ジャーナルの制作過程で発生したミスを指摘したものの、訂正されないままオンライン出版されてしまったケースを取り上げます。著者とジャーナルはそれぞれどのように対応したのでしょうか。制作過程のミスについては、ジャーナルは全責任をとり、著者の評判に傷がつかないよう配慮すべきでしょう。
事例: ある著者の原稿がジャーナルに受理され、次の作業を行うために制作チームに回されました。著者に確認用として送られてきた編集済みの校正刷りを見たところ、ミスや一貫性に欠ける箇所がいくつかあることに気づきました。ある部分はきちんと編集されていたのですが、明らかな文法ミスが散見される箇所も見られました。著者は、校正刷りに訂正指示を入れてジャーナルに送り返し、訂正された校正刷りが送られてくるのを待っていました。ところが数週間後、その論文が先行する電子版でオンライン掲載されたという通知を受け、著者は大変驚きました。論文に目を通してみると、訂正指示をした箇所の多くが直されていないことが分かりました。著者は動揺しました。実は、同じジャーナルで、以前も同じように一貫性に欠ける編集校正を経験していたのです。しかしその時は、指摘した修正は受け入れられ、出版された論文にはエラーがなくなっていました。
今回は、ミスが含まれたままの論文がオンライン出版されてしまったため、状況は悪化したといえます。文法的誤り以外にも、図の大きさやタイトルに問題があるものが見られました。著者はジャーナルに対し、ミスを訂正するよう文書で求めました。するとジャーナルは、次のような脚注を添えて、出版済み論文を訂正しました。「本論文のオンライン版は、最終版出版前の2015年8月14日に訂正されました。現在のオンライン版と印刷版は同一のものであり、訂正済みとなっています」。
著者はこの脚注の書き方に不満を感じました。ミスはジャーナル側の過失によるものなのに、脚注にはそのように書かれておらず、読者は著者がミスをしたと思い込んでしまうのではないかと感じたからです。著者は脚注を削除してほしいと思い、エディテージの出版支援チームに、どうしたらジャーナルを説得できるかのアドバイスを求めました。
対応: エディテージは著者に、出版済み論文に訂正があった場合は、脚注や正誤表での説明を行うことが通例であることを説明しました。誰のミスであるかに関わらず、訂正があったことを伝えるのが通常のやり方です。したがって、脚注を削除することは、出版規定に反することになるためできません。そこでエディテージは、編集長宛てに「ミスは制作過程で起こったものであり、著者の過失ではないことを脚注で明確にすべきだ」と指摘するメールを送ることを提案しました。メールには、以前に経験した編集校正時の対応も含めるようにし、編集長に、ジャーナルの編集校正の質に問題があることに気付いてもらえるようにしました。届いた返信には、「脚注の変更は、修正の修正となってしまい、少々不適当なため難しい」とありましたが、編集長は著者に謝罪し、このような問題を二度と起こさないようにすると明記されていました。
まとめ: ジャーナルは、制作プロセスをスムーズかつ効率的に保つための品質管理の仕組みを整備しなければなりません。著者は、ジャーナルの制作チームによるミスや過失を見つけたら、すぐに編集長に伝えるようにしましょう。ジャーナルは原稿の出版前に、どのような形であれ、最終校正刷りを著者に確認してもらうことが望ましいでしょう。出版原稿にジャーナルの過失によるミスがあった場合は、ミスが制作側のものである旨を明言し、著者の信用に影響がないようにすべきです。ネイチャー・パブリッシング・グループ(Nature Publishing Group)のように、ジャーナル側のミスにのみ正誤表を使う出版社もあります。逆に、著者側のミスにのみ正誤表を用い、出版社側の過失を訂正する場合には、短信(publisher’s note)を発行する出版社もあります。訂正方針にかかわらず、ジャーナルは制作プロセスで発生したミスに対して全責任をとり、著者の評判に傷がつかないよう配慮すべきでしょう。