若手研究者にとってノーベル賞受賞者とは、遠くから仰ぎ見るしかないような存在です。普通の研究者が、ノーベル賞受賞者にただ会うだけでなく、コーヒーを飲みながら意見交換できるとしたら、どうでしょう?リンダウ・ノーベル賞受賞者会議は、毎年約500人の研究者たちに、ノーベル賞受賞者と直接交流できる機会を提供しています。
「アルフレッド・ノーベル自身も、ここリンダウで我々と共に、この時代の問題について議論したかったに違いありません」
―ラース・ハイケンステン博士、ノーベル財団事務局長
このハイケンステン博士の上の言葉ほど、リンダウ・ノーベル賞受賞者会議の価値を的確に言い表しているものはないでしょう。ノーベル賞は、最も権威ある科学賞といって恐らく間違いなく、多くの若手研究者が夢見る成功を具体的な形にしたものです。若手研究者にとってノーベル賞受賞者とは、遠くから仰ぎ見るしかないような存在です。普通の研究者が、ノーベル賞受賞者にただ会うだけでなく、コーヒーを飲みながら意見交換できるとしたら、どうでしょう?リンダウ・ノーベル賞受賞者会議は、毎年約500人の研究者たちに、ノーベル賞受賞者と直接交流できる機会を提供しています。受賞者にとっては、自分たちの知識と経験を共有し、若い科学者たちの科学的思考に影響を与えることができる場となっています。参加者に選ばれた若い研究者にとっては、またとないチャンスです!
歴史
ノーベル賞受賞者と学生の交流をはかるというアイデアは、第二次世界大戦の6年後に、ドイツのリンダウにいた二人の物理学者、フランツ・カール・ハイン(Franz Karl Hein)氏とその同僚のグスタフ・パラーデ(Gustav Parade)氏が考えたものです。ハイン氏とパラーデ氏は、戦中・戦後にドイツが科学分野で孤立していた状況を改善し、また科学に関する国際的議論を促すような知的フォーラムを設立したいと考えました。このアイデアの支援と発展を求めて、二人はレナート・ベルナドッテ伯爵(Count Lennart Bernadotte af Wisborg)に話を持ち掛けました。
のアイデアは科学の国際間協力の促進に役立つと確信した伯爵は、自らの立場を利用して、ノーベル賞受賞者を招き、1952年6月11日に「ノーベル医学賞受賞者ヨーロッパ会議」(European Meeting of Nobel Laureates in Medicine)を開催しました。それ以後、リンダウ会議の人気、規模、領域、テーマは拡大し、分野の領域を超えて科学に関する意見を交換する場の見本となりました。長年の間、各種の政治問題、武力衝突、国際危機に見舞われながらも会議は継続。その本質が政治化することなく、純粋に知的なものとして存続するよう努力が払われてきた結果です。
構造
リンダウ・ノーベル賞受賞者会議は、リンダウ・ノーベル賞受賞者会議評議会とリンダウ・ノーベル賞受賞者会議基金により共催されています。
会議は通常、化学、物理学、医学・生理学のノーベル賞3分野で順番に行われ、5年に一度は、全分野の受賞者と学生が招待されます。2004年には経済学分野が追加され、以後4年ごとに開催されています。
会議では「教育、激励、交流」を掲げ、様々な講演、ディスカッション、上級クラス、パネルディスカッションを通じた対話を奨励しています。講演はマスコミにも公開されていますが、グループディスカッションの各セッションは受賞者と学生限定です。このセッションでは、学生と受賞者が同じテーブルに向かい合って座り、直接交流します。
全体講演では、受賞者が自分の選んだテーマで講演を行います。研究分野の発展、現在関心のあるテーマ、科学コミュニケーション、科学と社会の関係、研究者に対するキャリア・アドバイス、新しい研究アイデアなど、内容はさまざまです。
学生の選抜
リンダウ会議は、大学、財団、研究機関、科学アカデミーなどの200以上の提携先学術機関から生徒の推薦を受けます。受付けは毎年9-10月に行われ、審査委員会が学生の資格を厳重に吟味した上で、参加を許可します。機関によっては独自の候補者選考基準を定めているところもあります。会議費用は、旅費・宿泊費を含めて全て開催団体が負担します。
リンダウ・ノーベル賞受賞者会議の価値
自分の分野で経験を積んで成功した研究者と交流する機会は、研究者にとって、これからキャリアを進んでいく上での希望と、方向性に関する実践的なアドバイスを得られる場となります。打ち解けた雰囲気の中、他の研究者と出会うことで、科学に関する健全な意見交換が促され、今後につながる新たな着想が生まれます。受賞者と参加者が、科学の発展と協力という情熱を共有することで結び付くことにより、会議が真に豊かな異文化体験の場となるのです。ノーベル賞受賞者のマーティン・チャルフィー(2008年ノーベル化学賞受賞)氏は、「科学に関する議論は、この会議の真骨頂ですね…すべての学生たちに、私の研究室に来てもらいたいくらいです」と話しています。チャルフィー氏はリンダウ会議の主なメリットについて、個人的な話として、次のように述べています。1つ目は、学生とノーベル賞受賞者が健全な対話を持つことができること。2つ目は、学生たちが、グローバルレベルでの評価を受けられること。「誰でも、よくやったねと折に触れて褒めてもらう機会が必要」ということです。
リンダウ・ノーベル賞受賞者会議が、どのような影響をもたらすのかがよく分かる、参加者の生の声をいくつか紹介します。
会議の雰囲気は独特です。居心地の良い、学術的な空気が生まれ、若い科学者たちが、ベテランの科学者から様々なことを学べる仕組みになっています。若い世代の代表者にとって、ノーベル賞授賞者たちはいってみれば「科学の未来からきた大使」といえるでしょう。受賞者たちは若い科学者たちに、何を成し遂げることができ、どんな人になれるのかを示しているのです。
Lindau 2009: Eyes on the prize(リンダウ2009: ノーベル賞を目の当たりにして)
スチュワート・カントリル
リンダウに興味を持ったのは、科学界の有名人と交流してその知恵と知識を浴び、彼らを尊敬する仲間たちと語り合う機会が得られると思ったからです。そして何より、ノーベル賞受賞者の頭の中をのぞいて、彼らが「どのように」科学に向き合い、取り組んでいるのかを知りたかったからです。この会議は、科学者であるとはどういうことか、社会の中で我々が占める場所はどういうところなのか、科学への情熱を共有するグローバルな研究者コミュニティの一部となるとはどのような感じなのか、といったことを理解する助けとなる、数少ない機会の1つです。会議に参加することで、我々はこの会議の歴史の一部となることができます。そして、この物語を共有し、仲間や未来の学生たちに伝えて行くことができるのです。
Looking back on Lindau(リンダウの思い出)
ジェフリー・R. ランカスター
教科書に載っている英雄のような人ばかりであるノーベル賞受賞者との交流は、非常に充実感が得られるものです。学生は、ノーベル賞受賞者と肩ひじ張らずに交流することで、彼らを人間として知ることができます。受賞者たちが、自分たちは好奇心が並外れているだけで、普通の人なんだということを我々に懸命に伝えようとしているのには敬服します。実際に、彼らがリンダウにやってきたのは、我々から知識を得たり、刺激を受けるためだと信じ込んでしまいますよ!
Take home from Lindaur(リンダウで得たも)
シャーザダ・アーマド
リンダウ・ノーベル賞受賞者会議に参加することには、研究者の履歴書の価値を高める以上の恩恵があります。会議は、ノーベル賞受賞者が次世代の研究者を教育し、激励し、そして彼らと交流する舞台なのです。
ノーベル賞受賞者に会えると思うとワクワクしませんか?
あなたがまだキャリアを積み始めたばかりの研究者で、リンダウ・ノーベル賞受賞者会議に参加したいと思ったら、自分の所属機関が同会議と提携を結んでいるかどうかチェックしてみましょう。リンダウ・ノーベル賞受賞者会議のウェブサイトに、提携先学術機関のリストと会議への申込と選考のプロセスが掲載されています。(機関によっては独自の選考基準を設けていることがあるので、ご注意下さい。)
参考文献:
・A History with Future–The Lindau Meetings, Available from: http://www.scilogs.com/lindau/a-history-with-future-the-lindau-meetings-2/, Accessed on October 6, 2015
・At the Podium With 37 Nobel Laureates, Available from: http://www.pcmaconvene.org/features/at-the-podium-with-37-nobel-laureates/, Accessed on October 6, 2015
・Learning from students at Lindau, Available from: http://www.nature.com/nchem/journal/v1/n8/full/nchem.375.html, Accessed on October 6, 2015