の育成実績を調べ、その研究室について、指導教官や研究責任者、博士論文審査委員と相談しておきましょう」と付け加えています。


指導に対する意識を高める方法はあるか?


バレス氏は、指導教官のあるべき姿について、「良き指導教官は、教え子のキャリアを親身になって考えます。そのため、ポスドクに学術的自由を与え、自分の研究室を去った後も長期に渡ってサポートします。子育てをする親と同じように、指導教官も自分の身を削ってでも教え子に目を向ける必要があると思います」と述べています。研究者として完成された指導教官であっても、指導の面ではそのような訓練が不足していることもあり、十分な役割を果たせるとは限りません。指導方針について目をつぶりがちな大学が多い中、この問題への意識は高まりを見せており、助成委員会や大学が指導教官の指導実績を考慮するケースが増えています。たとえば、HHMI(メリーランド州)は、研究室への予算配分を見直す際に、指導教官の指導実績を評価項目の1つにしています。バレス氏はこの意識の高まりについて、「助成団体は、ポスドクから独立した研究者へと円滑にキャリアを歩めるようにするよう取り組んでいる」と述べています。たとえば、米国立衛生研究所(NIH)の「Pathway to Independence (K99) Award(独立のための道筋賞)」や、国立神経疾患・脳卒中研究所によるK01 Postdoctoral Mentored Career Development Award(ポスドクのキャリア開発指導賞)」は、ポスドクのキャリア形成の支援を目的としています。バレス氏はまた、「良き指導教官であるべきことの重要性を強調するためには、科学を表彰する委員会などが研究者の指導実績を考慮すべき」とした上で、「科学の次世代を担う人材を支援しない人物を表彰する必要などないでしょう」と述べています。


研究者の責務は、良質で先駆的な研究を生み出すことだけではありません。指導教官として次世代の研究者を育成し、後進が研究の世界で新しくエキサイティングな可能性を探求できるようサポートしなければならないのです。研究者にライバルとの競争は付き物ですが、若手研究者とベテラン研究者が対立することは、科学にとって百害あって一利なしです。熟練した研究者が教師としての役割も果たすようになれば、科学は飛躍的な進歩を遂げることができるでしょう。


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ポスドク研究者のためのサバイバル戦略10

ポスドク研究者が直面する問題(米国と英国の報告)

8 Rhymes to help you during tough postdoc times

原著論文以外で、簡単に論文を出版する方法はありますか?

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Question Description: 

私は現在、学部生として社会科学領域の国際関係論に関する卒業論文に取り組んでいます。海外の修士課程への進学を考えているため、奨学金を申請する予定です。その業績作りとして論文を出版しておきたいのですが、卒業まであと1学期(6ヶ月)しかありません。短期間でも出版できる論文はありますか?

    回答

    学術誌は、原著論文をはじめとして、ReviewOpinionPerspectiveCommentaryなど、さまざまな種類の論文を出版しています。PerspectiveCommentary論文は短く、オリジナルの研究を行う必要がないため、比較的短い期間で書き上げることができるでしょう。

    Perspectiveは、分野の基本的概念や周知の知見に対する学術的レビューを行う論文です。基本的には、分野に関する一般論への個人的見解を述べたエッセイのようなものです。対象とする概念は、単独のものでも関連する複数のものでも構いません。

    Opinionは、特定の先行研究による解釈や分析、メソッドに対して意見を述べるものです。この論文では、先行研究の理論および仮説の強みや欠点を指摘します。このタイプの論文では、エビデンスに基づいた建設的な批評を行うのが一般的です。このような論文の存在によって、科学関連の問題に対する議論が活発になります。

    Commentaryは、既存の論文、書籍、レポートに注目を集めたり批評を加えたりするための小論文です。対象とする論文・書籍・レポートの興味深い点や、読むことでどのようなメリットがあるかを説明します。

    ただし、これらの論文を書くには、分野への深い理解が必要です。まずは、すでに出版されているこれらのタイプの論文を読み、それらがどのように書かれているか、書くためにどの程度の専門性を要するかを把握しましょう。自分に十分な知識が備わっていると判断できたなら、ぜひ執筆に挑戦してみてください。

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    研究を分かりやすく伝えるための5ステップ

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    研究を分かりやすく伝えるための5ステップ

    複雑なアイデアを伝えるには、明瞭さが重要です。伝え方が複雑だと、本来の意図が伝わらないばかりか、アイデアそのものに関する誤解も生じかねません。表現したいアイデアが複雑だからといって、伝え方まで複雑にする必要はないのです。簡潔明瞭で分かりやすく表現するコツを紹介します。 

    本記事は、Center for Plain Languageに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。


    複雑なアイデアや概念を伝えるには明瞭さが重要なので、学術出版では、内容を単純化することが必要になってきます。伝え方が複雑だと、本来の意図が伝わらないばかりか、アイデアや概念そのものに関する誤解も生じかねません。サイエンティフィック・ライティングは、読みやすく分かりやすくすることが可能です。表現したいアイデアが複雑だからといって、伝え方まで複雑にする必要はないのです。英語が母語であろうとなかろうと、簡潔明瞭に分かりやすく伝えるためには、いくつかのコツをおさえておけば十分です。


    言葉遣いや文構造や構成が明確であれば、読者は、必要な情報を簡単に見つけ、素早く理解し、その情報を活用することができます。


    以下の5ステップは、分かりやすく伝えるためのプロセスを示したものです。各ステップのチェックリストを活用して、適切なコンテンツを完成させましょう。


    ステップ1:ターゲットとする読者層を見極め、その特徴を把握する


    あなたの文書やウェブサイトを利用しそうな読者像を明確にしましょう

    • 読者の目的をリスト化し、優先順位を決める
    • その目的を達成するために読者が必要としていることや知るべきことをリスト化する
    • 読者について、内容の構成に影響を与えそうな特徴をリスト化する(例:年齢、コンピューターの使用経験等)


    読者層を明確化することで、読者がしたいこと・知っていること・知るべきことが分かり、それに合わせて内容を構成できるようになります。


    ステップ2:読者が読みやすいコンテンツ構造にする

    • 論理的な流れになるように内容を整理する
    • 文末が不自然にならないよう注意しながら、内容を短い節に区切る
    • 読者が文章の内容を予測できそうな見出しを付ける


    コンテンツを構造化することで、読者は必要な情報を素早く確実に見つけることができます。


    ステップ3:平易な言葉で書く


    短く簡潔に書く

    • 短く論理的な文章で書く
    • 重要な情報は、それぞれの節・項・段落の最初に書く
    • 読者の目的達成に役立つ情報を含める
    • 興味深い情報であっても、読者にとって不要または邪魔になりそうなものは割愛する
    • アイデア、文章、段落、節のつなぎに転換語を使う


    文のトーンを意識する

    • お役所的な堅い文体ではなく、会話体のくだけた文体で書く


    適切な単語を選ぶ

    • 意味の明確な動詞を能動態で使う
    • 読者が知っている言葉を使う
    • タイトルや箇条書きの文体を統一する(動詞で書き始める等)
    • ウェブサイトの場合:単語をリンク付けする場合は、リンク先との表記揺れがないようにする


    言葉の使い方次第で、読者は文章や意図する内容を、素早く確実につかめるようになります


    ステップ4:読者にとって見やすく分かりやすいデザインにする

    • 見出し・小見出しを駆使して情報を整理する
    • フォントのサイズ・色・字体などを変えて読者の興味を引く
    • 余白を活用する
    • 画像を使って理解を助ける


    デザインを工夫することで、読者はそれを目印に情報を効率良くキャッチできるようになります。


    ステップ5:オンラインコンテンツの場合は、ターゲットユーザーにデザイン/コンテンツを試してもらう


    さまざまな点からデザインをチェックする

    • 読者のニーズは、ユーザー調査に基づいて最優先されているか?(トップページ等)
    • ナビゲーションラベルや情報の構造は、直感的に使えるようになっているか?
    • コンテンツは読みやすく分かりやすいか?
    • 最終版の確認を行なったか?


    エビデンスベースのテスト戦略を活用する

    • ターゲット層の代表にふさわしい人がテストに参加したか?
    • デザイン/コンテンツを、十分な人数にテストしてもらったか?
    • 分かりやすさや使いやすさをどのように測定したか?
    • 改善を示すために、事前と事後の比較を行なったか?


    最終版の使い勝手を確認する

    • 読者に、誰/何のために作られた文書/サイトだと思ったかを聞く
    • 必要な情報や求める情報をどのように見つけ出したかを聞く
    • 主要なコンセプトもしくはプロセスを自分の言葉で説明してもらう
    • ターゲット層が、目的を容易かつ確実に達成できたかどうかを観察する
    • 読者がつまずいた点や誤解した点を書き出し、その部分を見直す


    文書/ウェブサイトは、読者が、求める情報を見つけ出し、見つけた情報を理解し、確信を持ってそれを活用することができて初めて役立ちます。


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    「コンテンツとデータと地理が、学術出版界を変貌させています」

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    「コンテンツとデータと地理が、学術出版界を変貌させています」
    テイラー・アンド・フランシス社のインドおよび南アジア支部のマネージング・ディレクター。アジアのダイナミックな学術出版市場への造詣が深く、インド初の出版関連の全日制課程の創設にも関わっている。テイラー・アンド・フランシスに入社する前は、オックスフォード大学出版局インド支部の学術書部門で12年間ディレクターを務め、2000冊以上の学術書を出版した。業界内でさまざまなつながりを持ち、「テイラー・アンド・フランシスグループの「Women in Leadership Program」にも参加している。2017年にはチャンネル・ニュース・アジアの「Women of Substance in Asia」に出演。最近出版された書籍「Publishers on Publishing: Inside India's Book Business」では編集を手掛けた。ジャワハルラール・ネルー大学(インド、ニューデリー)でMAおよびMPhil(応用経済学)を取得。

    テイラー・アンド・フランシスのインドおよび南アジア支部のマネージング・ディレクターであるニターシャ・デヴァサール(Nitasha Devasar)氏は、アジアのダイナミックな学術出版市場への造詣が深く、学術出版に関する豊富な経験を持っています。現在は、インドおよび南アジア発のグローバル市場向けビジネス開発とコンテンツ獲得を中心に活動しています。また、インド初の出版関連の全日制課程の創設にも関わりました。テイラー・アンド・フランシスに入社する前は、オックスフォード大学出版局インド支部の学術書部門で12年間ディレクターを務めました。この間、2000冊以上の学術書を出版し、南アジアの学術界の発展に大きく貢献しました。

    そのほか、「Association of Publishers in India」副会長、「FICCI Publishing Committee」委員、「アジア女性リーダーフォーラム」アドバイザーも兼任しています。また、テイラー・アンド・フランシスグループの「Women in Leadership Program」にも参加しており、2017年にはチャンネル・ニュース・アジアの「Women of Substance in Asia」に出演しました。

    2012年には「PublishInc.」という出版コンサルタント会社を設立し、学術コミュニティや研究機関、大学、政府機関が効果的な研究アウトリーチ活動を行うための支援をしています。デヴァサール氏は、ジャワハルラール・ネルー大学(インド、ニューデリー)でMAおよびMPhil(応用経済学)を取得しています。

    最近出版された「Publishers on Publishing: Inside India's Book Business」は、デヴァサール氏が編集を手がけた書籍です。The Hindu誌にも頻繁に寄稿しており、マネジメントやリーダーシップに関する多様な問題をテーマにしたブログ記事は、さまざまな定期刊行物に掲載されています。インドの経営系の学校や大学で、変わりゆく出版業界をテーマとした講演を行うこともあります。

    本インタビューでは、世界の学術出版界についての見解を伺い、出版業における困難や出版社の役割、著者と出版社の関係などについての考えをシェアして頂きました。また、インドの研究者が世界の出版界で露出を増やす方法についてもお聞きしました。

    出版界に入ったのは偶然ながら、その出会いは「一目惚れ」であったと語っておられます。その興味深い出会いについて詳しくお話し頂けますか?

    若手研究者だった頃、教育者になる気がなかった私は、研究の世界が浮き世離れして孤立した世界であることを知りました。どの道に進むべきか迷っていたとき、社会科学系の出版社の近くで開催されていた会議に出席する機会がありました。その出版社に立ち寄ってフリーランスの仕事がないか尋ねると、編集のテストを受けるよう言われました。そこからの1時間、私は夢中で課題に取り組みました。そして、楽しみつつ学術界に貢献できる仕事が見つかったと感じたのです。それから20年経った今も、学術コンテンツに創造性と商業的感覚を持って向き合うという作業に没頭し続け、学び続けられているので、あの時の直感は正しかったのだと確信しています。

    インド初の出版に関する全日制教育課程の創設にも関わっておられます。これについて詳しく教えてください。

    私は未経験で出版業界に飛び込んだので、働きながら出版について学びました。学びは現在も続いています。出版界には私のような経歴を持つ人も多いですが、編集やマーケティングの短期課程を経て就職する人もいます。数年前、デリーにある比較的新しい大学から、出版に関する全日制総合教育課程の起ち上げに協力してほしいという依頼を受けました。起ち上げる側の立場からこの取り組みに参加できるのは、とても貴重な機会だと感じました。何より重要だったのは、優秀な人材を確保することが難しいこの業界において、自らプロフェッショナルを育成し人材を確保できるという点でした。私が理想とした出版教育課程は、包括性と先見性を備え、業界の専門家たちが指導者となり、最終的には卒業生たちを出版業界に招き入れられるというものです。これはあくまで理想であり、現状ではまだ、すべてを実現するには至っていません。私が編集を手がけた書籍「Publishers on Publishing: Inside India’s Book Business」は、出版業界内外の65名の専門家の協力を経て完成したものですが、このような教育課程向けの専門的コンテンツの充実を図るためのアプローチの1つです。

    世界の学術出版界において、最大の発展はどのようなものだとお考えですか?

    テクノロジーは学術出版を変え、今も変え続けています。テクノロジーはユーザーをプロセスの最前線に据え、付加価値を持たせ続ける機会を与えています。テクノロジーの進化によって、まずは書籍の生産が効率化・柔軟化し、コストの削減につながりました。次に、オンラインストアの登場によって流通面での変化がありました。そして、新たなデジタルツールやプラットフォームの登場によって、読者が情報にアクセスする手段が変わっただけでなく、出版プロセスそのものにも変化がありました。出版のシステムやプロセスは、さらなる機能性と柔軟性を増しながら進化を続けており、ユーザーに寄り添ったものに変わってきています。コンテンツとプラットフォームの境界がなくなりつつある現在では、サービス面での変化も見られます。フォーマットの多様化、継続的な学習をサポートするコンテンツの細分化、機械翻訳、テスティング・アプリケーション、音声、動画など、私たちは数多くのダイナミックな変化を目の当たりにしています。そして、変化が起きている現場は、西洋の成熟した市場から、中国やインドをはじめとするこちら側の世界に一斉に移行しています。それに伴い、長きにわたって守られていた慣習の一部に変化が見られます。コンテンツ、データ、そして地理が、学術出版の世界を変貌させているのです。

    ダイナミックに変動する今日の学術出版界で、図書館はどのような役割を果たしているとお考えですか?

    図書館は単なる情報の格納施設から、交流の場へと変化しつつあります。単なる読書部屋としてではなく、ダイナミックなツールもしくは教育のハブとして機能させることができるはずです。インドの図書館は、学術誌や書籍、その他のメディアを通して研究者が世界の研究情報にアクセスできるパイプ役を担っています。


    効果的に使えば、図書館は研究者にとって、同僚や上級研究者や出版社と交流するための強力なバーチャル空間になります。オープンアクセスやオープン・スカラシップ化が進んだ世界においても、図書館は質の高い情報を提供するだけでなく、出版や研究発信のためのトレーニングやサポートを提供することができます。これは、すべての研究者にとって欠かせないものでしょう。

    近年、学術出版社の役割はどのように進化していますか?また、著者と出版社の関係にはどのような変化が見られますか?

    出版社の役割は、著者が書いた原稿を形にする生産者の役割から、情報を整理するだけでなく(各種フォーマットの)書籍や論文の構成・展開、さらにはターゲットとする読者への発信やアクセシビリティを確保するサービスの進行役に変わってきています。この流れは、従来の学術出版の「供給者側の押し付け」といった考え方とはまったく異なる、需要主導型のコンテンツキュレーションのシステムへとフィードバックされます。


    論文や書籍(または価値)を共に作り上げる作業から生まれる著者と出版社の絆には、時間を越えた普遍的な「何か」が確実に存在します。現在はこの貴重な関係性を、書籍や論文出版を超越したサービスによって育まなければならないので、読者と著者の利益のために、両者をつなぐデジタルフットプリントが必要でしょう。

    書籍「Publishers on Publishing」に、「出版社には、利益を優先して著者や読者を食い物にする組織というイメージが浸透している」と書かれています。このイメージに対して、どう反論しますか?

    情報が溢れて自己出版が現実的で手軽な選択肢になっている現代では、出版社が提供している付加価値は必ずしも理解されていません。出版社である我々自身がその価値を伝えきれているとは言えないので、責任の一端は出版社にあります。インドではその傾向が顕著なので、今回の本は、そのギャップを埋めるプロセスの一環でもあります。


    質の高い研究成果物を整理・構成・展開する出版社の役割の重要性は、かつてないほど高まっています。研究を必要とする人々に向けて発信を増やし、研究者コミュニティとの接点を作るという作業は、とくにデジタル情報が溢れる現代では、出版社が効果的に果たさなければならない重要な役割になっています。


    重要なことは、出版社の役割を明確にすることでしょう。その役割とは、個人の成長や社会の発展に向けた質の高いアウトプットを提供し続けることによって創造性を促すことをはじめ、品質と信頼性の高いコンテンツ基準を設定し、研究を展開し、著者と消費者のニーズをサポートすることなどです。言い換えれば、教育や社会の流動性、全般的な発展や幸福に、出版および出版社が与えている価値を強化する必要があるということです。

    ご自身の経験から、現在の出版社が直面している最大の困難は何だと感じていますか?

    広い意味で言えば、テクノロジーの進化のスピードや、変化し続けるユーザーのニーズについていくこと(先導すること)、過剰な研究成果物に対応することです。突き詰めれば、生み出された知識や出版された論文が、その価値を失うことなく価値を持ち続けられるようにすることだと思います。このような状況の中では、自分たちの強みを見失いがちですが、理念ではなく利益を求めてテクノロジーに溺れてしまえば、大きな代償を払うことになるでしょう。


    インドでは、セグメント化された価格志向型の市場と、学術的な質やクリエイティビティが著作権保護によって例外なく報われるわけではないシステムによって、当然ながら状況は込み入っています。


    著作権やクリエイティビティが世界中で軽んじられるようになってきていますが、これは危険な傾向です。そして、すぐに解決できるような問題ではありません。あらゆるレベルでの支援活動と、若者やさまざまな業界の著者/クリエイターとの協力などを通して、著作権が出版の根幹にあることを世界中の人々に伝え続ける必要があるでしょう。

    世界の出版界におけるインドの立ち位置を教えてください。インドが研究成果物の数を増やし、質を高めるために乗り越えなければならない課題は何ですか?

    インドは世界3位の英語出版市場を持っています。印刷市場も依然として大規模かつ安定しており、高等教育システムの規模が世界4位であることを鑑みれば、将来の展望は明るいと言えるでしょう。研究成果物では、インドの年平均成長率は13.9%と、英米の4%を優に上回っており、世界2位に位置しています。したがって、インドが論文投稿数で3位、論文のアクセプト率で4位である事実は、驚くべきことではありません。とは言え、インドの研究は露出が少ないままであることも事実です。


    インドが抱える課題は、具体的には著作権、より広い意味で言えば出版倫理に関する意識が欠如していることです。教育システムの中の主要な利害関係者たちにも、この傾向が見られます。著作権やクリエイティビティの保護と総合的な国の発展が、イコールでつながれていないのが現状です。出版界では、学術的質や著作権侵害、国内研究の世界への露出の少なさという意味でこの問題が表面化しており、価格志向型の市場も相まって、インドにおける出版社の運営は複雑かつ興味深いものになっています。

    インドの研究者が露出を増やし、研究に最大限のインパクトをもたらすにはどうすればよいのでしょうか?

    インドの高等教育・研究システムの複雑さを考えると、研究者が単独でこの問題を解決できるとは思えません。これは出版社が果たすべき役割だと思います。


    テイラー・アンド・フランシスがインドに進出してから20年が経ちますが、その間に研究者コミュニティと協力関係を築くことの大切さを認識した私たちは、論文投稿支援ツール/サービスへのアクセス手段の提供、編集校正サポート、指導機会および海外研究者との交流機会の提供、出版倫理や著作権に関する意識の啓発に取り組んできました。


    研究者は個人レベルでも、論文出版の助けとなる多種多様な無料リソースや教育プログラムを利用するべきです。リソースとは具体的には、助成金申請書の書き方、ターゲットジャーナルの探し方、査読プロセスや重要な倫理要件の理解度向上、国際共同研究の進め方、アブストラクトやサマリーにふさわしいキーワードの選び方、ソーシャルメディアでの動画やツイートの投稿方法などに関する情報のことで、研究の露出や被引用数を増やすためのツールのことです。これらのツールはいずれも手軽に利用することができ、執筆と出版のベストプラクティスを実行する上で非常に役立つものです。


    ただし、研究者はまず、博士論文をはじめとする研究成果と、そのために自分が選んだ出版物の質の重要性を理解しなければなりません。自分が選んだ出版物が履歴書という形で永遠に跡が残ると考えれば、この重要性はよく分かるのではないでしょうか。


    デヴァサール氏、貴重なお話をありがとうございました!


    注記本記事の内容はニターシャ・デヴァサール氏の見解であり、必ずしもエディテージ・インサイトおよび同氏所属先のテイラー・アンド・フランシスの見解と一致するものではありません。

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