ハゲタカ出版社の唯一の目的、それは利益です。論文が受理され、著者が出版社への著作権譲渡に同意する文書にサインした後に、初めて論文処理費用が明らかになることもよくあります。ハゲタカ出版社に論文を投稿しないためにはどうしたらよいでしょうか。
[本記事はウォルターズ・クルワー(Walters-Kluwer)社の著者向けニュースレター、Author Resource Reviewに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。]
一見まともにみえるジャーナルから、論文を投稿しないかという招待メールが送られてくることがよくあります。聞いたことのあるジャーナル名で、編集委員会にはまっとうな経歴を持つ専門家がいて、インパクトファクターも上位というジャーナルさえあります。このような招待は、都合の良い査読・出版条件を約束しているので、魅力的です。もし私が新米研究者で、論文発表への意欲が高く、出版業界の基準をよく知らなかったなら、招待に応じてしまうかもしれません。いざ投稿する段になって、高額な論文処理費用を支払わなければならないことを知り、その上論文はほとんどまったく宣伝されないと分かって、愕然とすることでしょう。かくしてまた一人、ハゲタカ(悪徳)出版社の餌食が増えるのです。
2009年、コロラド大学デンバー校のジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏は、このような悪徳出版社への抗議活動を始めました。同氏はScholarly Open Access (www.scholarlyoa.com)を開設し、出版社やジャーナルがまともな組織であるか悪徳組織であるかを判別する基準を定め、ハゲタカ出版社やハゲタカジャーナルのリストを整備しています。昨年8月、ビオール氏は看護学ジャーナルの編集者が構成する国際団体、INANE(International Academy of Nursing Editors)の年次総会でその成果を発表しました。これに感銘を受けた編集者グループは、看護コミュニティの意識を高めようとINANE Predatory Publishing Practices Collaborative (INANEハゲタカ出版事例同盟)を設立しました。同年9月、この同盟はハゲタカ出版に関する記事をNurse Author and Editorに掲載し、編集者に「この話題を広く知らしめて」読者を啓発するよう呼びかけました。(この記事はhttp://nursingeditors.com/で登録すれば無料で読むことができます。)
ハゲタカ出版社は、比較的新しいOA出版のモデルを巧妙に利用します。このモデルでは、著者または研究助成機関が出版社に料金を支払うことで、論文への無料アクセスや「公開」を可能にします。OAはまっとうな出版モデルであり、今では権威ある出版社やジャーナル(American Journal of Nursingを含む)もOAのオプションを著者に提供しています。ただし、まともな出版社は、規定の査読から受理に至るまでの厳しい審査過程を経て論文を公開します。一方のハゲタカ出版社では、形だけの査読でしかない場合や、まったく査読がないということさえあります。
ハゲタカ出版社の唯一の目的、それは利益です。論文が受理され、著者が出版社への著作権譲渡に同意する文書にサインした後に、初めて論文処理費用が明らかになることもよくあります。この結果、確実に次の事態が生じることになります。1. 研究論文は事実上の担保として取られ、処理費用(1000ドル以上のことが多い)が支払われない限り出版されない。2. 偽査読のため、論文が出版されても学術的信頼性に欠ける。
ハゲタカ出版社に論文を投稿しないためにはどうしたらよいでしょうか。INANEの同盟は、以下のことを推奨しています。
- ビオール氏のハゲタカ出版社リスト(www.scholarlyoa.com)を参照する。(定期的にアップデートされている。)
- 「質の高いOA査読ジャーナルを採録し、それらへのアクセスを提供している」OAジャーナルディレクトリ(Directory of Open Access Journals、http://doaj.org)を参照する。
- 定評ある看護学ジャーナルに関するINANEのディレクトリ(http://nursingeditors.com/journals-directory)を参照する。
- 掲載されているインパクトファクターやランキングを検証する
INANEの同盟はまた、ジャーナルの整合性を疑うべき「注意信号」をいくつか挙げています。それは、次のような場合です:論文投稿の勧誘やゲスト編集者としての招待に際して過剰な美辞麗句が並べ立てられている、ジャーナルの連絡先が不明、編集者の専門性や専門家としての立場を証明できるものが見当たらない、投稿から出版までを異例の短期間で約束している(1ヶ月以内など)、ジャーナル名が漠然としている(例えば“The Journal of Care”など)、有名ジャーナルに酷似している、等。
American Journal of Nursingは、INANEの取り組みを支持しています。米国医学研究所(Institute of Medicine)の2010年版レポート「看護の未来:変化を主導し、健康を推進する」(The Future of Nursing: Leading Change, Advancing Health)で勧告されているように、学士以上の学位を目指し、学術論文を出版しようとする看護師が増えているため、これは非常にタイムリーな取り組みだと言えます。これらの看護師たちには、出版プロセスを歩んでいく上で、教員やメンターたちの助けが必要です。
INANEの同盟はこう述べています。「偽学術活動の蔓延により、この分野の信用性を損なうようなジャーナルや論文が出版市場に溢れてしまう可能性があります。医療分野において、この脅威は一層深刻です。ハゲタカジャーナルで公開される偽科学と脆弱な学問は、ともすると患者や医療情報を求める一般の人々に被害を与える結果となる可能性があるからです」。ハゲタカ出版社の脅威は、著者だけでなく、すべての医療提供者、患者、医療消費者にまで及びます。各専門分野における文献の完全性が保てるかどうかは、我々一人一人の手中にあるのです。